インスピレーションの活かし方〜アメリ in today’s world/Hank. 米澤香央里

インスピレーションの活かし方〜アメリ in today’s world/Hank. 米澤香央里

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撮影:佐野一樹

発想の源となるインスピレーションやモチーフ元。作りたいものを見つけても、そこから“オリジナル”に発展させるのは意外と難しいもの。匠たちは作品の完成までどんな考え方を辿っているのだろう。

今回は物語性のある世界観作りを得意とする、〈Hank.〉米澤香央里さんのクリエイションの現場から、インスピレーションの活かし方を読み解いていく。

インスピレーション元に選んだのは、フランス映画『アメリ』の主人公アメリ。

米澤香央里(よねざわかおり)/千葉県出身。日本美容専門学校卒業。資生堂SABFA卒業。都内3店舗、ヘアメイクアシスタントを経て、2024年春、Hank.の立ち上げに参加。現在、アートディレクターを務める。業界誌、アパレルルック、セミナー、写真展、アクセサリーブランドを立ち上げるなど、幅広いフィールドで活躍中。

映画作品内ではクセを活かした黒髪のショートボブがトレードマークのアメリ。ファッションもレトロでガーリーなスカート姿が特徴だ。一方で米澤さんが今回作ったアメリは、今っぽいジェンダーニュートラルなファッションに身を包んだ、ショートのパーマスタイル。

「アメリが持つ可愛らしさに、私らしさでもある少しのモード感と格好良さを組み込んでいったゴールがこのスタイルになりました」と米澤さん。

Q .アメリをモチーフにしながらも、ヘアスタイルは全くの別物ですね。

アメリをそのまま作るのではなく、現代版でエフォートレスな人物像に持っていくと面白いのではと考えました。いまHank.でも推しているパーマスタイルを活かし、「アメリが強めのパーマをかけたなら」という発想からスタートしています。

米澤さんが作成したリファレンス

私が作ると意識せずとも可愛らしさが出てしまうので、あえて人物像はアメリから外しています。ヘアにもファッションにも野暮ったさやメンズ感を取り入れ、遊びを効かせた表現にしています。

Q .逆にアメリらしさはどこに残して表現しましたか?

今回は写真の質感やムードでアメリを彷彿させる温度感を出してもらえるように、カメラマンにリクエストをしました。また映画の一部を切り取ったようなシチュエーションも、モチーフからの着想です。ヘアではシルエットにカドを残し、シルエットの印象を強めているところが、アメリのヘアスタイルとの共通点になっています。

Q.モチーフやインスピレーション元から自分らしい作品に発展させる時に大切にしていることは?

作りたいモチーフを見つけたら、もう1つの軸を探っていくようにしています。たとえば今回の場合だと、アメリを現代版にするかイギリス版にするかなど、モチーフをどんなバージョンに当てはめるかを考えるところからスタートしました。

いくつもバージョンを考えていくと、その中に自分らしさや得意とする要素を組み込めるものが見つかります。それをモチーフとは別のもう1つ軸に定めて、そこから衣装やヘア、メイクと考えていくと、自分にしか作れない世界観やヘアデザインがどんどん広がっていくと思います。

Q .最後に、クリエイションをする人へのアドバイスを。

今回のような撮影に限らず、クリエイションはこれまでインプットしてきたものから生まれる場合が多いと思います。そんな時にそれをなんとなく作ってみるのではなく、まず言語化してみるというのもおすすめです。

撮影前に米澤さんが描いたラフスケッチ

私自身も制作の過程で「やりたいことはなんだっけ?」と迷う時がよくあります。そんな時にこのように言語化していると、思考が整理されてブレずに進みやすくなります。撮影スタッフとのイメージの共有にも使えますよ。


モデルが決まったら、次は衣装から発想を広げていくのが米澤さんのクリエイションステップ。何パターンも用意した中から、現場の反応を見て最終衣装を決定。たとえ寄り絵で撮ることが決まっていても、靴まで用意して全身で世界観を作っていく。


コンパクトだが横幅のあるシルエットのパーマスタイル。アイロンではなくロッドでカールをつけることでシルエットのコントロールが自由にできる。ヘアカラーは写真でコントラストが出やすい赤を選択。顔まわりにローライトを入れて引き締めている。


事前のイメージではアート感のある強めのメイクポイントを作る予定だったが、メガネを使うことにしたので引き算メイクを選択。ナチュラルな中にメンズライクな遊び心としてそばかすをプラス。現場で変えていける“余白”を残しておくのも大事。

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執筆者
mackey

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