次世代が考える“事業承継”赤裸々トーク
パワーズの座談会から、事業承継の新たな形を探る。
進む、親族“外”継承
関西で美容室を多店舗展開するPOWERS Group(パワーズグループ)の幹部は現在33歳〜38歳。
すでに事業承継が進みつつある会社、数年のうちに事業承継が行われそうな会社など各社の状況はまちまちだが、事業を承継する年齢や承継先の考え方が大きく進化していそうだ。
POWERS Groupとは?
関西で多店舗展開する美容室のグループ。加盟サロンはAVANCE.、brace、MODE K’s、Lee、VIVIT、Diva。
合同でフォトコンテストやシャンプーオリンピック、優秀なスタッフを表彰するアワードを開催。FCオーナー会議や店長会議など、キャリア別に店舗の成績や成功事例を報告し合う定期ミーティングも行っている。
今回、座談会に参加してくれたのは美容室4社、5名。オブザーバーとしてタカラベルモント 大阪営業所 所長の辻河雄治さんにも参加いただいた。
- Profile
- 檀原勇樹/だんばらゆうき
Lee(リー)ゼネラルマネージャー/大阪府大阪市
1986年12月21日生まれ。兵庫県出身。大阪中央理容美容専門学校卒業。2008年Lee入社。2012年店長、2022年2月本部ゼネラルマネージャーに就任。2025年を目指し、現在事業承継中。パワーズ理事長。
- Profile
- 片桐潤也/かたぎりじゅんや
AVANCE.(アバンス) 取締役/大阪府大阪市
1990年10月4日生まれ。長野県出身。大阪美容専門学校卒業。2010年AVANCE. 入社。2016年、FCオーナーとなる。直営9店舗を運営するFCオーナーでありながら、AVANCE.グループの美容室を運営する株式会社リトルバンブー全店の店舗運営も担う。2025年を目指し、現在事業承継中。パワーズ副理事。
- Profile
- 永井勇樹/ながいゆうき
MODE K’s(モードケイズ)マネージャー/大阪府池田市
1987年8月28日生まれ。大阪府出身。NRB日本理容美容専門学校卒業。2008年MODE K’s入社。2020年にMODE K’sのFCオーナーとなり、現在、美容室4店舗を運営。自社のみでなく、MODE K’sマネージャーとして、本部運営にも携わる。パワーズ副理事。
- Profile
- 中田恭平/なかたきょうへい
brace(ブレイス)営業マネージャー/大阪府大阪市
1986年3月13日生まれ。大阪府出身。高津理容美容専門学校卒業。2006年、brace入社。2021年にbraceあべの店FCオーナーとなる。現在、美容室1店舗を運営。本部では営業マネージャーとして本部運営も担う。パワーズ副理事。
- Profile
- 杉本悟志/すぎもとさとし
Lee(リー)人事部長/大阪府大阪市
1990年1月17日生まれ。大阪府出身。グラムール美容専門学校。2010年Lee入社。現在は人事部長として檀原氏をサポートする存在。
- Profile
- 辻河雄治/つじかわゆうじ
タカラベルモント株式会社 大阪営業所 所長/大阪府大阪市
1986年3月17日生まれ。大阪府出身。ヴェールルージュ美容専門学校、近畿大学を卒業後、2009年タカラベルモント入社。2021年より現職。2018年社内優秀社員セールス表彰。2019年株式会社リー 最優秀賞メーカー賞/最高昨年対比メーカー賞。2020年社内第1回ソリューションコンテスト最優秀賞受賞。パワーズ副理事。
美容室の事業承継パターン
M&AやIPOを行うケースが増えている近年の美容業界。自社で承継していくパターンの中では、親族内承継が大半だったこれまでと比べると、親族外承継も増えつつある。
・親族内承継(子供や親族に承継)
・親族外承継(役員や従業員に承継)
・M&A(資本の移動を伴う企業の合併と買収)
・IPO(新規公開株式。株式の所有が少数株主に限定されている未上場会社が、新たに証券取引所に株式を上場し、一般の投資家に向けて売り出す)
パワーズ各社ではM&AやIPOを考えている会社は現在のところ少なそうだ。
ではどれくらいの時期に、どのような事業承継をイメージしているのだろうか?
――各社、バトンを渡す時期はどのタイミングなのでしょうか?
