サロンはどこまで“美しく”なれる?クリエイション・経営・社会課題で探る「Beautify」

サロンはどこまで“美しく”なれる?クリエイション・経営・社会課題で探る「Beautify」

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photo_田中桃香(株式会社ボウラヴィ)

What’s 「Beautify」

会場は大阪・ホテル日航。年度の境目にも関わらず、100名を超える参加者が集った。

日本ビューティ・コーディネーター協会(以下、JBCA)が3月31日、「ビューティコンベンション」を開催した。同協会は、これまでサロンの接客やカウンセリング、物販を担う“ビューティ・コーディネーター”の育成に取り組んできた。

そんなJBCAが近年、「Beautify(ビューティファイ)」という新たなキーワードを掲げている。スタッフ・空間・提案力・サービスすべてにおいて『顧客の“ビューティをコーディネートする”』という考え方だ。

今回のイベントでは、このBeautifyをテーマに、JHAグランプリ受賞者による対談に加え、地域密着・ブランド型・シニア向けなど異なる視点から“これからのサロン”を語る3つの講演が行われた。

JBCAがいま、なぜBeautifyを掲げるのか?登壇者たちの言葉から振り返る。

登壇者プロフィール

飯笹豪(FAVOR) 2023年JHAグランプリ受賞。福岡市内に2店舗を展開し、メットガラやアルマーニ東京コレクションなど、国内外のファッションショーやコレクションでヘアを担当。表現と日常をつなぐクリエイションを探求している。
照屋寛倖(in chelsea) 2022年JHAグランプリ受賞。愛知・北名古屋市を拠点にサロンを経営し、クリエイションとサロンワークを高いレベルで両立。教育者・フォトグラファーとしても全国で活動している。
佐久間正之(ファイブスターグループ)慶應義塾大学大学院MBA修了。2011年創業、東北・東京・シンガポールで約50店舗を展開。21年に日本初の韓国トレンド特化〈uni〉、25年にカミカリスマ結集の〈MUKU〉を表参道にオープン。新卒給与25万円の導入やM&A統合で業界革新を推進する。
太田明良(EGAO) ファッションスタイリストとして活動後、「おばあちゃんの原宿」とも呼ばれる巣鴨に、シニアのニーズに特化した〈えがお美容室〉〈えがお写真館〉を展開。美容を軸にQOL向上を目指すサービスを提案し、業種を超えてシニア市場をプロデュース。企業アドバイザーとしても活躍の場を広げる。

JHAグランプリが語る
「作品づくりのその先」

(左から)森井編集長(BOB)、飯笹豪(FAVOR)、照屋寛倖(in chelsea)

唯一のセッション形式行われた、JHA歴代グランプリ対談。

美容専門誌「BOB」の森井純子編集長がナビゲーターを務め、2023年受賞の飯笹豪さんと、2022年受賞の照屋寛倖さんが登壇。日々の積み重ねの中で見えてきた、美容のこれからについて語った。

“自分らしさ”はどう育つ?

BOB森井

クリエイションにおいて「自分らしさ」ってどうやって生まれるものなんでしょうか?

照屋

最初は「うまくつくりたい」「認められたい」という気持ちが強いと思います。でも、それだけだとどこか似たような作品になってしまう気がして。

やっぱり“自分が本当に好きなもの”を形にしていくことで、自分らしさって自然と出てくると思うんです。サロンワークでも、カラーが好きならカラーに特化するように、クリエイティブも“好き”が出発点だと思います

飯笹

僕も最初から自分らしさがあったわけじゃないです。まずは憧れの人のデザインを3年くらい真似する。そこから少しずつ引き算して、自分らしい表現が見えてくる。

でも最近は、逆に“自分らしさを守りすぎないこと”の大切さも感じていて。「17%自分を捨てる」っていう意識で、新しい感覚を取り入れるようにしています。

(左)照屋さんの作品/2022年に大賞受賞 ©JHA (右)飯笹さんの作品/2023年に大賞受賞 ©JHA
BOB森井

おふたりにとって、クリエイションを通じた“Beautify”って、どういうことだと思いますか?

