美容師しながら妊活、通院どうしてる? 【ママ美容師のホンネ人生相談室 #1】

美容師しながら妊活、通院どうしてる? 【ママ美容師のホンネ人生相談室 #1】

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連載:〈ママ美容師〉サカリのコラム

イラスト:michi

美容師をしながら、母にもなる夢を叶えたい

こんな切実な想いを抱く女性美容師は、少なくありません。

しかし、不妊治療と仕事の両立は、想像以上に大きな壁にぶつかることも。

長時間の立ち仕事、不規則な勤務時間、お客様との密接な関係…

美容師という職業ならではの課題が、妊活への大きな障害となっているのです。

とはいえ、ググったり書籍に載っている、通り一辺倒な解答では片付かないのも事実。

そんな、ママ美容師のリアルな人生のお悩みをシェアし、解決の糸口を見つけるこの企画。

今回は、「妊活・不妊治療について」

不妊治療を経験した美容師の酒徳さんと齋藤さん美容室店長の柳さんにご経験から当時リアルに悩んでいたことをお伺いしました。

そして、「港型経営」という“正社員雇用で完全自由シフト制”の新しい雇用形態で、美容業界から注目を浴びている、美容室経営者の濱さんに経営者目線からアドバイスをいただきました。

この画期的な雇用形態で、濱さんがご経営されている「CLUTCH」には、多くのママ美容師さんが所属されています。

濱さんは、昨年「ママ美容師がプロデュースした、ママ美容師のための美容室」もオープンされました。ママ美容師の気持ちに寄り添ったアドバイスも、ぜひご注目ください!

アドバイザー:濱 浩太朗 さん / 株式会社 CLUTCH 代表取締役
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アドバイザー:濱 浩太朗 さん

株式会社 CLUTCH 代表取締役

和歌山県有田市出身。小中高と野球部に在籍。大阪美容学校卒業後、2社に勤務し独立。現在、美容事業を中心に、大阪・福岡・愛知・広島エリアで15店舗展開。

濱さんがオウンドメディアで発信している「港型経営」も好評。

https://kotaro-hama.com/media/


1. 妊活中のお店への配慮は?

齋藤

私は不妊治療で授かった子供がいます。最初は会社に言い出せなくて、自分で何とかしようって思ってたんですよね。

 

相談者:齋藤 広美 さん(埼玉県羽生市) / 自宅美容室オーナー
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相談者:齋藤 広美 さん(埼玉県羽生市)

自宅美容室オーナー

日本美容専門学校卒業。埼玉の老舗美容室の主任や、全店わかれ育成リーダーを勤めた後、独立。7歳の男の子ママ。

正直、このテーマはかなり難しい問題だと思います。

いろいろな状況の方がいらっしゃると思うので、それなりに理解はしているとは思いますが、完全に僕の意見が正しいとは言い切れないという前提でお話しさせていただきますね。

最初に伝えてうまくいかなかった時、「また気をつかわせてしまったら嫌だな」とか複雑な感情があると思うので、迷って当然ですよ。

ただ、理解してもらうとかの話の前に、その行動ができる体制を勝ち取ることがまず重要かなと。

勝ち取るということを優先にした時に、可能であれば伝えられるなら言っちゃったほうがいいんじゃないかなとは思いますが。

うちの会社では、完全自由出勤制を導入していて、従業員が自分の状況に合わせて働き方を選択できるようにしてます。

齋藤

完全自由出勤制ですか?それはすごいですね。

 

なので、どういうシフトを組もうが自由なので、事実誰にも伝えなくてもできてしまう現状ではあります。

ですがそうではない場合、会社にいることよりも治療を優先して、ダメなら会社を辞めてもいいと思うんです。対応してくれるサロンさんって今絶対あるはずです。

2. 不妊治療と経済的な不安

齋藤

不妊治療の前に甲状腺の異常が見つかって、先にそれを治療しないと妊活に進めず、そこも葛藤があり自分に余裕がありませんでした…。

これに関してはすごく難しい問題だなと思います。

自分の体験を伝えることでっていう考えもあるとは思いますが、うまくいってない時もあるわけじゃないですか。その時のメンタルでまくいった体験談を聞いても素直に喜べないこともあるので…

言ったら会社からの待遇は良くなるのかもしれないけど結果に結び付かなかったらどう思うのかなって考えちゃうんで、はっきり僕も答えられないところだと思います。

齋藤

そうなんですよね。

なので、当時はそういった背景から心身のバランスが崩れて情緒不安定な状態でした。先に伝えておけばよかったのかなとも思い、次の質問に続くんですけど、

3. ライフプランをお店に共有するには?

