ランウェイの裏側へ!フランス・パリ留学のすすめ

ランウェイの裏側へ!フランス・パリ留学のすすめ

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パリ・コレクションのバックステージって、夢のような話に聞こえるかもしれない。そんなファッションの舞台に、単身でパリに渡り挑戦した美容師がいる。ビザを片手にフランス・パリへ飛び込み、ランウェイや広告の現場で活躍したChiakiさんだ。

その道はどうやって切り開いたのか?準備から挑戦、現地での人とのつながり方まで、リアルなエピソードを教えてもらった。憧れを追いかけてみたい人へ。「挑戦してみたい」と思わせてくれる、パリ流の生き抜き方とヒントを覗いてみよう。

Chiaki Morimoto / ヘアスタイリスト
Profile
Chiaki Morimoto

ヘアスタイリスト

1996年生まれ、大阪府出身。ECCアーティスト美容専門学校卒業後、都内大手サロンでスタイリストに。その後はヘア&メイクアップアーティストのKUBOKIに3年間師事し渡仏。パリ・ミラノのファッションウィークでヘアスタイリストとして活動後、2024年9月に帰国。2025年中にNY進出予定。


海外への挑戦とパリを選んだ理由

Chiakiさんはもともとヘアメイクを志し、高校時代のヘアサロンでのバイトからキャリアをスタートした。その時、後に師匠となるヘア&メイクアップアーティストのKUBOKIさんと出会い、「美容師としての基礎が重要」というアドバイスを受け、美容学校へ進学し都内のヘアサロンに就職。サロンでの経験を積む中で、ミラノやニューヨークでの研修に参加し、ファッションの現場に触れることで海外への挑戦を意識するようになった。

その後、3年間KUBOKIさんに師事しヘアメイクとしての技術と経験を深めた彼女。さらに挑戦を求め、18~30歳の若者が働きながら海外生活を体験できるワーキングホリデービザを活用しフランス・パリへ渡った。

──オーストラリアやイギリスなど、ワーホリ先として人気の国はいくつかありますが、なぜフランスを選んだのですか?

最初に惹かれたのはニューヨークだったんですが、アメリカのビザ取得のハードルが高くて断念しました。次に目を向けたロンドンも、イギリスのワーホリ抽選に外れてしまい…。ただ私の目的はファッションの街でヘアを学ぶことだったので、パリ・ファッションウィークもあるフランスを最終的に選びました。

──留学は「ビザ・語学力・資金」の3つが最初のハードルになると思います。どんな準備をしましたか?

私は働きながら生活できる、ワーキングホリデービザを選びました。有償で申請をサポートしてくれるエージェントを利用して、必要なものや翻訳などを手伝ってもらいましたね。英語もフランス語もまったく喋れませんでしたが、ジェスチャーである程度は伝わると思っていたので勉強もしませんでした(笑)。なので準備といえば自分のブックを電子化してポートフォリオを作成したくらいです。私は初期費用と最初の生活費で3000〜4000ユーロ(50〜60万円)は使いました。なので持って行くなら5000〜6000ユーロ(80万〜100万円)あると安心だと思います。

Chiaki

留学であれば学生ビザも選択肢に入りますが、就労期間に制限があり、語学学校の登録証明書が必要です。いわゆる「アーティストビザ」や「タレントビザ」と呼ばれる「パスポート・タラン」は取得条件が非常に厳しく、実績や収入証明が求められます。目的や計画に合わせて適切なビザを選びましょう

初めての土地で暮らすための第一歩

こうしてフランスでの挑戦を始めたChiakiさんだが、現地での住まい探しは予想以上に苦労したようだ。初めての土地でどんなふうに家を見つけたのだろうか?

──現地で暮らす家はどうやって決めましたか?

誰かに言われた「現地で探した方が内見できるし選択肢も多い」という言葉を信じて、パリに到着してから家を探したんですが、なかなか見つからず大変でした(笑)。結局は「Airbnb(エアビーアンドビー)」で見つけたホステル風の家に1か月くらい住んで、そこで知り合った人から教えてもらった「mixB(ミックスビー)」という日本人向けの情報掲示板を利用しました。日本人が大家さんだったので暮らしの相談もしやすかったですね。

住む場所は決めて行くか、事前にいくつか調べて見当をつけておくのを強くおすすめします!「何月からひとまず何ヶ月くらい住ませて欲しいので見学したい」と連絡しておいて、当日現地で見て決めても良いと思います。

──パリは東京都23区と比べても面積が約6分の1と、コンパクトな街と聞きます。住むにはどの辺りがおすすめですか?