うちは昨年、MODE K’sの創業者・金井武弘会長が60歳を迎えたときに、現在の中山政博社長にバトンを渡しました。
若手経営者を輩出していきたい考えが会社としてもあるので「60歳のタイミング」がひとつの基準になってきてはいます。
「本部運営に想いのある人が事業を承継して欲しい」という願いが金井会長にもあり、社長になる前から自社のFC店舗だけでなく、MODE K’sの組織そのものをどうしていくかという視点で行動している人間が中山だったと思います。
うちは具体的な事業承継の話に進むのはまだ少し先、2025年くらいが目処になるかと思います。
僕が現在のポジションである、本部のゼネラルマネージャーになったのは一昨年の年末に前任の社長が退任したタイミング。僕ともう2人が立候補して選挙を行いました。
昨年から店長や副店長などのマネージャー職は、基本的にスタッフからの投票で決めるようにしていて、僕の場合もプレゼンと7人のマネージャーによる投票を経て、本部ゼネラルマネージャーに選ばれたのが去年の2月になります。
braceはまだ誰が承継していくかがまだ決まっていない状態ですね。現在の中川佳典社長は中川好一会長のご子息で5代目。2010年に社長を交代しました。社長が60歳になるまであと6年あるので、徐々に話し合いがスタートしている段階です。
うちは今年、現会長の小竹唯央から、現社長の小竹知美にバトンタッチした形です。次の世代への承継の話もスタートしていて、うちもLeeさんと同じくらいの2025年を目指して承継できたらと考えています。
――以前、片桐さんが「周りから言われて社長になるのではなく、自ら事業を承継する意思を持った人が継いでいく組織であるべき」というお話をされていたのがとても印象的でした。
僕自身は社長になりたいというよりは、せっかく男に生まれてチャンスをもらえるなら、組織のトップを狙っていくことは諦めてはダメだなと、常に思っていました。
小竹会長や現社長に会える機会があれば、25歳くらいのときから「僕はこの会社を継ぎます」と伝えていましたね。
僕は社長になる目標はないんですよね。親族以外の人間に社長が変わることを考えたときに、相当な覚悟がないと難しい。
僕自身はまだ到底、その器でもないなと考えています。
でも、金井会長や中山社長の側で自分を育てて、新しい形の社長像をつくっていくことが、その次の20年のバトンを継承していくことにつながるとは考えています。
株や資金面も任せてもらえるようになったときに、本当の意味で充実した社長になるのかなと思うので、「社長の座」を狙うというよりも、誰のため事業を継ぐのかということを自分の中で固めていきたいですね。
事業承継における課題とは?
――事業承継における課題とは、どんなことですか?
たくさんある決裁権の移行が難しいですよね。
はい。資金調達や会社運営におけるノウハウを得るのにも時間がかかると思います。
世代交代したときに会社が示す方向性と、FCオーナーやその他の幹部の考えが合意するかも課題です。
こういったさまざまな課題もあるから、事業継承するケースよりもM&Aでバイアウトするケースの方が最近は多く聞きますよね。
うちの課題は、まだ誰に承継するかが決まっていないことですかね。
親族内継承になる可能性もあれば、親族外継承に変わる可能性もありますし、一旦、親族外の人間が継いで、数年後に、親族内承継に戻す可能性もあるので、株の権利を継ぐのはなかなか難しいかなとも思いました。
株云々の話よりも、決定権をどこまで譲渡できるかが本当は大事なことかもしれないですよね。
――事業承継における課題について、杉本さんは檀原さんを近くで見ていてどうでしょうか?
そうですね。近くで檀原を見ていても、どれだけ決定権を持つかということには苦しんでいるのではないかと思いますね。
どの企業でもそうだと思いますが、代替わりして、いかに自分の色を出すのか。先代が築いてきたものを踏襲するのか、壊すのかの判断は責任が伴う分、一番難しいんじゃないかなと思います。
逆に代替わりしたことで会社が活性化したのは、スタッフに対しての還元を多くできるようになった点です。
もともと取り組んでいたことではあったのですが、幹部が若返ったことでスピード感が増したと思います。
僕らの意思を尊重して事業を動かさせてくれるので、責任感ややりがいが圧倒的に変わりました。
若い世代に承継することの意味
――皆さんは、何のために 若いうちに事業承継する必要があると思いますか?