入社と同時にっていうところがポイントかなと思います。人生設計はしっかり言っておいた方がいいかなと思います。

誰がどういう状況で、なんの人生設計に取り組むことになるかなんてわからないですよね。

「私は結婚も考えてるし、妊娠産休育休も。もしかしたら不妊治療も。」ということを伝えた上で、入社できるところを選ぶべきだと思います。そこで受け入れてくれるところかもわかるでしょうし。

齋藤

会社とスタッフ間で理解に相違があり、当時は複雑でした。

僕は誤差なくというのは多分不可能だと思うんですよ。先輩の上司が独身の方で、スタッフさんにも気を遣わないといけないケースもあるじゃないすか。

そこに理解しろって言っても難しいですし。それが正解かとも思えないとこもあるんで。

やっぱりそもそもの会社選びの段階で伝えてそれが認められてるか、前例があるかで選ぶっていうのが一番なのかなと。

前例があれば、共有方法はツールを使ったりミーティングをしたりなどできそうでですが。

誤差なく気使わずにできる共有方法っていうのは、何かありそうでないようなところはありますよね。

4. 産休後の復帰支援はどうする?

私のお店では今、スタッフの一人が妊活中で、その対応に悩んでいます。本人の気持ちも理解したいし、お店としてどこまでサポートできるかも考えてて

相談者:柳 サナエ さん / 店長
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相談者:柳 サナエ さん

店長

美容師歴29年。
長年の知識とスキルを活かし、店長としてお店のスタッフを統括。17歳と15歳の息子2人のママ美容師としても現場で活躍中。

うちだったら、復帰した後の戻る場所はちゃんと作っておいて、産後の対応のことは先に伝えてあげられればいいのかなと。

スタッフさんにも、本人が伝えて欲しいようだったら伝えますね。

どんなことでも、伝えてほしくない場合は誰にも言いません。

急に休んだとしても「ちょっとお腹痛いらしいよ」とかいっておきますかね(笑)。

なかなか伝わりづらい部分もあるとは思いますが、女性の方は同じような経験をするかもしれないし、メンズの方は、もし結婚したら奥さんは同じような状況になるわけじゃないすか。

なので、理解するべきじゃない?って話してはみるかなあ。理解されなかったら仕方ないですが

5. 不妊治療中のスタッフへの声がけ

不妊治療中のスタッフさんへのお声がけですか。

これは何も言わなくていいと思います。

状況がよくなかった時は、言われても何も入ってこないでしょうし。むしろ言ってほしい言葉は、多分言ってくれという社員の方から来るので。

おそらく横にいて一緒にコーヒー飲む、くらいの気負わない距離感で。

何も言わずにうなずくだけじゃないすかね。

そうですよね。そして、今そのスタッフがようやく授かった状況で、お腹が張るという時も無理せず休みなさいとは伝えていましたが、本人が「いや、まだ大丈夫です」と言われると心苦しくて。

結局、病院に行ったら安静を命じられて。

今度はお客様にこの状況をどのように伝えたらいいかと悩んでいます。

やっぱり使命感強い子とか結構いらっしゃるんですが、僕はひたすら仕事よりも大切なことがあると言い続けますね。

お客様に言うか言わないかの相談に対しては本人の意向ですが、仕事に来るか来ないかの相談だったら「来るな」です。

そういう立場になったことなかったので、改めてあのときはこうしとけばよかったななどと反省しつつ、今後にいかせたらなって思います。

いろんなパターンの人がいるんでね。全ての人に当てはまる訳ではないと思いますが。

6. 不妊治療と勤務時間の調整は?

相談者:サカトク エリ さん(愛知県名古屋市) / 美容師/アイリスト
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相談者:サカトク エリ さん(愛知県名古屋市)

美容師/アイリスト

美容学校卒業後、地元の老舗美容院に就職。
同グループ内で3店舗勤務。

結婚後から不妊治療中は社員やパートなどさまざまな役職を経て、
現在はフリーランスのスタイリスト兼アイリストとして活動中。

サカトク

不妊治療って段階があって、どんどんお金がかかる方へ進むんです。

最初は飲み薬から始まって、1日おきのホルモン注射に通い、毎日注射へ…みたいに。注射も、通院か自己注射で金額が変わるんです。

当時ただでさえ会社に負担をかけてるんじゃないかと感じていたので、会社には何も言わずに、毎日通院するよりも高額の自己注射を選択しました。

サカトク

そして、卵子が育ったタイミングで人工授精のために朝イチで通院しないといけず、そこで予約が入っているとタイミングを捨てないといけなくて。

あの時どうしてればよかったのかなと、今でも思います。

すごく難しいですけど、「治療してます」とお客様にも伝えて、その日サロンワークが無理なら仕方ないですよね。

「ごめんなさい、他のときに頑張ります!」って言うしかないですかね。

お客様がどう言う立場のかにもよりますが…勇気を持って、治療段階とか伝えることができればベストですかね。

やっぱり会社には迷惑かけても、人口が減ったら美容室は大変になるぞって言ってやればいいですよ(笑)。

日本を支えようとしてるんだ!ってくらいの勢いでいいですよ。

サカトク

そんなこと思ったことなかったので、経営者の方にそう言っていただき嬉しいです。

多分、地球上に子孫繁栄より大事なことはないんで(笑)。

7. スタッフ間の摩擦への対応

僕が言われたら、言ったスタッフとたぶん喧嘩しますね(笑)。スマホ向けて、「もう一回言ってみましょうか」とか言っちゃう(笑)。

ギスギスしたくなかったら、嫌なことは明るく「嫌です」って言っていいんですよ。人として。この言葉だけじゃなくても。

サカトク

濱さんみたいなオーナーがいるってことを、早く知りたかったです。当時こんなこと言ってくれるオーナーは、この世にいないと思っていました。

スタッフからはツッコまれることもありますけどね(笑)。

8. お客様からのデリケートな質問への対応は?

