すべてを賭けて挑んだ「ドリプラ2025」。結果は準グランプリ。コンテストの直後、維駒さんはぽつりと口にした「準グランプリってみんなは言ってくれるけど、僕からしたらボロ負け。1位と2位は雲泥の差なんです」。
大会から一夜明け、悔しさと感謝、そして覚悟が入り混じるいまの心境を少しずつ言葉にしてもらった。

──率直に、一晩経っていまどんな心境ですか?
少し考えがまとまってきた感じです。昨日はただただ悔しくて、グランプリだけが欲しかったから。モデルの恵麻ちゃんや衣装のひよりちゃん、メイクの琴加、一緒に戦ってくれたみんなに申し訳ない気持ちでいっぱいで。
でもコンテスト後のアフターパーティで審査員の方々からアドバイスをいただいて、自分の足りなかったポイントが明確になったというか、ストンと腑に落ちたんです。
もう負けは負けだし「あのときこうしてれば」とか考えても意味がない。そう思ったら、また来月再来月にあるコンテストに向けて動こうって。

──準グランプリとして名前を呼ばれた瞬間、どんな気持ちが湧きましたか?
「あ、呼ばれちゃったか」って、正直思いました。まだモニターには抜かれてないだろうって思わず顔に出てちゃったんですけど、あとから映像見返したら普通に抜かれてましたね(笑)
そのあとグランプリのクラッカーが目の前に落ちてきた瞬間が一番実感しました。去年はこれを自分が浴びたわけですから。


維駒さんのインスタグラムから
──今回の決勝ですが、自分ではどう評価していますか?
反省点は大きく2つあって、ひとつは「攻めナチュラル」の攻め加減。エリアファイナルのときは、どちらかというと引く方向だったんですけど、決勝になるとどうしても気持ちが前のめりになって、衣装っぽいというかドレッシーに寄ってしまって。それ自体が悪いとは思わないけど、たとえばあの衣装で行くんだったらもっとヘアーはシンプルにすべきだったし、逆に今回のヘアでいくなら衣装はもっとシンプルにした方が攻めナチュラルを表現できたと思います。
もうひとつはバックスタイルの完成度です。ドリプラは15分しかないからフロントの仕上がりに一番こだわるんですけど、バックのクオリティももっと突き詰める必要があったと思います。今回フロントにデザインのポイントを置いた分、バックの作り込みが甘かった。黒色の散らし方とかやフォルムの出し引きとか、詰められるところがまだありました。

──審査員の全体講評でも「360度突き詰められるともっといい」というコメントがありましたね。よかった点も教えてください。
自分印(じぶんじるし)を大事にしようって思えたことですかね。自分でもあまり分かっていなかったんですけど、顔まわりの毛の動かし方だったりウエイトだったりカラーだったり、僕がかわいいと思っているものってやっぱり自分らしさだなって改めて思えたというか。
最初は去年の作品とは違うテイストで、新しいことにチャレンジしようとベリショのスタイルを試したりもしたんですけど、結局「これは本当に自分らしいのか?」ってなったし。自分にないものを無理して作っても、自信が持てなかった。だから新しい自分印を探し直すというよりは、今ある自分印もっと育てて広げていこうと思っています

──結果発表の直後「1位と2位は雲泥の差」っておっしゃってましたね
シンプルに負けず嫌いなんです。勝ちにこだわりたい。準グランプリを目指して出る人なんていないし、観た人の記憶にも残らない。僕が目指してたのは“ぶっちぎりの1位”だったんです。

──競技の前後でも「ぶっちぎる!」と意気込んでましたね
「勝つんじゃなくて、ぶっちぎる」。今年の座右の銘として大事にしている言葉です。去年は「2番目に高い山なんて誰も覚えてない」という言葉をテーマに、とにかく1位になることを目指してました。でも今年は、ただ1位を取るだけじゃなくて圧倒的に突き抜ける。もう一段、勝ちにこだわるぞっていう意味で“ぶっちぎる”を掲げてました。
正直、仮にグランプリを取れてても2〜3点差だったら運の要素も大きいと思ってしまう。だけど20点、30点差がついてたらそれはもう誰が見ても納得の1位。そういう勝ち方がしたかったんです。それが今回届かなかった。だからボロ負けです。

