業務委託で働く美容師たち①自由な働き方とお金の知識

業務委託で働く美容師たち①自由な働き方とお金の知識

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特集:業務委託研究

illustration:ナカオテッペイ

2019年の「働き方改革関連法」施行に前後して、働き方は急速に変化し多様化しています。
その変化は美容業界にも。近年では業務委託サロンは面貸しサロンが急成長・急拡大し、正社員やパートタイムスタッフとして美容室に勤める以外の選択肢が大幅に広がりました。

業務委託サロンで働くメリットは何なのか? 実際に働いてみた感想は? そして将来のために備えなければいけないことは?

実際に業務委託サロンで働く美容師さんの声を参考に、2回にわたって考察していきます。

Contents

業務委託サロンで働く美容師の本音とは?

業務委託サロンって何?

美容師を雇用するサロン、業務委託サロン、面貸しサロンの違いを整理します。

雇用型サロン(レギュラーサロン)正社員やアルバイト、パートタイム勤務として雇用する
業務委託サロンフリーランスの美容師にサロンワークを「業務」として委託する
面貸しサロン(シェアサロン)フリーランスの美容師から使用料をもらい、サロンワークの場所を提供する

つまり、面貸しサロン(シェアサロン)はサロンの中で独立した一人サロンがたくさん入居しているような状態。一方業務委託サロンは、サロンの顧客の施術を請け負って、その売り上げの一部を報酬としてもらう契約です。

雇用型サロン(レギュラーサロン)との違いは、出勤日をお店側と話し合って自分で決めること。雇用型サロンの場合は、お店が決めた定休日と営業日があり、休みたい日は申請してお休みするという点が違いですね。

今はこんな風に、美容師もさまざまな働き方があります。

アンケートを実施しました!

今回ボブログでは、業務委託サロンで働く美容師さんを対象にアンケートを実施しました!

業務委託で働くの美容師さんへのアンケート
・ 期間 2023年2月1日~2月18日
・ 対象 業務委託サロンで働く美容師
・ 実施方法 ウェブアンケート(選択式5問)
・ 有効回答数 153名

その回答をもとに、満足度や良かったこと、逆に困っていることなど、業務委託サロンで働く美容師さんの本音に迫っていきたいと思います。

一番の理由は「自由な働き方」の実現

業務委託サロンに勤めるまで

まずは前提のデータとして、回答してもらったみなさんの「勤務歴」を見ていきます。

Q 業務委託サロンに勤めるまでの勤務履歴を教えてください。(回答は1つ)

圧倒的に多いのは「雇用型サロンから転職した」という人です。これは納得。

しかし、介護や育児で美容師の仕事を辞めていた正社員サロンをやめて他の仕事をしていたという人も20%弱いるのも見逃せません。

今、全国に美容師免許を持っている人のうち、美容師として働いていない人(休眠美容師※)は全国に50万人以上いると考えられています。雇用型サロンでフォローできない働き方を、業務委託サロンなら実現でき、美容師として働くチャンスを増やしているということではないでしょうか。

※令和元年「衛生行政報告例 概況」および厚生労働省「理容師・美容師制度の概要等について」、(公財)理容師美容師試験研修センター「新規免許登録件数」より算出

業務委託サロンに転職した理由は?

Q 業務委託サロンで働くことになったきっかけを教えてください(複数回答可・3つまで)

圧倒的に多かったのは「自由に働きたいため」。2位の「雇用サロンで働いていたが、お店のやり方に納得がいかなかったため」を合わせると、美容師さんの間にも世間と同じように‟自由な働き方”を求める機運が高まっていることがわかります。

筆者は3位の「もっと稼ぎたい」が1位だと思っていたので意外でした! これは「お金よりも自由な働き方を求めている」とも取れますし、世間の働き方改革に合わせて雇用サロンでも給与の見直しが進められ、給与水準は少しずつ上がっているからかな? とも思いました。

転職してどうだった? ギャップは?

では、そんな動機をもって転職した業務委託サロン。働いてみてどんな感想をもったのでしょうか?

Q 業務委託サロンで働いてみて、現在の気持ちに近いのはどれですか?(複数回答可・3つまで)

収入を理由に転職した人は多数派ではありませんでしたが、結果として「収入が上がった」として満足されている方が多数いることがわかりました。2位に「収入はそこそこでいい。自由に働ける環境が気に入っている」がランクインしていることも見逃せません。出勤日数や予定を自分で決められることが、業務委託サロンで働く美容師さんにとって大きな魅力になっていることがわかります。

注目の1位は「お客さまにマンツーマンで向き合える働き方が気に入っている」というもの。これもとても意外な答えでした。実は、設問の中に「アシスタントを使わず1人で営業するのがむずかしい」という選択肢も入れていたんですが、153名中1名も選びませんでした。現場の美容師さんが求めているのは、予約を重複させながらたくさんのお客さまをさばいていくサロンワークではないということがわかります。
この点はとても興味深かったので、次回掘り下げていきたいと思っています!

