
東京のヘアサロンは、今も都心が熱い。
大型出店、高付加価値、次々と更新されるトレンド。中心地は常に話題に事欠かない。
だがその一方で、都心から少し離れた市町村部でもサロンの出店はじわじわと増えている。出店ペースでは都心を上回るエリアさえ出てくるほどだ。地価や競争率のメリットはあるけれど、それだけでは勝てない。中途半端な強みではたちまち顧客は都心へと流れてしまう。だからこそ、そこで働く美容師たちは「どこに出すか」ではなく「どう戦うか」を突き詰めている。
自分の武器を言語化し、街の空気に合わせて届けていく。差別化が難しくなったいま、こうした動きは都心・地方を問わず、自身の働き方や武器を見直すヒントになるはずだ。「TOKYO LOCAL」では、東京の市町村で確かな戦略と存在感を示すサロンに光をあて、現場の視点を掘り起こしていく。

東京都は大きく分けて、渋谷・新宿などの23区と多摩地域・島しょ部を含めた39の市区町村で構成されている。まずは2019年から2023年の5年間で、市町村のサロン数がどのくらい増えているのか読み解いていく。
※サロン出店数および増加率は、東京都の「福祉・衛生 統計年表(2019〜2023年)」をもとに算出。

5年間でヘアサロンがどれだけ増えたかを色分けした。都市開発が進む立川市(100店舗以上増加)を筆頭に、出店が集中しているようだ。次いで存在感のある町田市・八王子市は、商業施設が充実し交通の便もよいターミナル型の街。いずれも、周辺の街からも流入が多く多様な世代の生活拠点にもなっているのが特徴だ。

5年間でサロンが増えたペースをグラフ化すると、23 区の平均増加率(14.3%)を上回るエリアがいくつもあることがわかる。もっとも伸びたのはここでも立川市(28%)。町田市(18%)に、吉祥寺駅や三鷹駅などを抱える武蔵野(18%)などが続く。なお、稲城市は成長率こそ高いが、増加数は12店舗にとどまる。
また、市町村全体で見ると人口の増加は5年でわずか0.5%。対してヘアサロンは9.7%増えており、単に人口が増えたからという理由ではなく、地元ニーズの掘り起こしやサロンの戦略によって市場が動いていることが分かる。
次にサロン数・美容師数・増加率がそれぞれもっとも多かった3つの街から、ローカルの現在地を掘り下げていく。
※データはすべて編集部調べ


渋谷と肩を並べる「立川市」
もっともサロン増加率が高かった、西東京のターミナルシティ「立川市」。5年間でサロン数+28%増と、渋谷区の+29%に迫る勢いを見せている。
人口は18万人規模ながら、JRとモノレールが交差し、都心からのアクセスも抜群。近年では「グリーンスプリングス(2020年開業)」をはじめとする再開発が進み、商業施設と住宅地、アートや文化が共存する街へと大きく変貌を遂げた。
住む場所としての魅力が上がったことで、感度の高い生活者が流入。それに合わせてヘアサロンにも“量”だけでなく“質”の変化が求められてきている。単なる増加ではなく、街の背景にある価値観の変化こそが立川をおもしろくしている理由だ。

都心とローカルのはざま「町田市」
新宿・横浜の両都市に約30〜40分でアクセスできる立地に加え、駅周辺には百貨店やモールが密集。人口約43万人、美容師数は市町村最多の2,581人と、ローカルながら都市的な密度を持つ街だ。
大学進学や就職による若年層の流入出が多く、常に新しいターゲットが生まれる。だからこそヘアサロンも「誰に・何を」届けるかを明確に打ち出しやすい。実際、町田では特化型サロンがいくつも台頭し、“地域×専門性”を掛け合わせた強いポジショニングを築いている。
2024年からは町田駅南側で大規模再開発も進行予定。都心のコピーでも、郊外の延長でもない、「もうひとつの中心」としての町田が、これからさらに盛り上がりそうだ。

多層なボリュームゾーン「八王子市」
大学21校・人口約58万人という規模を持ち、観光地・高尾山を擁する八王子市。サロン数は約800軒と、都内市町村では最多を誇る。圧倒的な数の裏側では、当然ながらエリア内での競争も激しさを増している。
学生街であり、観光地であり、ベッドタウン。街の多層な性質は、サロンに求められる機能や世界観の幅広さに直結する。数が多い分、「なぜこの場所で、このやり方なのか」を明確にできる強みと発信が問われる街だ。

23区の外側では確かにサロンが増えている。だがそれは単なる空き物件が多いという話でもなければ、競争を回避するための選択肢でもない。
地元の需要に応える専門性。都市機能と郊外性を兼ね備えた街の構造。そして、自分たちらしい働き方を見出す美容師たちの考え方と実践。背景には、それぞれの土地に根ざした「選ばれる理由」が存在している。
次回からはそうした理由を突き詰めたサロンたちを取材。どんな思考で、どんな設計で、なぜこの土地だったのか。TOKYO LOCALのリアルな現場から、東京の現在地を掘り起こしていく。
- 執筆者
- ozawa
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