中国生まれの日本育ち〈HEHAN BY GODHANDS〉店長・Haruka

中国生まれの日本育ち〈HEHAN BY GODHANDS〉店長・Haruka

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Photo_Muse Wen

昨年6月、美容師の祭典「アジアビューティエキスポ」で中国代表としてヘアショーを披露した〈HEHAN BY GODHANDS〉(ヒヘン バイ ゴッドハンズ)。中国国内で実力派デザイナーズサロンとして知られ、上海のラグジュアリーショッピングモールに旗艦店を構える。

そこで店長を務めるHarukaさんは、9歳から24歳まで日本で過ごし、スタイリストとしてキャリアを積んだ異色の経歴の持ち主だ。顧客ゼロから月平均400人が通う人気スタイリストになるまでの歩みを聞いた。

Haruka 小紅書(RED):yaoyao1113 1995年生まれ、中国・江蘇省出身。9歳から24歳まで東京で過ごし、山野美容専門学校を卒業。東京・世田谷区のサロンで23歳にスタイリストデビュー。単身で上海へ渡り、日系サロンを経て〈HEHAN BY GODHANDS〉に入社。現在は太古滙店(シンイエ タイグーホイ)の店長を務める。ハイトーン・透明感カラーを得意とし、REDを中心とした発信力を武器に月平均400人が通う人気スタイリスト。中国の美容師コンテスト番組にも出演した。

技術、着こなし、愛嬌
全部出すから人が集まる

HarukaさんのREDを開くと、鮮やかなデザインカラー動画やクリエイション作品の隣に、お客さんとふざけ合う写真や時にはくすっと笑ってしまうようなユニークな動画までが並んでいる。上海でゼロから顧客をつくり直した彼女にとって、REDは大きな入り口だったという。

「最初はファンを増やすっていう目的ではなくって、私がどういう人間なのかを伝えるためにアカウントをつくりました。作品があったり、サロンワークだったり、まったく更新しないときもあったり。特に決まり事もないんです。でも私自身がいろんなファッションやメイクに挑戦する姿を積極的に見せることで、『一緒に試してみましょう』って会いたくなる理由をつくっているのかもしれません」

HarukaさんのREDの投稿。時にはちょっと笑ってしまうユニークな動画も

中国で放送された美容師のコンテスト番組にも出演。有名なスター美容師やベテラン美容師ら50人で腕を競う。

東京と同じように、上海もトレンドのテンポが速い。「ワンホン」という言葉が“量産型”のようなニュアンスになっているように、スタイリスト独自の個性や技術が重視される傾向になっているそうだ。その点、Harukaさんは、キャラクター性と技術力の両面で顧客から支持を集める存在だ。

「でも実際の私はそこまで明るい人ではなくて、照れ屋だし真面目すぎてしまうこともあるんです。仲良くなれば友達のように話せるんだけど、初対面からいきなり距離を詰めたりはできなくて、『私のこと嫌いなのかな』って勘違いされてしまうこともありました。特に上海に来た当初はストレートに言われることも多かったです。それがかえってどんな状況もプラスに捉えるトレーニングになって、似合わせや提案力がつきましたね」

ファッションでもメイクでも、似合わないとわかっていてもまず試してみる。そうした姿勢も含めて発信しているからこそ、来店のきっかけにもつながっているという。中国では半年、1年に1回という来店周期も珍しくないが、Harukaさんの顧客はどんどん来店周期が短くなっているそうだ。

HarukaさんのREDの投稿。日本の美容師の発信とは少し違う、遊び心のある編集も特徴的

「KOL(専門性のあるインフルエンサー)や博主(ボージュウ)といった人たちが通うサロンは今でも人気です。でもSNSだけじゃなくって、上海では特に複雑履歴の方が多いですから、対応できる技術力や提案力のあるサロンが長く生き残っています。うちがまさにそうです」

中国生まれ 日本育ち
上海に渡った理由

中国・江蘇省生まれのHarukaさんが日本に渡ったのは9歳のとき。以来15年間を東京で過ごし、美容学校を出たあと世田谷区にあるサロンでスタイリストデビューを果たした。転機となったのは23歳で参加したとあるセミナーだ。

「たまたま受けたセミナーで講師が「今は東京はファッションの先端だけど、これからは上海がトップになる」って言っていて、上海が東京を?って疑問だったんですよ。でもちょうどその時、ずっと担当していたお客さんが実は上海の方で『上海には女性スタイリストが少なくて、女性目線で理解してくれるスタイリストが見つからない。だから東京で髪を切ってる』って話してくれて。そのふたつの言葉がずっと引っかかってました」

技術があるのは当たり前。そのうえで自分は何ができるのか。悩んだ末に、10年後が想像できない挑戦をしようと決めたどり着いたのが今のサロンだった。ひとり上海に渡り、最初に受けたセミナーがアビー・チェンさんと、GODHANDSを創設したJOEさんの授業だったという。

ショッピングモール内の〈HEHAN BY GODHANDS 太古滙店〉のエントランス。約75坪の広さにセット面が24面。約20名のスタッフが所属する。

「サロンワーク中、日本にいた時は日本人なの?中国人なの?ってよく聞かれて、偏見もゼロではありませんでした。そして上海に来たら、美容の専門用語を日本で覚えたのもあって、今度は中国語でうまく表現できないんです。発音は合ってるけどうまく繋がらなくて、施術する前から本当にできるのかと疑われることもありました。

それでも、日本で身につけた技術はプラスになったと思います。中国では『あなたのおすすめは?』と毎日のように聞かれるんですが、私が上海へ渡った当時は女性スタイリストがまだ少なくて、女性目線で提案すること自体を新鮮に受け取ってもらえました。さらに私は日本で学んだ技術もあるので、履歴を考えながら数ヶ月先までカラーを提案すると『1話ごとに展開が変わるドラマみたい』って感動してもらえて、嬉しかったですね」

美容師であることに
自信を持ってほしい

中国ではかつて美容師は社会的評価の低い職業と見られることが多く、女性が美容師になることへの風当たりも強かった。今でこそサロン全体では8人の女性スタイリストがいるものの、Harukaさんが〈HEHAN BY GODHANDS〉に入社した当時は彼女ひとりだけだった。サロンワークで結果を出しながら、女性でも美容師としてキャリアを築けることを示していく。それもまたHarukaさんの目標のひとつだ。

今も日本には年5回ほど訪れ、両親が営む中華料理屋の手伝いをしているそう

「中国に戻ってきた理由がもうひとつあって、美容師という職業の見られ方を変えたいんです。日本だと美容師って名乗ると『すごい』って言われるじゃないですか。でも中国だと、まだ自信を持って美容師だと言えない人もいます。美容師ってすごい存在とかではないけれど、いろんな人の夢を叶えてあげたり、違う自分を見つけてあげたりとか、自信を与えられる職業だと思うんです。もっとみんなが誇りを持って仕事ができるように印象を変えていきたい。私自身もそんな存在になって、女性美容師がもっと増えて輝けるようになってほしいです」

木村 麗音
執筆者
木村 麗音

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