新年の目標、決めなきゃダメですか?
美容師ライター、操作イトウが日常の“サロンワークを乗り越えるヒント”を探るコラム連載第2回。新年を迎えたけれど、目標が見つからない——。そんなときは、無理に決めなくても大丈夫。焦りを手放して、自分に合ったペースで一歩ずつ進むヒントを探ります。
illust:モリスン
年が明けると、なにかと「今年の目標は?」と聞かれることが多くなりますよね。
正月休み中に考えた抱負を初日の朝礼で一人ひとり宣言する、そんなヘアサロンも多いはず。必ず自分の番も回ってくるのに、「今年の目標?思いつかないんだけど…」。
新年早々、ありがちな悩みですよね。そもそも昨年の目標は、一年通して意識できてなかったし。
新年の目標、あなたはどうしてます?
目標が低いからって
「意識が低い」わけじゃない
スタイリストになると特に、具体的な数字を課せられる「目標」。僕も「それが当たり前」だと教えられてきたけれど、正直、気持ちいいものとは感じてこなかったんですよね。
というのも、自分で設定した数字に対して、上司から「もっと高い所を目指せよ!」って言われることが多かった。
でも、こっちからすると「現実的なラインはここじゃん?」て思ってて。
目標が低いと「あいつは意識が低い」みたいな烙印を押されがちですが、それってちょっと違うと思うんです。
だって、リラックスしているほうがパフォーマンスが上がる人もいますよね?
目標は「立てるべき人」と
「立てなくてもいい人」がいる
これって言い換えると、「焦り」が力になる人と、「焦り」によって空回りする人なんじゃないかな、と。
「高い目標」を掲げるのには、合う人と合わない人がいて、合わない人にとっては肩に力が入ってしまって逆効果を招きかねないと思うんです。
そこで、目標を「立てるべき人」と「立てなくても良い人」がどんな人かについて考えてみました。誰しもどちらかに当てはまるわけではありませんが、自分に近いタイプを参考にしてみてください。
目標を「立てるべき人」は、追い込まれた環境で力を発揮できる人。
今までにもそれを乗り越えてきた経験値があるから、いざという時の胆力があるし、周りを巻き込むけん引力もある。
一方で、物事を後回しにするタイプ。「後でいいや」って思いが先走る詰め込み型で、自分に関心のない物事も後回しだから、マメなスタッフから何度も同じことを指摘されがち。
「立てなくてもいい人」は、人知れず何か行動をしている人。
ルーティンや自分ルールが明確にあって、「毎回ここまでやる」という考えを元に、淡々と、ほとんど無意識で作業していたりする。掃除が得意な人はその典型で、「縁の下の力持ち」というか。
反面、ルールに縛られて身動きが取れなくなりがちで、イレギュラーな事態に対応するのが苦手。
前者は焦ることでパフォーマンスが上がるから、目標がプラスに働くはず。けど、後者はそこを考えないようにしながら目の前の課題に集中するのも、間違いじゃないと思うんです。
「夢」と「目標」は似て非なるもの
とはいえ、「夢」や「目標」は人を育む大事な要素。
「立てなくてもいい人」と断言するような言い回しでしたが、そんなタイプでも「目標」はあるに越したことはないんです。
皆さんは「夢」と「目標」を混同してませんか?実は、似て非なるもののようです。
以前、サッカー日本代表のキャプテン遠藤航選手は、『夢は将来的な理想で、夢に向かうために一歩ずつ目標を達成するんです』と語っていました。
サッカー好きなら、彼が着実にステップアップしたことは明白ですよね。そして今や、トップランナーとして日本代表やリバプールでプレーする姿にはグッとくるものがあります。
そしてこの「目標」は“現実的に手が届く”ラインに敷くのだそう。
つまり、小さな「目標」を一つずつクリアして、その先が「夢」に繋がっているってことが大事!
「夢」の手のひら返しは悪?
また「夢」という言葉は、壮大すぎて気が引ける感じもしますよね。子供の頃からの夢を貫ける人なんて少数だし、みんなの夢が叶わないことは、百も承知。
じゃあ叶わなかったら、ゲームオーバー?無駄な努力だった?人生、詰んだ?
