●手が空いてそうなアシスタントが、ヘルプに入ってくれると思ったら入ってくれずイラっとした。
●お店の中にモチベーションの高いスタッフ、あまり高くないスタッフがいて、どちらに合わせて教育したらいいのかわからない。
●「スタイリストデビューのために明日から朝練頑張ります!」と元気よく話をしていたのに、翌日遅刻してきた。
など…
挙げだすとキリがないくらい、美容室という環境では「人にまつわるモヤモヤ」が日々起きていますよね。
さらに、労働集約型産業である美容室では人が辞めてしまうことでのマイナスは非常に大きい。それがAIに負けない武器でありつつも、多様な価値観を持つスタッフたちの教育はとても難しいものです。
そんな悩みを持つ現場のリーダー、店長、未来のリーダーたちに知って欲しいのが『メンター美容師』という概念。
過去の連載はこちら。美容業界No.1エンタメコーチの中野友介さん・Lond代表取締役 甲斐紀行さんのお2人が、「メンターってなに?」「なぜ今必要?」という問いに答えています。
今回は第5回目。メンター美容師に必要な5つの心得の4つめについて学んでいきましょう。
その前に、心得5つのおさらいです。
メンター美容師5つの心得
1)ありのままを受け入れる
2)自分の世界と相手の世界がある
3)自分の正義(価値観)だけが正しいわけではない
4)相手の興味に興味を向ける ←今日はこの議題を学びます!
5)徳を積む
美容室あるある4「“推し活”優先で仕事がおろそかに…?」
引き続き、「メンター美容師になりたい人」として徳永恵里さん(December/東京・原宿)に参加いただいています。
店舗の中ではディレクターとして、また「メンター美容師」をめざすリーダーとして、リアルなお悩みの一つを動画の中で紹介してくださっています。
さて、今回のお悩みは…?
最近、「推し活」の時間を優先したいという子たちが増えてきて、仕事よりもそっちが優先になってきている気がします。
その時間を練習や自己研鑽にあてて欲しいなと思う反面、自由な時間を拘束することはできないので、どんな風に伝えたらいいのか悩んでしまいます。
「推し活」とは、アイドルやキャラクターなど、「推し」と呼ばれる対象を様々な形で応援する活動のこと。リアル開催のライブだけでなく、SNSでのライブ配信やグッズの購入など、展開が多岐にわたるようです。
そんなお悩みに対する今回の動画はこちら!
メンター美容師心得その4 相手の興味に興味を向ける
この時代ならではのお悩みですよね。
仕事に熱心なリーダーや先輩ほど、「仕事を優先して当たり前」という考え方を持ってしまいがちですが、多様化する価値観の中で人生における「大切なこと」もまた、多様化していることを忘れてはいけません。
相手の「大切」を知ることは、その人自身の価値観を知ること。
だからこそ、メンター美容師は「相手の興味に興味を向ける」ことが重要なのです。
「二流は共通点を、一流は相違点を見つけて対話ができる」
相手が好きなものを自分も好きな場合は割とすんなり受け入れられますよね。共通項を見つけて話を深掘りしていくことは比較的やりやすい。
ですが、「メンター美容師」であればその違いについても認識し、そこから相手の話をどんどん深掘りできるようになることが大切です。
「●●さんが好きなグループの人ってどんな人たちなの?」「オススメの曲はある?」「どんなところが好きなの?」
という「好き」の深掘りを一緒にしていくことで、相手も心を開いてくれるようになるはずです。
さらには、相手が好きなものを自分も好きになれるとより理想的ですね。
「興味」≠ 趣味。「その人」自身への興味も含まれる
「興味」=好きなものや趣味
のことと思いがちですが、メンター心得で言う「興味」はそれだけではありません。
たとえば、こんなことにあなたは気づけていますか?
・幹部の会議中、クーラーの方向をチラチラ見て両腕をさすっている人がいた
→実はクーラーが効きすぎて寒がっていた
・店舗に行ってスタッフに挨拶したら、一人だけそっけない人がいた
→実は、後輩の作業のサポートをしながら自分のお客さまにも対応していて、かなり立て込んでいた
・お客さまに仕上がり時に最終の確認をしたら、目を泳がせながら「大丈夫です」と答えられた
→実は、前髪の長さがあまりしっくりきていなかった
こんな風に、「実は〜」から続くことに気づくのも「相手への興味」がなければできないこと。
些細な仕草、目線や会話中の間(ま)など、言葉にならないような声を聞くことも、「興味」を向けるべきことがらの一つです。
興味を持つことは信頼関係を深める一歩
興味を向ける重要性は頭ではわかっているけど…結局どうしたらいいのかわからない、そんな声が聞こえてきそうです。
大きなフローとして、下記2つのポイントで進めてみましょう!
