生理・PMSの不調を超えて、サロンワークで全力を出す方法

生理・PMSの不調を超えて、サロンワークで全力を出す方法

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ボブログにしかできない女性美容師のためのフェムケア連載! 女性であることも、夢に描いた美容師像を目指し続けることも、どちらも大切にできる日々へ。

photo:Yuri Yasuda

お腹が痛い、腰がだるい、吐き気もするし、
そもそも漏れないか不安で、
接客中も気が気じゃない!

はたまた、生理前のイライラや落ち込みがハンパなくて…。

女性に生まれたから、美容師の仕事を選んだから、
毎月訪れるつらい時間を
耐えるしかないって本当でしょうか?

もしかしたらほんの少し
自分の体に目を向けてみるだけで、
生理の期間がもっとラクに、
働きやすくなるかもしれません。

そんな可能性を探る特集、
「女性美容師のフェムケア革命」。

第一回は、CHAUSSE-PIED EN LAITONの安齋由美さん、shiika NIKAIのサトーマリさんと、産婦人科医の尾西芳子先生との対談です。

生理まわりの気になっていたアレコレを尾西先生に教えていただきました!

Contents

知識がなかったから、生理中はただ苦しむしかなかった

サトーマリ

私は若い頃から生理痛がすごく重くて、吐いてしまうくらいだったんです。でも当時、お腹を温めたほうが痛みが緩和されるとか、鎮痛剤を飲んだほうがいいとかすらわかっていなくて、生理中はただただ苦しむしかありませんでした。

尾西先生 そういうときに先輩に言って休憩させてもらったり、休んだりということはできなかったんですか?

サトー そんなこと考えたことがなかったです。当時は業界全体的に言えるような雰囲気でもなかったように思います。

安齋 お腹が痛いというだけで仕事が減るかもしれなと思うと、伝えることがプラスに働くとは考えられなかったですよね。私は20代の頃は運良く生理痛があまりなかったんですが、周りの子たちはそういう感じで、つらさを表に出さないように耐えていた印象があります。

尾西先生 確かに、今でこそ婦人科系の話をオープンに話せるような雰囲気になってきましたけれど、少し前まで親にすら生理のことを話しづらい雰囲気がありましたよね。私も実は人に聞けないから自分で勉強しようと思ったのが、産婦人科医を目指した原点でもありました。

サトー 私も妊娠したいと思ったときに、妊娠しづらくなっていて、自分でいろいろ調べました。それで生理についてもいろいろな対処法があったんだと知って。たとえば基礎体温をつけはじめたら、鎮痛剤を飲むタイミングがわかって痛みをコントロールできるようになったり…。もっと早く知っておけばよかったと思いましたね。

尾西先生 生理痛もPMS(月経前症候群)も対処法がいろいろあるので、今日は女性美容師さんが忙しい仕事のなかでもできる対処法を一緒に探っていきましょう。

生理が仕事に支障をきたしていたら、もう「病院案件」!

サトーマリ

生理痛がつらくて仕事ができないというスタッフには「大丈夫?」よりも、まず「病院に行った?」と聞いちゃいます。

サトー 自分が生理痛が重かったぶん、つらいんだったら休んでいるんじゃなくてまず病院に行ってって思っちゃうんですよね。できる対処はして、それでもダメだったら当然休んでもいいんですけど、できることをやらないで「つらい」と言っているのはダメじゃないかなって。

安齋 私も、薬を飲んだか、病院には行ったかというのは確認しますね。仕事ができない状態になる前に、自分でできる対処をちゃんとしているかどうかは大事だと思います。

尾西先生 お二人ともさすがですね! 痛くて仕事に支障がある方は、それはもう病院での治療対象になりえます。病院に来ていただければ鎮痛剤との正しい付き合い方や飲み方もお伝えできますし、痛み止めだけで対処できない場合はピルのようなホルモン剤を使うといった選択肢もお伝えできます。生理痛が重い、つらい、と感じていたら、まずは病院に行って相談していただくのがいいと思います。

生理痛が重い理由、あなたの場合は?

