【ケミカル編/第4回】“酸性”に流されすぎるな!

【ケミカル編/第4回】“酸性”に流されすぎるな!

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こんにちは。「ボブログ」で辛口コラムを執筆しているのりこ美容室 前田秀雄です。

これまで【経営】にテーマを絞り、経営者として持つべきマインドをお伝えしてきましたが、今月からは【ケミカル編】。第4回は「酸性に流されすぎるな!」のテーマでお伝えしたいと思います。

Contents



なんでもかんでも「酸性」なの?

前田秀雄

昨今の美容業界では、「酸性」ってキーワードが流行していますなぁ〜。


「酸性」って聞くと、髪は弱酸性? お肌も弱酸性?

「やっぱり弱酸性って肌や髪に優しそう」‥…なんてイメージを持つ方も多いかと思います。


ちまたでは、酸性ストレート酸熱トリートメント髪質改善ストレート髪質改善トリートメント…‥もう何がなんだか、何がどう違うのか…‥。

そうしているうちに、「アルカリはダメージするからダメー」「酸性に賛成ー!(笑)」なんてイメージがついてきたり。

もはや、何がなんだかよくわからない状況になって、とりあえずブームに乗り遅れないようにしなきゃと流行りの技術を取り入れて走り出す…‥

そんな思考停止な美容業界になっています。


【美髪施術の特徴】

還元剤を使用する施術と酸熱トリートメントを比較してみましょう。

アルカリストレート酸性ストレート酸熱トリートメント
還元剤使用
(チオ系、シス系等)
使用
(ラクトンチオール、GMTなど)
(原則)使用しない
使用しないレブリン酸、
チオグリコール酸など
グリオキシル酸、
レブリン酸など

【レブリン酸とグリオキシル酸を使用するメリット】

①髪の内側に浸透し丈夫になる(レブリン酸)
→ダメージすると髪の中に隙間ができます。その隙間に酸熱の成分が浸透しストレートアイロンなどの熱を入れることにより吸着し、抑制します。

②枝毛や切れ毛予防(レブリン酸・グリオキシル酸)
→内部だけではなく髪表面にあるキューティクルにも働き抑制の効果があります。ただし、剥がれきったキューティクルを抑えるのは難しいので「剥がれる前のケア」が大切です。

③アイロンで髪を巻きやすくなる(レブリン酸・グリオキシル酸)
→酸熱の効果により必要な水分が内部に蓄えられることにより、アイロンの形がつきやすくなります。

④髪が乾きやすくなる(レブリン酸・グリオキシル酸)
→必要以上に髪が濡れるのを防ぐので髪が乾きやすくなります。通常のダメージ毛になればなるほど、水をいっぱい吸い込んで乾きずらくなるのはそのため。

⑤トリートメントの持続が1〜2カ月(レブリン酸・グリオキシル酸)
→普通のシステムトリートメントは1カ月も持たないことがほとんど、酸熱は内側からしっかりと結合するので「最長2カ月」持ちます(実感は1カ月くらい。ホームケア次第で変わります)。正しい酸熱トリートメントは「髪がしっとりしなやかで丈夫」になり、ヘアトリートメントの中でも「1番効果の高い」施術です。

【レブリン酸とグリオキシル酸のデメリット対策と考え方】


①施術時間が長くなってしまう場合がある
→お客さま個々の髪質に対応するため、長時間になってしまうことがあり、初めての施術は「時間に余裕をもって予約」を取りましょう。

②カラーと同時施術する場合は、先に酸熱トリートメントからやり、カラーを後にした方が良い
→特に回数を重ねるとグリオキシル酸は、カラーが染まりにくくなります。

③酸性の力が強い「グリオキシル酸」で施術すると髪がきしんでしまう
→通常の施術で「グリオキシル酸」を使うと、ほとんどの髪質できしみが出てしまいます。髪質を良くするための施術が逆に悪化させてしまうことも。




ブリーチ特有の髪の変化とは?

前田秀雄

ここで原点回帰です!

