〈PIX〉’88世代・異業種4人が交差して生まれた、新しいサロンの歩き方

〈PIX〉’88世代・異業種4人が交差して生まれた、新しいサロンの歩き方

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photo:安田有里

ギャラリー、カフェ、オフィス、ヘアサロン。4業種が同じフロアに広がる複合施設「PIX(ピクス)」が9月末、中目黒川沿いにオープンした。ヘアサロンのオーナーは、岡山を拠点に活動してきた〈epine〉(イピン)の白神裕己さんだ。

「東京は唯一、僕が出店しないと思っていた場所です」

そう力強く話す白神さんの横で笑うのは、国内外の雑誌・広告など、多彩なメディアで活躍するヘアメイクの藤原一毅さんだ。2人は大阪ベルェベル美容専門学校の同期、今回オープンした〈PIX HAIR〉(ピクスヘア)では、藤原さんはスタイリストとしてサロン運営に携わる。

左/白神裕己(しらかみゆうき)
1988年生まれ、岡山県出身。大阪ベルェベル美容専門学校卒業後、岡山県内1店舗を経て2012年岡山市にepineをオープン。22年同市にサロン、セレクトショップ、コーヒースタンドが入った複合型ショップCueをオープンした。
右/藤原一毅(ふじわらかずき)
1988年生まれ、京都府出身。大阪ベルェベル美容専門学校卒業後、渡英、渡仏を経て東京をベースにヘア・メイクとして活躍する傍ら、サロンワークも行っている。

ギャラリー・カフェ、オフィスデザインを手がけるのは、フォトグラファーの島津明さんと、「HYBE design team」の竹田純さん。実は4人とも同い年というから驚きだ。

岡山から一番出店しないと思っていた東京へ、ヘアサロン・美容師だけじゃないからできる新しいサロン像を聞いた。

「PIX」はピクセルの略語。画像を構成するデータの最小単位を示す。ピクセルは集まると1つの絵になることから、いろんな人が集まって1つのことをやろうとしている、今回のプロジェクトスペースにぴったりだという意味から、4人でつけた名前だ。

―――4人はどういう関係ですか。

白神:元々、かず(藤原さん)がフォトグラファーの明(島津さん)、インテリアデザイン事務所の純(竹田さん)と友達で。明と純は地元が同じですね、全員同い年です。4年前、熊本でかずから2人のことを聞き、話してみたいと東京へ会いに行ったのが始まりです。22年にリニューアルオープンした岡山の店舗(カフェ、セレクトショップ、ヘアサロンの複合施設)を純にお願いして、その時から美容室特有の流動性のある空間やヘアサロンを併設した複合ショップっておもしろいねと言ってくれていました。確かにオフィスや事務所はどちらかというと決まった人が出入りする場所で、閉鎖的になりがちですよね。

――今回、誰の声がけで始まりましたか。

白神:去年の9月に明から電話がかかってきて「やるから」と。明には劣るんですが僕も攻めのタイプなので、すぐにやってやろうと思いました。サロンとしてもデザインの強化に間違いなくなるし、どう写真を撮るか、どういうメイクで撮るか、ヘアメイクとカメラマンが同じ空間にいればいつだって今一番オシャレなものが撮れますよね。かずも「ええやん」と言ってくれました(笑)。

藤原:僕は4人の中では保守派だと思います(笑)。ずっと一緒に何かやりたいとは話していたんです。それにしても急だなと思いつつも、この話を聞いた時不安はなかったですね。あるとすれば本業はヘアメイク、フリーランスとして美容師をやってきたので、東京の激戦区でどこまでサロンの推進力になれるかなと。ただ白神を叱咤激励する役割ならできるなと思って「ええやん」と(笑)。

――友達と一緒に仕事をすることに抵抗はなかったですか。

白神:4人ともメインの仕事はピクスとは別のところにあるんですよ。ここでお金を稼いで、どーのこーのはないんですね。やりたくてやっているし、4人とも一切遠慮なく意見を言うタイプなので、心配ないなと。

藤原:各自が自由にやっている空間が一緒というだけなので、楽しいです。全員と長い付き合いだし、お互いをよく知っていますしね。僕は自分の勉強の場としても最高だと思っていますね。

――実際に4人で働いてみてどうですか。

白神:カメラマンとインテリアデザイナーの仕事って「0→1」をつくる仕事だと思います。美容師やヘアメイクは、1をいかに大きくするか。僕は特に0→1は苦手なので彼らの仕事を近くで見るのはめちゃくちゃ面白いし刺激的です。あとは、僕らも30代後半を迎えて怒られなくなるじゃないですか。この場所には、怒られることもあるし(笑)。3人の働き方を見て、ちゃんとやらないと!!と思わせられることがゴロゴロある、本当に楽しいしフレッシュですよ。

