7月4日、表参道にグランドオープンした〈FIVESTAR GROUP〉(ファイブスターグループ) の新ブランド〈MUKU〉(ムク)。美術館のような空間で、どんなブランドが展開されるのだろうか。
2022年、東京・表参道に〈uni〉(ユニ)1号店をオープンさせ、昨年2号店をオープン。東北エリア・シンガポールも含め50店舗を展開するFIVESTAR GROUP 佐久間正之社長と、〈MUKU〉を率いる佐脇正徳 CEOの対談から、新しい“ヘアサロンのカタチ”を紐解く。

“身を置く時間”そのものに価値を
〈MUKU〉の店内はともかく贅沢に設計されている。高生産性のためのサロン設計の常識を覆し、入り口の細い通路を抜けるとセット面が10面は設置できそうなレセプションが広がる。
身を置く時間そのものを大切に感じられる場所──それは、美術館に訪れたときの背筋が少し伸びる空間に近い。


「まだ、業界にない」からやる、佐久間式LVMH構想
──2人の出会いのきっかけは?

5年ほど前、影響力のある美容師さんに声をかけて収録していた『HAIR TV』に、佐脇さんに出演してもらったのが出会いでした。

昨年再会したときに、以前から注目していた〈uni〉の取り組みについて佐久間さんから詳しくお話を伺い、その可能性に魅了されました。「ぜひFIVESTARグループで一緒に新ブランドを立ち上げたい」と熱意を伝え、話はすぐに動き始めました。
そのときすでに僕も独立に向けて準備を始めていて、一緒にやるメンバーも決まっていました。
佐久間さんの攻め続ける姿勢はいつも聞いていてワクワクします。ビジョンやミッション、ブランド構築などすべてを考え切っているので、10年かかって達成できそうな目標も、佐久間さんと一緒にやったら1年でやれちゃいそうなスピード感。スタッフを早い段階で幸せにできると考えたのが、ジョインの一番の理由です。

佐脇さんは、知れば知るほど本当にすごい美容師。ご自身のセンスの上に蓄積された技術、外部の仕事も多い上に、お客さまからの支持や実績も桁外れ。
僕がサポートすることで佐脇さんの魅力をより活かせるし、超一流の考え方やデザインが〈FIVESTAR〉に融合したときにおもしろい化学反応が起きそうだと直感しました。

──〈FIVESTAR〉グループが描くブランド展開の中で、〈MUKU〉はどんなポジションなのでしょうか?

僕はサロンブランディングの新しい形として、「FIVESTAR的 LVMH構想」を掲げています。
ルイ・ヴィトンやディオール、セリーヌ、ロエベなどの一流ブランドがすべてLVMH社の傘下であるように、〈MUKU〉や〈uni〉、そして東北エリアを中心に展開している〈MACARON〉(マカロン)も、「実はすべて〈FIVESTAR〉だった」という、テイストを越えた展開を考えています。
ヘアサロンは大きく4つ、「フェミニン」「ナチュラル」「カジュアル」「グラマラス」のテイストに分けられ、それぞれの代表的ブランドサロンは超一流を極めるために同じテイストの中で展開しています。
〈uni〉はそのテイストの枠を越えて、「フェミニン」と「グラマラス」の一流を融合させたブランディングでスタートしました。

〈MUKU〉は「ナチュラル」と「カジュアル」の最上級がミックスしたサロンという位置づけですね。

超一流の寿司職人が超一流のフレンチはつくれないし、超一流のイタリアのシェフが超一流の中華もつくれない。であれば、それぞれの一流と経営を融合させて、今まで被らなかったテイストを1つの会社で完成させる。これは美容業界初の考え方であり、僕の挑戦でもあります。

──uniとはどんな連携をしていますか?