ここ数年、ブリーチヘアが流行し、明るい髪色の人とすれ違う機会が爆発的に増えました。

近年のブリーチの流行は「Instagram」の存在抜きには語れず、それが年代問わずに波及しました。

ブリーチが流行して以降、世代に関係なく髪の悩みに関して「ある種の変化」が生じてきたのです。


これまでもヘアカラー後に “パサつく” “髪が傷む” というのは、ある意味当然だと言えますが、ブリーチ後、髪が「ゴワつく」という悩みがプラスして生じています。

それは、なぜでしょうか?

ブリーチによってキューティクル層がダメージを受けると、毛髪保護機能が低下し、髪の主要な構成成分であるケラチンもブリーチによってダメージを受け、変性してしまい、髪の強度や弾力性が低下します。

ケラチンとは?

毛髪の主成分のタンパク質。毛髪だけでなく、爪や皮膚もケラチンでできている。爪や毛髪の元は硬い硬ケラチン(オイケラチン)、皮膚は柔らかい軟ケラチン(プソイドケラチン)と性質が違う。物理的強度の強いタンパク質ではあるが、シスチンを14~18%ほど含み、化学変化を受けやすい(出典:前田秀雄・著『美容師のケミ会話』)。



ブリーチは髪の水分をも奪うため、髪の内部の水分量が減少し、乾燥した状態になります。これにより、髪の柔軟性やハリが低下することがあるのです。

このように、ブリーチが髪に与える影響は多岐に渡り、髪のタンパク質自体が変性した結果 “ゴワつく” または、“硬くなる” という、ブリーチ特有の傷みが生じる結果となります。

ブリーチする女性たちが増えたことから、髪を綺麗にする、髪の悩みを解決する方法が「マツコ会議」で紹介されて以降、大人気!になったのが《髪質改善トリートメント》です。

※『マツコ会議』で放送されたのは2018年9月頃。


本当にお客さまの「髪質を改善したい」なら、嫌われる勇気を!

前田秀雄

本物の「達人」の人たちは、決して「髪質改善しましょう」なんて言いません!


適材適所に剤を使い分けることが大事で、お客さまから「酸性ストレートしてください」「髪質改善トリートメントしてください」と言われても、剤をえらぶのは美容師の仕事だとわかっているからです。

病気になって病院に行って、医者に「先生、私、風邪みたいですから風邪薬出してください」って言われた医師が、「はい、わかりました」とは言いません!

風邪かどうかを決めるのは医師の仕事ですから。

決して消費者の言いなりになってはいけません。消費者の話には、耳を傾けることはもちろん大事ですが、解決はプロ目線でないと大変なことになることは、過去の事例で証明されていますね。


消費者が良いと思う商材は、使い心地とバイアスが働いた情報のみ。

皆さんのサロンでも「あるある」だと思いますが、他店からのダメージから来て頂き、なんとかして綺麗になって頂いたと思ったら、また違う他店に行って、またまたダメージして「何とかしてください」と同じことを繰り返す消費者がいます。


《ダメージレス》という魔法の言葉に踊らされ誘導され、盲目になってしまっているお客さまに、「髪とはどういうものなのか」「傷んだら治らない」「再生しない」「補修はできても修復はしない」。そんなことをアドバイスして落とし込み、その方にとって本当に大切なことを、寄り添う仕事を理解してもらう必要があると僕は思います。

「技術」と「知識」と「ボキャブラリー」で、顧客を教育する《嫌われる勇気》が、お客さまのハートに響くのだと思います。

髪に良い、還元剤はない!

美容業界では新しい商品や技術が頻繁に登場し、多くの人々がそれに興味を持つため、一時的にブームが起こることがあります。しかし、流行は時として一過性であり、効果や安全性についての科学的な根拠がないままに流されると、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

美容業界のトレンドやブームに流されてしまうと、前回の連載にも書いた《バイアス》が働いて、自分に都合の良い情報だけで物事を考え、多角的に捉えられず思考停止に陥り、数カ月、数年後には悲惨な頭皮頭髪になってしまう可能性があるのです。



《バイアス》について記載した、前回の原稿はこちら↓

最も大切なことは、自分自身の髪や肌に合ったケアを行うこと。

「かかりつけ美容師」に定期的に相談する文化を導き、そのお客さまに合った美容法、施術法を選択し、アドバイスできる美容師になりましょう!

