韓国ヘア躍進の立役者〈チャホン〉が追求する、美容の“本質”

韓国ヘア躍進の立役者〈チャホン〉が追求する、美容の“本質”

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特集:K–ビューティの仕掛け人

韓国ヘアに詳しくなくても、このサロン名に聞き覚えがある人は多いだろう。勢いあるソウルのトレンドサロンの中で別格の存在感を放つ〈CHAHONG 〉だ。
その礎を築き、進化させ続けるチャホン代表の貴重なインタビューをお届け。

写真:相沢サン
通訳:イ・ジョンオク

※「BOB」2023年3月号より抜粋

チャホン氏はこれまでに5冊の著書を出版。現在もサロンに立ってお客さまを担当する現役技術者であり、多くのテレビ番組に出演してきたスター美容師だ。

世界に発信する、Kビューティ躍進のベースはここにあると言っても過言ではない。彼女の貴重なインタビューをお届けする。

CHAHONGの設立は
「教育」が根幹

──CHAHONGの歴史を教えてください。

設立は2010年。それまではチョンダムドンにある美容室で副店長として働いていました。

サロンの顧客の8割以上が自分のお客になり、お客さまたちからもサロンを作ってほしいと言われて独立をすることになりました。自分の名前を冠するのには抵抗があったのですが、これも周りに強く言われて。

現在、サロンは23店舗ありますが、大きくしようとやってきたのではありません。ブランド育成と仕組みづくりを重ねてきた結果です。

サロンは「CHAHONG ARDOR」3店舗と「CHAHONG ROOM」20店舗を展開する。「CHAHONG ARDOR」はヘア以外にもメイクやネイルなどフルサービスを揃えるブランド。アックジョンに立地する本店は独立テナントで中庭があり、自然光がふんだん入る贅沢な造り。
「CHAHONG ROOM」はヘアメニューをメインとし、自社商品が豊富で一部商品は韓国の有名なドラッグストア「オリーブヤング」や「SEPHORA」など多くのチャネルで取り扱う。

──CHAHONG出身の有名美容師も多い印象です

そう言われるのはとても嬉しいです。というのも、私が一番注力してきたのが教育ですから。

教育がないのは暗いまま道を歩んでいるもの。CHAHONGを設立したのは、教育こそが美容室の根幹であるため。アカデミーではベーシック技術はもちろんシーズントレンド、接客や心理学などをすべて学べるようになっています。

コロナ禍前には海外からの受講生も多かったですが、落ち着いたらまた戻ってくるでしょう。100以上のプログラムが動画化されて、オンラインでも受講できるようになっています。

チャホンアカデミー

チャホンアカデミーはアックジョンに立地する6階建てのビル。韓国国内だけでなく、中国や台湾、シンガポールなどアジア美容師が多く訪れる。
ベーシック技術はもちろん、毎シーズンのトレンドスタイル、接客、クレーム対応など、サロンで起こりうるすべての対応を「技術」としてとらえ、高度にマニュアル化している。

──美容師になったきっかけは?

私は田舎育ちの6人兄弟の5番目で、とても内向的な子でした。人の話を聞くのが好きで、モノをつくるのも得意。そんな私を見て親戚が美容師に向いていると勧めたんですね。

美容師になった初めての日を今でも覚えています。何気ない顔をして来たお客さまが笑顔で帰っていくのを見て、これこそ自分に向いていると運命を感じた瞬間です。

美容師は技術者でありデザイナーですが、人の心をケアできる側面もあります。先進国では少子高齢化が進んでおり、孤立や孤独が深刻化していきます。しかし安心や癒しを提供できる美容室の存在は、第2の家としての問題解決のきっかけになりうると私は確信しているのです。

これまでに著書を5冊出版。いずれも韓国の大手出版社からの依頼で執筆している。一番左の書籍は子供でも読める絵本になっており、髪を変えることの喜びと人生をリンクさせた内容だ。現在は6冊目の書籍を執筆中。

──今や韓国ヘアは世界を席巻しています。この理由をどう分析していますか。

さまざまな要因が絡んでいますが、1つは、新しいものに対する柔軟な国民性。SNSをいちはやく受け入れて、第4次産業が進んだことで、世界とダイレクトにつながることができた。

それから、稲作をすることも関係していると思います。欧米は小麦をつくりますよね。小麦は機械による大量生産です。しかし稲作は人々の共同作業によるもの。組織の中に個を考える人が多い。手仕事が尊ばれるアジアだから、そこに注力することに厭わなかった。

また、韓国は途上国から先進国の仲間入りをしたので、プライドが高まったのも理由じゃないでしょうか。何かの真似ではなく、表現する意思も強くなった。それは美容にとどまらず、多くのことに言えますね。

提供するのは
「デザイン」ではなく「癒し」

──CHAHONGはどんなブランドですか。

ハイプライスに見合う技術レベルなのは当たり前で、尊敬されるデザイナーになることを重視しています。人に美しさを提供するためには自分の中に美しさの基準を持たないといけません。

先ほどもお伝えしましたが、これからは人の内面までケアする美容師が求められる時代。私はヘアデザインの基本要素にメンタルケアが必須だと思っていますし、スタイリスト向けの講演では必ずそう話します。

