〈HML U/2A〉柏昌弘が映す、磨き上げられたモードの世界
Video Director/Photographer:Naruki Yamanouchi
Videographer:Daisuke Inoue
洗練された感覚を持つ美容師が、自らのスタイルを表現する連載「フォーカスオン」。彼らのクリエイションにスポットを当て、作品とインタビューを通してその深い世界観を掘り下げていく。
第1回は、〈HML U/2(ヒメル)〉 柏 昌弘さんが映し出す独自のビジョンに迫る。
- Profile
- 柏 昌弘さん
HML U/2A 代表
かしわ・まさひろ/1987年生まれ。埼玉県出身。国際文化渋谷校卒業後「bloc」に入社。13年在籍し、フロアディレクターの役職経験後、2020年に独立。同年9月、東京・渋谷に「HML U/2A(ヒメル)」をオープン。スタイリストデビュー後からヘアメイクとしての活動も開始。サロンワークと並行し、国内外の広告やファッションブランドのルック、アーティストのヘアメイクなどを担当。現在もオーナースタイリスト兼ヘアメイクアーティストとして多方面で活躍中。
- Instagram : @kashiwamanhair
ファション性を内包した
ムードの引力
まるでファッションストーリーを見ているかのような今回のムービー。コンセプトは強い女性像と少しモードな世界観。「ヘアを見せるというよりも、人物像そのものを表現したかった」と柏さんは話す。ムードをつくる。そのスタンスは普段のビジュアル制作はもちろん、顧客に対しても変わらないという。
ワンレングスボブから始まる
モードなヘアストーリー
カジュアルなファッションにワンレングスボブを合わせた最もリアルクローズなスタイル。ヘア、ファッション、ロケーションの掛け算でモードに仕上げている。柏さんいわく「自分的にはマス受けの最上級スタイル」。
表面の毛先、前髪の内側に黒を加えたことにより、ダークな印象と強さを増した2スタイル目。メンズサイズのジャケットとタイトに抑えたヘアスタイリングの対比が、スタイリッシュさを際立てている。インスピレーションの源は、映画『マトリックス』に出ていそうな人物像。
前下がりラインでバングをカット。1スタイル目であえてライン感を残していた毛先は、量感を取って馴染ませ、抜け感のあるスタイルに。目元を隠すことで国籍もジェンダーも特定できない「目を奪う違和感」を狙っている。
独自の世界観を伝えるために
「ムービー」を撮る
柏さんはこれまでにも複数のサロンの“コンセプトムービー”を制作してきたそう。美容師がアップするムービーといえば、多くはカウンセリングやビフォア・アフターを見せるもの。そのようななか、なぜムード重視でクリエティブなコンセプトムービーなのか。柏さんが目指す、〈ヒメル〉のブランディングについて伺った。
── ムービーをつくり始めたきっかけは?
柏:1本目をつくったのは〈ヒメル〉がオープンした頃です。まだインスタグラムのリールが流行る前でしたが、写真以外で世界観を伝えるものがほしいと思い、今回のビデオディレクターでもある山之内君に声をかけて撮影をしました。その時はまだスマホでの撮影でしたね。スタッフも揃っていなかったので、僕自身の好きなテイストを詰め込んだ作品つくろうという感じでした。
── 最近はサロンのブランディングを意識してムービーを撮っているとか。
柏:1本目を撮ってからしばらくできていなかったのですが、昨年くらいからまた撮影を再開しました。サロンが3年目になって売上げも右方上がりで安定してきた頃です。次のステップとして、〈ヒメル〉というブランドのイメージをもう少し強めていくことを目指しました。
独立前に勤めていた〈bloc〉には美容学生や美容師さんも多く来てくれていました。〈ヒメル〉はまだそのレールには乗れていない。だから独自の世界観をつくるという角度で攻めようと、ムービーという方法を選びました。
── 撮影のときも感じたのですが、「世界観」をとても大切にされていますね。
柏:ヘアというよりも人物像を見せたい、というのが第一にあります。ファッションも含めたトータルでの世界観に共感して、お客さまやスタッフに来てもらいたい。だから動画も写真もヘアだけでなくムードまで作り上げることにこだわっています。
これは〈ヒメル〉がサロンワークで大切にしていることにも通じています。
ただ髪を切る、切られる。だけの関係で終わるのではなく、もう一歩踏み込んでいく。お客さまがどういう人物になりたいか、誰にどう見られたいか、そこまでカウンセリングでキャッチすることの大切さはスタッフにも徹底して伝えています。
だって同じワンレングスボブでも、イメージしている雰囲気や世界観が違ったら、同じにはならないはずですよね。そのズレが、サロンワークでよくある「なにか違う」になるんだと思います。そしてこの「なにか」の部分は、ヘアの写真だけで伝えきれるものではありません。
すれ違いをなくすためにはお客さまのことを知るとともに、自分のことも知ってもらう必要がある。〈ヒメル〉でつくる「作品」とは、そのためのものだと考えています。
── ムービーの作品撮影はチームでしているのですよね。
柏:先に名前をあげた山之内君やビデオグラファーの方、照明の方など、それぞれが現場で活躍する方たちと一緒につくっています。純粋に作品撮影なので、お互い自分の財布から予算を持ち出してやっている感じですね。
僕もですし、多分みんなも、その時々の課題や挑戦してみたいことをやってみる場にもなっています。
正直、誰かとつくるとなると時間もお金もかかります。僕もこだわりが強いので、一人でやりたい気持ちもあったりはします。でも誰かとコラボすることで、刺激にもなるし、勉強にもなる。やっぱりずっと一人でやっていても、自分の想像を超えるものを生み出すのは難しいと思うんです。美容師以外の人とつくるという経験は、僕としてはぜひ美容師さんたちにおすすめしたいです。
── 最後に、〈ヒメル〉が目指す世界観とは?
柏:常にベースにあるのは、モードであることです。決して前衛的なヘアスタイルを提案しているわけではないですが、独自の存在であり続けたい。他ではしていないこと、どこよりも早いことをやっているサロンでありたいです。
ヘアメイクアーティストとして外の仕事をしている縁で、ファッションの世界の人と出会うことも多い。そういった方々に共通しているのが「源流をつくる」という感覚です。モードってそういうことだと感じています。
実際、うちのスタッフはテイストがみんなバラバラなんです。一人ひとりが独自の存在になれるように、あえて被らないようにしながら本人の好きや興味を深掘りして形にしていけるように導いています。
だから〈ヒメル〉の世界観はジャンルやテイストではなくて、精神性としてのモードの体現を目指していると言えるかもしれません。
素晴らしいサロンはたくさんあるし、売れている美容師もたくさんいます。だけどうちは真似や追随をしない。違う場所で勝負をし続ける。これが、僕たちのインディペンデントなスタイルです。
- 執筆者
- mackey