「ヘアマット」で海を守る。美容師だからできる環境保護活動

「ヘアマット」で海を守る。美容師だからできる環境保護活動

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20年以上前、アメリカで始まった「髪で海を守る」活動が、今、日本でも広がりを見せています。髪の毛という捨てられるはずの「ゴミ」が、実は「資源」として大きな可能性を秘めていることをご存知でしょうか? マターオブトラストジャパンの濱 七彩子さんが取り組むヘアマットの活動について詳しく伺いました。

写真:甲野菜穂美

濱 七彩子(はまななこ)/一般社団法人マター・オブ・トラスト・ジャパン代表理事。南米先住民の伝統バッグの輸入販売と、二子玉川でカフェを経営。モーリシャスの座礁事故をきっかけに2021年からマターオブトラストの日本支部としての活動を始める。

美容室のゴミが環境汚染を防ぐ

これが60cm四方のヘアマット。

「ヘアマット」とは、海洋の油汚染を除去する目的で作られた「髪の毛のみ」を材料にしたマット。髪の毛は油を吸着するため、油流出の現場で使用することで、油による環境汚染を防ぐことができるのです。

美容室でゴミとなる切った後の「髪の毛」を寄付することで、環境保護に貢献しませんか?

美容師のアイデアから始まった

この活動は、アメリカの美容師のアイデアから始まりました。当時、アメリカで船舶事故が発生し、油まみれになったカワウソがニュースに映っていました。その映像を見た美容師が、「カワウソの毛が油を吸収しているのではないか?」と考えたのがきっかけです。

彼は自宅の裏庭で実験を始め、髪の毛が実際に油を吸着することを確認しました。そして、NASAに依頼して、さらに詳細な実験を行ったところ、髪の毛1gあたり約5.14gの油を吸着できることが明らかになったのです。

この結果を受けて、マター・オブ・トラストで髪の毛を利用した海洋の油汚染を除去するというプロジェクトがスタートしました。

マター・オブ・トラストとは・・・・20年以上前にアメリカのサンフランシスコで設立された非営利団体で環境保護活動を推進。マターオブトラストの理念は、「余剰」と「ニーズ」を結びつけ、すでにある資源を使って、人が地球と調和し自然の豊かな循環を広めていくことです。

マター・オブ・トラストは、髪の毛という本来は捨てられるはずのものを有効活用することで、環境問題の解決に貢献しようとしています。彼らは、地産地消の考え方を取り入れ、「地元に住む人の髪で地元の環境を守る」というローカルなアプローチを推進しています。

例えば、2020年7月、インド洋の島国のモーリシャスの沖合で、日本の貨物船が座礁し、およそ1000トンの重油が流出した事故が発生しました。油まみれになったモーリシャス沖では、地元の人々が髪を寄付し、油の回収に役立てたという事例があります。こうした取り組みが、世界の各地で広がりを見せています。

美容師に声をかけて始めた
「髪」の寄付活動

日本支部の立ち上げは2021年のことです(2023年12月に一般社団法人化)。私自身、もともと動物が好きで、犬や猫を多頭飼いしています。船舶事故などで海洋生物が油まみれになって苦しんでいるニュース映像を目にするたびに、心を痛めていました。

自分でも何かできないだろうか?」と考え、色々と調べているうちに、髪の毛を使った活動があることを知りました。モーリシャス沖の事故のニュースで、地元の人々が髪の毛を寄付して油を除去している様子を見て、「これなら自分にもできるかもしれない」と思ったんです。

その後、サンフランシスコのマター・オブ・トラストに連絡を取り、ZOOMで代表のリサさんと話をしました。この団体はアメリカ主導ではなく、各国のパートナーが手を取り合って活動しています。当時日本にはまだ団体がなかったので、わたしが始めることになりました。

活動を始めるにあたり、髪を集めてヘアマットに加工する機械が無償で提供されました。当初は任意団体として、ほとんど1人で活動を開始しました。自宅の玄関を作業スペースにし、少しずつ知り合いや美容師の方に声をかけて、髪の寄付を集めていきました

しかし、この活動はあまり知られていなかったため、最初は「ゴミだったら持っていっていいよ」という程度の反応しか得られませんでした。それでも地道に活動を続け、少しずつ賛同者を増やしていきました。

2023年には、仲間が増えて活動が活発化しました。特に、普段は会社員として企業に勤める館 香織さんが参加してくれることになり、活動の幅が広がりました。今では、平日はお互いそれぞれの仕事をしながら、週末や休暇を利用して活動しています。

全国から髪の毛が寄付される。

ヘアマットの作成プロセスと特徴

ヘアマットをつくる機械。

Q.ヘアマットは具体的にどのようにつくられているのでしょうか?