藤原:違う業種の2人から「絶対こっちのほうがいいよ」と美容室に対してストレートな意見を言われるのって、面白いんですよね。美容室で1度でも働いたことがある人では思いつけない発想と意見ばかりです。今回のサロンの内装も、美容師目線では絶対できないデザインになっているなと思います。

PIX HAIRのスタイリストは、白神さんと藤原さんを含めて5人。2人以外は20代のスタイリストで、うち1名は岡山の店舗から異動させた。

左から北斗翔さん、藤原さん、白神さん、大田鈴夏さん。

――PIX HAIRでのサロンワークはどう違いますか。

白神:今のところ、来る人がほぼ美容師さんなことですかね(笑)。かずとのサロンワークは楽しいですよ。ヘアメイクって美容師とは全く違う異分子なので。かずは僕の師匠みたいなもんでもあるので、久しぶりに師匠と働く的な感覚も新鮮ですよ。卒業後すぐに渡英したかずに電話をかけて、今どんな技術やってるー?って聞いては岡山で1人練習してましたから。

藤原:サロンでしか積めないカット技術の経験ってあると思うんですね、それをヘアメイクの現場でいかに発揮していくか。それは僕のシグニチャーにもなっていくだろうし、必ず活きると思っています。逆にヘアメイクの現場で鍛えられた、クライアントからのオーダーに適切にかつ迅速に応える力なんかは直接的に活かせますね。スタッフ教育は今まで1対1が基本だったので、同じやり方がいいのか変えたほうがいいのか考えながら。

――PIX HAIRではどういうヘアデザインを推す予定ですか。

白神:ないです!それは、田舎でやってきたからこその僕の強みでもあると思っていて。岡山のサロンってあらゆるジャンルのお客さまが来るんです、いくらブランディングしていたとしても。だからオールジャンルできないといけないし、ハイトーンカラーも、フェードカットだってできなきゃいけない。ナチュラルもモードも当たり前にできないといけないんですね。それこそが、東京サロンにはないブランディングだと思います。

――どういうヘアデザインが得意ですか。

白神:僕はストリート、ミニマムなフォルム。

藤原:エレガント、品の良さがあるデザインが得意です。

――真逆ですね?

白神:かずが、エレガントが得意って今初めて聞いたんですが(笑)。そうですね、学生時代から正反対ですね。ずっと仲がいいのは正反対からだと思います。

藤原:美容学生時代、先生から「藤原君は真面目なのにできない、白神君は不真面目なのになぜかできる」って言われてましたね(笑)。昔から器用ですよね、彼は本当に。

――ヘアサロンにとって、複合施設に入るメリットは?

白神:僕自身、元々美容室だけでやりたくない気持ちが強いんです。コーヒースタンドをつけてみたり、いろいろ模索してきました。なぜかと言うと、サロンにカフェがついているだけで全然雰囲気が違うんですよ。岡山の店舗は、スタッフの離職率が圧倒的に下がりました。いろんな理由で美容師を続けられなくなったスタッフは、セレクトショップやカフェの店員として雇うことができるからです。

10月末から隣のギャラリーで、イタリアを代表するブランド「アレッシィ」のポップアップが始まるんですが、働いているだけでこんなにいろんなことが吸収できるサロンってなかなかないと思います。カフェのお客さまからだってトレンドを感じ取れる、いいことしかないですね。

――「PIX HAIR」の今後について教えてください

白神:スタッフに、元々大阪や福岡で美容師をやっていた子達がいるので、大阪や福岡にも店舗を出したいですね。スタッフもお客さんも喜ぶだろうし、ローカルにいい人材が残る事ってすごく重要なことだと岡山でずっとやってきて思うので。東京にもう1店舗も考えてはいます!


東京には、いい美容師さんがたくさんいるから「唯一出店しないと思っていた場所」。けれど、田舎で長くやってきたからこそ、東京で自分たちにしかできないことがあると思う。さらに、藤原さんが加わることで、他のどのサロンにも真似できない、スキルも担保できる、一緒に働いている中にファッションチームがいて、表現も日本で一番頑張っているサロンとして東京で戦うことができる。昔からファッションの第一線で活躍するプロ達と仕事をしたいと願ってきたし、そう行動してきた白神さんの快進撃は、まだはじまったばかりだ。

増田 歩
執筆者
増田 歩

「CHOKi CHOKi」「Ocappa」「BOB」 etc.からのフリーランスライターです。ボブとショートをいったりきたり、趣味にしたいのはヨガ。

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