「こんな人は、向かないかも…」現役フリーランス美容師の体験談と本音

「こんな人は、向かないかも…」現役フリーランス美容師の体験談と本音

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コロナ禍を超え、仕事への価値観がアップデートされた現代。

かつて10年以上前の先輩たちからは「フリーランスは美容師の墓場だ」と聞かされたものですが、あれから時代の激流に流され、業界もパラダイムシフト。人材確保が難しくなり、業務委託や面貸しは、欠かせないピースとなりました。

ボブログ読者の皆様にも、実際にフリーランスとして活動されている方も多いでしょうし、また今後の美容師としてのキャリアとして、フリーランスを視野に入れている方は多いのではないでしょうか?

ですが、フリーランスについての情報は近しい経験者からは聞けるけれど、結局「人によりけり」な印象。それが自分にフィットするかを判断するのは、難しいものです。また、Instagramでフリーランスをオススメしている美容師さんは、キラキラしていて「業界の成功者」にしか見えないし、Webサイトで検索しても、あらゆる「個人事業主」を対象にしていて、月並みな事しか書かれていません。

そこで今回は、アフィリエイトサイトには載らない「もっと現場目線でこうだよ」というポイントを、本音で語りたいと思います。

Contents

◾️フリーランスをしてる僕は、こんな人

僕自身は、フリーランス美容師として3年目。その間に「業務委託」と「面貸し」どちらも経験し、同じ空間で仕事するフリーランス美容師さん達も、それなりに見てきました。まず、僕がフリーランスを選択した経緯をお話する前に、僕自身のパーソナリティについて触れておきましょう。

金銭感覚はどんぶり勘定で、数字が苦手。趣味人間ですが散財するほどではなく、慎ましく楽しめれば充分。

仕事観も同じように、美容師もライターも好きで続けているけれど、横着な性格なので、常に「できればサボりたい」という気持ちとのせめぎ合いです。

それより「早く帰って晩酌したい!」「妻と子供(7ヶ月)とできるだけ過ごしたい!」。そんな、社会人としてギリギリ一人前のわがまま坊やなので、プライベートの比重が大きめだと自負しています。

▼僕がフリーランスになった経緯は…

そんな僕がフリーランスを選んだ理由は、本業の「美容師」、副業の「ライター」、そして「プライベート」の3点を、自分の納得できるバランスにしたいという考えからでした。

また当初、ライターの副業は今ほど安定していませんでしたが、舵を切った理由には「もっとライター業を拡大していきたい」という考えもありました。

▼「副業をする時間」と「会社員の窮屈さ」が、両立できなかった

僕は2020年当時、「個人経営の少人数美容室」に長く勤め、社内の幹部でもありました。ブログ媒体のnoteで同年の年明けに始めた執筆は、同年5月ごろから寄稿する依頼を受けるようになりました。

事後報告で始めた副業こそ会社に認められたものの、僕はその後すぐ「副業に費やす時間のやりくり」に苦労するようになりました。理由は、「営業中の空いた時間」で執筆することが許されなかったことです。

僕はこの件について、社長と何度も話し合っていました。

というのも、「勝手にやってるお小遣い稼ぎ」の副業ならともかく、「美容業に紐付いた」副業であったため、僕としては美容師のキャリアの一部として捉えていました。そのため「営業中にできないか」と交渉していたのです。

ですが結局、営業時間中の執筆作業は叶いませんでした。すると次第に、「プライベートの時間」が失われるようになり、趣味人間の僕は「執筆業への意欲」と、「プライベート」の両立が難しくなったのです。

僕は急に「今後どうする?このまま続けられるのか?」迫られるようになりました。それまで、僕自身はあまりキャリア形成については深く考えていませんでした。そんな落ち度もあり、「いつかは独立したい」といった漠然とした気持ちはあっても、「のらりくらりとやっていた」という方が正しいのです。

結局、「仕事も副業もやりたい意欲」と「プライベートの充実」のバランスを取りたい、という気持ちが勝るようになり、同年10月にフリーランスとして独立。僕としては今後に向けたチャレンジの意向が強く、愛着ある美容室を離れることは、苦渋の決断でした。

