“続ける”ってどういうこと?

“続ける”ってどういうこと?

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連載:今日を生き抜くヒント

美容師ライター、操作イトウが日常の“サロンワークを乗り越えるヒント”を探るコラム連載。最終回は、誰もが無意識に実践している「美容師という仕事の続け方」。

Illust:モリスン

朝、出勤途中の電車の窓に映る自分。ご来店を待ってる間に、受付の鏡越しにふと見えた自分。

「やる気が起きない」そんな日、ありますよね。

気持ちの乗らない時にも、日々の営業はやってくるし。淡々と作業をしながら、頭のなかでは悶々と不安が巡る。

それもまた“仕事”、と言ってしまえばそれまで。

だけど、皆さんも美容師を続けるにつれて、得体の知れないモチベに振り回されてることってありませんか?

続ける難しさの正体は…?

体調が悪いこともあるけど、気乗りしない理由の多くは、体力というより「気持ち」がほとんど。やる気がみなぎっている時は、身体の疲れも気にならないものです。

また、眠れない夜や通勤中にはどんよりしていても、忙しい仕事が始まってしまえば夢中になって気分良くできた、なんてこともありますよね。

変わらない毎日に守られているような、変わらないことが不安なような。

そんなワタシは、メンヘラ?いえいえ、誰にでもある感覚だと思いますよ。

得体の知れない“なにか”。胸が圧迫されて苦しい“なにか”のことを、一般的には「焦燥感」って呼びます。

この焦燥感の原因について深掘りするために、3つのシチュエーションを考えてみました。あなたもこんな風に感じていませんか?

立ちはだかる3つの壁

①「理想のワタシ」に近づけない、今のワタシ

反省ばかりの毎日。ベッドに寝転んで開いたInstagram。同世代の美容師のカッコいい投稿を見ると、追い付けないほど差がついてる気がして、勝手に落ち込んでしまう。

「理想のワタシ」になれていない、今のワタシ。技術に自信がない時や、気持ちが落ち込んでいる時は「自分って美容師に向いてないのかも」って思ってしまうことがある。

②数年後のワタシ、頭打ちな気がする

サロンに着くと、いつもと変わらない予約表。帰り際、先輩の背中が妙に疲れて見えて「あれが数年後の自分…?」って想像してしまう。

社内のさまざまな先輩の姿を見ながら、同じレールに乗っているワタシ。この先も決まりきってるような気がするし、それが自分がなりたい姿なのか。それすら、なんだかよく分からなくなってくる。

③SNS上のワタシと、表に出せない疲弊した気持ち

ほんとはゆっくり寝ていたい休日に、わざわざ顔も整えて、オシャレなラテで「#休日コーデ」なんて投稿。コメントが来ればうれしい。でも気づけば、SNSの中のワタシが“本物のワタシ”を苦しめている。

毎日のSNS発信。ネタ探しの日常に迫られ、そのために休みも予定を組んで…。いつもキラキラしているこれは、本当にワタシ?

美容師を続けるための処方箋

例としてあげた3つの悩み、実はぜんぶ根っこは同じです。それは「未来のワタシへの不安」。

今の自分が、どこかで「甘んじて受け入れている設定」。
それを続けているうちに、じわじわ心が疲れていって、気づけば「理想のワタシ」と「本来のワタシ」とのギャップが違和感になっている、そんな状況です。

成果が出ない時期に、「メンタルを強く!」とかそういう事じゃなくて。どうしたら心を保てるのか?

まずはワタシを見つめ直すことから始めよう。

今登ってる壁が「ワタシが登れる壁」なのか

「理想のワタシ」に壁はつきもの。階段を一歩ずつ上がれればいいんだけど、高い理想を掲げすぎて、いつまでもどデカい壁と対峙してませんか?

見上げるほどの壁をロッククライミングしては、途中で力尽きて、尻餅をついて、しばらく立ち上がれない。そんな繰り返しになっていませんか?