「自由」な分だけ学んでおきたい「お金」の話

業務委託契約の人が自分で支払うべきお金

美容師さんが今、世間と同じように「自由な働き方」を求めているということがわかりました。ですが、自由であるということは、気を付けなければいけないこともあります。再び業務委託サロンと雇用型サロンの違いを比べてみましょう。

売上管理諸経費の支払い納税保険・年金
雇用型サロンサロンがやるサロンが支払うサロンが支払うサロンが加入する
面貸しサロン自分でやる自分で支払う自分で支払う自分で加入する
業務委託サロンサロンがやるサロンが支払う自分で納税する自分で加入する

問題は太字の部分。転職前よりも額面の収入が増えるように感じますが、それはこれまで支払い前に税金や年金、保険の支払額を控除されているからかもしれません。自分で支払いの必要があるのは次の通りです。

所得税国に治める税金。収入から必要経費を差し引いた額(所得)と、控除額を差し引いた額に対し一定の税率をかけた額をしはらう。所得が高いほど税率は高くなる(累進課税)。
住民税地方自治体に治める税金。所得に対し一定の税率で支払いが必要。
国民年金20歳以上60歳未満のすべての国民が加入する年金制度。会社員が加入する厚生年金は会社が半額負担するが、国民年金は加入者本人が全額負担する
国民健康保険会社に勤めていないフリーランスや自営業、無職、年金受給者など、社会保険やその他の医療保険制度に加入していない人を対象とした保険制度。所得に応じた算出額を支払う。
参考:国税庁 所得税のしくみ/東京都主税局 個人住民税と特別徴収について日本年金機構/厚生労働省 国民健康保険制度

いずれも雇用型サロン時代は、差し引かれた状態で支払われていますし、年金に関しては半額を会社が負担していました。収入が上がると支払い額が増えるものもありますので、正社員時代以上に自分の収入と所得の管理をしっかりしなければいけません

この「自分の所得の管理をしっかりする」のが確定申告です。上記の支払額は所得に応じて決まりますが、医療費や他の保険支払い、寄付額など、一定の条件で「控除」もされます。確定申告をしないとこの控除額が適用されず、必要以上に税金や保険料、年金を支払わなければならなくなってしまうかもしれません。

正社員をやめて業務委託サロンで働くのは自由である一方、その分しっかりと自分の収支管理をしなければならないということです。

2023年3月が締め切り! 「インボイス」の準備はした?

インボイス制度とは、消費税率や消費税額、取引内容等を記した適格請求書(インボイス)の発行・保存を求める制度のこと。2023年10月から適用されますが、つまりは「請求書の書式が超ちゃんとして、税率を細かく載せなきゃいけなくなった」ということ。

わかりやすい制度の解説はこちらを参照いただきたいのですが、インボイス導入により、インボイスのない美容師に業務を委託した場合、サロンにとっては結果として納税額が増えてしまう可能性があります。
となると、美容室側は「免税業者ではなく、インボイスを発行できる課税事業者に発注したい」と思うはず。つまり、取引サロンから課税事業者になることを求められる可能性があります。課税事業者になると、美容師は所得税の確定申告に加え、消費税の申告も必要になります

自由に働けるからこそ長期的な人生プランを

最後の方はかなり難しい&すこし心配な話になってしまいましたが……。会社が支払ってくれていたものを自分で管理する必要があることを知り、そのうえで自分がどちらを選ぶか?ということが大切だと思います。

自分でお金の管理をより細かくしなければいけないのは、一見面倒なようで、自分の収支がよく理解できるきっかけともいえます。一見今は満足だけど、将来結婚して子供がほしいとか、働き方をセーブして趣味に費やしたいとか、ライフプランによっては少しずつ増収して、貯蓄をしなければいけなくなるかもしれません。いつまで今のペースで働けるか?ということも考えなければいけません。

こうやって将来のことを考えると、意外と今以上に売り上げなければいけないかも……?という答えにたどり着く人もいるでしょう。それで焦る必要はなく、見方を変えれば「自分の目標を自分で決められる」ということ。

正社員サロンではサロンが決めた売り上げの目標を課されますが、自分の目標や目的から逆算して、どのくらい売り上げるか、そのためにどのくらい成長すべきかをさだめることができます。

単に好きなときに働けて好きなときに休めるという「自由」だけでなく、自分の人生をどう設計するかも「自由」。だからこそ、しっかりと人生設計をして将来に備えることも必要で、それが人生をますます充実させることになるはずです。

ななしま
執筆者
ななしま

直毛一族の末裔。毛髪科学、色彩学、財務が得意です。好きなものは宝塚と世良真純、さらば青春の光。

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