◾️フリーランスをやるなら、こんな人

さて、僕の自己紹介が済んだところで、フリーランスについてお話しましょう。

前置きしておきますが、僕自身がどんぶり勘定なので「お金にまつわるお話」には触れていません。また、確定申告などについてもスルーしているので、あしからず。

▼【フリーランスの一番のメリット】時間の自由度が高い

まず、フリーランスの一番のメリットは、時間の自由度が高いことです。会社員時代はシフトで働くのが当たり前でしたが、やはり時間の制約が厳しいことは、大きなネックだと感じます。

前月に作られたシフトに縛られ、プライベートの予定があれば“体に鞭打って”連休を捻出していた頃とは違い、フリーランスなら状況に応じて「急な休み」や「半休、早退」なども取ることができます。予約を事前に管理していれば、「長期間の旅行、帰省」「土日のイベント」などに行くことも簡単です。

そのため、趣味を充実させたい方はもちろん、子育て、介護など、様々なライフスタイルにあわせて仕事を組む事ができます。

更に、業務委託・面貸し共に「営業中の予約が無い時間は、どこにいても、何をしてても自由」という会社が多いです。そのため、隙間の時間で個人的なお買い物をしたっていいし、気軽にランチに行ったりもできます。もちろんNetflixに耽ってもいいし、スマホゲームで時間を溶かすのも、パチンコ打ちに行くのも自由。現場の仕事さえちゃんとしていれば、咎められないのです。

「美容師が副業」という選択もアリ

そのため、僕のように副業を持っている方も、必要な時間を割くことができます。昨今様々な副業が存在しますが、空き時間があれば円滑に進み、それに伴うスキルアップも出来るし、一つ一つの完成度を上げる事もできます。

僕も会社員時代は、「朝早めに出勤して執筆」「帰宅してからも執筆」「休みも執筆」といった形で捻出し、継続していました。それが今は、仕事の日の空いた時間だけで賄うことができています。

そのため例えば、美容師のキャリアに不安を感じている方にも、フリーランスはオススメできます。なぜなら、せっかく習得した美容師を“全切り”しなくても、「美容師を副業」にすればいいからです。

フリーランスなら美容師を辞めずとも、新しい仕事とバランスを取ることができます。そうして報酬を得るポイントが分散できれば、次のキャリア設計にも挑みやすくなるはずです。

▼フリーランスは、こんな人が多い

フリーランスには「仕事と割り切ってやる方」や、「会社的な付き合いに疲れた方」なども多くいる印象です。美容師と美容室とはevenな立場で契約するので、先輩後輩に縛られることもありません。とはいえ、この件は所属する美容室にもよるので、後述します。

また、繋がり次第では今後のキャリアを共闘する仲間を得られるかもしれません。僕も、考え方が根本的に異なる人たちと働いているうちに、自分がいかに「井の中の蛙」だったか、と感じる場面もありました。

◾️こんな人は、フリーランスに向いてないかも

3年もフリーランスをしている上では、デメリットも明確にあります。

僕の会社員時代は、長く同じ美容室で勤めていたのですが、間借りしているだけの面貸しの美容室には、「ホーム感の薄さ」を感じざるを得ません。

その理由の一つは、職場の人付き合いの仕方です。

▼現場は個人主義で、淡白な付き合いになりやすい

フリーランスの現場は個人主義が強く、先述した「会社的な付き合いに疲れた方」も多く所属しています。

それ故、美容師さん達は年齢もスタイルも様々で、悪くいうと淡白な付き合いになりやすくなります。ですから相手に悪気がなくても、薄情な印象を抱くこともあるかもしれません。

このことから、会社員マインドが強すぎる方は、新しいマインドセットをする必要があります。

▼「居心地が良いから」は、自分が損することになる

フリーランスは、時と場合によって「より良い条件を求めて動ける人」の方が向いていると言えます。対して、「この場に腰を据える」マインドの方は、あまり向いているとは感じません。

例えば、同じエリアに「もっといい条件のフリーランス美容室」がオープンしたら、今の契約内容で居座るのはマイナスでしかありません。「居心地が良いから」「慣れてきたから」という理由で残っていては、自分が損することになります。

「最近スタッフが減っていて、会社の運営を心配して辞められない」などといった考えも同様です。今までの会社員的な思考は一度棚に置いて、ビジネスパーソンとしてメリット・デメリットを冷静に比較することを推奨します。

