モデル視点でひも解く、作品づくりを成功に導く4つのヒント

モデル視点でひも解く、作品づくりを成功に導く4つのヒント

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Photo:佐野 一樹

リアルカットコンテスト、フォトコンテストどちらにおいても、上位常連の美容師がいる。

誰もが多くの時間を費やして準備してきたなかで、彼らはいったい他の美容師と何が違うのだろう。

今回はそのヒントを探るべく、多くのクリエイションの現場を見てきたモデルの目線に迫ってみた。

モデル目線で語る、
ヘアクリエイションの現場

Aki(@___ol_o___)/ヘアモデル歴約10年。現在はアパレルに勤務しながら、月に2、3回撮影モデルを行っている。

作品づくりは美容師だけでなく、モデルやカメラマンなど関わる人全員の力によって形になる。特に結果を出し続ける美容師たちは、モデルとの関係づくりやチームワークづくりにも長けているようだ。

ヘアモデル歴10年、これまで数多くのコンテストフォトのモデルを経験してきたAkiさん。美容師たちと多くの時間を共にしてきた彼女も、そうした美容師には共通する特徴があると言う。

JHA2024で東京エリア最優秀賞を獲得した成田堅太朗さん(N/horn)の作品のモデルにも。成田さんとの撮影はこれが初めてだったそう。


今回はモデルとしての視点から見えた、作品づくりを支える4つのヒントを紹介する。

1 モデルに自信を持たせてくれる

彼女が初めてクリエイション作品のモデルとなったのは、高校卒業直後のことだったそう。地元、福島で美容師に声をかけられ、撮影のためにこの時初めてヘアカラーをした。

それから少し時間が空いて、リアルカットコンテストのモデルを引き受けたのが、彼女をこの世界の虜にした。

「初めての立ちコン(リアルカットコンテスト)で、思い切りバッサリ切られました。あまりにも初めて触れた世界観で刺激的でした」

その時の様子をインスタに上げたところ、思いもよらないことが起きる。インスタのDMが止まらなくなったのだ。撮影やヘアコンテストの依頼が全国の美容師から届いていた。

「こんな世界線あるんだ。信じられない」

彼女としては「私でいいんですか」という気持ちだったという。作品のクールビューティーな雰囲気からは意外だが、本人は自分を「自分に自信がないタイプ」だと話す。コンプレックスもあるという。

特にモデルをした作品にクールなテイストのものが増え、自身のカラーを自覚してからは可愛らしさがコンセプトの撮影には若干の不安もある。だからこそ……

「かわいいよ! 大丈夫! と美容師さんの方から自信をいただけると、すごく助かります。大丈夫なんだと思えたら、私ものびのびカメラの前に立てるようになります。

また経験を積んだ今なら、ヘアの見せどころもコンセプトも見ていたらなんとなくわかります。でも始めた頃は全然わからなかったから、具体的にこういうふうにしてほしいと言ってくれたり、画像を見せてくれたりする美容師さんは、とてもやりやすかったです。

モデルって、多分みんな自分の盛れる角度を持っていると思うんです。でもそこで決め撮りされずに、自由にして、と言われると途端に緊張しちゃうんですよね」

モデルの気持ちを乗せるのも、モデルがカメラの前で自信を持って動きやすいように導くのも美容師の仕事だ。

2 モデルにも新鮮な驚きを与えられる

今、彼女がインスタグラムに貼っているリンクを覗くと、「ジェンダーフリーな作品、白黒の作品は比較的得意かなと自分では思っています」と書かれている。

しかしそういった世界観のモデルばかりをしたいというわけではないようだ。

「私にとって撮影の楽しさは、新しい自分に出会えること」


特に印象に残っている撮影会があるという。ほぼ初めて歯を見せた表情で撮影をしたときのことだ。

「コンプレックスだった歯も、『かわいいから、出してみよう!』と言われたときの驚きは忘れられません。表情の作り方もそれを機に一気にパターンが増えましたし、カメラの前にそれまで以上に楽な気持ちで立てるようになりました」

長く参加している地元、東北の撮影会にも同じような雰囲気を感じているという。

「長く私のことを知ってくれているからこそ、いつもとは違う私を表現しよう、違う角度から見てみようとしてくれるのでいつも新鮮で楽しいです」

JHA2024にノミネートされた、山形県の野口ひろみさん(EARTH酒田店)の作品も新鮮だった思い出の一つ。ノミネートを知らされた時、Akiさんも部屋で声を上げるほど興奮したそう

