「作品撮り」の写真は誰のもの? SNS時代の美容師“あるある”Q&A
SNSなどで誰でも個人発信ができる今、気をつけておきたい「著作権」や「肖像権」の問題。していいこと、ダメなことを正しく把握できていますか? ファッション業界の法律問題に詳しい海老澤美幸弁護士に、美容師にまつわる“あるある”な法律問題を聞く連載第1回。
監修/海老澤美幸弁護士[三村小松法律事務所]
イラスト/德永明子
- Profile
- 海老澤美幸
三村小松法律事務所
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。自治省(現・総務省)や出版社勤務、ファッションスタイリストなどを経て一橋大学法科大学院修了、2017年に弁護士登録。現在はファッションエディターとして長く活動した経験を背景に、ファッション業界やファッションビジネスにかかわる法律問題を取り扱う「ファッションロー」に注力。
そもそも著作権・肖像権とは?
SNSにまつわる”権利”とは? 著作権や肖像権がどういった権利なのかおさえましょう。
著作権 | 創作物を保護する権利=著作者が自分が創作した著作物の利用を認めたり禁止したりできる権利 |
肖像権 | 自分の容姿を無断で撮影されたり、撮影された写真や動画などを勝手に公開されない権利 |
これらの権利を誰が持つか、海老澤先生に解説してもらいます。
──一般的に、撮影には「モデル」「カメラマン」「ヘアメイク(美容師)」が携わります。そのほか「編集者(出版社)」、「クライアント(依頼者)」が関わる可能性も。この場合、「著作権」を持つのは誰ですか?
写真の著作権を持つのは、基本的には「カメラマン」です!
一般的には、モデル配置や写真の構図、照明の角度などを決めて撮影しているのはカメラマンですよね。ここにカメラマンの創作性が認められますので、カメラマンが著作権をもつということになります。
そのため、出版社やクライアントがカメラマンから著作権を譲り受けたり利用を許諾してもらっていない限り、その写真を他の目的などで使いたい場合はカメラマンの許諾が必要になりますね。
──ヘアスタイル写真でも、美容師ではなくカメラマンに著作権があるのですね。
もし、美容師がモデルや配置、写真の構図、照明の角度などを決めて、カメラマンがシャッターを押すだけといった状況であれば、美容師に著作権が認められる可能性があります。
ちなみに、ヘアスタイルそのものも、アート作品のように鑑賞に値する独創的なものはそれを創った美容師が著作権を持つこともありますが、かなりハードルが高いのが実情です。
──撮影に関して、そのほかに権利をもつのは誰でしょうか。
モデルには「肖像権」があります。また、芸能人など有名なモデルであれば「パブリシティ権」というものもあります。
写真を利用するためには、どんな目的に使うかなどを明示してモデルの許諾を得ることも必要です。
──ありがとうございます。これらのことを踏まえて、今回は美容師のサロンワークやクリエイティブワークに関する“あるある事例”について質問していきます!
これってOK? NG?
SNSでの事例
Q「芸能人や他人の写真は使っていいの?」
──芸能人や他の人の投稿した写真を使ってヘアスタイルや似合わせの解説をしている投稿をよく見ます。これはOKなのでしょうか?
写真には著作権が発生していることがほとんどかと思いますので、写真を解説などに無断で使うのは、著作権法でOKとされている場合を除き、基本的にはダメということになります。
また、モデルの肖像権の侵害に当たる可能性もあります。
芸能人など有名人の場合はパブリシティ権の侵害になることも。
パブリシティ権とは?
肖像や氏名の持つ顧客誘引力から生じる経済的な利益・価値を排他的に支配する権利。有名人に発生する権利。
例)クライアントが対価を払うことで、芸能人の写真をポスターにしたり宣伝広告に使ったりできる。
──では、こういった投稿をしたい際はどうすればよいのでしょうか? 顔をイラストに起こすとか……?
写真をトレースしてイラストにすると、写真の著作権侵害にあたる可能性があります。
また、イラストでも「あの人だ」とわかれば、肖像権やパブリシティ権侵害となる可能性も。
カメラマンやモデルの許諾をとるのが一番ですが、許諾をとれない場合は、公式機能を利用したりURLを使って共有するのがよいと思います。
──URLでの共有というと、どういった方法になりますか?
公式アカウントの投稿を引用リポストしたり、その投稿のURLを貼り付ける方法です。また、公式の機能にしたがって埋め込む方法も問題ないでしょう。これによりサムネイルやリンクカードが表示されるのはOKです。
公式アカウントの投稿をキャプチャして転載するのは、著作権法でOKとされている場合を除き、著作権侵害となりますので注意してください。
Q「本やテレビをSNSでシェアしたい」
──主にインスタグラムのストーリーズなどで、見ているテレビや動画、本の内容をアップする投稿をよく見ます。これはOKなのでしょうか?