組織のリフレッシュ化がやっぱり一番大事なのかなと思います。
創業者世代と僕らでは美容業界に入ったときの状況も違うし、ビジョンも違います。さらにこれから入社してくる世代には創業者のビジョンが直接的に伝わりにくい部分もあると思うんです。
けれども、僕らは小竹会長の意志を尊重して、それを「つないでいきたい」と思ってくれるように若手スタッフには伝えていかないと。僕ら世代が伝えていくことが、会社としてもよいのではないかと思います。
同世代のメンバーで今、幹部をやらせてもらっていますが、スピード感も早いし、若い世代への伝わり方が違うのかなとは思いますね。
店長や副店長にもやる気があれば幹部になれるという未来像を見せられている点も若手に承継して良かった点です。
自分もパワーズの副理事として、皆さんと一緒に活動する中で感じているのは考え方がものすごく柔軟ということ。やわらかさを持っているところがこれからの時代のリーダーとして選ばれている理由なのかなと思います。
若くしてFCオーナーの立場の方も多いので、どうしても数字ばかりを追ってしまいそうなんですが、数字だけでなく人を大切にしていて、そのバランスがすごく取れてる方々だと思い ますね。
――代替わりするにあたり、会社の理念をどう浸透させていますか?
Leeは経営理念を昨年つくりなおし、今、その理念を浸透している過程です。
会社の向かう先を示す上で、良い機会になったと思います。
うちは中山社長に代替わりしても、会社の理念は変えずに、内側のやり方を徐々に変えている形です。
若いメンバーのアイデアをどんどん吸い上げていきたいというのが中山社長にもあるので、これまで第1世代がつくってきたものを30代後半の第2世代がつなぎ、軸となる理念はブラさずに、さらにその次に待っている20代の人材も今後は伸ばしていきたいですね。
退社率が一時期、高いときもあったんですが、どこでやっても自分次第だから、辞めずにに残って何ができるかというマインドが広まって、若い世代が中心になって、いろんなプロジェクトを動かしつつありますね。
今がんばってくれている若手スタッフをどれだけ残していけるかが、僕らの課題の1つでもあります。
僕は会長がつくった理念をもう一度会社に浸透させたいという想いも強いですね。
会長は2代目なのですが、どういう想いで会社を大きくしたのか。そのときの想いを今僕らが受け継げてないのはもったいないと思うんです。
それは僕ら世代が取り組むべきことの1つだと考えています。
うちの会社の理念は「初心・謙虚・志」。人として大切な根幹の部分は変えずに、会社を大きくしていくためのシステム面の改善は今後どんどん行なっていきたいと考えています。
ーー代替わりしたときに変えたい部分はどんな点ですか?
具体的にはホールディングス化やFCの制度の見直しなどです。会社を拡大していくために必要な部分は変革していきたいと考えています。
うちもFC制度は今ちょうど作り直しています。
若い美容師が夢を持てる仕組みにしていかないと、これからは難しいですよね。
今は情報を若いうちからみんな持っていますので、「将来はLeeでFC加盟したい」と思ってもらえることが大前提だと考えています。
もちろん、その改善にはロイヤリティ比率や契約年数なども含まれてくると思います。
そうですよね。ロイヤリティ比率もですが、本部としてはロイヤリティを払っただけの価値をFCに返却し、FCにとってのメリットをつくることも大事になるので、そのメリットの部分を現在、構築しているところですね。
うちはFCが成長して今があり、これ以上それぞれのFCが成長していくのは難しいだろうと思うので、FCの卒業先を考えることをこれから取り組みたいと考えています。
たとえば本部でFCの会社を買い取って本部店舗にしていく形も1つですし、FCの代替わりを起こしたいですね。
あと今後は本部の方でいろんなパターンの出店を考えていきたいです。たとえば髪質改善メニューに特化したサロンなどブランド化を図って、その成功事例をもとに FC加盟各社に特化サロンのパッケージを選んでもらえる形を模索していきたいです。
FCは運営していて不安もあると思う。「一緒に頑張ろう」と手をつないでいく作業を誰かがしないといけないし、それが本部だと思うんですよ。そうしてFCが新たなFCを生み、組織が活性化していくのが理想ですよね。
うちは中山社長の代になって、地方出店を見据えて動いています。たとえば、直営店としてエリアマネージャーを立てて、そこからエリアごとにFC制度をつくっていくのも良いかなと。
あとは関東エリアの店舗拡大。現在は関東エリアは10店舗 どまりになっていうので、関西で50店舗、関東で50店舗、合わせて100店舗というのは目標として持ってはいます。
長く勤めてくれている社員もたくさんいるので、これまで貢献してくれたベテランを集めたサロンも必要になるかなと考えています。
今は会社を越えた美容室同士の業務提携が増えているし、若手スタッフはそういった情報にも敏感なので、MODE K’sで頑張った先の未来を若いスタッフにはもっとこだわって見せていきたいというのもありますね。
座談会を終えて
ーー今回の座談会を振り返っていかがでしょうか?
