100円均一でおなじみ、ダイソーの着せ替え人形エリーちゃん。
このエリーちゃん、実はすごいクセ毛の持ち主。さらに、生え際の髪はすべて浮いており、全頭にランダムに配置された毛穴のせいで分け目は変えづらく、毛量調整も困難を極める、まさに美容師泣かせの女性です。
エリーちゃんの難しすぎる髪に対応できる美容師さんって、存在するの!?
この美容業界に多数存在する、名だたるコンテストを制した“コンテスター”であれば、エリーちゃんの髪をも制することができるかもしれない。
「100均のエリーちゃんを、本気でかわいくしてもらえませんか?」
第3回目を担当していただく美容師は、東京・原宿にある美容室veticaの高木貴雄さんです。
2013年、28歳で初挑戦したコンテスト「ルベル DREAM2013」では、関東エリアステージを通過し最終的にIMPRESSIVE AWARDを受賞。
2016年、「JHA」NEWCOMER OF THE YEARノミネート
2018年、「ルベル I.D.2018」SILVER受賞 など、その実力は本物です。
エリーちゃんはしゃべれないし、好きなテイストもない。
だから、エリーちゃんの外見に一番似合うデザインを僕が好きなテイストで提案しました!
エリーちゃんで僕が「クリエイション」するとこうなります
人気連載「100均のエリーちゃんを本気でかわいくしてもらえませんか?」 今回はインタビュー形式でお届け!
――難しいと評判のエリーちゃん、施術してみての感想を教えてください。
高木:モデルがエリーちゃんと決まっていて、業界誌に作品を出すなら。そんな発想でクリエイションをスタートさせました。僕がいつも作品撮りでお願いするのは日本人モデルですが、エリーちゃんは外国人。さらに甘い顔立ち、輪郭やすべてのフォルムが丸くて、リアルヘアよりにつくってしまうと「コンサバ」「ファンシー」なテイストになるので、そこをどう打破して「モード」に持っていくか悩みました。気づいたら悩み始めて2時間くらい経っていてあせりました(笑)
――他にも、エリーちゃんの難しさがあれば教えてください。
高木:お客さまの場合、オーダーが「お任せで」だったとしても、その方の好きなテイストやジャンルがあって、そこに向かって一番似合う髪型を意見交換しながら一緒につくっていくという感覚なんですが。エリーちゃんはしゃべれないし意志もないので、かなり困りました。なので、コンテストや業界誌でクリエイティブ作品をつくる時のように、自分が表現したいことをやろうと。ただ、コンテストや業界誌作品の場合でも、やりたいことが表現できるモデルさんを美容師側で選んでしまうことがほとんどで。そうなると、エリーちゃんってお客さまとも違うし、クリエイティブ作品づくりとも違うプロセスをふむ必要があり、新たな挑戦でしたね!
――どのように今回のヘアデザインにいきついたのでしょうか。
高木:エリーちゃんが持っている「甘さ」に、僕が得意な「辛さ」を足してミックスさせようと思ったんです。まず、すべての丸みを取り除こうと思い、ヘアのアウトラインはブラントでシャープにフォルムもライン感を出してモードに見せようと思いました。さらに、洋服も堅い素材を選びました。パーマスタイルの理由は、正直これ以外エリーちゃんに似合うものはないという理由です。
――ヘアの技術プロセスを教えてください。
ムースとハードスプレーを馴染ませた後、ねじりながらスパイラル巻きして、veticaの屋上で1日間は日光浴してもらい、カットして仕上げました(笑)。
――洋服もつくっていただいたんですか?
