日韓のヘアカラーは「美容整形」と同じ考え方へ

日韓のヘアカラーは「美容整形」と同じ考え方へ

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K-Beauty視点の質問から、J-Beautyを見つめ直すキッカケも生まれた日韓座談会。

写真:MISUMI

9月某日、東京・表参道の夜。韓国から来日したド・ミラさんと、営業を終えて合流したREDEAL 代表 中村雄樹さん、nex the salon 西川万由さんによる日韓座談会を開催した。

トークテーマは「ヘアカラー教育」。

パーマ比率が高く黒髪文化の韓国で、韓国のヘアカラーをけん引する使命感を持つミラさん。今回の座談会は、そんなミラさんの強い希望で実現した。

カラーリストの仕事にこだわりを持ち、韓国のヘアカラー教育を変えていきたいと語るド・ミラさん。
ド・ミラ / レピ プロフェッショナル 教育部長
Profile
ド・ミラ

レピ プロフェッショナル 教育部長

2007年より、ソウルのサロンで美容師として働いたのち、2009年、スタイリング・ヘアケア・ヘアカラーを手掛けるK-beautyブランド「Repit(レピ)」入社。カラーリストとして韓国内外ヘアサロンカラー教育、教育プログラムの開発、カラー剤、自社ブランド製品の企画・開発に携わる。ソウルのソギョン大学 美容芸術学科兼任教授。経営学博士課程卒業。

「ヘアカラー文化の国」と
「パーマ文化の国」

ド・ミラ

どうしたら、日本のようにヘアカラーを楽しむ人が増えるのか?

そのヒントを探りたくて、今回、日本に来ました。

韓国ではパーマ比率が高く、ヘアカラーはアイドルなどの一部のアイコンの間で流行していますが、一般的には黒髪が主流。

ヘアカラーをすると「根元リタッチが面倒」という理由で染めたくないという声も多く聞きます。

日本人は街を歩いている一般的な多くの人がヘアカラーをしていますよね。それは、なぜですか?

中村雄樹

ブリーチしてもケアアイテムを使うことでキレイな髪を保てる様になったというのは大きいけれど、世界的にもその基準は上がっていますよね。

日本でハイトーンやデザインカラーブームが続いているのは、日本人は韓国人より個性を出すのが好きな人が多いからじゃないかと僕は思います。色の印象は、個性をつくりやすいですよね!


中村さんの分析によると、

・日本は「個性」を生かすのが好き
・韓国は「王道」スタイルが好き

特に日本の美容師は個性を大事にしている人が多く、顧客にもパーソナルを生かしたヘアカラーを提案してきた結果、ハイトーンカラーブームが続いているのだ。


韓国で白髪ぼかしは受け入れられる?

韓国語を話せる西川万由さん。韓国トレンドにも詳しく、少し前までは定期的に韓国を訪ねていたそう。
西川万由

私もよく韓国に行くのですが、年齢層の高い世代は黒髪のショートでカーリーヘアが多いですよね。

若い世代も黒髪が多く、ロングストレートが多いイメージです。

韓国は文化として、「黒髪」が好きな人が多いのだと思っていました。

ド・ミラ

ヘアカラーの認識が少ないのかもしれません。

白髪が出始めると、「黒く染めないと」という固定観念があって、「黒く」「しっかり染めたい」という人が多いですね。

日本の「白髪ぼかし」のアプローチを、私は韓国でも広めたいと考えています。

大人女性の意識をどう変えればよいのでしょうか?

中村雄樹

ホイルワークをして白髪ぼかしデザインをすると、白髪が生えてきても、
・地毛(黒)
・白髪
・ブリーチオンカラー
・茶色(前回のベースカラー)
の4色になるので、「白」と「黒」でパッキリ色が分かれて見える白髪染めよりも、ストレスが少なく、髪もキレイに見えます。

これをSNSでビフォーアフターを載せて、視覚的に良いものとして広める作業が一番大事だと思います。

白髪ぼかしは4色が混じり合うことで、ストレスを感じにくい。
西川万由

私が白髪ぼかしを始めた頃は、まだ日本で白髪ぼかしをやっているのは3人くらいでした。

まずは大人世代に知ってもらうために、SNSで発信するためのビフォーアフターをたくさん撮りました。

美容に興味のない人にあえて協力してもらったり、リアルにこだわって拡散していましたね。お客さまが見たいのは1〜2カ月後の根元の状態だから、2カ月後にまた来てもらって。