飯笹

どんな仕事でも、作業で終わるのか、意思を持って向き合うのかで全然意味が変わってくると思います。たとえば鏡を拭くにしても、「このあと誰が座るのかな」と想像しながら拭く。毎日のなかに意思を持ち込むこと。僕にとってのBeautifyは、そういうことです。

照屋

僕にとってのBeautifyは、「クリエイションを続けること」そのもの。美容室からクリエイションがなくなってしまったら、デザインの未来が薄れてしまう。

だからこそ、生み出す行為を止めないことが、美容師を、サロンを、美しくしていく力になると信じています。

ファイブスター 佐久間正之
現場に光を届ける仕組みづくり

佐久間正之(ファイブスターグループ)

「美容師の社会的地位を、もっと高めたい」。そう語ったのは、ファイブスターグループ代表の佐久間正之代表。福島を拠点に、表参道やシンガポールを含む47店舗を展開し、新卒月給25万円を全国一律で導入するなど注目を集めている。

講演では、順調に見える拡大の裏で直面した、理念の浸透や人材マネジメントの難しさに触れた。「自分は美容師ではないから、技術で背中は見せられない。そのぶん、何を大切にするかを徹底的に考えてきた」と語るように、制度や仕組みで現場を支えるスタンスが一貫している。

「理念を共有できる環境を整えること。それが、今の自分の仕事」。経営の側から“光を届ける”姿勢が印象に残るセッションとなった。

EGAO 太田明良
シニア特化と美容の未来

太田明良(EGAO)

「高齢化はネガティブな現象ではない。美容が果たす役割が、これからさらに広がっていく領域なんです」。そう語ったのは、「えがお美容室」を展開するEGAOの太田明良代表。ファッションスタイリストとして活動した後、シニア特化型のサロン事業に乗り出した。

日本の高齢化率は約29%。4人に1人が65歳以上という社会においても、ヘアサロンに通いづらさを感じる人は少なくない。太田氏は「ヘアサロンの客層で最も抜け落ちているのがシニア層」と語り、店舗づくりやスタッフ教育の再構築に取り組んできたという。

講演では、シニア層のニーズに応えるための空間づくりや接客、メニューの工夫などを具体的に紹介。「高価格帯を狙うのではなく、選ばれ続ける設計が大切」とし、高齢化社会における美容の可能性を提起した。

JBCAが描く“Beautify”の未来と
ABAとの連携

板倉雄三(日本ビューティ・コーディネーター協会)

JBCAの板倉雄三理事長は冒頭、「JBCAは、美容師だけでなく、サロンに関わるすべての人の価値を高める団体として活動してきた」とこれまでの歩みを振り返り、「Beautify」というキーワードに込めた想いを改めて語った。

Beautifyを実現するには、接客やマネジメントだけではなく、技術との接続が不可欠だと語り、今後の展望として発表したのが、技術教育団体「ABA(アジアビューティアカデミー)」との連携だ。

渡邉弘幸(アジアビューティアカデミー)

ABAは全国の高単価・高付加価値サロンの美容師が理事・講師として参画する、技術を軸とした教育組織だ。アジア美容経済の発展を視野に入れ、技術教育の深化に取り組んでいる。渡邉弘幸理事長は「技術だけで終わらず、教育のあり方や現場での伝え方まで踏み込むことで、接客や組織と技術が分断されない現場づくりを目指したい」とコメント。JBCAとABAという異なる専門性を持つ団体がタッグを組むことで、ヘアサロンを“総合力”で支える動きが本格化していく。

講演の後には懇親会も

「Beautify」という理念が、サービスから技術へと領域を広げ、次のフェーズに差しかかっている。最後には懇親会も行われ、世代や職種を超えて語り合う光景が広がった。共通していたのは、“ヘアサロンをよりよくしたい”という想い。JBCAの活動に共感し、共に動き出す仲間はこれからも増えていきそうだ。

木村 麗音
執筆者
木村 麗音

日本美容専門学校を卒業後、都内ヘアサロンを経てキャリア転換。少年ジャンプ編集部で3年編集アシスタントを務めた後、髪書房に入社。ウェブメディア「ボブログ」の編集を担当。

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