▼「こうあるべき」は同僚に求めない方がいい

会社員美容師の場合、接客以外の時間では、細かい部分の掃除や事務仕事などをこなすのが常。更に、人材不足な小規模美容室では「営業中はお店の雑務をやってね」となるのは当たり前です。

実際に、会社員としての僕と社長との話し合いに折り合いがつかなかった理由も、会社員美容師にとっては「営業時間に美容室に駐在する」ことも仕事の一部だからです。そのため、社長としても「空いた時間なら自由にしていいよ」とは言えなかったのです。

対してフリーランスは、チームで動く意識が強い方や、先輩後輩のスタンスで接することは、あまり望まれません。そして今まで以上に「価値観の合わない」方もいるでしょうから、「こうあるべき」といったことは相手に求めない方がいいです。

例えば、「掃除はキチンとする」というルールを共有したい、というマインドの方は、あまり向かないと感じます。これは、「自分がその人より掃除ができる人」であるだけです。価値観の異なる相手に強要せず、それぞれを尊重する気持ちの方が重要です。

▼世代別の価値観の違いには、要注意!

価値観を社内で共有していた会社員時代とは異なり、フリーランスは価値観の違う同僚に相対する場面も多くなります。特に、世代ごとの違いはシビアです。

たとえば、僕がサロン見学していた頃の話です。

見学の段階からサロンには「僕のやりたいスタンス」を説明していたのですが、ある美容室では、一回りほど先輩の人事担当の方に「そんなに美容師は甘くないよ」とせせら笑われる場面がありました。もちろんその美容室と契約する事はありませんでしたが、こちらとしては否定される筋合いはありません。

その方にも仕事への自負やこだわりがあるのでしょうが、僕はあの人の顔と、いかにもなバレンシアガのTシャツ姿を、忘れることはないでしょう。

▼【業務委託あるある】技術レベルがまちまちでアシストを頼むのが怖い

業務委託では、こんな“あるある”があります。

一緒に働くスタッフたちは、育った環境も年齢も違い、技術レベルもそれぞれです。当然、「カットの仕方」も違えば、「カラーの塗り方」も違う。

業務委託は、予約内容次第でアシストしてもらう場面もあります。すると、スタッフに託すのが不安になるのです。カラーの塗り方一つにも「自分のこだわりポイント」ができない場面が出てくるのです。

同様に、託されるのも不安になります。完成に至るプロセス(過程)の組み立てがそれぞれ違うので、「これで合ってます?上手に出来てましたか?」と不安になりながらアシストしたりします。

▼【面貸しあるある】「個人経営の美容室」の運営は当たりハズレがある

店舗展開されているミラーレンタル美容室の場合、膨大な美容師の人材確保をするために様々な働きやすいルールが敷かれ、ブラッシュアップし続けています。

ですが「個人経営の美容室」が運営している面貸しは、条件次第です。

というのも、ベテラン美容師のオーナーが、運営上“致し方なく受け入れている”スタンスも多いのです。経験者からは、「入ってみたら条件ギチギチ」「感覚が古くてやりづらい」といった事例が多く聞かれます。

ベテラン美容師オーナーは経営より“現場へのこだわり”が強くなりがちで、「今の美容室の雰囲気を壊したくない」という心理が働いています。ですがルールが厳しいと、フリーランスは直ぐに辞めていきます。お互いWin-Winになるために、オーナー様もご配慮いただければ幸いです。

まだまだ話し足りない…

このようにフリーランスにおいても、会社のスタンスによって「ガチガチ」も「ゆるゆる」もあるようです。

今回は人間関係やマインドセットにフォーカスしましたが、割愛してることも多く、まだまだ話し足りないです。

この記事が、皆様のキャリア選択の手助けになれば幸いです。




今回のまとめ

●フリーランスなら、ライフスタイルにあわせて仕事を組む事ができる

●現場の美容師さんは年齢もスタイルも様々で、個人主義

●フリーランスといえど、契約する会社のスタンスによって自由度は様々




操作 イトウ
執筆者
操作 イトウ

東京都二子玉川を拠点にする30代美容師。 『ヘアスタイルはロジックで美しく、カッコよくなる』『ステキな美容師さんに出会ってほしい』をメインテーマにしたブログをnoteにて執筆。2020年から文春オンラインでの連載を開始、CREA等のwebメディアで定期掲載。

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