サカトク

私はスルースキルがある方だったけど、ツラい人はツラいかもと思ってました

このプレッシャーは、メンズにもありますよ。

「できればいいですね、こればっかりは授かりもんなんでねー」って言って、すぐドラマの話とかに切り替えたりするといいですよ。話題を変える技術を身につけるのも一つの方法です。

サカリ

サカトクさんはどうやってスルーしてたんですか?

サカトク

私はもともと生理不順で、すぐには妊娠できないだろうなあって予想していたので「2年は子供作らないです」って宣言してたんですよね。早くできたらラッキーな感じで。案外、2年はあっという間でしたけど。

お客様との関係性や美容師さんのキャラにもよりますが。

「事情があってね」って神妙な感じで言えれば、釘させるかとは思います。

9. 仕事と不妊治療の両立

サカトク

当時は店長代理の立場だったんです。

「お店のために!」という思いでずっとやってきて、悔しい思いもたくさんしてきました。

不妊治療がうまくいかない時に、後輩が妊娠して休んでいた時は、虚しさや複雑な感情でメンタルもやられて優しくできなかったり

「あの時どうしたらよかったんだろう」と今も思います。

僕もその立場だったら、周りに優しくできないかもな。

でもお店の事情は、経営者以外はわからなくていいんじゃないかなと。

経営する側は、妊娠→出産→復帰っていうところの経営をデザインができないと、今後はないと思います。

これから、ママ美容師になるとなったら「私がロールモデルになってみせます」って言うしかないですよね。「その道(不妊治療を乗り越えた女性美容師の実績)をちゃんと作りますんで」って。

でもわかってくれなかったとか、一旦両立しようとしてみて駄目だったらもう自分を優先するっていうのが正解なのかなと思います。やれることまではやってみるっていうのは大事ですしね。

努力はするが駄目だったら、自分が優先じゃないですかね、やっぱり。

両立しようとすると本当しんどいことっていっぱいあるでしょ。そんなら両立しなくてもいいんじゃないですかね。

サカリ

今日の3名の方もそうですが、頑張り屋さんの女性美容師さんって多いですよね。

だからこその葛藤はすごく共感します。

不妊治療に限らず、どっちを優先するかで迷ったときは、後悔するのどっちかで決めればいいのかなって思います。

優先せずにうまくいかなかったときの後悔って、半端じゃなさそうな気がしますよね。

10. 妊活中の人材採用は?

うちの場合でしたら、妊活中でも妊娠中でも採用します。

ですが、妊活に限らず求人を募集する際には、人に迷惑をかけても稼ぎたい、みたいな方はお断りしていますね。

サカトク

でも、実際CLUTCHさんの自由出勤って私たちのようなママ美容師や不妊治療中の美容師がいてもお店としては成り立つんですか?

今は業務委託で働いていますが、私じゃなくて夜まで働けるスタッフが入ればもっとお店を開けられるので利益出るかなあとか申し訳なく思ったりするので、なんかのびのび休めなくて

みなさんが思うような心配はありませんよ。

自由とはいえ、みんなある程度稼がないといけないラインってあるので調整してくれてます。

利益が出ないのは、経営者のビジネスモデルの設計ミスなので、美容師さんが負担に思わなくていいですよ(笑)。そういった責任感でやってくれると助かりますけどね。

サカトク

気が軽くなりました。もっと素直にいきます(笑)。

齋藤

私もお店のことばかり選択してきていたので、今日のお話で救われました。

濱さんのような、女性美容師に寄り添った経営者さんが、世の中に溢れてくれるといいなと思いました!

本当に勉強になりましたし、これからまた頑張っていきます!

さいごに

ハサミを握る手に込めた想いと、お腹に宿る小さな命への願い。

この二つは、決して相反するものではありません。むしろ、どちらも大切にすることで、もっとステキな人生が待っているでしょう。

美容師になろうと思ったときの、

「人を美しく、幸せにしたい」という気持ち。

その気持ちは、きっと母になることでもっと深くなるはずです。

そして、この記事を読んでくださった経営者のみなさん。

あなたのサロンは、スタッフにとって人生の大切な舞台なんです。

その舞台が、夢を諦めさせる場所ではなく、夢を応援する場所になったら、きっとそこから生まれる美しさは、想像以上のものになると思います。

美容業界に新しい風を。そして、働く女性たちに新しい希望を。

この座談会が、小さくても大切な一歩になればいいなと思います。

美しさを作り出す手で、自分の人生も美しく作り上げていってください。

みなさんが両手で紡ぐ、素敵な未来の訪れを楽しみに待っています。

貴重なお話しをありがとうございました!

サカリ
執筆者
サカリ

美容師ライター。二児の母。

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