いやいや、そんな事ないです。夢は、その都度変更していいんじゃないでしょうか?
僕は、夢を「手のひら返し」するのは悪いことではないと思ってます。「やってみた結果、上手くいきませんでした。だから次はこっちに向かいます」となれば、ポジティブな判断ですよね。
まず何より、僕たちは「美容師になる」という夢を叶えた人たち。
ですが、その後の「どんな美容師になりたいのか?」はやりながら変化していたり、時代の変遷で無理ゲーと化していたり。シンプルに、もうその頃の憧れに情熱を失っていることもある。
また、歳を重ねて見え方が変わるのも自然なこと。だから、大人になれば別の夢が芽生えるのも当たり前です。
ここで、スティーブ・ジョブズの有名なスピーチをご紹介。
「Connecting The Dots.(点と点をつなぐ)」
これは、ある日の人生の経験(点)とまた別の経験が、のちに偶然繋がったことで今の自分がいる、というジョブズ自身の経験談です。
将来に活かされるなんて考えもしなかった「それぞれの点」が後々コネクトして、振り返ると大きな分岐点になっていたのだそう。
人生がどうなるかなんて誰にもわからない。だから嬉しい経験も辛い経験も、自分にとって無駄にはならない。波瀾万丈なジョブズが語ったのだから、納得ですね。
目標は一年スパンじゃなくてもよくない?
とはいえ、年明けに一年の目標を立てるのは、難しいですよね。
そして年始に立てた目標も、その時期によってイメージしてた立場と違ったりするから、意味がなくなってしまったらそれこそゲームオーバー。
なので目標を一年スパンでは立てずに、短くしてみたらいいと思います。
今回立てる目標を「年始から3月まで」ぐらいに設定して、3月が終わったら振り返る。そうして、その都度考え直してもいいかもしれません。
その方が「今回の目標」の解像度が上がるし、「目標」の立て方自体も改善できるだろうし、階段を登ってる実感が湧くんじゃないでしょうか。
自分の成長にコスパやタイパは通用しないかも?
色んなことを教えてくれるSNS。「すごい人にはすごい方法論があるはず!」と、コスパ/タイパがいいものを熱心に探している方も多いのではないでしょうか。
目標を達成したい、という想いから求めてしまいがちな「効率の良い方法」。ですが、そもそも自分の成長にコスパやタイパは通用しないかもしれません。
美容師の技術の習得には、時間がかかりますよね。でもそれって、どこまで短縮できるんでしょう?
例えば、専門学校でのカットやワインディング。思えばあんな初歩的なことでさえ、全く手が動かなかったですよね。
どんなに手先が器用な人でも、すぐには攻略できなかったはず。技術は「才能があれば3日でできる」みたいなことじゃなくて、繰り返しの練習で身に付いたもの。だから結局、それにかかる時間はあまり変えられないかもしれません。
そして見落としがちなのが、「それ」を探している時間について。スマホに熱中しているその時間こそ、コスパ/タイパを意識する対象かもしれません。
短時間で3段飛ばしできる「ライフハック法」じゃなくて、今登る必要がある目の前の段差を見つめ直してみると、意外な効果があるかもしれません。
今日の“点”は、未来につながる
「いや、やっぱり「夢」も「目標」も必要じゃん」と思った人も、「初日の朝礼はさらっと受け流そうかな」と思った人も、前を向くことが大事ってことですね。暗中模索で今付けた「点」も、ムダにならないんです。
一年前の私は、今日の私より未熟だったはず。そして一年後にはきっと、もっと成熟してるはず。
「毎日の積み重ね」だから、僕らは専門職なのだ。
- 執筆者
- 操作 イトウ
東京都二子玉川を拠点にする30代美容師。 『ヘアスタイルはロジックで美しく、カッコよくなる』『ステキな美容師さんに出会ってほしい』をメインテーマにしたブログをnoteにて執筆。2020年から文春オンラインでの連載を開始、CREA等のwebメディアで定期掲載。
- Twitter : @itohcontroller
- Instagram : @itohcontroller
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