「縮毛矯正」「酸性ストレート」「酸熱トリートメント」・・・どこからどこまでが髪質改善? いろいろあるけど何を使ったら良い?
「とりあえず、流行りに乗っかっておけばOK」と思っていたら、ちょっと危険。
それは自分たちの手で、ここ数年の美髪ブームを継続性のない文化にしてしまう可能性すらあるのです!
「髪質改善」という言葉ですべてを一括りにしているけれど、本来は髪質や目指す質感によって薬剤を使い分けるべき。そう警笛を鳴らすのは『クセ毛の味方』(髪書房刊)を上梓したクセミカから上原聡良さんと野坂信二さん。そして、若手実力派のnex the salon 宮本栄一さんと、髪質改善メニューを軸に経営でも手腕を振るうPONO 茂木慎一さん。
4人の座談会から、今一度それぞれの施術の特徴を洗い出し、これからの時代の髪質改善について考えたい。
座談会の様子はこちらの動画から↓
元凶はメディア?
ーー縮毛矯正がいいとか悪いとか、酸性ストレートがいいとか悪いとか、メニューも増えて色々な呼び方が増えて、お客さまも美容師も混乱しがち。そろそろ「美髪メニューのごちゃごちゃ」を整理したいなと!
これ言ったらトゲトゲしく伝わってしうかもしれないんですけど・・・。そもそも、こういう議論になっているのが誰の責任かって言ったら、メディアの責任だと思うんですよ。
新しいトリートメントが出たときにキャッチさを出すためにネーミングをつけて、それをどこも使ったり、技術よりもインスタのフォロワー数だけ見てフィーチャーしたり。
お客さまはアイロンワークの上手い下手はわからないじゃないですか。露出の仕方で判断せざるを得ないお客さまを左右するメディアだからこそ、情報を統制する必要があると思うんです。
僕は今回クセミカのお2人にフィーチャーしたことで、髪質改善の未来に一番メスが入ると感じて、この企画に協力したいと思いました。
これもあれも髪質改善? と思うほどたくさんのメニューが増えた今こそ、情報を整理する必要がありますよね。
そもそも、ずっと「縮毛矯正」と「ストレートパーマ」の違いも統一できてないですからね。
僕が問題だと思うのは、縮毛矯正に合う髪・合わない髪があり、酸性ストレートに合う髪・合わない髪があるのに、みんな酸性ストレートに流れていて、酸性ストレートというワードが一人歩きしているということ。
酸性なのか、アルカリなのかは美容師が選べばいいだけであって、「引き出し」というだけ。どの引き出しを選ぶかは、クセの種類やゴールによるんですよね。
髪質改善の正解を出すことは難しいとは思いますが、未来につながる具体策が提案できる座談会にしたいですね。
縮毛矯正vs.酸性ストレート比較
ーー4人ともアルカリ矯正をメインで使っていますが、酸性ストレートを用いることはありますか?
酸性ストレートをやっていた頃はあるのですが、髪質によっては酸性で施術するよりも膨潤させた方が結果的に髪の毛に負担がかからないことも多く、今は酸性領域の施術よりも、アルカリや中性域で仕事を行うことが多いですね。
アイロンワークが上手い人は異次元級に上手いので、酸性ストレートを使いこなしている美容師さんももちろんいますが、個人の力量に左右されてしまったり、膨潤を伴わない分、クセが強い場合は満足のいく仕上がりにならないことが起きやすいのも酸性ストレートの特徴だと思います。
一方、アルカリを用いた縮毛矯正はどんなリスクがあるのだろうか?
