美容師だから知っておきたい「女性の病気事典」
女性と男性は体のメカニズムが違うから、かかりやすい病気にも違いがあります。今回は婦人科系の病気を中心に、女性がかかりやすい病気を一覧にまとめました。万が一のときに見返せるようにしておいてくださいね。
女性の体はとっても繊細。女性ホルモンの変動の影響を受けやすい女性には、女性特有の病気や、男性よりも女性のほうがかかりやすい病気というものがあります。
でもかかってもいない病気のことなんて、名前は聞いたことがあったとしてもよくわからない…ですよね。
そんなわけで今回は女性美容師が自分の体のことを知るためにはもちろん、大切なお客さまにも関係してくる可能性もある、20〜30代の女性がかかりやすい女性特有の病気を一気に紹介していきます。
第1回「生理・PMSの不調を超えて、サロンワークで全力を出す方法」で対談にご登場いただいた、産婦人科医・尾西芳子先生に監修いただきました。
女性特有の病気って?
女性特有の病気とは、子宮や卵巣、乳房などの女性特有の器官にかかる病気の総称です。また毎月繰り返される女性ホルモンの変動や月経に関係した、女性がかかりやすい病気や不調もあります。
現代の女性は妊娠・出産の機会が減っているため、排卵・月経の回数が昭和初期と比べると9〜10倍。そのためその頃よりも女性特有の病気や症状が増えていると言われています。
さらに、ライフステージ(年齢)によっても、かかりやすい病気は変わってきます。
上はその変化を年表にまとめたもの。ライフステージの変化とともに、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの分泌量が変わっていくため、私たちの体の中の状況も刻々と変わっていくことを覚えておきましょう。
美容師が病気について知っておくべき理由
今回、紹介する病気や症状は、女性という性を持つ人なら誰もがかかる可能性があるものです。
特に美容師は仕事に一生懸命になればなるほど、食事や睡眠の時間が不規則になったり、自分のメンテナンスに手が回らなかったりと、体への負担が増えてしまいがち。そういった小さなストレスの積み重ねが、病気の可能性を高めることも考えられます。
少しでも知識を持っておくことで「気のせい」や「いつものこと」にしがちな不調に、早めに対処できるかもしれません。もしかしてそれらの不調のなかに、放っておいては危険なものだってあるかもしれないのですから。
またこれは、みなさんの大切な女性のお客さまにとっても無関係ではない話。
「実はこんな病気になっちゃって…」。そんなふうにお客さまが話してくださったときに、何も知識がなかったら? 知っていることでより丁寧にお客さまの状況に寄り添えるのではないでしょうか。
月経関連の病気や不調
過多月経
1時間おきにナプキンを変えても足りないほど出血が多い、レバー状の血のかたまりが出るなど、月経の血量が多いこと。子宮の病気が原因となっていることもあります。
月経困難症
月経痛など月経時の症状のうち、日常生活に支障をきたすほどの強い症状であること。下腹部の痛みのほか、腰痛や頭痛、吐き気、下痢、イライラ、憂うつなども含まれます。子宮関係の病気が原因の場合を、器質性月経困難症。体の器官に特に異常がない場合は、機能性月経困難症と呼びます。
月経不順
月経の正常な周期は、「生理の始まる日」から「次の生理が始まる日の前日まで」で25日〜38日(変動が6日以内)とされています。この範囲を外れると月経不順といえます。月経不順は周期や出血期間などによって、さまざまなタイプに分けられます。生活習慣やストレスによってもなりますが、他の病気が隠れていたり、無排卵になっている場合もあります。慢性化すると不妊の原因にもなるので、まずは婦人科で健診を。
・頻発月経
周期が24日以内で、月に2回以上月経がくる状態。無排卵性のものと排卵性のものがあり、また出血量が少ない場合は、不正出血の疑いもあります。
・稀発月経
周期が長く、39日以上、3ヵ月未満で月経がくる状態。ホルモンバランスの乱れからくる一過性の場合もあるが、無排卵の可能性もあります。
・続発性無月経
前回の月経から3ヵ月以上経っても月経がこない状態。過度なダイエット、激しいスポーツなど、過剰なストレスによるホルモンバランスの乱れが原因となることが多い。放置すると無月経になったり、不妊につながります。
・過長月経
月経期間が8日以上続くこと。ホルモンバランスの乱れのほか、子宮筋腫や内膜ポリープなど子宮の病気が原因となっている可能性もあります。
・過短月経
月経期間が2日以内と、極端に短いこと。出血量も少ない場合が多い。無排卵性のものが多く、子宮の病気が原因となっている可能性もあります。
PMS(月経前症候群)
月経開始の3~10日ほど前から身体的、精神的に現れる不快な症状で、月経が始まると3日以内に解消されます。症状は人によってさまざまで、身体的には下腹部膨満感、下腹部痛、頭痛、腰痛、乳房痛、乳房が張る、むくみ、体重増加、にきび、便秘、下痢など。精神的には、イライラ、無気力、孤独感、不眠、パニック、妄想、集中力低下などがあります。生活習慣の改善によって症状の改善を図るほか、医師に相談してできる対処法もあります。
子宮に関係する病気
子宮頸がん
子宮の入り口である頸部にできるがんで、20代、30代にも増えている病気のひとつ。セックスで感染するヒトパピローマウイルス(HPV)が原因になるとされ、性交渉の経験がある人は誰でも感染のリスクがあります。比較的進行が遅く、定期的に検診を受けておくことで、早期に発見・治療ができます。また感染を予防するワクチンの接種が推奨されています。