西川さんがSNSで発信しているビフォーアフター写真。
hair color :西川万由(nex the salon)
西川万由

韓国で市場に行くと、アジュンマ(おばちゃん)やハルモニ(おばあちゃん)がいっぱいいますよね。彼女たちに声をかけて、ビフォーアフターを撮ると良いと思います。

韓国ではツヤ髪カラーの方が需要がありそうだから、「ツヤ髪ヘア」のアプローチから入って、そこから少しずつ白髪アプローチに変えていくと受け入れてもらえそうです。

 

ド・ミラ

まゆさんは、なぜ白髪ぼかしをやろうと思ったのですか?

西川万由

私はニューヨークにあるヘアサロン「ウォーレン・トリコミ」が日本にフランチャイズで入ってきたときにアシスタントとして参加しました。

ハイライト施術が多かったのですが、その頃は明るくすると「派手」と感じる方が多く、金髪に抵抗がある人が多かったです。日本も今の韓国みたく、白髪はダークトーンでしっかり染める時代でした。

コロナを経て、個性を生かす時代が来て。日本人の肌の色や白髪率に合わせたヘアカラーがお客さまに受け入れらるようになりました。

 

hair Color :西川万由(nex the salon)
hair Color :西川万由(nex the salon)
中村雄樹

日本では今、白髪はブリーチしなくてもブリーチしたのと同じ効果があるというポジティブな捉え方があるので、ヘアカラー後の「結果」をどう言語化するかが重要ですよね。

男性も女性も年齢を重ねると肌がくすみ、毛量も減って、黒が似合わなくなると思うんです。ヘアカラーをした方が若々しく見えるし、明るい方が髪の毛が膨張して見えるので毛量も多く見える効果があります。

西川万由

白髪率が高ければ明るいカラーを提案するなど、白髪率に合わせて提案する時代になりました。

美容整形と一緒で、個性を生かしながら行う方がお客さまにとってもギャップが少ないと思います。

日本も韓国も少子高齢化の時代。

大人世代にアプローチする施術を持つことが、日本でも韓国でも美容師として活躍する上で欠かせない。これは3人一致の見解だ。


コラム①「韓国で美容師として働くには?」

国家資格を取得するまで

国家資格を取得するまで
・専門学校に通う、卒業後に資格をもらえる大学に通うなど、さまざまな道がある。
・学校に入学しなくても、個人的に学んで国家資格を受けることも可能。
・才能があれば3カ月で美容師になれる場合もある。

サロン入社後 ※就労ビザが必要

サロン入社後 ※就労ビザが必要
・日本の美容師が韓国で働くには就労ビザが必要。
・資格を取っても、デザイナーとしてはすぐに活躍できない。
・韓国ではサロンに入社するとアカデミーに入り教育を受けるところが多い。
・1年6カ月くらいが平均的。チョンダムドンエリアでは4〜5年かかるサロンも。

人の印象を左右するのは「色

中村雄樹

僕自身、バレイヤージュやハイライトに特化した美容師でしたが、独立してからは、個人の技術をマニュアル化して、スタッフ全員がバレイヤージュやハイライトを同レベルでできるよう、教育に尽力してきました。

サロンワーク中も、僕は表面だけブリーチして、表面以外はアシスタントがブリーチするなど、OJTで教育することで、カラー育成が短期で可能に。

店舗によってデザインを絞り、そこで働くスタッフは決まったカラーデザインを反復練習しています。

毎日反復することで1日を通したヘアカラーの質もどんどん高まっていますね。

REDEAL渋谷店は全頭ブリーチメインの店舗で、ターゲットは高校生〜20代と若め。

大宮の2つの店舗はバレイヤージュとハイライトがメインの店舗で、50代〜60代まで客層は幅広い。

独立前からバレイヤージュやハイライトに特化して自己ブランディングしてきた中村さん。その経験をスタッフ教育に落とし込んだ。

技術は複雑にしないで、とにかくシンプルに。

サロンとして売り物を絞ることで、特化した客層に向けてカラー技術を洗練させていったのだ。

中村雄樹

韓国でヘアカラーを流行らせたいのであれば、ブルベ(ブルーベース)やイエベ(イエローベース)の肌ベースごとにパーソナルカラーを提案する文化をつくってはどうでしょう?