縮毛矯正にも全くリスクがないわけではありません。
施術する人によっての薬剤選定や技術選定も考え方も違うので、ピンピンになったりビビリ毛になったり、緩かったり、カラーの色味に影響出たりなどもあります。
ブリーチや透明カラー、高頻度の白髪染のエイジング毛は特に事故に繋がりやすいケースがあるので知識だけではなく経験も重要です。
ゼロのダメージは不可能でも、限りなくそのダメージを少なくするために美容師の見極めと努力が必要な技術だと思います。
どちらかというと酸性矯正はアイロンワーク技術、アルカリ縮毛矯正は薬剤選定や毛髪診断能力の比重が高めに求められるところがありますよね。
中性〜アルカリ設定で起きやすいことは、髪質やダメージに対してオーバースペックになってしまう「過軟化・過膨潤あるある」。
塗布して間も無くテロっと軟化してしまって「早く流さないとやばい!」となって流すと、還元が足りてないからクセが伸びなかったり、その後の無茶なアイロンワークで熱焼けしてしまったりというのは、ほとんどの方が一度は経験していると思います。
結局、大切なのはバランス。
たとえば、チオグリコール酸が「南国の人」だったとしたら、GMTやブチロラクトンチオールは「北国の人」。
「pH=気温」「木を切る仕事=SS結合を切る力」だと考えましょう。
チオグリコール酸は「南国の人」なので温かい地域の方が働けます。
「南国の人」は暑くなっても元気なので作業効率がよいですが、「北国の人」を南国に連れて行ったらバテちゃいますよね。
「南国の人」は冬になったら「寒っ!」てなってあんまり動けなくなって(笑)、木を切る力が弱くなる。「100人連れて行っても=酸性の薬剤をたくさん入れて高濃度」にしたとしても、作業効率は悪い。
反対に「気温が低くても=pHが低くても」、「北国の人」はガシガシ働ける。
これがどの「気温=pH」で最も活動できるかを示す「活性領域」というもの。
自分が使う薬剤が「何の特性があるのか?」自分が使うpH領域に適しているか? これを知ることがバランス良く薬剤や施術を選定することにつながると思います。
【還元剤が活性化する領域を知ろう】
酸性領域で活性化する還元剤 (髪の表面にあるS-2結合を切断) | 中性領域で活性化する還元剤 (チオ乳酸はS-1、他はS-2を切断) | アルカリ領域で活性化する還元剤 (髪の奥にあるS-1を切断) |
ラクトンチオール(pH4〜6で活性)、 GMT(pH4.5~7.5で活性) | チオグリセリン(pH7~9.5で活性)、 チオ乳酸(pH7~10で活性)、 システアミン(pH6~9で活性) | チオグリコール酸(pH7~9で活性)、 サルファイト(pH10~11で活性)、 システイン(pH9で活性) |
どの薬剤を選ぶことも「悪」ではないです。
美容師さんがどう選択するか。
ラーメンも○○派だとか家系だとか、色々ありますよね。「自分たちがこれを推す!」と決めたら、その施術に合わせた技術を提供しなければならない。
還元剤を用いた美髪メニューは、技術体系ができているところがまだ少ないかもしれないですね。
技術の幅を知っておいた方が取捨選択ができるし、成功する理由より失敗する理由を知っていれば外さない。ストライクゾーンを広げることが最も大切なことだと思います。
カウンセリングで共有やすい、例え話あれこれ。
現在のところは「お客さまご本人が髪が改善された」と思えば、どんなメニューでも髪質改善。言ったもんがちの状況です。
そもそも「メニュー名で推す」のがよくないんじゃないでしょうか?
集客に使うためにメニュー名をキャッチーにするとかではなく、「髪を綺麗にする」という根底をブラさないことが必要ですよね。
野坂さんなんて、「野坂の縮毛矯正」としか言っていないですから(笑)。
僕はクセ毛を活かす仕事もしているので、髪質改善という言葉自体がクセ毛を否定してしまうように聞こえるなと。
その人が「何を求めているか?」が大切ですよね。
髪質改善したいとカウンセリングで聞いたとしても、クセよりも引っかかりが気になっているかもしれない。薬剤を使わず、トリートメントで解決できることもありますよね。
「自分のことをわかってくれる美容師さんに出会うことが髪質改善」なのだと僕は思います。
ーー皆さんはカウンセリングでお客さまが何を求めているか? を擦り合わせる際、どんな風に確認していますか?
僕はお化粧品にたとえます。
一重まぶたの人が二重にしたい場合、スキンケアしても仕方ないですよね。
「二重まぶたにしたいなら(形を変えたいなら)先に整形しましょう。それが縮毛矯正です」といった風に。
縮毛矯正は整形に、サロントリートメントはエステ、ホームケアはスキンケアにたとえて、「あなたのご要望に対して、これが必要なのでやりましょう!」という提案をしています。
僕も整形にたとえることが多いですね。鼻バージョンで(笑)。
鼻を高くしたければ、スキンケアを頑張っても仕方ないように、トリートメントを続けても目的に沿わない場合もあります。
優先順位がごちゃごちゃになっているお客さまも多いので、どれか1つやるならと整理してあげるイメージです。
お客さまそれぞれ、髪の毛にかけられる時間もお金も異なり、通えるペースも違いますよね。お客さまのゴールや要望の度合いに合わせてチョイスをしていく形です。
縮毛矯正している人はご自宅でコテを使うことも多いので、熱ダメージはリカバリーが効かないということを食べ物にたとえて伝えています。
たとえば、髪をサイドでまとめて180度のコテでスタイリングしているお客さまがいたとします。
分厚いハンバーグを焼くときに強火でやくと表面は焦げるけど、中はレア状態なのと同じように、分厚い毛束で180度でアイロンしても、崩れちゃうし、持ちが悪い。
ステーキなら、コテで高温だとウェルダン状態になって、表面がカサカサになってしまいます。
これは、食パンで言ったら「黒焦げ」の状態ですね。
髪の毛って焦げるってできないんですよね。色も変わらないですし。
これを僕たちは「糖化」と言います。
アイロンなどの熱処理を毎日行うと、バターナイフでバター塗るだけでボロボロ焦げが落ちるような状態になる。それが枝毛や切れ毛。
どうしたらいいの? って言ったら、切ればいい。切れば、髪が柔らかくなります。
でも、切りたくない人もいますよね?
