緊急座談会:サロンと女性美容師は分かり合える?
サロンの教育・運営にも関わっているネクストリーダーかつ、男性美容師と、妊娠・出産の経験も経た女性美容師たちの座談会。
男性美容師と女性美容師、双方の視点から、サロンにおけるフェムケア革命の可能性を探ります。
女性美容師が長く健やかに働き続けるためのヒントを、フェムケア視点で探ってきた「女性美容師のためのフェムケア革命」連載。
見えてきたのは、
・女性美容師自身が自分を大切にすること、
・トラブルや困りごとに出合う前から自分の身体について知っておくこと
の重要性。
そしてもう一つ。
サロンの仕組みにも、もう一歩寄り添える何かがあるのでは? ということでした。
そこで今回は、サロンの教育・運営にも関わっているネクストリーダーかつ、男性美容師を緊急召喚! 妊娠・出産の経験も経た女性美容師たちとの座談会を開催しました。
男性美容師と女性美容師、双方の視点から、サロンにおけるフェムケア革命の可能性を探ります。
座談会に参加してくれたのはこのメンバー
男性美容師陣は、“ネクストリーダー”たちによって構成される美容団体「Rug.J(ラグジェイ/Real Up Grade Japan)」加盟サロンから3人。
伊佐治資生さん
BUDDY HAIR(愛知県名古屋市)の取締役マネージャー。女性のご機嫌を伺うのも仕事なので、気分の浮き沈みなどへの対応も「苦手じゃない」派。
島田和也さん
MICHI GROUP(岡山県岡山市)代表。女性スタッフと生理について語り合えるオープントーク派。
山田慎也さん
NOISM(京都府京都市)のFCオーナー。どちらかといえば、女性のイライラには触れないでそっとしておく派。
女性美容師陣は、ママ美容師コミュニティ「MAMABIPARK」に参加する3人です。
サカリさん
美容師業とライター業を両立する2児の母。産後、自律神経の乱れや産後うつに悩み、最近、子宮内避妊器具(ミレーナ)を入れる手術に踏み切った。勤務するサロンは自分以外はすべて男性。
岡見瑠里さん
夫との2人サロン、toi toi toi(京都府京都市)で働く4児の母。PMSのうち特に気持ちの浮き沈みが激しく、仕事以外の時間に影響が出ているのが悩み。
古守道代さん
1人サロン、kiitosを営む1児の母。以前勤めていたサロンでは後輩女性美容師の悩みを聞くことが多かったが、自身はあまりトラブルがないこともあり、どちらかというと男性美容師目線寄りかも。
女性の体のこと、どのくらい知っている?
女性向けメディアでは取り上げられることが増えている「フェムケア」。男性美容師はフェムケアのこと、そして女性の体のこと、どのくらい知っているのでしょう? まずはそこから聞いてみます!
「フェムケア」という言葉自体、今回初めて知って、あえて何も勉強しないで今日は来ました。ただ女性美容師が多い環境でずっと働いてきたなかで、若い頃は「なんで今日怒っているの?」「なんかイライラしてない?」と思うことはありましたね。
女性の体の事情なんて、当時はまったく知らなかったんで。
今もやっぱり「生理」と「イライラする」がまったく結びつかない…。ただそういうもんなんだなって。そういう時には触れないようにしています。
男性はみなさん、そんな感じですよね。イライラするのは生理中というよりも、生理前のPMSだと思うんですが、私もPMSがとにかくひどくて。
今のサロンはメンズしかいないのもあって、20代の男性スタッフとかにも、「わたし、そろそろやばい時期だから!」って、ざっくばらんに伝えちゃったりしています。
最近は、向こうもだんだん「サカリさん、そろそろやばい時期かも」って、わかってくれるようになりました。気を遣わせるのは良くないとは思っているんですけどね。
ちなみに…「やばい」ってどんな感じなんですか?
体調的にも貧血だったりとか具合が悪いんですけれど、
それ以上に、ふとした瞬間に「わたし、もう終わってる」みたいな気持ちになって、バックルームで泣く…とか。全自己否定的な感覚に陥ってしまいます。
この時期は「やばいやつ」でしかないです、本当に。
お客さまの前では大丈夫なんですよね。わたしの場合は、家に帰ってから家族に対して荒れ狂ってしまいます。
一緒に働く旦那はある程度、私のコントロールポイントをわかってくれているのですが、それでも必ず喧嘩になってしまいます。
サカリさんも岡見さんも、仕事スイッチが入っているときは普通の状態でいられても、1人になった瞬間やご家族の前では気持ちが抑えられなくなるようです。しかも2人とも、出産のたびにPMSがひどくなってきているのだとか。
女性の中はそんなに嵐みたいなことになっているんですね…。
そういうときに、僕らにできることは何かあるんですか?