とにかく地図の右上あたり、10区、18区、19区は治安が悪いので家賃が安くてもできる限り避けたほうがいいです。ランドマークがある近辺は高いですが、あとは自身の条件に合う場所で探していいと思います。パリの家賃は東京と比べても高く、シェアハウスで650〜800ユーロ(10〜13万円)くらいです。生活費も少し高めで、特に外食は高くつきます。私は自炊が多かったのでしんどさは感じなかったですね。

パリ20区

Chiaki

パリは1区から20区まで、中心からぐるっと時計回りに螺旋状に番号が振られています。セーヌ川を挟んで北側が右岸(リヴ・ドロワット)、南側が左岸(リヴ・ゴーシュ)です。

パリに渡るも、初の仕事はイタリア・ミラノ

生活基盤を整えながら仕事も並行して始めていたChiakiさん。最初のチャンスをどのように掴んだのだろうか?

──まず最初の仕事はどうやって掴んだのですか?

1番最初の仕事はミラノで開催されるショーのアシスタントだったんですよ。日本にいる時に、好きなアメリカのヘアスタイリストさんのインスタに書いてあった連絡先にメールを送ったんです。そしたら「9月にミラノにいるなら入れます」ってたまたま連絡が返ってきて。ちょうどパリのタイミングだったので「行きます!」と二つ返事でした。初は「モスキーノ」のショーでした。

──初めてのショーに参加したエピソードを教えてください

2日前ぐらいに、集合時間や場所の書かれた「コールシート」と呼ばれるものがメールで届きました。何を用意したらいいかもわからず、とにかく必要そうなものを美容問屋に買いに行ってすぐミラノへ向かいました。

ドライヤーやアイロン、ブラシも持参
ピンはダックカールとシングルピンを多用

道中、ショーのバックステージに密着した動画を見てたら、みんなドライヤーのデュフューザーを使ってるのに気づいたんです。「私、これ持ってない!」と焦って、近くの電化製品屋に行くも自分のドライヤーに合う規格のものがなく…。結局、新しくその場でドライヤーとデュフューザーを新調しました。

──忘れられない思い出ですね…。結果、使いましたか?

使いました使いました!むしろ初の現場で何も分からなかったので、手伝えることがないか現場のスタイリストに聞いて回って、ほとんどディフューザーで乾かしてました。(笑)

「自分から動く」が仕事の基本

──ファッションショーのランウェイにヘアとして入り込むには、どうすればいいのですか?

最初から仕事を振ってもらえるわけではありません。私はとにかくショーに入りたかったので、ヘアスタイリストさんやエージェンシーにDMやメールをたくさん送りました。パリ・コレクションは1月下旬、2月下旬〜3月上旬、6月下旬、9月下旬〜10月上旬にそれぞれ開催されるのでその1カ月前を目安に自分を売り込みます。

もし渡航する時期が決まっているなら、日本にいる内から行動に移すといいと思います。最初のうちは向こうから連絡が来ることはまずないです。

──効果的なアプローチのポイントはありますか?

ポートフォリオの他に、自分のスキルや経験を明確に伝えること。私は「ウィッグの取り扱いが得意」「ポニーテールからクラシカルなスタイルまで対応可能」など具体的に書きました。相手に「この子は何ができるのか」をイメージしてもらえることが大事です。また、体感ですがパリ・コレクションの前に開催されるミラノ・コレクションの方が比較的入りやすいので、視野に入れて動けばチャンスが広がると思います。

ランウェイを支える
知られざるバックステージ

初めのうちは、他のヘアスタイリストをサポートする形で現場での流れや求められるスキルを少しずつ身につけていったChiakiさん。次第に現場の中での役割や、ランウェイのバックステージ特有の仕事の仕方も見えてきたという。

──ランウェイのバックステージにおける、ヘアスタイリストの具体的な仕事内容を教えてください

まず“リード”と呼ばれるトップのスタイリストさんがいて、全体のスタイルをデモンストレーションします。その間も、モデルさんは次々と会場に入ってくるので理解できた人からモデルを捕まえてすぐ作り始めます。完成したらリードに見せに行って直すか、OKだったら次のモデルを捕まえに行きます。

モデルは本当に取り合いです。次回も呼んでもらうために、とにかく自分が仕事できることをリードにアピールする必要があります。モデルが「ご飯とってくるから待ってて」と言われたら「絶対ここに戻ってきてね、絶対にね」と念押しします。

──現場で心がけていたことを教えてください。

モデルさんが自信を持って歩けるように、コミュニケーションを大事にしてましたね。髪質がみんな違うので「いつも何を使ってる?どんな風にスタイリングしてる?」とか情報を引き出して、嫌になったり不安になったりする要素を極力取り除くように意識していました。

あとは仲間にも積極的に声をかけること。最初はスキルが未熟でも、「手伝えることはありますか?」と声をかけて行動することが大切です。仕事のあとは全員とインスタを交換するくらいのつもりで、誘い合って週2くらいでテストシュートしていました。

──1回のショーあたりの時間やギャラ、日本のショーとの違いは?