モデルに既にイメージがついているからといって、それが必ずしも正解というわけではない。そしてまた、モデルの”飽き”はレンズを通して、見る人にも気づかれるだろう。

Akiさんの語るエピソードは、見る人に感動を与えるには、まずモデルや関わるスタッフを感動させること。という作品作りの前提を教えてくれているようにも思える。

3 事前にイメージを共有してくれる

ヘアモデルを始めた初期の頃は、学校や仕事の休みの日は必ずと言っていいほど撮影モデルをしていたという。今は仕事の都合もあり、月に2、3回程度。

いずれにしてもすべてのオファーを受けるわけにはいかない。Akiさんの場合はどのようにオファーの受ける受けないを決めているのだろうか。

「初めての方の場合は特に事前のDMの段階で、イメージソースのコラージュやウイッグの写真など案を送ってくださると安心感もありますし、熱意も伝わってきます。また『少し切るかもしれない』など、ワンクッション先に入れてくださる方も信頼ができますね」

もちろん当日の撮影準備中にイメージを語ったり、最終的なヘアデザインを擦り合わせるのも大事だ。でも「イメージの共有は早いに越したことはない」とAkiさん。

「気持ちを作っていけます。あと実務的なことですが、衣装も早めにわかっているとインナーなどもどうしたらいいかわかるので助かります」

特に、Akiさんのように人気モデルになると、日程も争奪戦だろう。

依頼をする前に彼女をモデルにするならどんな作品にしたいかをイメージして、「一緒にやりたい」「任せたい」と思ってもらえるようなプレゼン準備は重要に違いない。

4 ポジティブなチームを作れる

撮影にはトラブルもつきもの。ヘアが決まらなかったり、思うような写真にならなかったり……。そんな時に盛り返せる美容師と、そうではない美容師の違いをモデルの目はどのように見ているのだろう。

「やっぱり作っている時点でイライラなどを表情や態度に出してしまう人は難しいように思います。周りにも伝染してしまうし、現場全体が切り替えられなくなってしまいますよね。

うまくできなかったことを例えば『伸び代』とポジティブに変えられるような人、デザインを根幹から変えられる人は、最終的に満足のいくものを作れているように感じています」

また撮影は美容師一人で行うものではない。Akiさんのようなモデルはもちろん、カメラマン、メイクアップ担当もいる。

「行き詰まった時だけでなく、普段からコミュニケーションを取って、意見を聞いたり、相談したりしている美容師さんの現場は、良い雰囲気のことが多いです。

撮影はみんなでチームだし、ライブ。

だから一人で初めにガッチリ決めているような撮影もありだとは思いますが、その場でみんなで作っていこうという姿勢で巻き込んでくださると、行き詰まった時もみんなで打開をしていきやすいですね」


Akiさんは初めて会う美容師や撮影経験が少ない美容師こそ、たくさんモデルと話をしてほしいという。

どんな雰囲気や写真にしたいか、どんなヘアデザインがしたいかはもちろん、本当はこうしたいのだけど……と悩んでいることも。

「作風を見てクールな人だと思うかもしれませんが、そんなことないので(笑)。私たちはチームだから、一緒にものをつくっているという感覚でいろいろ話してくださいね」

Akiさんのヘアモデルとしての次なる目標は、雑誌の表紙になることだそう。次は誰が彼女のまだ見ぬ表情を引き出し、表紙という舞台で輝かせるのだろうか。

作品づくりを成功に導く4つのヒント

1.モデルに自信を持たせてくれる

撮影時にモデルが安心してカメラの前に立てるような声かけを忘れずに。緊張をほぐし、モデルが自分らしさを発揮できる空気をつくることが大切。シャッターを切る瞬間も、美容師が盛り上げ役になろう。

2.モデルにも新鮮な驚きを与えられる

モデル自身が「こんな自分もアリなんだ」と思える瞬間が、作品に特別な力を与える。誰かと同じアプローチではなく、自分とモデルだからこそできる表現を探してみよう。現場での感動が、見る人の心にも響くはず。

3.事前にイメージを共有してくれる

成功する作品づくりは、オファーの段階から始まっている。イメージソースや具体的な方向性を伝えることで、モデルも準備がしやすく、信頼関係を築きやすくなる。オファーの時点で「この人となら良い作品が作れそう」と思ってもらえる説明を心がけよう。

4.ポジティブなチームを作れる

撮影はチーム戦。自分のやりたいことやイメージを伝えながら、モデルやカメラマンの意見も積極的に取り入れよう。行き詰まったときこそ、チームで話し合いながら柔軟に乗り越えていく姿勢が、より良い作品づくりにつながる。

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執筆者
mackey

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