
8つのWHYで導く在りたい姿と信頼関係。白髪ぼかしの第一人者・西川万由
「レイヤー」「デザインカラー」「白髪ぼかし」etc…
いまや定番となった技術やスタイルも、その可能性に挑み続け、象徴的な存在となった女性たちがいる。
何を考え、どう選び、どんな未来を描いているのか?テクニック、マインド、これからの話まで、彼女たちの歩みと視点を深掘りする連載第2回。
photo_橋本美花
「#白髪ぼかし」の投稿数はインスタグラムで90万件に迫る勢い、注目度の高さは誰もが肌で感じているだろう。約6年前に「白髪ぼかし」を始め、今や全国・世界のマダム達から支持を集める美容師、それが西川万由さんだ。
アシスタント時代は、ニューヨークNO.1と称されるサロンのブランチ店で技術を磨き、現在は〈nex the salon〉(ネックス ザ サロン)本店でサロンワークのほか、外部セミナー講師としても活躍。毎月150人以上の顧客を担当している。
彼女がどのようにして白髪ぼかしを開拓し、支持を集めるようになったのか。これまでの歩みと、これからの話を聞いてきた。

再現性・扱いやすさ・ツヤ!
「白髪ぼかし」が生まれるまで

── 西川さんが白髪ぼかしを始めたキッカケを教えてください
10年以上前ですが、アシスタント時代に“外国人風”のデザインに多く触れていたのは大きいです。シニア層の方でも当たり前のようにブリーチで太いハイライトを入れていましたし、白髪を染めなきゃ!よりも、美容室での体験が楽しみと思っている方ばかりでした。そういうポジティブなマインドが、自分もこんな風に年齢を重ねたいと思わせてくれました。
一方で、当時“外国人風”として主流だった明るく派手なヘアカラーだけじゃなく、明るくなくても白髪を楽しめるデザインがあってもいいと思うようになりました。明るさよりも、扱いやすくてツヤがある方が日本人には合っていると。
さらに、白髪に悩む多くの方が来店周期を負担に感じていらっしゃる中で、伸びた時にも白髪が気にならないヘアカラーを提供したいと思いました。処理剤の進歩で傷みが軽減されたこともキッカケの1つです。
── 当初、何が一番難しかったですか
今も変わらずですが、以前のカラー施術の影響を受けることです。新規の方はもちろん他店からのお客さまなので、履歴を読みといて適切な対応をする必要があります。
もう1点は、お客さまとのすり合わせの仕方、カウンセリングです。根元までしっかり染めていた方ばかりですし、白髪がボケるという体験をしたことがない方に、白髪を活かす提案を理解してもらうことは難しかったです。
白髪ぼかしへ挑戦する際、「周りの人からの目が気になる」とおっしゃられる方は特に多いです。周りの方はどういうヘアスタイルをされているか、普段お客さまがどういう場所にお出かけされているか丁寧に聞きますし、白髪率でデザインを決めるのではなく、「ライフスタイル・来店周期×白髪率」でデザインを決めることが何よりも大切です。後は“白髪がぼける”という体験を1度でもしてもらえれば、必ずリピートにつながります。

── 手応えを感じたのはいつですか
コロナ禍でお客さまが減ってしまい、2020年よりInstagramを白髪ぼかしの投稿メインへ切り替えました。気がつけば新規のお客さまで予約が取れず溢れており、当日マンツーマン施術で売上370万円/月ほど。
現在は新規のお客さまよりリピートのお客さまが多く、新規70%・再来90%・固定90%のリピート率です。再来のお客さまから、悩みが改善されたというお声をいただき嬉しく感じております。
── 再現性・扱いやすさ・ツヤが重要な理由を教えてください
サロンでかわいく仕上がるのって当たり前ですよね、家でも自分自身でかわいくセットできる、鏡を見る度にテンションがあがる。お気に入りのアクセサリーを身に付けるような感覚になってもらえるのが、プロの技術だと思います。
髪にツヤがあると、それだけでヘアスタイルが綺麗に見えます! なので、縮毛矯正もセットでおすすめすることも多いです。
母が60代で私が縮毛矯正をかけているのですが、一緒に温泉へ行った際、ヘアアイロンを使用しなくても髪の毛が“パヤパヤ”しないで“ツルン”と可愛くまとまる髪を見ると、ちゃんと美容師として仕事ができているなって思いますね(笑)

白髪ぼかしには
コンサルティング力が必要
“これが一番大事”を探して共有、ゴールの設定
── なぜ西川さんの白髪ぼかしが支持されると思いますか
カウンセリングでお客さまと共有したゴールに向かって最短距離を走る施術、そして白髪がちゃんとボケているからですかね。カウンセリングにはとても力を入れています。
どんなヘアスタイルの画像にも「白髪ぼかし」という名前が付いていると思うんですが、私の中で白髪ぼかしは、「白髪がボケている」、「白髪がボケていない」の2つしかないんです。「何となくボケた」は存在しません。
白髪ぼかしの定義は、➀根元が伸びた時に気にならない、②白髪率に合わせた施術。この2つができていると、お客さま1人ひとり違った仕上がりになります。自宅での扱いやすさやモチの良さも褒めていただくことも多いです。