1回ダメージしたものは生食パンに戻らないけれど、きつね色になりかけたときにバタートーストやフレンチトーストのように何かを染み込ませて柔らかくすることはできます。
僕たちは、ゆで卵になった卵を生卵に戻すことはできませんよね?
熱が過度だと形状記憶は強いけれど、半熟卵を目指すなら熱と水分量のバランスが大切です。
PONOでもご自宅でのスタイリングは「低温でじっくり」をお伝えしていて、ホームケアをしてもらう必要性を感じてもらうために、食事にたとえたりします。
高級なコース料理食べて翌日おなか空かないということはないように、髪に良いトリートメント一度して、「ずっとしなくていい」わけじゃない。
どうせ食べるなら栄養のあるものを摂りたいですよね。
カレーだったら、どう例えている?
カレーはルーでつくっても美味しいけれど、僕たちは自分でスパイスを入れてお客さまの好みにあったカレーを提供していますよね。
すでに整っているラインナップを使えば「大多数の悩めるお客さま」は救えると思うけれど、「マニアックになっていかないと救えない人」もいる。
お家のカレーで満足しないから、お店のカレーを食べにきたお客さまもいるわけです。
こだわりもあるから、僕らの場合はスパイスを栽培するところからですかね。
美容師さんに講習などで伝えるときは、パスタにたとえることは多いですよね。
髪を柔らかくするには膨潤させて変形させます。
膨潤しすぎると芯を失ってプチンとちぎれやすくなるなど、膨潤と還元の仕組みを茹でたパスタと乾燥パスタに例えて伝えたりします。
アルカリ施術から学ぼう!
今日の座談会の提案として、「学ぶ順番」を整理できたらいいんじゃないですかね?
酸性ストレートをやりたいなら、まず、アルカリ施術から始めるとか。
弱アルカリ領域や中性領域も習得して、そこまでできて自信を持てたら、酸性領域の施術を勉強する。この流れは学びやすいですよね?
いいと思います! アルカリ施術から勉強すると基礎が学べますよね。
アルカリ矯正の難しく思われるとことは失敗ケースの多さ。失敗がどういう髪で起きるのか? アルカリ施術がマッチしにくい髪はどういう髪だとか?
経験を積んで髪を見たときに美容師が薬剤を選べるよう、毛髪化学を学んで引き出しをストックしておく。
そして技術を磨くことが、不可能を可能にするのだと思います。
今は処理剤をたくさん持っている美容師さんも多いですよね。
酸性ストレート施術は髪を膨潤させないので、キューティクルが開いていないから、たくさん処理剤を持っていても100%の効果が発揮できません。
処理剤を活かしたいなら中性域やアルカリ域を勉強すべきだし、酸性ストレートメニューを頑張りたいなら、処理剤を買うのではなく「自分の感覚だけ」を磨くべきだと僕は思います。
自分の技術をカバーするための保険が処理剤だと思うんです。
最初から保険をかけすぎて効かないのは、やっぱり技術が追い付いていないから。保険を活かすのも技術次第なんですよね。
薬剤で髪が綺麗になるわけじゃないので、アイロンワークなどの技術マニュアルをもっともっと充実させるべきなんです。ゴルフでも、タイガーウッズモデル買ったからと言って、飛ばないですよね!?
めっちゃいいハサミ買ったけどカット下手くそ。ということですよね!?
