美容室とフィットネスジムのおいしい関係/伊藤修平(ORO代表取締役)
関西エリアにトータルビューティサロンを6店舗展開。今年1月にはニューヨーク店をオープンしたOROが新業態・ORO GYMを10月1日にオープンしました。
フィットネスジムを併設する美容室はいくつかありますが、高単価のパーソナルジムが多く、40坪の敷地で一般会員も募集している本格ジムの運営は珍しいのではないでしょうか?
どうしてフィットネスジムをつくろうと思ったのか? その経営戦略とは? 自身も筋トレが趣味という伊藤修平代表に話を伺いました!
スタッフの声を形にすることが原動力
ーーもともとフィットネスジムをつくる構想はあったのですか?
「4年くらい前ですかね。今年から緑地公園店に西浦(翼)という店長がいるのですが、彼がアシスタントの頃からジムで鍛えるのが好きで、よく一緒にトレーニングしていたんです。でも外部のジムだと混んでたりするじゃないですか。『自分たちのジムが欲しいよね』って話をしたり、『パーソナルトレーナーと美容師の両立ができたら何よりもうれしい』と彼が言っていたので、『お前がスタイリストになって本気で数字を上げて、店長として活躍するようになったらジムをつくってあげるよ』と約束したのがきっかけです」
ーーではイメージは結構前からあったんですね?
「そうですね。スタッフの声を形にすることを成長の原動力にしていくというのが、OROのスタンスですから。ただ今回はタイミングも良かったですね。今年は1月にニューヨーク出店をしたので国内の出店予定がなかったところに、タイミング良く本店が入っているビル5Fの40坪のテナントが空くという話がありました。最初は事務所を拡張しようかなと思っていたのですが、西浦もがんばっているし、ジム事業もワンチャンあるなと思い始めて(笑)。本人を食事に誘って話したら『こんなにうれしいことはない』と言ってくれたので、それから半年くらいでオープン準備を進めました」
福利厚生の一環で強い組織をつくる
ーー美容室がフィットネスジムを運営するメリットは何でしょうか?
「さまざまなメリットがあるのですが、まずはスタッフの福利厚生ですよね。スタッフはジムの利用が無料。最近はフィットネスに興味がある美容師も多いのですが、毎月8000円くらいの費用を捻出するのはハードルが高く、お店の隣に無料で通えるジムがあれば健康管理もしやすくなります]
ーー具体的にどんな効果があるのですか?
「ブログにも書いたのですが、筋トレすると『テストストロン』というホルモンが分泌されるんですね。このホルモンは“焦燥感”や“不安感”“自尊心の低下”を抑え、やる気や闘争心の向上に効果があると言われています。また、僕はアシスタントに『腹一杯食べろよ』とよく言うんですが、人間って満腹中枢が刺激されると“幸せホルモン”と言われる『セロトニン』が分泌されます。だから、ジムで運動して腹が減ったらお腹一杯食べるというサイクルは冗談抜きに強い組織をつくると確信しています」
生涯美容師としての働き方を支える
ーーキャリアパスの面ではどうでしょうか?
「1つは西浦のようにパーソナルトレーナーとの複業ですね。美容師のキャリアパスとして、200万売り上げた後に300万、400万をめざすという道もあると思うのですが、みんながそうしたいわけではありません。美容師の経験を生かしたうえで何ができるか?というところで、OROには年間60本以上行っている外部講師、自社のアカデミー講師、本部の管理業務、海外事業などのキャリアパスがすでにあります。そこにパーソナルトレーナーという新たな選択肢が加わるわけです」
ーー豊富なキャリアパスはOROの魅力ですよね
「ただその一方で、スタッフが増えていくと幹部を目指さない人が一定数出てきます。こういうタイプは『ずっと現役美容師として働きたい』と希望する人が多いのですが、実際に身体の問題で辞めてしまう美容師って本当に多いんですね。腱鞘炎や腰痛。僕も客数をこなしていた時期は腰痛に悩まされました」
ーー確かにフィジカルな悩みは年を重ねるごとに増えますね
「でも自社で健康管理をアドバイスできるスタッフがいて、無料で利用できるフィットネスジムがあれば現役で活躍できる期間が伸びるはずです。これは海外出店してリアルに感じたのですが、ニューヨークの店舗で雇用している美容師はほとんどが40代以上です。30代半ばからピークアウトする日本の状況がもったいないわけで、生涯美容師を支えるきっかけになればと思っています」
月額5000円という驚きの低価格
ーーパーソナルジムを併設する美容室はあると思うのですが、低価格のフィットネスジムにしたのはどうしてですか?