もしかしたら、登るべきなのは「その壁」じゃないのかもしれません。

できる・できないは人それぞれ。「やってみた結果、できなかった」ことに対しては、諦める勇気も必要です。僕も、そんな経験ばかりしています。というか、今でもやってる。

例えば若い頃の僕は、美容師として「万人にウケる」ことを目標としていました。だけどぜんぜん上手に振る舞えないし、できなくて落ち込む。その繰り返しでした。

いくつも下の後輩が、そんな「僕にとってのどデカい壁」をヒョイヒョイっと駆け上がる姿を見て、ハタと気づきました。できる人は「その才能」があるからできるんだ。

だから今は、壁から落ちてお尻を痛めたら「あれ、登る場所、ココじゃなかった?」と冷静になって、別の自分が登れる壁を探すようにしています。

隠していた「短所」が、実は武器になることも

これとは反対に、自分では短所だと思っていたことやネガティブで隠したかった部分が、プラスに捉えられることもあります。

そんな自分の意図してない趣味や価値観が、あるとき思わぬ魅力としてファンを引き寄せてくれることもある。

詰まるところ、僕の場合は「ニッチな層に深く刺さる」美容師でした。それも「美容師とのやりとり」が苦手なお客さまに好まれやすいのです。

僕自身もそんなお客さまにはシンパシーを感じますし、その客層は他の美容師にはキャッチできない存在なのかもしれません。そう理解してからは、相性のいい方との新しい出逢いにより深く感謝できるようになりました。

結局のところ、長所短所はプラスマイナスではなく、どっちもプラス側に働きます。

だから、その壁は「登るべき方向」を見誤っていただけかも。痛めたお尻は「怪我の功名」だと思って、砂ぼこりを払って次に進みましょう。

「応援してくれるお客さま」に相談してみる

悩みある時、同僚からに話せば共感してもらえるでしょう。ですが、ハッとするようなアドバイスは期待できません。

何か「助言」が欲しい時は、心を許しているお客さまを頼ってみましょう。

なぜならその方こそ、身近で一番「ワタシの商品としての価値」を理解している存在です。そのお客さまは、ワタシの「他の美容師とは違う魅力」を知っています。

僕にもそんなメンターのようなお客さまが、何人かいます。実際、僕が今の執筆を始めたのもお客さまの一声がきっかけでした。

「何か動きたいんだけど、どうしたらいいか分からない」と漠然と相談していたところ「noteって知ってる?」と紹介してもらったことを機に、僕の活動は始まりました。

それが今になって、さまざまなメディアで執筆する機会があるのだから、正直、お客さまに救われたような気持ちです。

「自分ルール」を一つだけ手放してみる

美容師をやっているうちに、「仕事上の美学」ができてくる。それは先輩からの教えだったり、自分の人生訓だったり。

もしこれを、セブンルールみたいにカッコよく紹介できれば素敵だけど、時には見直す必要もあります。

習慣になっていたその「自分ルール」が、今の自分にはもう合わなくなっている。そうだとしたら、それはもう“足枷”かもしれません。

どんなルールが自分を縛っているのか。仕事観、人間関係、あるいは人生観そのものなのか…。

それはイカリのように底に沈んで、引っかかっている。見えないけど、確かに自分の足を止めているもの。

そのイカリを外すには「決断」が必要です。そしてその決断には、たいてい時間制限があります。2度目もないかもしれない。

その波に乗るか、スルーして次に期待するのか…。

けれど、一度意を決してしまえば心のワクワクが広がる。

実際、海外に拠点を移した先輩は、SNSでいきいきした笑顔を見せています。久しぶりに会った後輩は、職場を離れる決断をして、晴れ晴れとしています。

「いつやるか?今でしょ」はただのギャグではなく、自分からアクションしよう!と鼓舞しているのです。

枷(かせ)を外せば、踏ん張っただけ軽くなって、大きくジャンプできるはずです。

続けた先に見える景色
「辞めなかっただけで強い」

焦ってる気持ちは、カッコ悪くても自分で動かない限り解消されません。

ここで偉そうな口を叩いている僕も、いつも焦燥感にかられて、もがいたり、ジタバタして毎度痛い思いをしています。

だけど、そんな人間らしさや泥臭さは「説得力」にもなっています。パーソナリティはそんなに演出しなくても滲み出るものだし、キラキラだけが魅力ではない。

むしろ「カッコ悪い自分」こそがワタシの土台かも。

少し前、俳優の國村隼さんのインタビューが印象的でした。世界的な映画で称賛された演技について、まっすぐに「人より長く続けてきただけですよ」と言っていたのが、頭にこびりついています。

仕事を続けるには、心が疲弊することも多いですよね。でも、続けた人は誰かに「かけがえのない存在」になる。

若いころは、周りに同じような人がたくさんいて、評価されなかっただけ。年齢を重ねていくうちに、気づけば比較する相手がいなくなっている、それこそがワタシ。

あなたもまた、辞めなかっただけで強いんだ。

ボブログ編集部
執筆者
ボブログ編集部

成長し続ける美容師のための髪書房ウェブメディア『ボブログ』。これまでにないスピードで変革する時代に必要な情報【パラダイムシフトの芽】をいち早く見つけ、掘り下げ、新しい常識を提案します。

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