高齢化社会や人口減少に伴って注目を集めているの「訪問理美容」。近年では、美容学生にも興味を持つ人が増えているといいます。
しかし、訪問理美容はどんな人でも利用でき、誰でも携われるわけではなく、利用できる条件などが決まっています。この記事では、訪問美容に携わりたい美容師さんに向けて、必要な手続きや業態の例を紹介していきます。
訪問美容って何? どこに行ける? どんな人が利用できる?
訪問理美容とは
さまざまな事情で理美容室に出向くことができない人のために、自宅や病院・介護施設などに理美容師が訪問して理美容のサービスを行うことです。
普段理美容室で行っている美容行為を、事情がある場合に限り「出張」して行うことができるというサービスです。
逆にいうと、特段の事情がない限り、美容師法で定められた理容所・美容所以外の場所でサービスをするのは禁じられていますので注意!(※衛生上の理由からです)
なぜ今訪問美容が注目されている? 新規参入する理美容室が増えている理由
「訪問理美容」が注目を集めている理由は、高齢化社会や人口減少といった時代の大きな流れが背景にあります。ですが、それだけではありません。
平成28年(2016年)に理容師法と美容師法が改正され、訪問理美容を利用できる「さまざまな条件」が明確化され、対象範囲が拡大されたというのが直接的な原因です。
- 美容所以外の場所で業務を行うことができる場合(美容師法施行令 昭和32年法令第277号より一部引用抜粋)
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第四条 美容師が法第七条ただし書の規定により美容所以外の場所において業を行うことができる場合は、次のとおりとする。 一 疾病その他の理由により、美容所に来ることができない者に対して美容を行う場合 二 婚礼その他の儀式に参列する者に対してその儀式の直前に美容を行う場合 三 前二号のほか、都道府県(地域保健法(昭和二十二年法律第百一号)第五条第一項の規定に基づく政令で定める市(以下「保健所を設置する市」という。)又は特別区にあつては、市又は特別区)が条例で定める場合
これが元々の法律の条文です。つまり、訪問理美容を利用できる人は以下の3パターンでした。
1 疾病などが理由で美容室に行けない人
2 結婚式や成人式、卒業式などの会場でのヘアメイク
3 山間部など美容室が著しく少ない特別な地域
平成28年の法改正によって、この1の条件に当てはまる人はどんな人かが明確になり、疾病以外の理由も条件に追加されました。
- 理容師法施行令第4条第1号及び美容師法施行令第4条第1号に基づく出張理容・出張美容の対象について
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(1)疾病の状態にある場合のほか、骨折、認知症、障害、寝たきり等の要介護状態にある者であって、その状態の程度や生活環境に鑑み、社会通念上、理容所または美容所に来ることが困難であると認められるもの (2)自宅等において、常時、家族である乳幼児の育児又は10度の要介護状態にある高齢者等の介護を行なっている者出会って、その他の家族の援助や行政等に夜育児又は介護サービスを利用することが困難であり、仮に、自宅等に育児又は介護を受けている家族を残して理容所又は美容所に行った場合には、当該家族の安全性を確保することが困難になると認められたもの
つまり…… 基準が明確化し、対象が広がったのは次の人たちです。
1 疾病以外に、怪我や認知症、障害などで動くことが困難な人
2 ワンオペで育児や介護を行っており、外出が困難な人
本人の病気や怪我だけでなく介護をしている人や、育児で自由な時間がない人も利用できるようになったとあり、これまで以上に多くの人が訪問理美容を必要とすることに。
「訪問理美容」に注目が集まっているのは、こういった急激なニーズの拡大が背景にあるんですね。
訪問美容に携わるには
では、訪問理美容に携わるにはどうしたらいいのか? 特別な資格が必要なのでしょうか?
結論からいうと、訪問理美容の現場で働くのに必要な資格そのものは「理容師免許・美容師免許」だけでOKです。
しかし、前項(1)の要介護状態のお客さまに向けたサービスに従事したい場合、基礎的な介護知識を勉強しておくのがベターだと思います。施設に訪問したい場合は、医療や介護の専門用語を知っておかないとコミュニケーションが難しくなるかもしれません。
国が定めた資格は理容師・美容師の免許のみですが、訪問理美容の現場で役に立つ資格もあります。
・訪問福祉理美容師(一般社団法人 日本訪問福祉理美容協会)
・福祉理美容師(認証NPO法人 日本理美容福祉協会)
こういった資格取得を目指すことは独学よりも勉強しやすいですし、訪問先からの信頼を得られるというメリットもあります。また、実践的な講習や実務サポートのサービスも備えているようです。
訪問美容師として働ける場所は?
最後に、どこで訪問理美容に従事できるのかを紹介していきます。それぞれメリットと難しい点があるので、自分の求める働き方や能力に応じて検討してみてください!
❶ 訪問美容専門の企業
メリット
・訪問美容に特化しているので取引先が多く信頼も得ている
・専門的なノウハウがあり、教育も手厚い
難しい点
・サロンワークと両立した働き方を想定する人には不向き
・介護的イメージが強く、オシャレ感やヘアやメイクのクオリティを追求したサービスをしたい人には不向き
例
★妊婦や産前・産後ママ向けメニューも! 全国No.1チェーン「髪人」
★地域密着で30年 信頼とノウハウの蓄積「D.I.C Corpration」
❷ 訪問美容部門がある美容室
メリット
・サロンワークの経験も積むことができる
・地域で美容室としての知名度があれば「おしゃれにしてもらえる」というイメージが強みになる
難しい点
・サロンワークと訪問美容の働き方のバランスは各社条件が違うので要確認
・新規参入事業の場合、取引先が少ない可能性がある
・営業は専任担当者がいるのか? 美容師自身がするのか? 確認が必要
例
★訪問美容事業15年の実績、アカデミーも運営「TOMY‘S STAR」
★サロンワークと訪問美容の両立を目指すなら「KENJE GROUP」
❸ 個人的に活動する
メリット
・自分のペースでサロンワークと訪問美容のバランスをコントロールできる
・サロンワークで獲得した顧客と生涯お付き合いしていくことができる
難しい点
・取引先拡大をしたい場合、自分で営業をする必要がある
・病院や施設へ訪問したい場合はかなり難しい
例
★地域おこし協力隊で築いた人間関係を糧にサロンワークと訪問美容事業を両立する 美容屋youi
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訪問理美容は、これからますますニーズが拡大していく分野だと思われます。市場の拡大とともに、衛生目的の理美容行為から、見た目を整えることによって心を満たしクオリティオブライフを上げるための美容行為へと進化していくでしょう。
今から興味がある人はもちろん今すぐに興味がない人も、長い美容師人生の中での選択肢の一つとして、ぜひ参考にしてみてください!