映像にも著作権が発生します。文章も、短いものや一般的な表現などでなければ、基本的には著作権があります。著作権法でOKとされている場合を除き、テレビや動画を撮影して投稿したり、本の内容をアップするのはNGということになります。
──文章に著作権があるということは、WEB記事のキャプチャをアップするのもNGということでしょうか。
はい、そうですね。ライターや出版社の著作権侵害にあたる可能性があります。
──ストーリーズやBerealは時間が経つと消えてしまうので、テレビ画面や本、マンガの中身を気軽にポストする人が増えているようです。
のちのち消える場合でも、著作権侵害であることに変わりはないんですよね。
──少し角度を変えて、自分が出演するテレビや動画、雑誌などのコンテンツをアップして宣伝するのはNGなのでしょうか。
自分が出演するテレビや動画、雑誌などをアップして宣伝する場合は、アップしてよいかを制作側に確認し、その範囲内で行うようにしましょう。ただ実際には、自分が出演したところだけアップしたり、記事の文章は読めないようにぼかしたりすれば、制作側も大目に見てくれて、問題になることは多くないようには思います。
──出演者以外にも、たとえば出版社の中には、読者に書影の利用を許可しているケースもありますよね。
出版社が書影の利用を許可したり、たとえばジブリなどが「常識の範囲内でお使いください」と画像の利用を許可しているなど、権利者が利用を認めている場合は、その範囲内で利用することは問題ありません。
Q「流行りの曲を動画のBGMにしたい」
──ショート動画ブームで、自分で動画を編集してアップする美容師も多いです。著作権に関する注意点はありますか。
動画で特に注意してほしいのが「BGM」です。店舗でのBGM利用にも著作権の手続き※が必要ですが、SNSで音楽をBGMに使う場合も基本的には許諾が必要です。
※JASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)への申請手続き
──YouTubeやSNSは、JASRACと包括契約していると聞いたことがあります…!
JASRACと包括契約している場合、メロディや歌詞そのものを利用することはできるのですが、演奏したり歌っている人には個別の許諾を取らなければなりません。
そのため、JASRACが管理している音楽を自分で歌ったり演奏した動画をアップすることは問題ありませんが、誰かが演奏したり歌ったりしているものを使うにはその人たちの許諾が必要になります。
なお、商用利用は包括契約の対象外です。サロンのPR動画なども商用利用にあたるのではないかと考えられます。
──インスタグラムやTikTokでは公式機能で音楽を付けられますよね?
インスタグラムやTikTokなどは、アーティストや関係者などと契約しているので音楽をつけられるようになっています。もっとも、インスタグラムもTikTokも、音楽の商用利用は制限されています。たとえばインスタグラムでは、ビジネスアカウントやプロアカウントでは使える音楽が限定されているかと思います。TikTokでも同様ですね。
※ライター・クリエイター・個人ブロガーなど、一部クリエイター系カテゴリを除く。(2024年8月現在)
──サロンで動画を撮影した場合、たまたま流れている音楽が入ってしまうこともあるのですが、この場合も音楽を消さなくてはならないんでしょうか?
たまたま後ろで流れている音楽がうっすら入ってしまったような場合は、著作権法上OKとされている例外に当たる可能性があり、わざわざ消す必要まではないかと思います。
ただ、その動画のBGMとして使っているような場合はNGですので注意してください。
──とすると、自分で編集する場合は著作権フリー音楽を使用するのがよさそうですね。
著作権フリー音楽であれば安心かと思います。ただ、著作権フリーの音楽サイトでも、「商用利用はNG」など使い方が限定されていたり使う際のルールが決められていることがあるので、利用規約をよく確認することが重要です。
また、そうしたサイトには、権利者に無断でアップされた音楽が混じっていることもありますので、注意が必要です。
──音楽はすごく厳しいんですね…。
そうなんです。権利者に無断で音楽を投稿するとYouTubeやSNSのアカウントをBANされることもありますし、最近は、特に海外の権利者がネット上をパトロールして、違反者を見つけたら損害賠償を請求するケースも増えています。
看板を背負う以上、最低限の意識を
美容師にとって最も身近なSNSの法律問題。「切っても切れない集客ツールとなったからこそ、知識を持っておいてほしい」と、海老澤先生。
SNS上の著作権侵害や肖像権侵害は、知らないうちにやってしまうことも多いですし、「みんなもやってるし大丈夫だろう」と気が緩みがちですよね。
もっとも、安易に著作権や肖像権を侵害すると、権利者から損害賠償を請求されたり裁判を起こされることもありますし、「ルーズな美容師だ」「人の権利を大事にしない美容院なんだな」などブランディングにも大きな傷がついてしまいます。お客様を悲しませることにもつながりますよね。
こうした事態にならないよう、法律のルールをきちんと理解し、他人の権利にも配慮しながら使うことが大切だと思います。
次回はSNSから派生して「サロンワークや集客における肖像権」について解説します!