“上手い”ってなんだろう? 日本の技術、世界の感覚

“上手い”ってなんだろう? 日本の技術、世界の感覚

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連載:今日を生き抜くヒント

美容師ライター、操作イトウが日常の“サロンワークを乗り越えるヒント”を探るコラム連載第5回。日本の技術や接客水準は高いと言うけれど、本当なの?日本の技術、世界の感覚から、"上手さ”とは何かを考えます。

Illust:モリスン

ミュージシャンや俳優のインスタを見るたびに感化され、憧れる「海外」。また、ファッショントレンドには切っても切れない、「海外」。

ヘアスタイルも、またしかり。

海外志向の高い美容師さんも多いから、「いつかは海外の最前線でやりたい!」と考えたり、コロナを終えて実際に行動している方も増えているかもしれません。

では実際、日本の美容師の現在地はどこにある?

※文中には国や文化に関する記述がありますが、いずれも差別や偏見を助長する意図はありません。

韓国トレンドの勢い、上の世代は受け入れがたい??

昨今、韓国トレンドは美容業界にとっても身近なトピック。韓国発信のファッションは男女ともに波及していて、今や渋谷・原宿より新大久保の方がホットスポット。

ドラマ、アイドル、ファッション、スイーツなどなど、世界進出もして次々と話題になる韓国の勢いはすごい。

様々なジャンルで新しいこともあって、若い世代が「美容師も韓国の方がうまいはず」と感じるのには納得です。

ですが上の世代になるほど、どこかで「韓国より日本の方が上」と思い込んでいませんか?

裏原ブームやカリスマ美容師ブームを見ているからか、偏見も混じって、「ちょっと受け入れがたい」というか。僕もそっち世代だから人のことは言えないんだけど、自分の生活に「韓国発信の何か」を取り入れているかというと、そうでもない。

30代以降は「アイドルの〇〇に憧れて韓国ファッションをマネしよう」となっていない方が多いはず。オッサン見えしないようにBBクリームを使ってるくらいかな?だからか、やっぱり局地的な印象もいなめません。

では、実際の技術力についてはどう?技術は、SNSを見ているだけでは判別がつきません。ですが、美意識の高さやオリジナリティ、アイドルを中心にトレンドスタイルの発信力・魅せる力は、ホントすごい。

いつの間にかそんなに差がついて、もう日本の美容師はオワコンってこと?

海外から見た「日本の技術力が高い」ってホント?

海外経験がある方ならまだしも、ビビリな僕と同様に、島国日本から飛び出していない方がほとんど。海外では「日本人美容師の技術力はすごい」と言われてるらしいけど、国内にいるとピンとこないですよね。

ですが「世界中で日系美容室は人気だ」という話も、尽きることなく聞こえてきます。

実際の経営は中国系が多いんだそうですが、日本人の美容師なら、海外で生活しても絶対食いっぱぐれないんだとか。まさに手に職。

たとえば、日本の美容学校には、東南アジアを中心に海外からの留学生も増えています。

「日本でカット技術を学べば地元で武器になる」と信じて来日している彼らの姿からは、日本の美容教育への信頼も感じられます。

一方で、そうした留学生の増加が学校側のビジネス構造と結びついていることに、少し引っかかる部分もあります。
果たしてその学びが彼らにとって本当に価値あるものになっているのか。彼らが帰国後、自信をもって活躍できることを願うばかりです。

日本のガラパゴス感ってなにもの?

そもそも、欧米と日本はファッションに対する感覚が異なるような気がする。

日本や韓国は、共に「キレイ、かわいい、カッコいい」のテンプレートがあって、みんなが“それ”になりたがる気が強いですよね。

特に日本は、よく「ガラパゴス化している」と言われるように、独自の美意識が国内で強く共有されている印象があります。

ニューヨークでのストリートスナップをYouTubeで見ると、自由で誇らしげにインタビューに答えてる感じが、日本の感覚とは違うように見えます。

見た目はアイデンティティや“らしさ”の表現であって、他人からの評価に依存していない。というか「私は私」感が強い。

対して日本は「他人からこう見られたい」の気持ちが強い気がする。

これは、東アジアの傾向なんでしょうか。人種がほとんど一緒だから?同調圧力ってやつ?アイドル文化だから?

文化によって、“上手い”の意味も違う?

もう一度冷静になって、世界基準から見た「日本の技術やサービス」ってどうなんだろう?

留学やお仕事で海外生活を送った方なんかは、「シャンプーがレベチ」と言いますよね。耳とか顔とか、びちゃびちゃになるのは当たり前なのだそう。

僕も以前にヨーロッパ旅行した際、バスで前の席に座ったオシャレ男性の刈り上げが、目に見えてガタガタだったのが印象的でした。

その件はたまたまかもしれませんが、欧米では、アジア人の髪質に慣れていない美容師も多く、うまく対応してもらえないことがあるそうです。

これもYouTubeからですが、『「キリアンマーフィーにして」とオーダーしたらこうなった』とネタになるくらいの絵に描いた失敗は、やっぱりあるのだそう。

対して、国内で欧米の方を担当すると「頭のサイズ感」や「髪質の扱いやすさ」に驚きますよね。日本人美容師からしたら、マジで簡単にサマになるから、うらやましすぎる!

だから、国内の一美容師の目線では「欧米の美容師とは、根本的な技術力の差がある」と感じています。

でも、それは「デザイン力」とは関係ない、とも言えるかも。それこそ個を尊重するニューヨークのように、デザイン力勝負みたいなところもあるはず。

多人種、多国籍だからかもしれないけど、その方のパーソナリティに合った提案や、美容師としての推しスタイルを全面に表現したスタイルがウケるのかもしれません。

それでも、日本の美容師の“良さ”とは?

それは、「技術力」と「おもてなし」が全国に浸透しているという“水準の高さ”に尽きると思います。

カリスマ美容師ブーム以降、技術は脈々と受け継がれ、いまや地元の街にも実力派が当たり前にいる。これは世界的に見ても特異なことで、日本全体で高いレベルを保てているのは驚異的です。さらに、日本ならではの接客の丁寧さが、美容業界全体の格を押し上げてきました。

こうした「技術力×おもてなし」で積み上げた歴史と信頼こそが、日本の美容師の誇るべきアドバンテージです。

だからこそ、海外と比べてどちらが上かを競う必要はない。いま自分が学んでいる技術にも、必ず先人たちの努力の蓄積があります。その背景を思えば、胸を張って「日本の美容師です」と言っていいと思うんです。

実際、日本のガラパゴス的な文化は、アイドルやスイーツ、ファッションと同じく、むしろ今や世界が注目する対象。美容もそのひとつになり得る、そんな未来も決して遠くないはずです。

操作 イトウ
執筆者
操作 イトウ

東京都二子玉川を拠点にする30代美容師。 『ヘアスタイルはロジックで美しく、カッコよくなる』『ステキな美容師さんに出会ってほしい』をメインテーマにしたブログをnoteにて執筆。2020年から文春オンラインでの連載を開始、CREA等のwebメディアで定期掲載。

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