GOALD米田星慧の「もしも僕が専属マーケターだったら!?」★Vol.1 小林由美子[La Blanche代表]
人気メンズサロンGOALD(ゴールド)のCMO米田星慧さんが「もし専属マーケターだったら?」という視点で、注目サロンの課題解決のアドバイスをするトーク連載。
ヘアサロンの「対面ビジネス」に特化したマーケター的経営視点で、ゲストのお悩みを解決していきます!
埼玉県で「レンタルドレスサロン×美容室」を経営する女性経営者!
――連載初回のゲストは、米田さんが「今美容業界で一番尊敬する!」という女性経営者・小林由美子さんです。
- Profile
- 小林 由美子
La Blanche代表
1987年9月30日、埼玉県生まれ。レンタルドレスサロンに勤務し、入社1カ月で「美容室とレンタルドレス事業」をコラボレーションする業態を構想し、実現に向けて奔走する。着想から約4年後の2017年8月にLa blancheをオープン。美容師である共同代表の吉野秀樹氏とともに、大宮駅を中心にレンタルドレスサロン併設の美容室・アイラッシュサロンを4店舗展開。
- Instagram : @yumicokobayashi
- Salon Information
- La Blanche
ヘアメイクとブライダルや成人式などのレンタルドレスサロンを併設した美容室・アイラッシュサロンを展開。頭皮ケアにフィーチャーしたブランドやパーソナルカラーアナリストが在籍するサロンなど、女性の「なりたい」に対応するコンセプトのサロンをドミナント展開する。
住所 | 埼玉県さいたま市大宮区大門町1-18 キムラヤビル4F |
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MAP | Google map |
小林さんは美容師経験はないんですよね。だからこそ、美容業界の常識に囚われないビジネスモデルでサロンを運営し、成長している会社。La Blancheさんのビジネスモデルは、これからの美容業界の「こうあるべき」が詰まっていると思っています。
そんな、恐れ多すぎます……! でも、美容師じゃない視点で疑問に思ったことを仕組みづくりに活かしているというのは、指摘していただいたとおりです。
――たとえばどんなことでしょうか?
たとえば、指名売上という仕組みとか。指名売上とは、美容師さん本人がバリバリ頑張れるうちは良い仕組みだと思うのですが、ライフステージの中で「そうでないとき」に難しい仕組みだなと感じていました。そこで、指名売上はなくし、1人のお客さまを美容師複数人で担当するオペレーションにしました。
――お店に顧客をつけるということですね。
はい。La Blancheは、働くスタッフ全員が美容を楽しみながら、生涯働き続けられる場所にしたいんです。特に、女性が一生働ける場所をつくり、もっと素敵な業界、素敵な社会にしていきたいなと思っています。
すべての解説は割愛しますが、ブランディングから教育まで、小林さんのお店のビジネスモデルは完璧で、今後美容業界の基準になっていくと思っているんです。
創業6年、めざすビジネスモデルに合う人材をどう雇用する?
――そんな小林さんの感じている、経営課題を教えてください。
採用と雇用です。これまで弊社はすべて中途採用で増えてきたのですが、去年くらいから中途の応募者が頭打ちになってきたと感じていまして……
対策としては、美容師からアイリストへ転向を希望する人にターゲットを変えたり、個人事業主として契約する働き方や、独立支援をしたり……ということを考えてはいるのですが、それでいいのかな? 何をしたらいいのかな? と迷っています。
なるほど。中途の求職者もそうですし、美容学生の数、そこから美容師になる人も減って来ている今、これまで通り募集しても採用できる人数には限界を迎えますね。エリアで強いサロンであれば求人できる時代は終わり、良いサロンでも採れないという現象は全国で始まっていると思います。
やはりそうなんですね。
にもかかわらず、良いスタッフを継続して採用していかなければならない。小林さんが想定している対策、個人事業主や独立といった自立した働き方を想定するのであれば、最初の採用の段階からバイタリティや思考力がある子を見極めなければならないですよね
確かに……。そのとおりです
さらに、オープンから5年くらいすると採用フェーズが変わると僕は思っていて。
うちは創業6年です! どう変わるんでしょうか。
会社内部で、ビジョンや仕組みにしたがって成長していく人と、そこにハマらない人とが出現してきます。大企業などでは、予想外のヒットを生み出すために一定数「ハマらない層」を離脱前提で採用したりすることはありますが、このコントロールはとても難しくて。
小林さんが描くビジネスモデルでいうと、その思いを理解した上でサポートを受けて個人事業主になったのに、会社に対して批判的な姿勢に変わってしまうとか……。そういう懸念があります。
なるほど……。なんとなく雇用に対して迷いを感じていましたが、時代背景としても会社の成長段階としても、そういう時期なんですね。
これからの経営は人事が超大事です。小林さんが描くビジョンに対して「人事設計」をめちゃ細かく考える必要があると思いますね。
人事設計とは「社長の想い」を「会社の言語」にすること
――「人事設計」とは、具体的に何をすればいいのでしょうか。
小林さんが描くキャリア設計を聞いていると、要はスタッフ自身が「なりたい未来のために必要なものを自分で手に入れよう」という概念なのかなと思ったんですけど。
そうですね。詳しく言えば、女性の雇用を自由にしたいという思いがあります。出産や育児で仕事に制限を感じたりすることがないような……。アイリストやエステティシャンなら環境さえつくれば自宅でもできるので、そういうことも想定して個人事業主という選択肢を用意してあげたいな、などと。
この発想もおもしろいですよね。美容師にはない視点!