①相手の好きを理解する
②敬意を払った上で好きを広げていく
重要なポイントは「敬意」!
相手の「好き」を否定したり、意見するのではなく、敬意を払った上で話を広げていくことが何より大切です。
自分が大切に思っていることを話すのは、自己開示の一つでもあります。
そんな時に、否定されたり求めていない意見をされてしまっては、自分を否定されてしまったと思い、かえって逆効果。「この人に言っても否定されるから言いたくない」と思われてしまっては、何か仕事で重要なシーンでも同じように「言いたくない」と思われてしまうかもしれません。
相手に興味を向けることは、リスペクトの一つ。
信頼関係ができてこそ、いざとなった時の相談相手になれるのです。
興味を向けることは、信頼関係をよりよく構築していくための一つの手法として捉えてみましょう!
【実践編】大切と大切のすり合わせをする
では具体的にどんなアプローチで興味を向けて、関係性を深めていくのが良いのでしょうか?
メンター美容師としては、単に相手の興味を向けるだけでなく、その先には「信頼関係の構築」と言う目的があります。
「興味を持つ」ことによって→「お互いの大切を知り」→「お互いの大切を大切にする」ことで→互いの信頼関係を深めていくことができる
と言った流れですね。
ここからは、興味を持った先の「お互いの大切を大切にする」と言う目的に向けての具体的なアプローチを紹介していきます。
すり合わせの流れ
1)心理的安全性をつくる
2)メンター美容師が「相手の大切」を聞く
3)メンター美容師は、その人の大切を大切にする
4)メンター美容師が思っている大切(会社の大切)も伝える
5)それを互いに伝え合い、相手にどう思うか尋ねてみる
と言うのが大きな流れになります。
1)の心理的安全性、というのはこれまで話をしてきた「相手の興味に興味を向ける」ことなどで深めてきた信頼関係のある状態です。
大前提として、「この人に話をしても大丈夫」「否定されないから安心」と思われるような関係を構築しておくことが求められます。
ではもっともっと具体的に、Londでの実例を紹介していきましょう。
実例 「婚活を頑張りたいから土曜休みが欲しい」
婚活を頑張りたい! と言うA子さんというスタッフがいまして、
1カ月のうち2回、土曜休みをもらえるようなシフトにしています。
土日休みというのは会社にとっても痛手、と思われる方が多いと思いますが、土日休みが取れず結果的に辞めてしまう可能性と天秤にかければ、働き方の柔軟性でカバーできる部分もあるはず。
なので、上のような流れですり合わせをしていきました。
・A子さんの大切=婚活(をするための土日どちらかのお休み)
・会社としての大切=A子さんが自由な働き方を叶えた上で、売り上げが下がらないこと
ということが甲斐さんとA子さんとの対話の中で見えてきた「お互いの大切」です。
まずはA子さんの「婚活したい」という「大切」を聞き出しました。
その上で、それを叶えるために何が必要なのかを話し合っていくうち、「土曜日のお休みが欲しい」ということに。土日休みの方と出会うには、なかなか平日休みでは調整が難しいですもんね。
その一方、会社としてはA子さんの思いを叶えた上で生産性も下げたくない。その点も本人にも伝えました。
互いにすり合わせながら着地したのは
・基本給は土日出勤シフトをしているスタッフにも考慮をし、基本給からそれに見合った正当な減給を行う
・土曜日は月2回、休みを取れる
という働き方に。
ですが、結果的には以前の働き方よりも売り上げが上がり、平均180万円から200万円超えるほどの売り上げるまでに成長しています。
婚活を楽しめているのか働き方ににメリハリができ、時間をより有効に使えるようになったと本人も話をしています。
会社が柔軟になって叶えられることであれば叶えられる方向で動くのがメンター美容師。ですが、会社という組織に属する一人として、自分たちが大切にしていることも伝え、すり合わせていくのもまた、メンター美容師の役割です。
Londの場合、働き方について相談できるのは勤続5年目以降が目安。ただし、4年目だから言えない、ということもなく、事情をヒアリングした上で相談するような余地があるのもLondの“あり方”です。
他にも
・「旦那さんが帰宅する前には家に帰りたい」というスタッフは19時退勤を認める(店舗は21時まで営業)
・夜のプライベートな時間を大事にしたいというスタッフは平日も土日も19:00には退勤を認める(売り上げ200万円を上げている)
