町田で射止める「ターゲットを見極めた戦略」|dot.tokyo・Nell by green

町田で射止める「ターゲットを見極めた戦略」|dot.tokyo・Nell by green

211

特集:TOKYO LOCAL

Photo_橋本美花
Illust_藤原ヒラメ

町田市は多摩エリアの南端、神奈川との県境に位置する“ちょうどいい街”。
JRや小田急をはじめ4つの路線が走り、駅前にはショッピング施設が並ぶ。横浜と八王子をつなぐ宿場町として栄え、人が行き交う文化は今も変わらない。

また、大学が8校、専門学校は7校あり、多くの学生が暮らしている。新宿まで約30分という交通の利便性の良さから、新社会人にも人気のエリア。若い世代が多い街として自然とトレンド感度も高くなり、23区を除く市町村で最多の美容師数を誇る。

お客の感度をあげる、それが町田で働く美容師の仕事だ。

一方、転入・転出が多さはサロンにとって、顧客が定着しにくいという課題にもつながっている。流動する町田でファンを掴み離さない、2つのサロンからリアルな勝ち筋を聞いた。

横森弘幸(よこもりひろゆき)/1985年、山梨県生まれ。日本美容専門学校卒業後、藤沢市のサロンへ入社するもサロンの客層に違いを感じる。その後2年間の海外経験を経て視野を広げ、経営を意識するように。帰国後は若い層に向けた「オーブヘアー(AUBE HAIR)」町田店の立ち上げに携わり、2013年に独立し「dot.tokyo」をオープン。ドミナント展開の特化型サロンとして、町田市内に10店舗・横浜市に2店舗を展開する。

その若い客層に潜むチャンスを逃さなかったのが「dot.tokyo」横森弘幸さんだ。トレンドに敏感な若年層の顧客は特化型サロンと相性が良く、横森さんの戦略はその点を的確に捉えていた。もともと「オーブヘアー」町田店の立ち上げに携わっていたため、周辺サロンとの客層の違いを見分けられ、土地勘も大きな強みとなった。

「町田市の美容意識を底上げして、地域づくりをしたかったんです。」

そう語る横森さんは、2013年に1店舗目を開業。だが、当時はすでに競合サロンが多く、新規集客が難しい状況だった。そこで、大胆な方針転換を決める。飲食業界に革命を起こした「俺の」シリーズから「斬新な個性×ドミナント出店」というマーケティング戦略を応用し、ハイトーン特化型サロンを始めたのだ。若くて流行を追う若年層×転入出が多い町田市で、斬新かつ存在感のある個性派サロンとして、話題づくりを狙った。

若手の”やりたい“がかなう会社へ

「全員でトップを目指したいんです。ただ、仕事環境を重視したスタッフが多いので、入社前に行う性格診断をもとに店舗配属を決めます。」

入社前の診断結果で店舗配属が決まる。チーム全体のコミュニケーション傾向を把握し、ミスマッチを事前に減らす。

チーム力をあげる背景には、「3年後に年商10億円」という目標がある。若手には会社の全体像を掴んでもらうために、主体的に働ける環境を整えなければならないと横森さんは語る。

そして、特化型サロンは各技術を集中的に高めやすいのが強み。スタッフ間で教え合いながら成長すればお客の要望に対し、チーム全体で応えられる。この強みにドミナント展開を掛け合わせることで、地域全体の「美容意識の底上げ」する道筋が立つ。

また、社内で若手が育つことでキャリアプランの構築にもつながっていく。

“指名数300名” 町田のメンズスタイルを動かす

町田市のある大学では「dot.tokyo」にいけば“イケてるやつ“と一目置かれる。そんな存在感のあるスタイルをつくっているのは、メンズ特化の「メンズサロンドットトウキョウ 町田店(men’s salon dot. tokyo)」のディレクターである橋本滉太さんだ。

橋本滉太(はしもとこうた)/2000年、神奈川県生まれ。町田美容専門学校卒業後、「dot.tokyo」に新卒で入社。現在はディレクターを務め、サロンワークの傍らセミナーや外部活動なども行う。趣味は漫画で、キャラクターの髪型を再現するなど熱狂的な一面も。