創業からこれまでは、その強い思いに加えて小林さん自身のカリスマ性で、そこに共感する人を集めれば採用できたのではないかと思うんですが。これからは、組織のスタッフがどうなっていきたいかと、小林さんがどうつくっていきたいかをすり合わせていくことが必要だと思います
なるほど……! 何をすればいいんでしょう?
まずは、小林さんの思考や想いを分解して言語化することです。小林さんの頭の中で描かれることが、直属の幹部に伝わり、さらにスタッフに……と一年目にまでクリアに伝わり、‟共通言語”として本人たちが使えるようにならなければいけません。
このレベルに行かないと、いつまでたっても小林さん自身が全員に語らなければいけないし、スタッフが会社に不満を持ったとき、会社の仕組みじゃなくて小林さん自身に矢印が向いてしまうんです。
いまだに毎日全店舗に行くようにしていたり、Instagramでのコミュニケーションを通して、言葉を伝えることはとても大切にしてきました。
みんなで夢を話すことは苦にならず、好きなタイプなんですが、忙しさの中で波が生まれてきたら怖いなと感じているところではありました。
組織が大きくなってくると、経営者から幹部、幹部から現場と落とし込んでいくときにコミュニケーションのズレが発生しがち。なので、直接伝えたいという感覚は間違っていないんですけどね。しかも、美容室では目標や目標に対する「How」が数字だけじゃなくて言語でないと表現できない部分もありますし。だからこそ共通言語が大切になってくるんです。
縦の意思疎通だけでなく、美容師とアイリストという価値観の違う職種のスタッフも抱えているので、コミュニケーションは常に課題に感じています。会社を分ければ楽なのかもしれないけど、「分かり合えるはず」という想いがあって。
女性の雇用環境を良くしていきたいなら、「分かり合う」というのは諦めたくないなと……。会社の利益を全員で追い、全員で分配する「お互いさま」という会社にしたいので、想いの交通整理をきちんとしていかねばと痛感しました。
会社がスタッフに提供できる価値は? 「What」を見つけよう
――小林さんの想いを分解して言語化するとは、どういうことでしょうか。
小林さんにとっての悩みや目標に対する解決策(=How)は、幹部たちの目標になり、幹部たちのHowがさらに後輩や部下の子たちの目標になり……。という感じで落とし込んでいきます。そうすると、下のスタッフにとっても、今まで小林さんからかけてもらっていた「言葉」が、自分の言葉として扱えるようになるんです。
冒頭で、La Blancheさんはビジネスモデルが素晴らしいと言いましたが、小林さんって「How設計」の天才なんですよ。マーケティングでは「5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・どのように)」のフレームワークで状況把握をするのですが、小林さんは特に課題解決の手法が的確で最強。
「女性として輝ける人生や職場」というのも、スタッフに「How」を提示しているんですよね。だから、この次のフェーズでは「What=何を提供するか」を設計していくといいんじゃないかなと思います。
Whatかぁ……。Whatってどうやって設計すればいいんでしょう。
切り口を変えて、「What」はスタッフの中からを引っ張り出すんです。たとえば、GOALDのWhatは「自分に気づかせる×自己肯定感」なんですが。GOALDを通してお客さまが自分に気づき、前を向けるためなら「髪を切る」だけじゃなく何をしてもいい、としています。だから、スタッフに対して「ハサミをおいても稼げる」というWhatも提供してるともいえます。
では、このスタッフに対するWhatの根拠は何かというと、うちのスタッフは「世間一般でいう”美容師”とは違う生き方がしたい」という気持ちが共通していたんです。美容師ではなくアーティストとして活躍したいとか、女優さんと付き合いたいとか、表に出てきている「こうなりたい」の奥にあるものを言語化したら要はこういうこと、という感じです。
スタッフから聞き出していくんですね。
小林さん自身は、スタッフにとってLa Blancheはどんな会社だと受け取られていると思いますか?
そうですね……「賢く生きてほしい」というのは伝えていて、定義しているんですけど……
なるほど。では、スタッフに「賢く生きるってどういうこと?」と聞いてどんな答えが返ってくるか、ということです。よく掘り下げると、うちの「世間の美容師と違う生き方がしたい」みたいに、根底にあるものが共通していたりするので!