困る答えだとは思うんですが…正直、ただただそっとしておいてほしい。
この答えには、男性陣は苦笑い。そうなると、サロンでできることってあるのでしょうか?
あ、あとたぶん、そういう時に女性が一番ほしいのは共感なんです。
たしかに共感してもらえるだけで、ちょっとマシになるのというのはあるかもしれません。
以前働いていたサロンは女性が多くて、少しそういう話をするだけでも気分的に楽になっていた気がします。
共感…、男性の僕らにはそれも難しいですね。伊佐次さん、島田さんはそういう時どうしています?
つらさの声を吸い上げるサロンの仕組み
うちのサロンは、サカリさんほどじゃないにしても、けっこうざっくばらんに言ってくれる女性が多いですよ。ナプキンを隠すこともなく持っている姿もよく見かけますし、こっちからも「今日、生理?」など聞いたりもしてます。
そのオープンな雰囲気はどうやってつくっていったんですか?
簡単に言うと、セクハラですね(笑)。“コミュニケーションのひとつとしてのセクハラ”をし続けた結果でしかないです。
もちろん信頼関係を築いてからしか、直接的な発言はしないですよ。
ただそういう話にまったく触れないようにしていたら、向こうも相談するタイミングを見つけにくいし、サロン側が彼女たちの働き方を考えてあげることもできないんじゃないかなと思うんですよね。
言いやすい環境があるというのは、すごく助かると思います。
私もがまんしないとって思えば思うほど、どんどん辛くなってくるというのがあったので。
だからですかね。生理痛が重くて大変な子はいますが、さっき聞いたような精神的に辛くて…という話はあまり聞かないです。
「体調が悪そうだけどどうしたん?」
「今日、生理で」
「じゃあ少し休んだら」
くらいの感じですね。
一方で伊佐次さんのサロンでは、人材配置によって女性美容師が女性ならではの悩みを相談しやすい環境が生まれているようです。
うちの場合は執行役員に女性が2人いて女性スタッフのそういった悩みを把握して、細やかに連絡してくれるのがとても助かっています。
「あの子は今こうだから体調が良くないですよ」とか、
「今日から3日間は気をつかってあげてくださいね」とか。
彼女自身も若い頃から女性特有のトラブルと向き合いながら、面談を重ねるなどして仕事を続けてきてくれた分、そういった面でもとても頼りになっていて。
やっぱり男性だけでは限界があると感じています。
伊佐次さんのサロンの女性と同じような立場で働いていた経験がある古守さん。そのサロンに参加した当時は、女性美容師のなかに「男性にはわかってもらえない」という空気があったようです。
私が中途で入ったそのサロンでは、当時、男性である社長に直接伝えても理解されない、要望が通らないという経験や感情が女性スタッフの中にありました。
だから伊佐次さんのところのように、サロンの運営側に声を届けられる立場に女性がいるのは相当心強いと思います。
うちも幹部も半分は女性。ママもいれば、そうではない人もいますが、男性には話にくい相談が寄せられている様子はありますね。
家庭や育児があって働ける時間が限られていたとしても、会社側が勤務時間内で幹部としての仕事ができる体制さえ整えていれば、女性が幹部を務めることは可能です。
サロンの規模にもよりますが、時代的にも女性に上の立場を担ってもらうことがこれからより一層求められていくように思います。
女性美容師からのリクエスト
たしかに悩みを聞いてくれる、わかってくれる存在がいるといないでは、気持ちの面でも大きく違いそうですよね。では、お店としてできることは他に何かありそうでしょうか? 今度は女性美容師陣からのリクエストです。
実は私、PMSの症状緩和のために最近、ミレーナという子宮内避妊器具を膣内に入れる手術をしたんです。そのときに、お休みをもらわないといけないので、オーナーに「ミレーナとは」「PMS」とは、というところから細かく説明する必要がありました。
知人にこの話をすると、「説明をして、お休みをもらう」という行為がしにくい、できない、言い出せない、という人もいて、
言いやすい環境をつくるためにも、サロン内でこういった事例ができたときに、それを働くみんなに周知するのも大事だなと感じています。
いちから説明をして交渉するのは、とても大変でしたよね。でもそうやって誰かに前例をつくってもらえたら、自分からは言えない人も言い出しやすくなりそうです。
私が以前勤めていたサロンは150人規模の大型サロンだったのですが、妊娠しても働き続けていたのは私が初めてで…。
つわりのつらさも、切迫早産になりかけたことも、まったく理解してもらえませんでした。社長を越えて、社長の奥さんに相談するという最終手段に出て、やっとさまざまな制度をつくってもらうことができました。
運営に携わる男性側にもある程度でいいので、女性の性に対する知識を持っていてもらえるといいなと感じています。
あと、たとえばなのですが、
ミレーナの手術だけでなく、PMSの症状や生理痛緩和の対策として処方される低容量ピルも、毎月数千円、年単位だと数万円かかるんですね。
たとえば女性特有の継続的にかかる金額に対して手当てをいただけたら、アシスタント世代など助かる子がいるのかもと思ったりもしています。
もちろん、男性スタッフと不公平にしないための対策も考えないといけないとは思いますが。
ここで、古守さんからひとつの提案が!