──勝ちにこだわる一方で、自分の表現とはどう向き合っていましたか?
去年はたくさんの方に力を借りて、振り絞るようにつくったデザインで優勝できました。だからこそ、今年は自分の最大限のデザイン力でちゃんと勝てるかどうか、試してみたかったです。自分に自信をつけるためにも、あえてエリアファイナルでは誰にもアドバイスをもらわずに挑みました。
先輩に「これ、どう思いますか?」って聞いて「こっちのほうがいいかも」という繰り返しの中でつくるのと、自分で「これ直した方がいいかな」「直してみたけど、どうなんだろ」って進めていくのでは、やっぱり不安の大きさが全然違う。
最終的に評価するのは審査員だから、自分は良いと思っていても自信が持てなくなる瞬間があるんです。それでも自分の好きなもので評価されたいから、それは曲げずに残すようにしました。

──それが「自分印を育てる」ってことにきっと繋がっていくんですね
でも、あえて一人でやってみたからこそ、アドバイスをもらうことの大切さも実感できました。自分だけだとどうしても不安になるし、決勝ではもっといいデザインにしたくて、尊敬している先輩の依光さんや氏川さんにアドバイスをいただいたんです。途中でデザインを変えたのも、依光さんに「新しさって難しいです」って話をしたときに「無理に新しさとか去年と違うものを考えないで、自分印っぽいのをもっと考えてみたら?」って言ってもらえたのがきっかけでした。新しさを出せば評価されると思ってたけど、それだけじゃない。いろんな価値観を勉強させてもらって今回のデザインにつながりました。


──改めて、維駒さんにとってコンテストとはなんですか?
楽しいから出てるっていうのもあるし、負けず嫌いだからこそ挑んでる部分もあります。でも勝ち負け以上に、自分の引き出しを増やしてくれる場だと思ってます。
とにかく練習する、試行錯誤するから上手くなる。いろんな作品を見るから目も育つ。モデルさんやスタッフとの関係も深まるし、他のサロンの方とのつながりも生まれる、その全部が詰まってます。
これからはもっと、カルチャーの勉強をしないといけないって課題も見つかりました。コンテストの後にJURKの沢井さんから「モードはもう十分わかってると思うから、今度はストリートとかHIPHOPとか、そっちのカルチャーも学んでみるといいよ」って言っていただいたんです。僕はまだまだ表面的だったから、作品に込めたカルチャーや意味を知ることでもっと深みが出せるはず。もっと伝わるものになると思うんです。

──最後に、今回の挑戦を一言で言うなら?
生きてる、ですね。
──それではどのタイミングで感じたことですか?
負けた瞬間。去年はグランプリにJHA最優秀新人賞、KHAファイナリスト、雑誌の表紙もやらせてもらって、順調すぎるくらいでした。でもその分「もう中途半端なもの作れない」って重いプレッシャーも感じていて。
決勝でも誰ひとり「入賞できたらいいね」なんて思ってなかったと思います。期待されていたのは連覇だけで、去年とはまるで違っていました。
だからこそ準グランプリという結果は、ある意味すごくリアルだったなと思います。
日本で2番目。素晴らしい結果だし、ありがたい。でも目指していた場所ではなかった。
ただ一晩経って、ちょうどいい順位だったなとも思うんです。3位でもなく、4位でもなく、2位。勝ったとは言えないけど、完敗でもない。だからこそ一番悔しい順位だったのかもしれません。 “人生、山あり谷あり”ってほんとにそう。喜びも悔しさもないときっと面白くない。
去年グランプリを取れたのも、結局それまでたくさんの「負け」があったからだと思っています。負けはそのままにしたら負けだけど、勝つまで続ければ過去の負けも「勝ち」にひっくり返る。今回の負けも、来年勝てたら「負けてよかった」と思えるはず。
僕はこれまでそうやってきたし、これからもそうしていくつもりです。
──ありがとうございました。では来年も?
でます。


- 執筆者
- 木村 麗音
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