前田秀雄

でもね、よくよく考えたら、どのサロンでもさまざまなトリートメントメニューがオンパレードの美容業界なんだけど、髪が傷んでいる人が減るどころか増加しているって、なんだか医療業界と同じように思うのは僕だけ?

酸性ストレート(パーマ)であろうが、アルカリストレート(パーマ)であろうが、使用するのは「還元剤」であるということです。

髪に良い還元剤はありません!! どれも基本、髪の毛を傷めます。

還元剤で、髪に良いとか傷まないとかダメージレスなんて絶対にありえないことです。ここはブレてはダメです!

酸性還元剤だけを健康毛に使用しても、もちろんパーマやストレートはかかりません。

傷みにくいからと言って酸性還元剤を使うために無理矢理、剤を調整しても、結合を切る力を上げれば結局のところダメージを起こします。



【還元剤の「酸性領域」と「アルカリ領域」】

酸性領域で作用する還元剤
(S-2結合を切断)
中性領域で作用する還元剤
(チオ乳酸はS-1、他はS-2を切断)
アルカリ領域で作用する還元剤
(S-1を切断)
ラクトンチオール(pH4〜6で活性)、
GMT(pH4.5~7.5で活性)
チオグリセリン(pH7~9.5で活性)、
チオ乳酸(pH7~10で活性)、
システアミン(pH6~9で活性)
チオグリコール酸(pH7~9で活性)、
サルファイト(pH10~11で活性)、
システイン(pH9で活性)
GMTはS-1結合とS-2結合の両方を切ります。                                         


                                          
前田秀雄

髪の結合(S-S結合)には2種類あって、S-1、S-2の結合を切るために「還元剤」があります。

・S-1結合・・・軟らかく、水を吸いやすい親水性の結合。親水性はアルカリ性の領域で結合を切る。

・S-2結合・・・硬くて、水の入りずらい疎水性の結合。疎水性は酸性の領域で結合を切る。髪の奥深くにあるS-2結合を切るため、失敗するとリカバリーが効かない。


原点に帰ると、酸性還元剤を使う理由は何でしょうか?

アルカリ還元剤を使用できないほどの髪になっているからではないでしょうか?!


「甘いものやめられないんです」と言っている糖尿病の患者に「効く薬を出しておくので、いっぱい甘いもの食べていいですよ」なんて言う医者はいませんよね!?


髪にダメージを与えているのは誰かを無視して、とにかくパーマやストレートを無理矢理する意味がどこにあるのでしょうか。

お客さまにもインフォームドコンセントができる「知識」と「ボキャブラリー」と「アドバイス力」も勉強しましょう。

前田秀雄

毛髪は死滅細胞。再生はしません。

髪の毛に良い 還元剤は無い!





前田さんへの質問は、以下のボタンをクリックして書き込めます。ボブロガーズコラムでテーマにしてほしいことなども是非送ってください!

※質問の際は「前田秀雄さんに質問」と入力してからご質問ください。

前田さんのケミカル知識を集結し、サロンワークの現場で使いやすくした1冊はこちらから↓。

美容師のケミ会話 前田秀雄(のりこ美容室)
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前田秀雄

次回は「アンチエイジングという言葉に流れすぎるな!」のテーマ(仮)でお届けします!

前田秀雄
執筆者
前田秀雄

1965年9月6日、京都府生まれ。京都理容美容専修学校卒業後、1991年、京都府伏見市に母・紀子さんが創業したのりこ美容室に勤務。2007年に事業を継承し(株)NORIKOを設立。代表取締役社長となる。小さな美容室の「行きつけマーケティング」を追求し、独自の小規模美容室経営を確立。スタッフ5名、1店舗で増収増益を続けている。毛髪診断士および毛髪協会認定講師。学校法人京理学園評議員。著書に『ちっちゃい美容室のでっかい革命』『美容師のケミ会話』(ともに髪書房刊)がある。

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