こんにちは。先月から「ボブログ」で辛口コラムを執筆しているのりこ美容室 前田秀雄です。
【経営編】では、目まぐるしく変化する時代を生き抜くための思考をお伝えしたいと思います。
皆さんは、「生存バイアス」という言葉をご存知でしょうか?
- 生存バイアス
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一般には生存者バイアスとも呼ばれている言葉で、脱落したものや淘汰されたものを評価すること無く、生き残ったもののみで評価するということ。
生存バイアスは、何らかの選択をする際に、成功した人・物・事のみを基準として判断を行い、失敗した人・物・事を見ようとはしません。
世間では圧倒的多数の失敗は見えず、競争の中で乗り切った人だけがその注目を浴びやすいですよね。
成功者(生存者)にだけ発言することが許されているため、それ以外の意見は、ほとんど表に出てくることがないのです。
あったとしてもその意見を見ないし、聞かないし、検索すらしません。
圧倒的多数の失敗は見えないため、「能力を持ち、努力をすれば素晴らしいことを達成できる」という誤った認識を生み出し兼ねないのです。
こういった成功者が言葉を発信し始めると、《好きなことで成功しよう!》という思想が目立ってきます。
美容師は「観察力」で育つ
“好きなことを仕事にしたい人” が見落としている現実が2つあります。
①自分本位の姿勢であること。
“好きなことで起業する人“の多くは、"人”の存在を見ようとせず、それよりも、自分の「好き」「楽しい」「ワクワク」という気持ちを優先して始めてしまうことが多からず少なからずありますね。
美容室の廃業率は、1年以内に閉店するサロンが70%、3年以内に閉店するサロンが90%、10年以内に閉店するサロンは95%と言われています。
そして、20年以上続くサロンは0.3%、30年以上続くサロン0.02%です 。
飲食店の廃業率は、1年目で約30%、2年目になると約50%が閉店し、3年目では70%に達します。
「自分の好きなことを仕事にしたい」「こんな雰囲気のお店を持ちたい」と、まさに「好きなこと」や自分本位の姿勢で企業してしまうことは危険です。
②憧れる仕事は、皆が好き。あなたが好きと思う仕事は、みんなが好き。
「憧れの仕事」は、実は偏りがあります。
憧れの職業には人が集中しますよね。今で言うと、YouTuberがそうです。
当然、競争が激しくなります。その憧れの職業を目指す人は、仕事が好きな人たちです。つまり、好きなことを仕事にする人同士が、凌ぎを削る世界なのです。
アイドルもまさにその例ですね。
そんな世界で一人前になるためには時間がかかる、ということです。
今の美容師は、余りにも早く技術者になり過ぎだと僕は思います。
我々美容師は、研究者ではなく技術者です。
・「研究者」とは
社会において人々が便利で快適な毎日が送れる様に、大学や企業の研究室においてさまざまな実験や分析を行い、論証したりデータを集める人のことを言います。
非常に専門性が高く、主に大学や社団法人、民間企業の研究室などで働きながら、自らの研究テーマを掘り下げています。
・「技術者」とは
科学的な方法により、社会をより暮らし易くするための技術を駆使する仕事をする人のことを言います。
知識があるだけではなく、実戦できる技能が必要で、知恵を絞り実際の現場でその技術を発揮します。
早く技術者になり過ぎることで起こりうる問題点は、大きく分けて4つあります。
1)知識とスキルの不足
技術者に必要なのが、多様な経験と知識とスキルが必要です。早すぎる段階で技術者になると、問題が起きた際にバイヤスが働き、偏った情報や知識やスキルに目がいきがちになり、対処策にのみ頼ってしまいます。問題が先送りされたことに気がつかないままになり、将来的に影響が出てくる可能性も出てきます。
2)人生経験や実践的経験値の違い
技術者になるには、テクニックのみならず、人生経験などさまざまな実践的経験が必要ですね。早く技術者になり過ぎると、そんな経験を積んでいないため、問題を発見し解決するスキルを磨くための機会が限られる可能性があります。
3)経営者になったとき、スタッフを教育できない
技術者は常に自分のスキルや知識を最新の状態に保つ必要があります。早く技術者になり過ぎると、経験不足のまま経営者に移行して、自身が持っているスキルや知識や経験値が陳腐化していることに気づきません。そして気がついたとき、教育を他者に丸投げする傾向があります。
4)コミュニケーションを磨く機会の損失
なんといっても技術者にはコミニュケーション能力が大切です。早く技術者になり過ぎると、段階的な様々なポストにおいて経験できるコミニュケーションを磨くための機会が限られることになります。
パイロットは、飛行機の種類別での飛行時間に規定がありますよね。
外科医でも、手術経験値人数が評価になります。
ただし、これらの問題点はきちんと対処すれば回避できます。
たとえば、僕がいつもいってる《無駄の美学》。
こんなこと勉強して何になるんだろう…。ということは、後々にしかわかりませんが、「わかった」という経験・体験が大事。
幅広い分野の知識やスキルを習得すること、実践的な経験を積むこと、最新の情報を収集すること、コミュニケーション能力を磨くことが大事で、これらはやはり時間がかかります。
もちろん例外はあります。天才的な人ですね。(笑)
しかし、多くの美容師に必要なのは「教えてもらう」ことではなく、「見る=観察力」。それが「育」に繋がります。
老舗という語源は “為似” だと言います。
つまり「先代が培ったことを真似て、人の為に成す」こと!