佐久間さん、タカラくん(〈uni〉長田タカラ代表)、僕の3人で頻繁にコミュニケーションを取っています。タカラくんとはつくるヘアスタイルは違うけれど、思いは同じ。
可愛いスタイルをつくりたくて、お店を良くしたくて、スタッフをもっと輝かせるための悩みと日々向き合って、精進していきたい気持ちは同じです。

圧倒的センスを持つ佐脇さんと、Z世代のカリスマ 長田タカラくん、経営のプロの自分が融合したときにどんな化学反応が起きるのか、すごくワクワクしていますね!
働くスタッフが誇れる会社づくり

〈FIVESTAR〉がやろうとしているのは、まず「社会的価値の向上」。
そして「日本の美容を世界に」という思いを持っています。
「社会的価値の向上」のために昨年、新卒給与をどこの業界よりも高い全国一律25万円に設定しました。労働条件を整えるのと同時に、自分たちが誇れる、憧れられるカッコいい企業をつくろうというのがFIVESTARのビジョンでもあり、理念につながる考え方です。



「日本の美容を世界に広げる」取り組みでは、シンガポールにすでにサロンを展開していますが、ここ数年、アジアの美容におけるポジションが入れ替わってきています。
日本の美容師が世界への挑戦をしていくには、優秀な美容師を増やすことが持続的な成長につながります。新卒給与の一律アップは、世界に視座を置く上でも必要な決断でした。

今やインバウンドは日本における一大産業。日本が誇る「グルメ」「アニメ」と並んで、「美容」も肩を並べる産業へ育てていきたいという。
日本を代表するヘアサロンはどこ? と聞かれたときに〈MUKU〉の名が上がり、そこには佐脇さん、yokoさん、石原 萌さんがいる。カミカリスマ受賞スタイリスト3名が揃うサロンが目指すのは、「世界中から憧れるヘアサロン」だ。
クリエイティブディレクターにこだわる意味

〈uni〉や〈MUKU〉は外部のクリエイティブディレクターがブランディングするヘアサロン。コンセプトやサロン名、サロンロゴ、内装イメージなどあらゆる場面に有名クリエイターが関わっている。
──企業の“らしさ”を追求するコーポレートアイデンティティを大切にしてきたのはなぜですか?

コロナ禍に〈MACARON〉をリブランディングすることになり、2021年からクリエイティブディレクターの清水恵介さんに、コーポレートアイディンティティをつくるところから入ってもらっています。
「コンセプトをいかに練り込むか。そのコンセプトに人々が共感し、それがブランドになっていく」。この大切さを清水さんから教えていただきました。
これは僕自身、学生時代に感じていたスターバックスでのアルバイト経験ともつながっていて。コンセプトが徹底されてるからブランディングを崩さずに世界中に展開できたスターバックスと同じように、ヘアサロンもやっぱり最初にコンセプトをしっかり決め切ることが最も重要なんですよね。
〈MUKU〉もコンセプトを清水さんや佐脇さんと念入りに詰めていきました。まずコンセプトを決め、清水さんと佐脇さんの対話の中から〈MUKU〉というブランド名が生まれました。

清水さんがヒアリングしてくださった際に、「誠実」に、そして「純粋」に仕事を巻き合える環境をつくりたいという話をしました。
離職が多かったり、売上がつくれず悩んでいる美容師が多い話もして。個の時代ではあるけれど、僕は「チームで勝ちたい」というのがすごいあって。そんな思いの中から、〈MUKU〉のコンセプトをわかりやすく、伝わりやすい言葉にしていただきました。

シンプルな箱と余白のあるヘアデザイン
──ヘアスタイルの写真を通して、佐脇さんが伝えたいこととは?

純粋無垢のテーマ通り、飾りすぎない、余白のあるヘアデザインですね。流行のヘアスタイルを押し付けるのではなく、自由で飾らない、その人らしいスタイルをみんなで追求していこうと考えています。

──〈MUKU〉として打ち出す、統一スタイルはありますか?