子宮頸部異形成
子宮頸がんの前段階にあたる病変。定期的に検診を受けていれば、この段階で発見、治療することができます。
子宮体がん
子宮の内側である内膜にできるがんで、「子宮内膜がん」ともいわれます。40代から急増し、閉経した50〜60代に多くみられます。不正出血があったら疑いを。
子宮筋腫
子宮の筋層内にできる良性の腫瘍のこと。症状がなく、腫瘍が小さい場合は経過観察となります。腫瘍ができる場所によっては月経痛や過多月経、貧血、不正出血を引き起こすこともあります。腫瘍が大きくなったり、日常生活に支障をきたす場合は、治療や手術を行います。40歳代では4人に1人が子宮筋腫があるといわれているほど多い病気です。
子宮腺筋症
子宮の内側にできるはずの内膜が、子宮の筋層内に入り込み炎症を起こし、硬くなる症状。月経痛や過多月経の原因につながることがあります。
子宮内膜症
子宮内膜が子宮以外の場所にできてしまう病気。月経周期に合わせて増殖し、剥がれ落ちるものの、排出ができないため、たまった血液が炎症や周囲の組織との癒着を引き起こします。強い月経痛があり、炎症が起きると月経時以外にも下腹部痛や腰痛、排便痛、性行痛があらわれます。また不妊の原因にも。
チョコレート嚢胞(のうほう)
卵巣の中に子宮内膜症ができ、古い血液がたまっている状態のこと。排卵障害や卵管の癒着など不妊の原因になることがあり、また頻度は少ないものの卵巣がんが発生する可能性もあるため、定期的なチェックが必要です。
卵巣に関係する病気
卵巣がん
卵巣にできるがん。自覚症状があらわれずに気づかないうちに進行しやすいく、サイレントキラーともいわれています。40代から増加し、50〜60代に多く発症しています。
卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)
子宮の左右にある卵巣にできる腫瘍(細胞のかたまり)を卵巣腫瘍といい、腫瘍の中に液体が溜まる状態を卵巣嚢腫といいます。嚢腫が大きくなると下腹部が膨らみ、腹部が引っ張られるような違和感や下腹部痛があります。良性で症状がない場合は経過観察になりますが、大きくなってしまうと手術などで摘出を行います。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
卵胞の成長が途中で止まり、小さな卵胞(嚢胞)が卵巣内にとどまってしまう排卵障害のこと。自覚症状としては、月経不順、不妊、にきび、肥満、やや毛深いなどがあげられます。
外陰・膣に関係する病気
膣炎
膣に炎症が起きている状態で、さまざまな要因で膣の抵抗力が弱った場合や、性行為などで菌に感染した場合におきます。細菌性のものから、カンジダなどかびによる膣炎、トリコモナス膣炎など種類はさまざま。かゆみや痛みがある、外陰部が赤くなる、おりものが多くなったり、おりものの状態が変わる、おりもののにおいが強くなる、臭くなる…など、症状も一概には言えませんが、違和感があったらまず受診を。一度治っても繰り返す可能性があります。
乳房に関係する病気
乳がん
女性が発症するがんでもっとも多いのが乳がん。乳房にある乳腺にできるがんです。乳がんにかかる割合は30代から増加。定期的な検診とともに、自分でも胸に触れてチェックをする習慣を持ちましょう。
その他、女性がかかりやすい病気・不調
甲状腺疾患
新陳代謝を促進する働きをする甲状腺ホルモン。これを分泌している甲状腺の働きの異常によって、ホルモンの分泌バランスが崩れることをいいます。20~30代では、ホルモンが過剰に分泌されるバセドウ病が多く、50代以上では、ホルモンの分泌が低下する橋本病が多く見られます。バセドウ病の症状は、動悸・息切れ、多汗、手指のふるえ、疲れやすさなどが現れます。
貧血
月経による定期的な出血がある女性は、鉄欠乏性の貧血になりやすい状態です。また子宮の病気などで月経以外にも持続的な出血があると貧血につながります。またダイエットなどできちんと食事が摂れていないと、貧血になる可能性があります。
女性美容師こそ自分自身のケアを
いずれの病気、症状も病院でしっかり見てもらうべきものばかり。自己判断はせず、少しでも違和感を感じたらまずは病院の受診をしてくださいね。
仕事を休みにくかったり、予約がいっぱいで都合がつけにくかったりするかもしれません。でも、小さな不調でも病院に行くこと、自分自身をケアすること。それは女性美容師が健やかに幸せに仕事を続けるための義務であり、権利です。
また、女性特有の病気のなかには検診や検査でその兆候が見られたときに、経過観察とされるものも多いです。それは「なにもしなくて大丈夫」なのではなく、「進行する可能性がある」ということ。そういう場合も、どんなに忙しくても忘れずに定期検診に行くことが、将来の自分を守ることにつながります。
- Profile
- 尾西芳子/おにしよしこ
神谷町WGレディースクリニック院長
産婦人科専門医。女性のヘルスケアを専門とし、都内クリニック院長を歴任。2023年3月、東京都港区に神谷町WGレディースクリニックを開院。二人の子どもを育てながらすべての女性のかかりつけ医でありたいとの思いで診察を行い、わかりやすい解説で雑誌、テレビのコメンテーター、ドラマの医療監修などとしても活躍中。
https://kwg-lc.com/
- 執筆者
- mackey