など、柔軟な対応で様々な働き方を叶えられる環境をつくっています。
ルールを変えたり柔軟性を持つことってなかなか難しい、とか「Londだからできるのでは?」と思われることもあるかもしれません。ですが、柔軟性を持つことの方が組織にとってもメリットがはるかに大きい、という点はお伝えしたいです。
一旦、現実的な数字にして考えてみましょう。
例えば、通常の休みに加えて【冠婚葬祭の際に年間2日間は土日を休んでOK】というようなルールがあったとしたとします(Londのルールではありません)。
その分の1日の売り上げを10万円だとして、10万円×2日×スタッフ50人の場合、全員に付与して1000万円のマイナスとなります。
一方、その間にスタッフが2名辞めてしまえば、美容師1名分の生産性が約600万円と言われているので
600万円×2名=1200万円のマイナスとなるのです。
どちらが組織にとってプラスになるのか、一目瞭然ですよね。
組織に働きかけることで大切なスタッフを守ることも、メンター美容師の担う役割です!
メンターマスターの今月の一言
メンターマスター・中野さん、甲斐さんによる、今月のつぶやきをご紹介。
相手に興味を向けることでその子自身の価値観もわかりますし、実は本人がわかっていない(言語化できていない)部分も見えてきます。
「お店を辞めたい」と言われると理由を尋ねますよね。その際に言われた理由と、本当の理由とは全然違うこともよくありますし、本人が無自覚に嫌だったことはなかなか表面には現れないものです。
「好き」や「興味」を通じて価値観を知る。これが離職を防ぐ第一歩なのだと思います!
「好き」や「興味」から話を広げていくことをメインに話しましたが、
同じように「不満」の中にもその人の大切が隠れています。
直接本人に聞くのがハードルが高いこともあると思いますが、メンター美容師本人が必ずしも聞く必要はありません。
誰かしらの耳に届いている不満をしっかり漏らさず、拾い上げられるような体制をつくっておくことが重要です!
徳永さん成長日記
徳永さんがこのセミナーで得た学びをどんな風にサロンで活かしているのか、その成長日記の一部をお届けします!
自分自身が育った環境は美容の仕事が最優先!という環境だったので、「推し活」よりも仕事が優先、という考え方を持ってしまっていましたし、それをなんとなくスタッフにも押し付けていたように思います。
メンター美容師セミナーでの学びを通して、「その子が考えていることをまず先に聞き出し、大切にする」という意識づけができてきました。
面談や日々の声かけを通じて、一人ひとりの価値観をより深く知っていきたいと思います!
次回は、いよいよ最終回! メンター美容師の心得その5「徳を積む」の回です。
お楽しみに〜!
- Profile
- 中野友介(エンタメコーチ)・甲斐紀行(Lond/東京)
メンターアカデミー代表
なかのゆうすけ/1981年9月6日、京都府生まれ。中学時代にグレて道を踏み外すが、24歳の時にメンターとなる美容室オーナーに出会ったことで人生が激変。美容業界No.1の売上をつくる営業マンとなる。現在は美容室のアシスタントやスタイリストのやる気をアップさせるモチベーター・また売り上げアップをサポートする「成功コーチ」として全国のサロンの人材育成に関わる。
かいのりゆき/1986年3月21日、神奈川県生まれ。日本美容専門学校卒業後、都内有名店に入社。その後、美容専門学校の同期6名で「Lond」を起業。現在、グループ企業含めて450名を超える。創業から10年を通して、離職者は総数の1割にも満たず、現在も拡大中。主にスタッフの人材育成とアイラッシュ事業を担う。長年に及ぶメンター教育やコーチング習得を経て、心のあり方から組織の内部強化を担っており、離職率の低下に力を注ぐ。
- Instagram : @mentor_beauty.jp
セミナーに関するお問い合わせは下記InstagramのDMか、LINEから!
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- 最強メンター美容師になろう!
- 知る
- 最強メンター美容師になろう!!⑤ 〜相手の興味に興味を向ける
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- 最強メンター美容師になろう!!⑤ 〜相手の興味に興味を向ける