サロンの統一スタイルを縛りすぎると、若い子はワクワクしなくなっちゃう。世代によって好きなものが違うから、ブランドのカラーパレットやインテリアで統一感を持たせて、ヘアデザインはある程度は自由に。
今は〈MUKU〉の写真の統一感として自然光で撮影し、このブルーの木のテーブルがちらっと映るように作品を撮っていて、それが〈MUKU〉らしい統一感になったらいいなと考えています。


新店舗をつくるにあたって、店内の内装や家具、オブジェやアートもケチらなくていいと伝えました。
経営者だったら合理的で無駄のない店舗設計や経営の考え方もあるけれど、そこは僕なりの「カッコ良く、ちゃんと利益を出す。そして還元する」という美学がある。
カメラマンやモデルも妥協せず、投資する。回収が何十年先になっても、僕たちにはビジョンがあるので、さらに大きいリターンになって返ってくると考えています。
店内はシームレスな設計で余計なものは極力目に入らない工夫が施されている。〈MUKU〉の箱が美術館だったら、お客さまのヘアスタイルはアート。シンプルで洗練された空間でこそ、〈MUKU〉の提案するヘアスタイルが引き立つのだ。



今年9月、「4次元ポケット」始動
──〈MUKU〉の次の展開をどう考えていますか?

今年9月、渋谷で新しいプロジェクトがスタートします。
既存ブランドの〈POCKET〉(ポケット)がリブランディングして東京出店し、若い美容師の登竜門としてオープンします。

若い美容師の可能性が拓ける取り組みですよね。


佐脇さんもいつも、「スタッフを勝たせたい」と言っているよね。〈uni〉や〈MUKU〉ですぐ挑戦するにはまだ実力が足りないけれどもポテンシャルの高い美容師を中心に、未来のホープが集まる「 4 次元ポケット」をつくりたいと考えました。
〈POCKET〉で自信をつけてから〈uni〉と〈MUKU〉のオーディションを受け、異動できる仕組みも検討中です。

日本を代表するヘアサロン。そして世界へ

──今後の展望とは?

〈MACARON〉や〈POCKET〉はこれから全国に展開して10年で200店舗のグループに成長させたいと考えています。〈uni〉と〈MUKU〉はエリアを絞ってクオリティを担保し、10年で10店舗ぐらいのイメージですね。
けれども店舗数はあくまで数字。「美容師の社会的地位の向上」と「日本の美容を世界に広げる」この2つに向けて〈FIVESTAR〉としてできることを逆算してやっているだけです。

僕はまず、スタッフのために、丁寧に1つひとつ積み重ねていきたい。
お客さまを幸せにする大切さを伝えて、その積み重ねが増えていけば結果として、ブランドサロンとしても成長できると考えています。


東京なら〈MUKU〉に行けるし、〈uni〉もある。日本に訪れた海外の方が47都道府県どこに行っても〈FIVESTAR〉の店舗があって、好きなブランドを選んで髪を切れる形ができたら素敵だなと思います。
そしてそれぞれのブランドを知ったときに、実はどれも〈FIVESTAR〉が運営していて、「〈FIVESTAR〉の店舗なら安心」という世界をつくっていきたいですね。それが「ありがとうのバトンをつなぎ続ける」こと。そんなふうに考えています。


- Profile
- 佐久間正之
ファイブスターグループ代表
1982年、福島県生まれ。化粧品営業、ホットペッパービューティーの広告営業を経て、2012年にシンガポールにサロン出店。現在は東北から東京・シンガポールにかけて50店舗を展開。2021年には長田タカラ氏との共同で、日本初の韓国ヘア特化サロン〈uni〉を表参道にオープン。2025年には佐脇正徳氏ら3名の実力派スタイリストが集結する新ブランド〈MUKU〉をオープン。全国一律新卒給与25万円の導入など、働き方改革・サロンブランディング・多ブランド多店舗拡大を同時に推進。慶應義塾大学大学院でMBA修了。財務・マーケティング・ブランド戦略を中心に革新的挑戦を続けている。
- Instagram : @masayuki_sakuma

- Profile
- 佐脇正徳
MUKU CEO
1986年、福岡県生まれ。高山美容専門学校卒業後、都内2店舗で経験を積み、2025年1月より〈MUKU〉CEOに就任。KAMI CHARISMA(二つ星)を4年連続受賞、前サロンではカット・パーマ・カラー三冠を日本で唯一獲得。〈MUKU〉では3名のKAMI CHARISMA受賞スタイリストとともに、ナチュラル&繊細な最高峰技術を提供。2025年7月4日表参道にグランドオープン。セミナー講師としても全国で引っ張りだこ。
- Instagram : @norimasasawa_muku