観察力がないと、真剣に真似るのは難しいですよね。
教えてもらうという「他力本願」ではなく、観察するという「自力本願」がすべての源なのです。
「自分のため」がいつしか「人のため」に
コロナ騒動になって、インバウンドやイケイケドンドンの経営が、如何に足元から簡単に崩れてしまうかわかったでしょっ。
当たり前にやらなければいけなかったことがやれてないと、如何に不安定であるかが、バレてしまったでしょっ。
心技体と本質を極め、「ガラパゴス化=独自化」を進め、お客さまに選ばれる “人” になる教育が、今、まさに求められています。
我々はアーティストになるために美容師になったわけではなかったはずです。
美容が好きで、それが生活するための糧になれたらもっと最高!と思って美容師になったはずです。
華やかな世界に飛び込む必要なんてありません
地味にコツコツやって、足元から徐々に固めて、一歩づつ自分のペースで歩めばいいんです。
差が付いたって気にしなくていいんです。
前に進んでさえいれば、必ず達成できます。
「好き」を極めること。まずは「自分のため」にやってください。きれいごとは無し!
それがいつしか「人のため」になっていることに気がつきます。
「人のため」も間違えると、偽装の “偽” になりますから!
こういうことも見据えて、教育をしなくてはいけないですね。
深みとコクのある関係づくりを
いろんな情報に流されて右往左往し、新規集客の獲得に走り、既存客を中心に考えないで、ザルで水を掬うようなサロンの行く末は見えています。
美容室以外でも、京都の様々な老舗店で同じことが起きています。
悪くなってから、それまで贔屓にしていただいたお客さまに「戻ってきて…」と言ったって無理な話ですね。
やはり、《関係性の深みとコク》のキーワードが今、最も考えさせられる重要なものになっています。
自分で巻いた種は、自分で刈り取るしか方法はありませんね。
未だチャンスを得んときは
《忍耐》の二文字を守り、
今まさにチャンスを得ようするときは
《大胆不敵》の四文字を守り、
既にチャンスを得た時は
《油断大敵》の四文字を守る!
一番になる必要なんかない!
一流を目指すこと。
何故か?
一番は一人しかなれないし、一回しかなれないかもしれない…。
でも、一流には枠なんてなんでありません。
何人でもなれるんです!!
ただ、一流は他人から認められなければならない。
その為の努力は惜しまないことです。
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次回は「酸性に流れすぎるな!」のテーマ(仮)でお届けします!
- 執筆者
- 前田秀雄
1965年9月6日、京都府生まれ。京都理容美容専修学校卒業後、1991年、京都府伏見市に母・紀子さんが創業したのりこ美容室に勤務。2007年に事業を継承し(株)NORIKOを設立。代表取締役社長となる。小さな美容室の「行きつけマーケティング」を追求し、独自の小規模美容室経営を確立。スタッフ5名、1店舗で増収増益を続けている。毛髪診断士および毛髪協会認定講師。学校法人京理学園評議員。著書に『ちっちゃい美容室のでっかい革命』『美容師のケミ会話』(ともに髪書房刊)がある。
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