お客さまが買いに来ているのはヘアデザインではないのです。その流れはますます加速します。

──詳しく聞かせてください

現場のスタイリストはつい勘違いしてしまうのですが、お客さまが美容室に来るのは気分を変えるため。接客や空間も技術と同様に大切な要素であることを忘れてはいけません。

CHAHONGのインテリアコンセプトは「家」。Roomはスペースを意味します。都会の小さいマンションで一人暮らししている人が多い中、おばあちゃんがいる大きな家をイメージしています。これからの時代は未婚の独身世代が増えていきます。

日本の「万引き家族」という映画を見ましたか?血のつながりを持たない人たちが家族として暮らした話でしたが、家族の在り方そのものも多様化していくはずで、血縁だけでないつながりもこれからは重要になると考えています。

SNSでの功績で内面の苦しさを抱えている人も増えており、安心できる場所を探しています。メニューが多い理由はまさにそこにフォーカスしているからです。

お客さまが癒しを感じることは何か。

人を安心させ、幸せな気持ちにする。美容の本質はここではないでしょうか。残念ながらその使命感がなく、お金儲けだけの美容師もいますが、その人自身も不幸ですよね。本来は使命感のある人がやるべきなのです。

高付加価値という姿勢を貫く

──いま、美容室にはどんな変化が訪れていますか?

これはすでに始まっていますが、人の心を癒すことができる高付加価値サロンが、効率を徹底した低料金化戦略かに分かれていくと思います。

消費者たちは賢くなっており、価値を感じれば高くても消費を厭わないのです。SNSですべてがオープンされている時代に曖昧なものは生き残ることはできません。

これから職業の20%がAIや機械に替わられると言われていますが、心の機微をつかむことができる美容師は支持され続けるでしょう。

実は今年、料金をさらに引き上げます。これは自分たちに対する挑戦で、スタイリストとお客さまから要望がありました。私たちももっとレベルアップするために努力をしており、シーズンごとのドリンクサービスやシャンプー台でのホットパックやアロマなども用意しています。

社内のマーケティングチームでは口コミをはじめとするSNS関連の情報を常時ビッグデータとして管理・分析しているのですが、それによると「高い」と不満に思う人はいませんでした。さまざまな分野にプレミアムブランドはあり、見合うサービスがあります。その姿勢を貫くべきだと思っています。ハイクラスのサロンではアートやマインドの教育こそ必要じゃないでしょうか。数字だけを追う組織になるべきではなりません。

働いている人たちにも大きな変化があります。うちのサロンは地方出身が8割。MZ世代と呼ばれる彼らは人生の中でいろんな経験を積みたいと思っている合理主義者です。仕事に誠実に取り組み、自己成長ができる環境なのかを重視しています。私たちもここで成長を実感できるプログラムがさらに必要だと考えています。

ショーでは決して奇をてらったスタイルではなく、「シンプルでもクリエイティブは発揮できる」と思わされる。チャホンのブランドアイデンティティを感じる。「美容師は黒子」という意識で常に黒をまとう。

──大事にしていることはなんですか?

時間ですね。8歳の娘がいるのですが、家族との時間を大切にしながら、英語の勉強や運動もしています。睡眠もしっかり8時間はとり、肉を食べず、お酒も飲みません。自分がベストでいられる体調管理をしています。

美容業界の悪しき慣習はサロンワークの終了後の飲み会。若い頃、それが最大のストレスでした(笑)。

──最後に、日本へのメッセージをお願いします。

実は今、6冊目の書籍を執筆しているところなんです。内容は人がブランドになる過程です。

マーク・ザッカーバーグは「もっといいサービスを提供するためにお金を稼ぐ」と言いましたが、私にとってはこの稀有な職業がもっと尊重されるようになるための挑戦をどこまで成し遂げられるか。

トレンドも個別の地域ごとではなく世界潮流になりつつあります。一緒にグレードアップしていきましょう。

チャホン /
Profile
チャホン

1981年9月11日生まれ。祖母の勧めで美容師を志す。祖母のサロンで修行したのち、チョンダムドンの「ラ・ビューティコア」へ。2011年にCHAHONGを設立。多くのテレビ番組に出演して実用的なスタイリングのアドバイスで人気を博し、一躍人気美容師となる。また、梨花女子大学の大学院でブランドマネジメントを学び、教育に注力。環境保護大使やミスコリア審査員としても活躍。8歳の女の子のママでもある。

CHAHONG
Salon Information
CHAHONG

設立2011年 / 代表;チャホン / 店舗数:23店舗+アカデミー / スタッフ数:800名
ソウル内に23店舗を展開。基本コンセプトは「家」。美容のフルメニューを揃え、多くのセレブリティが訪れる。2012年にオープンしたアカデミーでは美容室運営にかかわるコンテンツをカリキュラム化。トレンドヘアを毎シーズン発信している。

住所 本部所在地:42, Hakdong-ro 33-gil, Gangnam-gu, Seoul
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韓国のヘアシーンを追い求めた
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瞬く間に浸透した韓国ヘア。あなたは、発信源の美容師を知っていますか? 実はいま、海を越えたMZ世代の活躍が著しく、個性豊かな美容師たちが技を競い合っています。そこで今回、BOB編集部は緊急渡韓。そこで見えたのは技術を追求し、マーケティングに長け、発信力があり、何より野心がある——本当の韓国美容師たちの姿。完全保存版の1冊です。
ボブログ編集部
執筆者
ボブログ編集部

成長し続ける美容師のための髪書房ウェブメディア『ボブログ』。これまでにないスピードで変革する時代に必要な情報【パラダイムシフトの芽】をいち早く見つけ、掘り下げ、新しい常識を提案します。

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