安齋由美

そもそも生理痛が重いのは体質ですか?  痛くなくなることはないんでしょうか?

尾西先生 10代、20代前半で生理痛が重い場合は、子宮の入り口が固く閉じているからだと言われています。生理のときは血を押し出すために子宮を強く収縮させるんですが、子宮の出口が狭いと、風船をぎゅっと絞ったときみたいな感じで圧がかかって痛みが生じてしまうんですね。子宮が育つと痛みが和らぐこともありますし、出産を経験して通りが良くなると痛みがなくなるということもあります。

サトー 私はそれだったかもしれないです。若い時は生理痛もひどかったし、多嚢胞性卵巣症候群だったということもあって、生理が2ヵ月に1度とかだったんですよ。それが出産したら生理痛もなくなったし、周期も1ヵ月に1度に安定しました。

尾西先生 出産を経験すると、生理の状況もかなり変わりますよね。ただ、若いときから生理痛が重い場合は、もう一つ可能性があります。子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋腫症といった病気の芽があるかもしれません。ですので痛みが強い場合は、早めに病院に相談に行ったり、婦人科検診を受けていただくといいですね。

安齋 私は20代の頃は全然生理痛がなかったのが、30代に入ると痛みが出るようになりました。年齢でも変化することはありますか?

尾西先生 年齢が上がると今まで潜んでいた不調や症状が出てきやすくなります。そうすると生理痛の症状も出やすくなってしまいます。また先ほど言ったような病気の芽がもしあった場合は、それが育ってくることで年齢が上がるほど生理痛が重くなってしまいます。たとえば、30、40代になると、子宮筋腫の芽がある人が6割以上にも上ると言われているので、早めに発見するのに越したことはありません。

イライラ、憂鬱感…それ、もしかしてPMSかも

安斎由美

美容師の仕事は接客業であるのはもちろん、他のスタッフとの連携も大切。精神的にも症状が出やすいPMSも難しい問題だなと感じています。

尾西先生 PMSは女性ホルモンの変動によって起きるもので、生理前に症状が出て、生理が始まって3日くらいで治まります。ただ生活が不規則だったり、ストレスやプレッシャーなど、環境要因や精神的な要因も大きく関係しているとされています。忙しい季節や責任ある立場になってPMSが重くなるというのもあるかもしれません。

安齋 精神的に不安定になるから、本人が一番大変だと思うんです。だからうちのサロンでは「でも生理だから(イライラするのは)普通だよ」というのを、周囲の女性スタッフ同士で言い続けるようにしているんですが、PMSにも対処法はありますか?

尾西先生 それは周囲の人の対処として、とてもいいと思います。本人が自分がイライラしているのはPMSのせいだと気づくだけで、少し気持ちが楽になりますよね。

あと美容師さんには難しいかもしれませんが、生活習慣の改善がやっぱり一番の対処法です。特に有酸素運動はいいと言われています。難しければ、ピルのなかにもPMSに効果的だと言われているものもありますし、婦人科でも気分を整える漢方薬を処方してくれるところも多いですよ。

いずれにしても対処するためには、自分がPMSだとまず気づいていただくことが大切です。気づいていない人が、けっこう多いと思うんですよね。

サトー 生理周期が安定していないと気付けなそうですよね。

尾西 今、ネットにもPMSのチェックシートが上がっていて、それを試していただくと自分のPMSの度合いがどの程度か、病院に行ったほうがいいかどうかの参考にできるので、ぜひ探してやってみてほしいです。

むくみケアでPMSのつらさが改善!?