── 「白髪ぼかし」で、最もこだわっているポイントは?
カウンセリングです。下の資料のように、8個のWHYを聞くことが大切です。1から5は普段から聞いている美容師さんがほとんどだと思います。重要なのは、6・7・8。
6から8の質問で、お客さまが何を一番大事にされているかを掴みます。一例ですが、子育て中の方だったら時間がないので手間のかからないスタイル、公務員の方はカラーの明るさ、遠方の方なら来店周期だったりするのですが、ご自身でも優先順位が明確ではない場合が多く“これが一番大切”をカウンセリングで探して共有します。

私はカウンセリングの最後に「今まで挑戦してみたかったけど、できなかったスタイルなどはありますか」「施術の前に不明点、不安点はございますか?」と必ず聞きます。7と8に関わる質問ですが、今日の施術ゴールではなく、未来も含んだゴールの共有ができます。それなら今日は縮毛矯正、次回ブリーチをしましょう。など最短距離を走れるようコンサルティングします。
── そのこだわりをお客さまにはどうやって伝えていますか?
まずはお店に来てもらうことだと考えているので、私のインスタグラムは「分かりやすさ」を大切にしています。予約方法、お店の場所、お支払い方法、メニューの価格、来店から退店までのフローを細かく書いています。
BeforeのAfterの動画を見ていただき、擬似体験と悩みに対しての解決策に共感をしていただくことにより、行ってみたくなるような投稿を心掛けています。

── 来店周期はどのくらいでしょうか
ほぼ100%の方が白髪ぼかしのお客さまですが、早い方で1.5カ月周期、2~3カ月の方がほとんどです。先ほど「白髪がボケているか」「ボケていないか」答えは2つしかないと言いましたが、これより短い周期であれば「ボケていない」ということ、1つの指標にもなるかもしれません。
下手な白髪ぼかしは淘汰が進む

インスタグラムの投稿
――白髪ぼかしの技術は、今後どうなると思いますか
お客さまの隠れた要望をもっと多くの美容師がキャッチして、悩みを解決できる施術になっていけばいいなと思います。結局、来店周期が短くなってしまうような無責任な白髪ぼかしのカラーや、一時的なキレイさしか保てない施術が多すぎると思っています。
白髪ぼかしは、ただ染める技術ではなく“お客さまに寄り添ったカウンセリング”が必要です。会話の中でお客さまの在りたい姿を引き出し、こだわりや価値観を確認する。そうすれば、リピート率にも直結し、信頼関係の構築につながります。
――「西川さんの客層でデビューしたい!」と言われたことがあるそうですね
アシスタントから言われた時、びっくりしたんです。同世代や若い世代に向けたヘアスタイルをつくりたいアシスタントが多いと思っていたので。
同時に、もちろん嬉しくも思いました。私のサロンワークはアシスタントと二人三脚で、その場で縮毛矯正×カットになったり、カット×ブリーチカラーになったり技術の組み合わせも多様、正直言って大変です。ただ、大変だからこそ1人ひとりにフィットしたデザイン・技術を提供できているとも思うので、そこにやりがいを感じるアシスタントが育ってくれたというのは大きい!と思いました。

できないからやらない、は絶対NG
── 今後どのような美容師になりたいですか
6人でスタートしたヘアサロンが、60人以上になりました。ただ大きくなるのではなく、1人ひとりがプロフェッショナルとして活躍できるサロンであり続けたいです。また、長く経営し続けるために幹部としてできることをしたいと思っています。
個人的には、縮毛矯正とブリーチの施術をした後の仕上がりが“ピカピカ”になるよう、グループに縮毛矯正専門店があるので、そこにヘアモデルさんに来ていただき練習をしていました。
技術はできないから提案しないのではなく、技術は全てできるけどお客様にとっては必要がなければご提案しないという姿勢でいたいので、練習は続けています。
白髪ぼかしが「ぼけた」「ぼけてない」2択しかないように、縮毛矯正も「ちゃんとできた」「できていない」の2つしかないと思っているんです。
――持続的経営とはどういうことでしょうか
nexグループが継続して経営できるために、まず第一は『お客様を最高の環境でお迎えしたい』と思っております。そのために顧客満足度の最大化、スタッフ満足度の向上、原価・経費の見直し・マーケティングと集客の多様化などは幹部陣でチームとなり行っております。

── 最後に、美容師として大切にしていることは?
日々の忙しさやストレスの中で、美容室に来る時間が少しでもお客さまの楽しみな時間になると嬉しく思います。
私は年齢と共に変わる髪質に合わせた施術や、自宅でも再現しやすいデザインを提供することを大切にしています。技術や薬剤も常にアップデートしながら“お客さまの5年後、10年後の美しさ”を一緒につくっていける美容師でありたいと思っています。
セルフノート


- 執筆者
- 増田 歩
「CHOKi CHOKi」「Ocappa」「BOB」 etc.からのフリーランスライターです。ボブとショートをいったりきたり、趣味にしたいのはヨガ。