高木:そうです、コンテストでも自分でつくっています。父も母も元々服やカバンをつくる職人ということもあり、全く抵抗がないですね。洋服の色は何色にするか迷って、いろいろな色の折り紙をエリーちゃんにあてて考えました。オレンジの他に赤も似合ったんですが、あまりにも人形感が強くでて怖くなったのでやめました。
――作品テーマの「open」について教えてください。
高木:まだ誰も予想が出来ない未来を恐れながらも、自分なりに切り開いていくぞという気持ちをこめて。今出来ること、目標を1つずつクリアしてよりハッピーな未来を。そしてクリエイティブは無限! 自分の美意識に自信を持ってどんどん広げていこう! という思いでつけてみました。
「20代のうちにコンテストに出た方がいい」と後輩に伝える理由
――高木さんが初めてコンテストに出た時のことを教えてください。
高木:ルベルさんが主催の「dream2013」というコンテストです。今まで僕が所属するvetica、VeLoからは誰もコンテストに出たことがなく、原宿や表参道の美容師さんもコンテストに選手として出ている方はほぼいなかったですね。だからこそ挑戦してみようと思ったんですが、オーナーの鳥羽に出たいと言ったら「出ればいいんじゃない? ただし票は入れないけど」と宣言されました(笑)。
――他にも、印象に残っているコンテストはありますか?
高木:同じく2013年に開催された、D.D.A主催の「D-1」コンテストです。初めてのコンテスト「dream2013」で決勝まで進み、賞ももらえて正直調子にのっていたんです。さらに、「D-1」の東京エリア大会ではサロンの先輩に勝って全国大会に進出していました。けれど、優勝できなかったんです。正直、東京の最先端の場所で、最先端の技術を必死で学んできたはずなのに……と、かなり悔しかったです。その悔しさがやっと晴れたと思ったのが、SILVERの賞を取れた「I.D.2018」という感じです。
――最近のコンテストでは、後輩の阿部 力さんが活躍されていますが高木さんもまた出ませんか?
高木:下の子達が伸びてる! って時に出るのは、避けたいと思っていて。というのも、自分が出るなら後輩でもライバルなんで、一切アドバイスとかしなくなると思うんですよ(笑)。もし、アシスタント含めて下の子が出ないなら、本当にそれでいいの? って言いながら速攻で出ますね!(笑)
――今コンテストに臨むべきだと思う理由を教えてください。
高木:このコロナ禍で、クリエイティブな発想が出にくくなっていませんか? あとは悪いことばかりじゃないんですが、Instagramを常に見ることで、知らないうちに流行りものだけに目が奪われてしまって、自分の個性を出しているつもりが気づくと誰かのマネになっていたり。自分の技術力はもちろんですが、アイデンティティを再確認すべき時なんじゃないかと思いますね。
――オリジナリティ、アイデンティティはなぜ必要だと思いますか?
高木:僕が思うのは、5年後の美容室についてです。都心の美容室にわざわざ足を運ぶ方って、まず減るんじゃないかと。さらに、35歳になった今思っていることなのですが、30代前半までに美容師生涯でつくお客さまの数って決まるなって。たくさんいる美容師の中から自分を選んでもらうために、オリジナリティは必須だし、自分は人としてどう生きたいかを職業や人のせいにしないで明確にしておいて損はないと思います。
――今20代の美容師に伝えたいことは何ですか?
高木:「失敗すればいい! まだ何者でもないんだから、恥ずかしいことなんて何もない」と言いたいですね! あとは「自分の美意識を信じろ!」「トレンドを鵜呑みにするんじゃなくて、自分のスパイスを入れてアウトプットすること」これにつきます。いろいろ偉そうに言ってしまいましたが、誰かの少しの参考にでもなればうれしいですね。
- Profile
- 高木貴雄
vetica(ベチカ)/東京・原宿
1985年9月18日生まれ、兵庫県出身、NRB日本理容美容専門学校卒業。1店舗を経て、’07年VeLO入社。現在veticaのディレクターとしてサロンワークの傍ら、撮影やヘアショー、コンテストなど多方面で活躍中。
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- 100均のエリーちゃんを、本気でかわいくしてもらえませんか?【連載③】高木貴雄/vetica(東京・原宿)
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