たとえばアンケートをとるというのはどうでしょう?
悩みを書いてもらっても良いですが、まずは相談したいか、相談するなら直接がいいか、メールなどのやりとりがいいかなどだけでも、吸い上げるだけでもいいと思います。
アンケート、いいですね! 突然、さぁ話そうといってもお互いどうしたら良いかわからなかったりもしますもんね。
でも、直接言えないタイプの人は、アンケートでも書かなそうな気がしません?
それでもいいんですよ。
まずは気にかけているよ、というのが伝わるだけでもいいのかなと思います。
それで言うと、うちの会社は1on1というシステムをとっていて、部下と上司が1対1でするミーティングを取り入れているので、吸い上げやすい仕組みはできているかもしれません。
それも素晴らしいですね! 方法は1つじゃなくていいのかなと思います。
いくつかやることで掬い上げてあげる可能性を増やせるのではと思います。
たとえば、サロンに入社したてくらいの頃に、女性の体ってこんな感じなんだよというようなことを説明される機会があったらどうですか?
僕はいいなと思います。興味がないわけではなかったし、だからといって学ぶ機会もなかったので。
ただその時期の僕が個人として何ができるかとなると、知識を得たとしても、結局そっとしておくしかできなかった気もしますが…。
妊活希望の女性美容師にサロン側ができること
もうひとつ、この連載を進める中で課題に感じたのが、美容師の妊活問題でした。不妊治療を始めるとなると、営業時間内に病院に行くことになるため、不安を感じている人も多いようです。
その点、もう10年くらい前から不妊治療に取り組みやすい環境がつくれていると思います。
不妊治療の場合はある程度、予定が見えるものなので、通院を予想できる時期1週間くらいの予約を一旦切れるようにしています。そして、日にちが確定した時点で、それ以外の予約を解放するという方法です。
ぎりぎりに予約枠を解放してもみんな予約が埋まっているし、売り上げも下がっていません。
不妊治療は人生のミッションでいえば最高位。しかも長いといっても数年です。お客さまも理解してくださるし、ポジティブに捉えれば、やりようはいくらでもあるので、不安に思わなくても大丈夫ですよ!
うちでは今年の6月から産業医を入れているのと、女性従業員を対象としたホットライン&出産サポートのシステムを取り入れました。これは産婦人科を中心としたシステムで、妊活も含めて女性特有の体の悩みなどを相談できる先が用意されています。
そもそもうちがゴールとしているのは、退職者を限りなくゼロにすること。
せっかく入りたくて入った会社ですから、辞めなくていい状況をできる限りつくってあげたい。
そんななか精神的なことや人間関係などで退職者が続いた時期があったこともあり、フェムケアに限らず、従業員が健全に働き続けるために外部の力を取り入れることにしました。
男女で語り合うことに意味はある?
サロンの中でも「女性」「男性」という立場で語り合う機会はなかなかないのではと思います。女性美容師のフェムケアを進めていくうえで、男女での語り合いは意味があるものになりそうでしょうか?