尾西先生

実は今、PMSの不調は心身どちらも「むくみがすべての原因では」と言われているんです。

尾西先生 たとえば頭の中がちょっとむくんでいるから頭痛になったりとか、腸がむくむから便秘になったりとか、PMSのときは脚もむくみますよね。むくみを引いたらイライラがなくなったという研究データもあって、PMSを念頭においたむくみを取るサプリメントも出始めています。そういったサプリメントや漢方薬でむくみに対処するのも、試してみてもいいかもしれません。

安齋 美容師はみんなむくんでいますよね。

サトー 立ち仕事とはいっても、実はあまり行動範囲は広くないから運動になってはいないですよね。

尾西先生 そうすると脚の血液ポンプを使わないから、余計にむくみやすいし、それが冷えにつながって、生理痛の悪化にもつながるという悪循環になっていそうですね。お水もあまりとらないですか?

サトー 営業中は全然飲まないですね。

尾西先生 水を飲んで、排出してという一連の流れによって体内に巡りが生まれるので、本当はお水を飲んでいただきたいところ。たとえば休憩のときに少し食べたり飲んだりするものを、温かいものや、体を温める作用があるものにするなど、気をつけてもらうだけでも少し巡りが改善されるかもしれません。あとはサロンへの行き帰りは歩いて、有酸素運動を少しでもしてもらうのも良さそうですね。

安齋 夜に脚のマッサージもちゃんとやったほうが良さそうですね。むくんでいるのはわかっていましたが、むくみ対策、全然やってなかったです。

気になる産婦人科での対処法:低用量ピル、ミレーナのこと

サトーマリ

正直、生活習慣を変えるのは厳しいんですよね。その代わりではないですが、美容師の生理の不調のケアにピルという選択肢はアリだなと思っているんですが、どう思いますか?

サトー 美容師の生理の不調は、睡眠時間の短さと食生活の不摂生が影響していると感じています。でもどちらも改善するのは本当に難しくて。あと、不正出血があるのも女性美容師のあるあるなんじゃないかと思います。そう考えると、ピルを使って一回ホルモンのバランスを整えるというか、休ませるのもありなんじゃないかと思うのですが、どう思いますか?

尾西先生 たしかに低用量ピルはそんなに怖がることなく、頼っていただいていい女性ホルモン剤です。女性の体は生理周期でホルモンに変動があるのが普通ですが、低用量ピルはそのホルモンを一定の状態にする作用があります。生理の周期も一定になりますし、排卵をさせないので避妊にもなります。

サトー 生理の量も減るし、生理痛も緩和されますよね?

尾西先生 そうですね。サトーさんが「休ませる」とおっしゃっていたように、排卵しない状態になるので、子宮内の膜が薄い状態になるんですね。そうすると出るものが少ないので、量も減るし、痛みも減ります。PMSにも生理痛にも助けになるものです。また子宮内膜症がある方は、将来不妊になってしまうリスクを下げることもできるので、低用量ピルを飲むことをおすすめしています。

サトー そうなんですね。私の場合、2日目、3日目が忙しい日にあたってしまうと、ナプキンも変えに行けないので、夜用のタンポンと40センチのナプキンを組み合わせても漏れていたんですよね。だから生理の量が減るのは、美容師的にはかなりのメリットだと思います。

安齋 わたしも漏れるのが当たり前になっていました。あとこの取材前にスタッフの子にリサーチしたら月経カップが漏れにくくて安心だと言っている子がいて、今、そういった新しいものが増えてきていますよね。

尾西先生 吸水ショーツもナプキンなどと合わせて使うと安心感が増すかもしれないですね。

サトー あともう一つ気になっているのが、ミレーナ。これについても教えてもらってもいいですか?

尾西先生 ミレーナはT字型のデバイスで、子宮内に入れると中からピルと同じようなホルモンが継続的に放出されて、避妊や生理痛の緩和などピルと同じような効果を得られるものです。1回入れると5年間そのホルモンが出続けるので、その間、低用量ピルを飲み続ける必要がなくなります。

サトー 生理も来なくなるんですか?

尾西先生 生理は来ますが量がとても少なく、おりものシートでも大丈夫な程度です。入れてから半年くらい不正出血が続くという人もいますが、それさえ耐えれば、経血量が多かった人はかなり快適になるようです。

安齋 子宮の中に入れるって少し怖いんですが、痛みや違和感はないんですか?