薬剤のせいにするのって言い訳にピッタリ。本当は自分のせいなのに。僕自身、あるんですよ。薬剤のせいにしてたこと。
独立する前の話ですが、強い薬剤で髪が耐えられるギリギリの選定をすることがベストだと思っていた時期があって、軟化が縮毛矯正のすべてだと思い込んでいたんです。
独立するときに種類が多い薬剤に変えたら、急激に軟化して、結局伸びていないという状況になってしまって。
そのときは「薬剤を変えたからだ」と思いました。
だから薬剤のせいにしてしまう気持ちも、薬剤を変えてテンション上がったり、髪が良くなったという体験が生まれることもすごくわかります。
髪質改善は流行り廃りの技術ではなく、これからもずっと残っていく技術であり、考え方です。
あなたは髪質改善に対して、責任もてますか?
自分たちの責任で、時間とお金をいただいているというお客さまからの信頼がある限り、お客さまとの関係性を構築し、技術の統一化を図りましょう。
そして、毎回100%を出すために、引き出しを増やしましょう!
美容師みんながそんな意識でお客さまに向き合えたら、僕は縮毛矯正や美髪メニューはもっともっとお客さまに感動や喜びを伝えられる技術だと思いますね。
すべては髪に悩める女性のためにーー。これから美髪メニューを推進していくヒントが詰まった座談会。
今一度、自分の技術や考えを整理することが、美髪文化の継続性へとつながっていく。
【座談会まとめ】
一. 薬剤に頼りすぎない。処理剤は保険。技術を磨こう。
一. 酸性域・中性域の施術を学ぶ前に、基礎を学べるアルカリ域から学ぼう。
一. 「髪質改善メニュー」を提供することに「責任」を持とう。
- 初心者からうまくなる縮毛矯正 クセ毛の味方!
- SNSや美容室予約サイトで注目を集める「美髪ブーム」。薬剤も進化し、酸性や中性領域でクセにアプローチできるものも増えているけれど、だからこそ「何を勉強していいかわからない」という人は多いのでは?
この本は、今改めて【縮毛矯正】をわかりやすく簡単に学ぶことに特化した新しいベーシックブック。
・毛髪科学が苦手!
・育休や離職などでサロンワークにブランクがあり、最新の薬剤に追いつけない…
・お店で使える薬剤が限られていて最新の薬剤が使えない
といった苦手意識・困難のある人にこそ読んでもらいたい、目からウロコの「一番わかりやすく、一生モノの技術になる」縮毛矯正学び直しの決定版だ。
宮本さんは「髪質改善の共通言語の本」、茂木さんは「お守り本!」だというクセミカの2人の著書『クセ毛の味方』。どんなところがオススメなのかを聞いてみました!
- Profile
- 上原聡良(うえはらあきら/うえぽん)
Lyrae 代表取締役社長
1987年9月11日生まれ。大阪府出身。グラムール美容専門学校卒業。2018年Lyrae オープン。同店代表。ツヤ髪・美髪に特化したブランディングで支持を集め、毛髪科学のセミナー講師としても活躍。「役に立ってなんぼ」を信条に、 サロンワークや講師業のほか、製品開発など多方面 から“美髪”を極めるべく邁進中。
- Instagram : @yakunitatte_nanbo
- Profile
- 野坂信二(のさかしんじ)
Lily
1987年12月21日生まれ。福島県出身。仙台理容美容専門学校卒業。専門特化美容家集団 Lily にオープニングスタッフとして参加。ブログ「くせ毛hack」でクセ毛 とヘアケアに特化した発信を始め、注目を集める。縮毛矯正の技術と知識を追求しつつ、脱・縮毛矯正の提案にも定評のある クセ毛の味方美容師。
- Instagram : @kusegemeister
- Profile
- 茂木慎一(もぎしんいち)
PONO 代表取締役社長
1986年2月11日生まれ。茨城県出身。国際理容美容専門学校卒業。千葉県柏市の大手サロンに入社し、縮毛矯正技術を磨く。2019年9月に柏の隣駅である豊四季に美髪専門店PONOを出店。2店舗目は千葉県流山市に出店。2022年5月に初の県外出店となる埼玉県川口市にPONO 東川口店をオープン。2023年は都内の出店も予定している他、自身が月1で主催する経営者や幹部が集う「CHIBA美容師会」は他県からの参加も多く盛り上がりを見せている。
- Instagram : @mogi0211
- Profile
- 宮本栄一(みやもとえいいち)
nex the salon
28歳の髪質改善美髪矯正実力派美容師としてさまざまな手法や薬剤を使いこなし、顧客満足度の高さとわかりやすい技術構成・指導が高い人気を得ている。縮毛矯正や髪質改善が苦手な美容師が少しでも減るように自身の経験を踏まえた薬剤開発や指導で初級者〜中級者向けのセミナーやオンラインサロンで活動中。
- Instagram : @eiichi_st