うちで言うと後継者決めが難しい問題ではあります。決めてくれるのを待つのではなく、自分から行動したり、こちらからも寄り添わないといけないなと改めて感じました。
Leeは同世代の幹部が多く、杉本のように人事関係のすべてを担当してくれるなど、それぞれ役割を持ってやっています。
自分たちの進むべき道をストレートにぶつけて、1つずつ結果につなげていく。その積み重ねでしかないのかなと思っています。
トップの器で店舗数は決まるんじゃないかなと思っているので、自分自身が勉強し続け、簡単に超えられない存在にもっとなっていこうと感じました。
新しいMODE K’sを考えたときに、やっぱり先代の偉大さがあるわけですよ。僕らは「脱・金井会長」をやらないと、きっと金井も本当の意味で次世代に任せられへんよなと思っているんです。
金井会長はすごかった、中山社長はすごかったと過去のMODE K’sの話ばかりにならないように、僕ら世代も地に足つけて組織運営し、新しい組織をつくらんと! とは思っていますね。
経営者の方々の課題は、後継者を見つけることが一番難しかったりしますよね。
なぜ難しいかというと、自分よりもできる人を多く近くにおけたかというと、それがなかなかできないタイプの経営者もいますし、「やっぱりこの人だよね」と全員から認められる人を探すのが難しいのだと思います。
けれども美容業界の次の時代に向けて、自分以上の経営者を輩出しようとしている経営者も出てきていますよね。
私たちの世代、30代というのは挑戦と安定のバランスがうまく取れている世代だと思います。恐らく、挑戦世代と安定世代のどちらも見てきた世代だから、挑戦と安定のバランスが取れているんだと思います。
このバランスの取れた世代だからできる経営があると思うので、これからもっと美容業界の未来を感じる事業承継が進んでいけば良いなと思いますね。
パワーズの事業承継まとめ
4サロンが参加した事業承継について語る座談会。パワーズの事業承継の考え方をまとめると・・・
【パワーズの事業承継】
・事業承継がここ数年で進む会社が2社
・60歳がひとつの事業承継タイミングになっている会社も
・すべての会社ではないが、パワーズでは親族外承継が進んでいる
【パワーズの若手幹部が考えていること】
・若い世代に夢を持てる仕組みづくりが必須
・組織のリフレッシュ化が必要
・理念を浸透させながら、システムは今後も変革させていく
現在、理事や副理事を務めている幹部を中心に、世代交代が進んでいきそうなパワーズグループ。
代替わりした後にどう会社を運営していくか、目的ややりたいことがそれぞれ明確な印象で、世代交代を待つのではなく、自ら動いていくタイプの幹部が揃っていた。
パワーズグループでは今後も切磋琢磨しながら、お互い飛躍するための情報交換や議論を行っていくという。
【座談会に参加したサロン情報】
- Salon Information
- AVANCE.(アヴァンス)
会社名:株式会社リトルバンブー
創業:1992年
代表取締役会長:小竹唯央
取締役社長:小竹知美
店舗数:ヘア29店舗、ネイル7店舗、アイ4店舗
スタッフ数:350名
住所 | 大阪府大阪狭山市大野台1丁目1-3 |
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- Salon Information
- brase(ブレス)
会社名:株式会社ハーベン
創業:1927年
代表取締役社長:中川佳典
店舗数:18店舗
スタッフ数:170名
住所 | 大阪府大阪市東成区大今里 3-15-21 |
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- Salon Information
- Lee(リー)
・会社名:株式会社Lee
・創業:1990年
・代表取締役社長:眞城照央
・店舗数:ヘア18店舗、ネイル5店舗
・スタッフ数:200名
住所 | 大阪府大阪市中央区北浜東4-33北浜ネクスビル17F |
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- Salon Information
- MODE K’s(モードケイズ)
・会社名:株式会社モードケイズ
・創業:1995年3月
・代表取締役会長:金井武弘
・代表取締役社長:中山政博
・店舗数:52店舗
住所 | 大阪府池田市石橋2-16-6モードケイズビル4F |
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