美容学校を卒業し、新卒で「dot.tokyo」に入社。デビュー後は「波巻きパーマ」に狙いを絞った戦略で平月の指名数は300名を超え、売上300万円を叩きだす売れっ子スタイリストだ。学生時代から慣れ親しんだ街で就職を決めた橋本さんは、もともと都心のメンズサロンで就職を考えるも競合の多さから断念。

既に売り方を定めていた橋本さんは、町田市で1番を取るため、夜中までパーマの練習を行うなど寝る間を惜しんで技術を研究。そして、同期よりも半年早くデビューする結果となり、現在は口コミや紹介によってリピート率70%を超えている実力者だ。

着実に成果をあげた橋本さんは、現在ディレクターという立場。若いうちから評価を得れば、モチベーションがより高まる。この個々が成長しやすい環境は、組織にとって良い循環となり、会社が大きくなった際に選べる道が広がる。

だからこそ、自ら進んでチームを引っ張る存在へと歩みを進めている。

右:岡田謙治(おかだけんじ)/1988年、東京都生まれ。ベルエポック美容専門学校卒業。表参道のサロン「グリーン(green)」に勤め、約11年前に「グリーン」町田店のオープニングスタッフとして移籍し、現在に至る。自身の店舗として大宮に「アニー(ANY)」を展開。経営者とプレーヤーの2軸で活躍中だ。

左:大野なつみ(おおのなつみ)/1999年、千葉県生まれ。横浜ビューティーアート専門学校美容学科卒業。在学中の好きが高じて、透明感のあるハイトーンが推し。人生初のブリーチは岡田謙治さんが担当し、就職を決めた。
2017年に移転後、現在は洗練された印象に。天井高で空間にゆとりがあり、リラックスできる。

当時の表参道の「グリーン」といえば、アンティーク調の内装と落ち着いた世界観で知られるヘアサロンだった。それは最先端の象徴とも言える空間で、町田市にはこれまでなかったヘアサロンと話題に。

「僕の美容師人生は、町田で始まり、町田で鍛えられました。」

そう語るのは、スタイリスト歴0か月というタイミングで「ネルバイグリーン(Nell by green)」町田店の責任者に抜擢された岡田さんだ。オープンして1か月で約400人が来店し、2年目には月間売上約210万円を記録。異例とも言えるスピードでデビューを飾った。

「正直、あの頃の記憶はあまりないんです」と、笑って振り返る岡田さん。常に新規顧客が訪れると、その分学びが多く、自身の成長を後押ししてくれる良い環境だったと語る。

「当時は街の特性を考える余裕はなかったです。でも、住環境が良いのに流行を取り入れたデザイン性のあるサロンは少なかった。なので、”デザインを売る”ことで他と差をつけられたと思います。」

町田市と関わりのなかった岡田さんの毎日は、まさに鍛錬のくり返し。だが、この積み重ねが、街に馴染むためのいちばんの近道だったのかもしれない。

今では、親子で長く通ってくれているお客さまも増え、「街の美容室」としての役割も実感している。

「自分の強みを見つけたら、あとは場所だけ」

今年でスタイリスト6年目の大野なつみさんは「#淡めハイト―ン」「#透明感カラー」を推し、顧客のハイトーン率は90%超え。在学中から集客の幅を絞り、大学生からの支持を集めている。

当時はまだ、周囲に同じ内容で推していた美容師はほとんどいなかった。誰とも被らないポジションを築けたのも、今となって大きな強み。自身の「好き」を起点にした集客方法は技術を深堀りできる一方、その街に需要を見定める必要がある。

「私のお客さまは大学生を中心とした若い世代です。カラーモデルを募集した時からほぼ予約は埋まっていて、着実にスキルをあげられました。」

「好き」を原点として、どの場所でお客の心を掴むかが大切だ。

ドミナント展開でサロンの選択肢を増やした「dot.tokyo」、流行の最先端として地域に根付いた「Nell by green」。

この2店舗に共通するのは、街のヘアサロンとしての機能も持ちながら、明確なターゲット設定のもとで戦略的に展開していた点。

また、町田市のように転入・転出が多いエリアでは、客層の見極めがサロンの方向性を大きく左右する。それは同時に、美容師一人ひとりの仕事・プライベートを優先しながら働きたいキャリア形成にも直結。

だからこそ、的確なターゲット設定と、地域に根差して結果を出す仕組みづくりが、町田市のヘアサロンには求められている。

アバター
執筆者
ozawa

Prev

Next