ヘアマットは、髪の毛を凝縮させてつくられるマットです。ペルシャ絨毯のように、髪の毛を重ねて圧縮し、不織布のように仕上げます。作成には、針を使って髪の毛を絡める特殊な機械を使用します。この機械を使って、髪の毛のみを材料にしたマットをつくり上げます。

マットの表面には、10センチ以上の長い髪の毛を使用し、内部には短い髪の毛を使い、サンドイッチのように挟んだ3層構造。こうすることで、表面積を最大限に広げ、油の吸着効果を高めることができるのです。

髪の毛は、2.5cm〜10cm以上の長さに分けて受け取ります。現在、短い髪の毛は足りているので、10cm以上の長い髪の寄付をお願いしています。どんな髪でも受付けており(詳細条件はこちら参照)、ブリーチやパーマが施された髪も含めて、すべての髪が利用可能です。厳密に言うと、髪の種類によって吸着度に若干の違いがあるかもしれませんが、現段階では賛同してくださる方からのすべての髪の毛を受け入れています。

ヘアマットのサイズは、60cm×60cmが一般的ですが、これより小さいサイズも作成可能です。海外では、空軍が反物のように長いヘアマットを使用している事例もあるようですが、私たちのところで使用している機械は、最大で60センチ四方のマットをつくることができます。

髪をたくさんの針で指して圧縮する。
表面は長い髪、内側は短い髪のサンドイッチ状。ぎゅっと圧縮するのは表面積を最大にするため。
濱さんの友人が制作したヘアマット使った帽子。

ヘアマットの実用例と今後の課題

2024年の大型野外フェスに出店したときの様子。

Q.ヘアマットはどのような用途に使われているのでしょうか?

ヘアマットの主な用途は、海洋の油汚染除去ですが、他にもさまざまな活用法が考えられます。例えば、農業の分野での活用や、フィルターとしての利用も可能です。日本では、まだ実験的な段階で、活用先を探しているところです。フジロックフェスティバルでは、ヘアマットをフィルターとして利用する試みが行われました。このように、少しずつですが、ヘアマットの利用が広がっています。

しかし、日本ではまだ認知度が低いため、髪の毛が油を吸うという知見自体が浸透していません。多くの方が、「本当に効果があるの?」と疑問に思うのも無理はないと思います。そのため、私たちはヘアマットの有効性を広く知ってもらうことが課題となっています。海外では20年以上にわたり使われている技術ですが、日本ではまだその効果を十分に認識してもらえていないのが現状です。

ヘアマットを実用化し、より多くの場所で利用してもらうためには、髪の寄付だけでなく、活用先を確保することが重要です。例えば、飲食店でのグリストラップに使うなどの具体的な提案もしています。グリストラップは定期的に油を除去する必要があります。こうした場所でヘアマットを活用できれば、髪の毛の資源としての有効利用が進むと考えています。

また、ドイツでは、家庭や美容室でヘアマットをフィルターとして使用する事例があると聞いています。わたし自身も天ぷら油を処理する際に、髪の毛を使って油を固めるなど、家庭でも簡単にできる利用法があるのです。こうした身近なアイデアをもっと広めていきたいと考えています。

今後の目標とビジョン

Q.今後の目標やビジョンについてお聞かせください。

短期的な目標としては、ヘアマットを作成し、それを実際に活用することです。このプロセスがうまくまわり始めれば、髪の毛が新たな資源としての価値を持つようになるでしょう。髪の毛は通常、落ちると「汚いもの」として捨てられてしまいますが、実は非常に有用な資源であることを多くの人に知ってもらいたいです。

特に日本では、髪の毛に対する独特の価値観や文化があり、例えば呪いに使われる藁人形や、怨念が込められているというイメージが強いです。そうした価値観を払拭し、髪の毛を新たな資源として捉えることで、環境問題の解決に貢献できると考えています。

また、髪の毛がこうして有効に利用されることで、他のゴミとされているものも、新たな価値を見出すことができるかもしれません。限られた資源をいかに有効に活用するかが、今後の社会における重要な課題となっている中で、私たちの活動が1つのきっかけとなり、多くの人々が自分の身の回りのものを見直すきっかけになれば嬉しいです。

髪の毛の寄付と活動への協力を求めて

Q.最後に、髪の毛の寄付についてメッセージをお願いします。

現在、活動サポーターを募集しています。私たちの活動に賛同していただける方、特にヘアマットの活用用途に関するアイデアをお持ちの方のご協力をお待ちしています。髪の毛(長さ10cm以上)の寄付も非常に重要です。ヘアマットを作成し、それを必要な場所で活用することで、環境保護に貢献することができます。ヘアマットは、誰でも気軽に参加できる活動ですので、ぜひご協力いただければと思います。

また、クラウドファンディングは終了しましたが、ウェブサイトでは活動にご賛同いただいた方からのご寄付を常時募集しています。

活動は決して簡単なものではありませんが、メンバー全員がわくわくしながら取り組んでいます。新たな資源の活用や、持続可能な社会の実現に向けて、共に進んでいける仲間を増やしていきたいと考えています。どうか皆さんも、自分の参加がどれだけ社会に貢献できるかを感じていただき、この活動を広めていただければと思います。

まとめ

このインタビューを通じて、髪の毛が捨てられるだけのものではなく、環境保護に役立つ貴重な資源であることを知っていただけたでしょうか?
濱さんの活動に共感し、ぜひご協力いただければと思います。

マキピピ
執筆者
マキピピ

ヘアデザインのこと、パーマ、データ分析が得意な全頭ブリーチ族。好きなことは海外旅行。苦手なことは貯金。

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