時間は早くて3〜4時間くらい、長くて半日くらいです。1日に3つのショーをやることもあるので、ショーが始まる前に次のコールタイムがある場合はヘアを作ったらすぐ次の現場に向かいます。報酬はおおよそ300〜500ユーロで(約5〜8万円)で、日本より相場は高いと思います。

私は日本のショー経験は多くないですが、パリはいい意味で“ラフ”なチームワークだといわれます。緊張感はありますがコミュニケーションは活発で、リードスタイリストも対等な立場で話してくれます。

華やかな舞台の陰で築く、日常の基盤

もちろんファッションウィークの華やかな舞台だけでなく、日々の生活を支えるための仕事も欠かせない。1年間、パリで暮らすために彼女はどのようにして安定した収入を得ながらキャリアを築いていったのだろうか。

──ファッションウィーク以外では何をして生計を立てていましたか?

日系のヘアサロンで働いていました。パリについてから働ける場所を探していたところ、そのサロンが開催していたセミナーにたまたま参加したんです。人気ヘアスタイリストを招いたセミナーで、私の大好きなスタイリストが講師をしていました。

そこでサロンの人たちと少し話をして、「どこかのサロンで働けたら嬉しいなと思っています」という話をしていたら、翌日に「よかったらうちで働いてみる?」とメールが来て即決しました。もともと特定のサロンを目指していたわけではなく、偶然が重なって決まった感じです。

──サロンワークにおける日本との違いは?

フランスは分業制が多く、カラーリストはカラーだけ、カット担当はカットだけを手がけます。また、フランスでは残業が基本ありません。撮影の仕事でも、1時間延びればきちんと残業手当が支払われます。ハッピーな気持ちで仕事を終えられるのがフランスのいいところですね。

働き先は日本にいるうちからいくつか検討をつけて、前もって連絡しておくといいと思います。特にショーのアシスタントに入りたい場合は要注意です。事務所から「請求書番号」を求められることがあり、個人でこの番号を取得するのは非常に難しいです。サロンで働いていればサロンの請求書番号が使えるので、働きやすくなります。

──パリでもっとも印象的だったエピソードを教えてください。

パリでアシスタントをしていたとき撮影中に急に『モデルを金髪にしてほしい』と言われたんです。その場でタクシーを手配してもらい自分のサロンに向かい、ブリーチして戻りました。学生の頃、後に師事するKUBOKIさんから『ヘアメイクを目指すならまず美容師免許を取るべきだ』と言われて美容師の道を選んだのですが、その経験がまさにこの瞬間に活きたと思います。美容師としての技術があったからこそ対応できた出来事でしたね

──言語を勉強せずに行ったけど、大丈夫でしたか?

フランス語は今でもわからないです(笑)。でもバックステージの現場は基本は英語ですし、私も日常会話くらいは喋れるようになりました。それよりも、現場に他の日本人がいない場合でも、身振りや不慣れな英語でもいいので気持ちを伝えることが大切です。また、フランス人も若い方はけっこう英語喋れるので、どんどん友達を増やすのが生活を楽しむコツですね。

──“伝えよう”という気持ちがあれば言語は壁にならないのですね。最後に、今後の展望を教えてください

今年は念願のニューヨークに挑戦します。受け入れてくれるサロンがすでに決まっているので、そこで働かせてもらいながら外国人に対する技術を向上させたいと考えています。あとは撮影やコレクションのヘアもやって、いずれはリードとしてコレクションを担当できる存在を目指しています。そのためにも、今はとにかくいいヘア作品を作るしかないですね。

木村 麗音
執筆者
木村 麗音

日本美容専門学校を卒業後、都内ヘアサロンを経てキャリア転換。少年ジャンプ編集部で3年編集アシスタントを務める。その後、髪書房に入社しウェブメディア「ボブログ」の編集およびメディアマーケティングを担当。

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