今日、女性陣のお話を聞いて、想像していたことと違ったことも実はかなり多かったです。
だからといって、普段のコミュニケーションの中で今まで以上にスタッフに突っ込んで話を聞くことはしないですが、時にはこういう機会を設けるのはいいかもしれないですね。
ひとまず男性が一生抱えることがない悩みが女性にはある、というのをしっかり覚えておこうと思います。
お客さまとの間でも、PMSや更年期などフェムケア関連の話題はかなり多いです。
そう思うと、女性美容師も男性美容師も女性の体のことを知識として持っておくのは、サロン運営のためだけでなく、いち美容師としても役立つのではと感じています。
私も今日、話ながらまだまだ自分の知識が足りていないなと感じて、また学んで行こうと思います。
ジェンダーレスの時代といっても、やっぱり男女は違う生き物だと考えています。
そんな違う生き物である男女がいかに分かり合えるかというのは、サロン内の最大のテーマのひとつです。
今日、こうやって女性の意見を聞くことができたのも、分かり合ううえでの貴重な機会になりました。
男性陣のみなさんのご意見を聞いていて、私が大きなサロンで働いていた15年くらい前と比べると、女性の立場に立って考えてくれるサロンがすごく増えているのかもしれないと感じました。
これから今まで以上に女性美容師が働きやすい環境がつくられていくんだろうなと、美容業界に希望のようなものも感じることができた時間でした。
男性だけじゃなく、女性自身も知らないこともけっこうあるんじゃないかなと感じました。
そういうことを知れる環境をサロンのなかでもつくってあげられたらと、新しい取り組みが見えたように思います。
女性特有の悩みって、本当は個人的なことなので職場の誰かにぶつけるものではないと思うんです。
でもたとえば今回のように悩みの問題点を提示することで議論が生まれて、関係性が育まれるということも大いにあるのかなと思いました。
会社のなかでも勉強会のひとつとして、今日のように向き合って男女で語り合ってみるのもいいかもしれません。それによってサロンが優しい場所になるというか、声をかけあえるようなサロンができ上がっていくようにも思います。
- Profile
- 伊左治資生/いさじもとお
BUDDY HAIR(バディヘア)取締役マネージャー(愛知県名古屋市)
1976年11月28日、愛知県生まれ。大阪中央理容美容専門学校卒業。2000年にBUDDY HAIRに入社。ROOTS店の店長を経て取締役マネージャーに就任。持ち前の外交力で講師活動や求人・採用活動を担当する。9店舗となるtorchを2023年1月にオープンさせた。
- Profile
- 島田和也/しまだかずや
MICHI GROUP(ミチグループ)代表(岡山県岡山市)
1979年12月8日、東京都生まれ。岡山県理容美容専門学校卒業。2000年にMICHI GROUPに入社。2011年にMICHI GROUPの代表に就任。右腕として美容室6店舗、ブライダルサロン3店舗、脱毛サロン1店舗、育成サロンを統括する。2022年12月には43歳で総売上804万円の自己最高売上を達成し、プレイヤーとしても記録を更新中。
- Profile
- 山田慎也/やまだしんや
NOISM(ノイズ)FCオーナー(京都府京都市)
1985年、福岡県生まれ。福岡美容専門学校卒業。2012年にNOISM入社。2020年、FCオーナーとなる。ヘアサロン2店舗、アイラッシュサロン2店舗のFCオーナー。集客や求人など、本部組織の右腕としても手腕を振るう。
- Profile
- 盛(サカリ)
美容師ライター(山形県山形市)
山形県出身、在住。現役美容師。歴12年。2児の母。「華やかに見えて、長時間労働や低収入、人間関係など課題のある美容業界。それでも愛を持って努力しつづけている美容師さんの想いを世に伝えてくこと」を使命に、美容師専門のwebライターとして2022年1月から活動中。美容師メディア「HAIRCAMP」他、美容商材、オンラインサロン等執筆多数。日本最大級ママ美容師コミュニティ「MAMABIPARK」ではメインパーソナリティを務める。当コミュニティメンバーで日々話題となっているさまざまな悩みやキャリアデザインのヒントから今回のコラム執筆に至る。
- Twitter : @waamama_room
- Profile
- 岡見瑠里/おかみるり
toi toi toi(京都府京都市)
1982年生まれ、京都出身。京都美容専門学校卒業。高校生の時からバイトしていた個人店で3年勤めた後、滋賀京都展開のチェーン店で約10年勤める。現在夫と、京都市にてtoi toi toiを独立開業し10周年。四姉妹のママ美容師。
- Profile
- 古守道代/こもりみちよ
kiitos(山梨県甲府市)代表
1975年生まれ、青森県出身。 青森県理容美容専門学校卒業。関西有名店で修行後、地元青森へUターン。地元美容室でディレクターとして教育担当をしながらサロンワークを勤め、結婚を気に山梨へ移住。パート、フリーランスを経て、2021年に甲府市に「kiitos」を独立開業。
- 執筆者
- mackey