なるほど、それには少し心当たりがあって……。私にとっての「賢い」とは、たとえばいかに所得が増えるか、同じ時間働いて、引かれる額を抑えて手元に残る額を増やせるか……ということが1つあるんですが、説明しても伝わり方に温度差があるなと感じていました。
賢さを感じる定義が人それぞれ違うんですよね。それを紐解いていくのがWhat設計です。うちのスタッフが「自分が賢いと感じる瞬間」だったら、他の美容師が使わないような横文字のビジネス英語を使っているときとか、クラブでかっこよく知識を披露して女の子に「頭いいね」と褒められてるときとか。そういうシチュエーションが思いつきますけど……
かわいい(笑)。そういうのも「賢い」になるのか。想像していなかったです
Whatを引き出すのに経営者がすべきは「自然体」の対話環境づくり
一人ひとり面談して拾っていくのがいいんでしょうか?
いえ、Whatって「自然体な瞬間」にしか導き出していけないんです。これがかなり難しくって、たとえば、マクドナルドの「サラダマック」の失敗というマーケティングの落とし穴の事例があるんですけど……
サラダマックの事例
マクドナルドが2006年、顧客調査での「体にいいものが食べたい」「ヘルシーなものが食べたい」という多数の意見から、健康志向の「サラダマック」を開発。しかし、顧客調査のデータに基づいたにもかかわらず、サラダマックはヒットせず。
顧客はアンケートですら「自分を良く見せたい」気持ちが働き本音を書かないケースもあること、マクドナルドそのものに求められているインサイトの分析が不足していたことなどによる失敗マーケティングの事例。
誰にも見せないアンケートですら、本音と違う結果が出ることがあるというマーケティングの教訓的な事例なんです、これ。
この失敗例からもわかるように、スタッフの心の内側を引き出すのは、社内のミーティングや面談、さらには小林さん自身との面談だと難しいはずなんですね。
ええ~……。実際に、コミュニケーションは密に取ってきたつもりでしたし、さらに何をしていけば……
他のスタッフに聞いてきてもらうんです。それも、聞くことも、自然体になるシチュエーションも全部指定して。うちのスタッフなら「クラブ近くの、今からクラブに行きそうな女の子が来る焼肉屋で、女の子の話をしたあとに『最近仕事どうなの?』と切り出し、最終的にはいっしょにナンパに行け」みたいな感じで!
そこまで!すごい(笑)。
ここまで自然体になれるシチュエーションづくりをすると、かなり精度の高い声が上がってきますよ。スタッフを仲の良いグループで分けて、その中の幹部や年長の子たちに任せるイメージですね。今スタッフ何人ですか?
30人ですね
30人だと8グループくらいかな。クロスオーバーして面倒見れる先輩もいたりすると思うので、実質5人くらいの先輩スタッフに任せれば全体の意見を吸い上げることができるかなと思います。
コミュニケーションを人に任せるのはどうしても抵抗があったので、考えさせられます。美容師さんのこともよくわからないし、思った以上に美容業界は男社会だし、「負けたくない!」という気持ちが強くて、全部自分で完結したいと思っていて……。
小林さん本人のポテンシャルが高いからマンパワーで余裕で勝ててきたんですよね。ここから5年は、その‟魂”をどう分けるかというフェーズなんじゃないですかね。
なるほど~! 自分で全部把握しておきたい一方で、教育や雇用を感覚値でやっている人が多いのは「違うんじゃないかな」と思っていたから、大きなヒントになりました。
美容師って‟感情”を扱うビジネスだけど、人の心って数値化できないじゃないですか。だからこそ、感覚頼りではなく感情を言語化するのがとても大事。
僕は、社員とのコミュニケーションにはいくらかけてもいいって幹部に伝えています。コミュニケーションに手間暇かけてスタッフの声を吸い上げて、会社の価値や仕組みを設計していくのって、実は「マーケティング」重要な役割なんです!
マーケター米田の結論!
① これからの時代、「ビジネスモデルに合った人」をねらって採用できる人事設計が超重要!
② 人事設計のタネは社内にあり。「会社が提供する価値=What」を引き出す!(福利厚生や目標・ビジョンはHow。Whatはもっともっと深いところにある!)
③ Whatを引き出すのは「自然」なシチュエーション。経営者はその環境を徹底してお膳立てすべし!
小林さんの採用・雇用の悩みは、組織内の潜在的な「どうなりたいか」を掘り下げていくべきときだという‟サイン”になっていたんですね。
さらなる採用難が見込まれるこれから、採用のマッチングを上げるには「会社の価値(=What)」を見つけ出し、共通言語化していくこと。人材定着や教育にマーケティング的思考が活かせるのは目からうろこでした!
- Profile
- 米田星慧
GOALD CMO
1993年、神奈川県出身。国際理容美容専門学校卒業。中村トメ吉代表率いる人気メンズサロンGOALD[ゴールド/東京・渋谷]のCMO。人気美容師としての実績と本格的なマーケティングの知識でを積み重ね、美容室発の”対面ビジネス”に特化したマーケティング理論を構築。同社直営店・CCサロンの運営やスタッフ教育、商品開発に携わりながら、マーケターとして美容師から他業種まで100以上のコンサルティング実績を持つ。高校の校則改革など、美容業界の固定観念にとらわれないアプローチで信頼と支持を集める。著書に『15分後 最高にかっこいい自分になる 』(1万年堂出版刊)。大の映画とプロレスファンで、特にMARVEL映画に対する造詣は絶対誰にも負けないと強い自負を持つ。
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