髪色をチェンジする理由が「モテ」とか「美しくなる」とか、説得力がたくさんあるとヘアカラーをやりたい人が増えると思います。

ド・ミラ

私も人の顔のイメージを決めるのは、カラーだと思います。

顔の近いところにあって、範囲も広いですよね。

ヘアカラーが人の顔の印象を左右するという知識を韓国の美容師にもっともっと広めたいと考えています。

中村雄樹

人は「どう変われるのか?」をビジュアルで見ないとわからないじゃないですか。

日本ではこの数年間、カウンセリング動画やリアルなトークの動画が流行りましたよね。

SNSで美しい女性を美しく載せる時代から、リアルで共感できる容姿や悩み、周りの反応などをショート動画にして共有することで、「美人よりもリアルなものが見たい」と世の中が変わってきました。

リアルな動画の拡散が増えて、これまで知らなかった「価値」が広がるようになったと思います。

REDEALでは「マイナス20歳」でバズるスタッフが続出。

前髪をつくったり、ヘアカラーをチェンジしたりして若くなったリアルな姿を見て、同世代の客層の新規予約率が大きく伸びた。

ド・ミラ

まゆさんはカットもカラーも両方やっていますか?

西川万由

カットもヘアカラーも両方やります。縮毛矯正メニューも多いですね。

特に韓国の方は髪がストレートの方が多いですが、日本人はクセ毛が多いので、ストレートメニューとヘアカラーを同時施術することも多いです。

ド・ミラ

縮毛矯正とヘアカラーは一緒にできるんですか?

西川万由

nexではブリーチ毛にも一緒にかけられる縮毛矯正メニューがあります。

ヘアカラーとストレート剤の成分がマッチしないとストレートをかけたところだけ沈むので、薬剤の組み合わせが大事です。

若い世代はハイトーンも人気ですが、30代から60代と年齢層の幅が広く、年上になる程ツヤや美髪が優先になっています。

韓国コラム②「日韓メニュー料金の違い」

日本の平均

日本の平均
※総務省統計局2022年データ

韓国の平均

韓国の平均
※『月刊BOB』2023年3月号より


ド・ミラ

白髪ぼかしカラーと縮毛矯正の両方だといくらくらいですか?

西川万由

ハイライトカラーとカットで3万6,000円、ストレートとカラーだったら4万2,000円くらいです。

青山・表参道エリアは韓国でいうとカンナムやカロスキルに近いイメージかもしれません。土地代や人件費もかかるので、1時間平均1万円くらいの計算のサロンが多いと思います。

韓国から学ぶべきこと

中村雄樹

今、僕は新しい挑戦をしていて、レイヤーカットとパーマを突き詰めています。

ド・ミラ

なぜカラー特化からレイヤーカット特化の美容師に転身したのですか?

中村雄樹

デザインカラーやハイトーンに特化する美容師が増え、飽和したことが一番の理由です。

今、日本でできる人が少ないのは「レイヤーカット」と「Cカールパーマ」。

見本が日本にないので、僕は韓国の美容師さんを参考に勉強していますよ。

韓国は日本よりもレイヤーを入れている女性が多いイメージです。街中ではどうですか?

ド・ミラ

それほどレイヤースタイルは多くなく、インスタで見るハイレイヤーデザインはあまり広がってないかもしれないです。

中村雄樹

韓国ではパーマ文化が主流な中で、一部のアイドルが寒色カラーやブリーチカラーをやり始めていますよね? 

パーマ履歴の女性が多いからこそ、寒色カラーは沈みやすかったり、ブリーチとも相性が悪かったりして難しいと思うのですが、どうケアしているのですか?