「もちろんマシンは揃っているので、パーソナルトレーニングは個人単位で行えるようにしています。ただ、ORO GYMは美容室の会員であれば月額5000円(一般会員は月額6000円)で通えますし、年間18万円以上のお支払いがあるグランドVIPのお客さまは月額無料にしています。低価格にした理由は、ライフスタイルビューティという視点でOROに通う理由を作っておくことが、失客防止の大きな武器になるからです。美容室に隣接したフィットネスジムでお客さまと美容師がプライベートなコミュニケーションを取れるようになれば、失客は確実に減ります」
ーーそれにしても安すぎますよね(笑)
「通常の低価格と言われるジムでも月額は7000~8000円くらいじゃないでしょうか。低価格実現のポイントはシャワーをオプションにしたこと。他のジムに通っているときにシャワーを浴びないで帰る人が結構いるなと思っていて、やはりシャワーを使うと荷物が増えるんですよね。あとうちは保育園事業も行っているので、保育サービスもプラス1000円でオプション利用できます。これは業界初じゃないでしょうか」
40坪の内装に3500万円を投資
ーーエニタイムフィットネス、ジョイフィットなど競合も多いですが
「競合が多い中で、なぜうちが勝負できるかというと低価格なのはもちろん、月間1000人の顧客をすでに持っているからです。美容室のお客さまに優先的に利用していただきたいので、広告はあえて打っていません。こうすることで何が起こるかというと、他のフィットネスジムより圧倒的に客質が良くなるんです。20~30代の美意識の高い女性利用者が6~7割というおしゃれなフィットネスジムをつくりたかったので、40坪の内装には3500万円かけました」
ーー40坪の内装に3500万円ですか?
「本当は半分の費用でつくれたのですが、普通のジムだと写真を撮ってSNSに投稿しようとは思わないわけです。だから空間にはとことんこだわりました。動画はNGですが、他のお客さまの映り込みを気にしていただければ写真はOKにしています」
美意識の高い顧客育成が真の目的
ーー採算を度外視しているのはなぜですか?
「なぜ僕らが低価格にしてまでORO GYMに通っていただきたいかというと、ダイエットや筋トレが目的ではなく、お客さまのライフスタイルに組み込んでもらって美意識を向上させたいからです。通いやすい値段で週1回でも、鏡貼りのおしゃれな空間で自分を見ると「もっとかっこよくなりたい」「もっとかわいくなりたい」という気持ちが自然と湧くはずです。ボディメイクには時間がかかるから、まずはウェアを新調したりするでしょうが、その次に簡単に変えられるものって何でしょう?」
ーー髪型ですか?
「そうです、ヘアスタイルです。正直ORO GYMでの利益は求めていません。その代わりお客さまの美意識が向上することで僕は美容室の年商が億単位で上がると考えています。僕らは美容師のプロフェッショナル集団なので、ゴールはあくまでも美容師の単価アップ、来店周期の向上。フィットネスジムを利用してもらうことで、美意識の高いお客さまを育成するというのが、この新事業の真髄なんです」
美容師の本業以外での利益は求めない
ーー利益を求めていないとは知りませんでした
「利益が出たとしてもスタッフに還元するでしょうね。このポリシーは創業時から『美容師の本業以外での利益を求めない』と決めているから。保育園事業もそうですが『美容師の仕事がいかに素晴らしくて収益も上げられて、未来があるか』ってことを証明したいから、サイドビジネスで儲けようとは一切思っていないんです。僕は『マルチにやってますね』って言われるのが本当に嫌で、フィットネスジムは美容室のサービス事業の一環。だから、だからサロンを出店していない梅田や心斎橋には出店することはありません」
ーー本日はありがとうございました! 最後に今後のORO GYMの展望を教えてください
「美容室だと50坪で美容室11席、アイラッシュ3席の複合サロンを作るのがOROの出店フォーマットです。年商1億円以上のサロンになったら隣に50坪のフィットネスジムをつくり、計100坪のトータルビューティ施設を関西一円に展開していくというのが今後の構想です。新事業なのでまだ会員数はこれからですが、月間1000人の顧客の3割が来てくれれば300人に到達するので安定はしやすいと思います。おかげさまでオープン早々ORO GYMに会員価格で通いたいからサロンを利用するお客さまもいて、早くも美容室への逆流入が起こっています」
- Profile
- いとうしゅうへい
(ORO代表取締役)
1987年3月9日生まれ。兵庫県出身。ル・トーア東亜美容専門学校卒業後、大阪府内1店舗を経て、26歳でOROを創業。20~30代の女性をコアターゲットに、都市部ではなく高級住宅地に出店する戦略で瞬く間に急成長。現在国内外に7店舗展開。スタッフ数は74名。