K-ビューティを背負い、アジアビューティエキスポに挑む〈idHAIR〉キム・ミン

K-ビューティを背負い、アジアビューティエキスポに挑む〈idHAIR〉キム・ミン

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特集:K-Beauty最前線

photo_相原サン

「来るたびに、あなたが必ず何か成長している。だから 17 年通い続けている。」

そう顧客に評されるのは、ソウル・龍山にある〈idHAIR ハリントン店〉のキム・ミン院長だ。1988年創業の大型チェーンで20年間を生え抜きで駆け抜け、理論派カットを軸にサロンワークと教育、ヘアショーにおいて存在感を発揮してきた。

そんな彼女が次に挑む舞台は、6月に大阪で開催する「アジアビューティエキスポ 2025」 。韓国代表としてヘアショーに挑む彼女の意気込みとそのキャリアについて、実際に韓国に渡って聞いてきた。

キム・ミン
idHAIR 龍山ハリントン店 院長


新卒で〈idHAIR〉入社してから20年、ブランドの急成長とともに歩み続け、現在は龍山ハリントン店の代表を務める。ホットパーマとロングレイヤーの再現性で支持を集める。2025年の「アジアビューティエキスポ」では韓国代表としてステージに出演予定。

── 早速ですが、〈アジアビューティエキスポ 2025〉のステージについて教えてください。


韓国からは idHAIR チームだけの参加なため責任重大です。公式テーマの「OSAKA CALLING」に合わせ「混沌の時代にどう応えるか」を自分たちの軸にし、“個と集団”の両極を一つのステージに詰め込みます。日本はヘアショー文化が根づいていますが、韓国ではコロナ禍以降ほとんど途絶えていました。久々のグローバルな舞台で 「これがいまの K-ビューティだ」 と胸を張って示したいですね。

── 楽しみです。idHAIRというサロンについても教えてください。

ひと言でいえば“挑戦と教育”の集団です。社内にはアカデミーがあり、仕上がりから逆算して技術を身につける「スタイルワークカリキュラム」は、かつて4〜5年かかっていたデビュー期間を2年半ほどに短縮しました。

また、ヘアショーにも精力的です。約800坪の「idビューティークラスター」は普段はサロンやフラワーショップ、カフェを抱える複合施設でありながら、セット面を移動させショー会場としても使用されます。私たちはここで韓国最多クラスのヘアショーに挑戦し、挑戦と教育を継続しています。その空気こそ idHAIR の原動力であり、私が20年間ここで走り続けてこられた理由でもあります。

── キム・ミンさんご自身についても教えてください。まず、美容師を目指した原点はどこにありますか。

実はスタートは“日本語”なんです。日本語の授業が面白くて外部の語学教室に通っていました。その教室の下のフロアに美容学校があって、友人たちがそこでカットしている。私も手に職が欲しいと感じ美容の道へ舵を切りました。

── キャリアの大きな転機は?

スタイリスト3年目、ロンドンの〈ヴィダルサスーン〉と東京の〈PEEK-A-BOO〉で学んだこと。私の技術ルーツのひとつでもあります。これも代表の「良いものを見て育て」という教育ファーストの考え方からで、“理論化されたベーシック”という新しい言語がもたらされた瞬間でした。言語化できる技術は教育において最強の共通語になります。美容技術は規律の中でこそ自由になるのだと教えてくれた原体験です。

── idHAIRには、月間売上2億5000万ウォンを叩き出したスタイリストもいると伺いました。

はい、サロン全体で「クレイジーな売上にチャレンジしよう」と取り組んだプロジェクトの成果です。韓国には“前払いチャージ型”の会員制度があるのですが、それを徹底的に設計し直したあるスタッフが、客数と高単価を同時に爆発させたんです。idHAIRの “美容師の可能性を疑わない” というカルチャーを体現した記録だと思っています。

── 顧客と長い信頼を築く秘訣は?

いちばん意識しているのは“前回より必ず一つ新しい提案を携えて席に立つ”ことです。技術でも会話でもいい。“次は副店長になりました”、“今度ロンドン研修へ行きます”、“社内ヘアショーで優勝しました”。自分の小さなアップデートでも毎回理由を添えて説明する。

17年間通ってくださるお客さまに「あなたは来るたび必ず何か成長している」と言われたとき、信頼は“結果”より“歩み”で築かれるのだと確信しました。 昨日より1ミリ前に出る姿勢を見せ続けること、それがリピートにつながる最大の理由だと感じています。

── SNS 全盛の時代、発信と集客をどう切り分けていますか。

院長になる前はロングのバックショットでフォロワーを増やし、フォロワーを呼び込んでいました。でも今のSNSはお客さまに私を見つけてもらうためのものではなく、学びを届けるプラットフォームへと変えています。新規は全体の2割で十分。残り8割はリアルな顧客関係で積み重ねる。長い信頼というのは、バズよりもサロンの椅子の前でしか築けません。

── 日本と韓国、サロン文化の違いをどう感じていますか。その先に描くビジョンは?

日本は ホスピタリティと繊細なサービス が群を抜いています。一方の韓国は スピード感と拡散力、そして熱パーマ技術が強みです。互いの長所を掛け合わせれば、アジアの美容はもっと面白くなるはず。

韓国では“美容師のゴールはオーナー”と考える人が多い。でもそれだけでは正直もったいない。日本のように現場に立ち続けてアーティストとして発信する道もあれば、後輩を導く教育者のキャリアもある。私自身が両方を実践して美容師のゴールは肩書きではなく、選択肢の広さだと示したいと思っています。

木村 麗音
執筆者
木村 麗音

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