ド・ミラ

韓国でも、複雑履歴化した髪に対応できるパーマ剤がだいぶ増えました。

ファンデーションも昔はそこまで細かい色調のラインアップはなかったですが、今はいっぱいありますよね。

それと同じように、健康な髪のためにケアしながら施術するパーマ剤が必要だという考え方になり、パーマ剤のラインアップはどんどん増えています。

韓国コラム③「日韓パーマ比率の違い」

日本のパーマ比率

日本のパーマ比率
※NBBA「サロンユーザー調査2023」

韓国のパーマ比率

韓国のパーマ比率
※韓国のパーマ比率は7〜8割と言われているが、正確な統計はない。
西川万由

韓国はヘアメイクとシューティングがめちゃくちゃ上手。

日本でも若い世代が韓国に自分の写真を撮りに行く文化が広がっています。

日本で韓国風のシューティングができる韓国カメラマンのフォトスタジオは予約がいっぱいで取れないらしいですよ。

衣装1着が付いて、ヘアメイクアップ込みで3万前後で、ウエディングだと数十万! この市場はまだまだ可能性がありそう!

韓国フォトシューティングの需要は「取れる!」と西川さん。ビジネスウーマンの一面も。


ヘアカラー教育の課題

中村雄樹

ヘアカラーでできないことは減っていて、平均点が上がってきていると思います。

ヘアカラーが飽和したからこそ、カットデザインやパーマなど、日本は他に価値をつくることに注力しないと差別化ができなくて、どんどん料金が下がっていくと僕は考えています。

あとはトータルプロデュース力と施術する人のブランディングも大事ですよね。

僕は最近、高校生のレイヤー需要が増えて、どんどんファッションがヤングになっています(笑)。

高校生のお客さまが増えた中村さん。客層に合わせてファッションもラフに。
中村雄樹

SNSでクオリティの高い情報を見すぎているので、平均的な65点では価値が薄く、100点の特徴がないサロンは選ばれにくくなっている。今はそういう時代だと思います。

中途半端なものは必要ない時代なので、幅広く学んで提供するというより、得意なものを早い段階から提供できる教育方法が必要なのだと思います。

ド・ミラ

日本ではヘアカラーが飽和状態で価値が下がっているということでしたが、韓国ではヘアカラーの経験値が低いため、カラー教育自体への認識が低いのかもしれないです。

売り上げ第一主義の美容師も多く、売り上げが達成できるようになると教育を受けない人も多いので、先々のことも考えられるデザイナーを育成するのが課題ですね。

西川万由

私はヘアカラーの技術全般もですが、「カウンセリングの勉強」も大事かなと思っています。

お客さまが何を求めていて「今後どうなりたいのか?」

これを美容師が拾えないと無駄な施術になっちゃう。

たとえば妊婦さんが来店したとき、長さを短くしたいのか結べた方が出産後のことを考えると良いのか。次に美容室に来られるのはいつかなど、お客さまの日常に落とし込んだカウンセリングです。

ヘアメニューも美容医療に近くなってきていて、よりお客さまに合わせた提案が必要だと思います。


座談会を終えて

ド・ミラ

似て非なる韓国と日本のヘア美容市場の過去から現在までを分析し、未来の方向性を知ることができ、有意義な時間でした。

中村さん、万由さんと時間を忘れて熱く語り合ったことが、今年一番の出来事として記憶に残り続けると思います。

今後も交流を深められたら嬉しいです!

このような素晴らしい時間を作っていただきありがとうございました。

中村雄樹(なかむらゆうき) / REDEAL 代表取締役
Profile
中村雄樹(なかむらゆうき)

REDEAL 代表取締役

1994年8月15日、埼玉県生まれ。埼玉県理容美容専門学校卒業後、都内サロンで2年目でカラー指名売上200万円を達成。2020年、埼玉・大宮にREDEALをオープン。2023年には渋谷に旗艦店を出店。Z世代代表としてブランディングや経営手腕が注目される他、中国をはじめとするアジアに向けた技術セミナーでも活躍。

西川万由(にしかわまゆ) / nex the salon クリエイティブディレクター
Profile
西川万由(にしかわまゆ)

nex the salon クリエイティブディレクター

三重県出身。資生堂美容技術専門学校卒業後、都内2店舗を経てnex the salonのヘアカラー部門の立ち上げに参加。白髪ぼかし技術に定評があり、大人世代から絶大な人気を誇る。現在はクリエイティブディレクターとしてオンラインセミナーでも活躍する若手実力カラー特化美容師。

ボブログ編集部
執筆者
ボブログ編集部

成長し続ける美容師のための髪書房ウェブメディア『ボブログ』。これまでにないスピードで変革する時代に必要な情報【パラダイムシフトの芽】をいち早く見つけ、掘り下げ、新しい常識を提案します。

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