尾西先生 入れるときは少し痛いですが、その後の違和感はまったくないです。外来で来ていただいて処置できますし、月経困難症や月経過多の保険も適用されていますよ。低用量ピルのように飲み忘れることもないので、時間が不規則な美容師さんにはいいと思います。

サトー ピルは体質に合わなかったという人にも良さそうですよね。私もやってみようか今考えているところです。

尾西先生 あと、低用量ピルには血栓症といって、血が固まりやすくなるリスクがあるのですが、ミレーナは子宮、卵巣にしか作用しないので、そのリスクがないのも特徴です。

まとめ

サトーマリ

若いときはいずれ時期がくれば当然のように妊娠すると思っていましたが、実際はすごく妊娠しづらい体になっていました。周りを見ると不妊に悩んでいる美容師が本当に多いです。そういう経験から、生活習慣自体は変えにくいなかでも、若いうちから知識を持って、できるケアをしていくことが大事だと、今、本当に思っています。

安齋由美

私自身は生理痛もPMSもすごく重いというわけではないのですが、スタッフを見ていて「どうにかしてあげたい」といつも思っていました。今回改めて、早めに病院に行って産婦人科医の先生に頼ることの良さを知りました。つらくて他の人に仕事を任せるにしても、まずは自分の体に対してできることをやってから。女性美容師が女性である自分を守るためにも、仕事のパフォーマンスを維持するためにも、そういったことを意識するのも大切だと感じています。

尾西先生

生理痛やPMSがつらい人もそうでない人も、自分の体を知ることから始めてもらえたらと思います。自分の体質を知っておけば、症状に変化があったときにより早い対処ができます。また将来、妊娠したいなと思ったときに、病院に行ったほうがいい体質なのかどうかの判断もすぐにできるかと思います。ご自身の体質を知るためにも、ぜひ産婦人科を頼ってくださいね。

尾西先生からのアドバイス

◎生理痛やPMSが少しでも仕事に支障をきたしていたら、産婦人科に相談を。

◎年に1回、子宮頸がん検診、経膣超音波(経膣エコー)検査を受けましょう。

◎忙しいなかでも「冷やさない」「有酸素運動」「むくみ対策」をがんばって!

安齋由美/あんざいゆみ / CHAUSSE-PIED EN LAITON(ショスピエ アン レトン)代表/東京・代官山
Profile
安齋由美/あんざいゆみ

CHAUSSE-PIED EN LAITON(ショスピエ アン レトン)代表/東京・代官山

1983年生まれ。福島県出身。郡山ヘアメイクカレッジ卒業。都内有名店3店舗を経て、2015年東京・代官山に『CHAUSSE-PIED EN LAITON』を立ち上げる。サロンワークを中心に、ヘアメイク、商品開発、イベントディレクションなども手がける。

サトーマリ/さとーまり / shiika NIKAI(シーカ ニカイ)ディレクター/東京・中目黒
Profile
サトーマリ/さとーまり

shiika NIKAI(シーカ ニカイ)ディレクター/東京・中目黒

1981年生まれ。茨城県出身。専門学校卒業後、都内サロンに入社。2016年に夫の加藤龍矢さん(代表)とともに「SiiKA」(東京・学芸大学)を立ち上げる。現在は2店舗となるsiika NIKAI(東京・中目黒)でサロンワークを中心に、雑誌撮影などでも活躍。

尾西芳子/おにしよしこ / 神谷町WGレディースクリニック院長
Profile
尾西芳子/おにしよしこ

神谷町WGレディースクリニック院長

産婦人科医。女性のヘルスケアを専門とし、都内クリニック院長を歴任。2023年3月、東京都港区に神谷町WGレディースクリニックを開院。二人の子どもを育てながらすべての女性のかかりつけ医でありたいとの思いで診察を行い、わかりやすい解説で雑誌、テレビのコメンテーター、ドラマの医療監修などとしても活躍中。
https://kwg-lc.com/

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執筆者
mackey

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