高単価・多角化時代を逆行して勝ち続けるQB HOUSEの“究極の引き算力”

高単価・多角化時代を逆行して勝ち続けるQB HOUSEの“究極の引き算力”

211

人口減少に伴う客数減少で、美容室では高単価・高リピートをめざしメニューやサービスの拡充に乗り出す気運が高まっています。そんな中、創業以来「カットのみ」にこだわり、業績を伸ばし続けるQB HOUSE。単なる「低価格・大量集客」ではなく、その裏には徹底した顧客インサイトの掘り起こしと、無駄を省く施策がありました。

2023年度は過去最高益! なぜ伸び続ける?

1996年にヘアカット専門店として1号店をオープンさせ、低価格&スピード店の先駆けとして知られるQB HOUSE。2023年度には過去最高益を達成し、成長を続けています。

売上収益227億円4,600万円(前期比110.6%)
営業利益 21億3,800万円(前期比152.9%)
当期利益14億4,400万円(前期比168.5%)

低価格&スピード店というビジネスモデルと聞くと、資本力やスケールメリットを生かした大量集客モデルであるように思いがちですが、その裏には「固定観念を打破する視点」「徹底した効率の追求」といった工夫が隠されていることがわかりました。

 

安いって実はブルーオーシャン4つの“省く”力

「弊社のビジネスモデルは、創業者(小西國義氏)が理美容師ではないからこその発想で始まりました」と語るのは、広報平山貴之さん。

「一般的な理美容室のサービスはカット以外にも、シャンプー&ブローやマッサージ、ドリンクサービスなどが提供されます。
それに対して、顧客がもっと便利で楽に理美容室を利用できる方法はなんだろう?という発想から、『自分でできることは自分でやる』ビジネスモデル、つまり“カットだけ”という形が生まれました」(平山さん)

それはやがてQB HOUSEのテーマ「4つの省”のチカラ」となっていったのだそう。

「たとえば、2023年度の売り上げに対する水道光熱費の割合はたった1.3%なんです。小さな無駄や手間の排除を積み重ねることで、こういった大きな成果につながります」(平山さん)

「カット以外」をすべて省く設備と仕組み

“ハード面”で大きなポイントになるのが、券売機の導入や、シャンプーの代わりに水を使わず毛髪を吸い取る吸引機(エアウォッシャー)を取り入れている点です。

現場の技術者に会計や予約対応、集客をさせないオペレーションにするために、セット面にも工夫がつまっています」(平山さん)

❶ シャンプーの代わりに毛髪を吸引するエアウォッシャー
❷ コームなどを消毒する紫外線消毒器は各セット面に
❸ 掃除道具も各セット面に備え付け
❹ 毛くずはほうきでまとめたのちここから吸引される

施術から掃除、道具類の消毒まで、セット面の中だけで仕事が完結するため、究極の効率化に。シャンプーをしないので顧客が店内を移動することもありません。

安売りではない!
「早い・上手い」ロジスカット

オリジナルのカット技法開発は「省時間」を追求するために開発されたのだそう。

「創業時はオリジナルのカット技法はありませんでしたが、将来的な人材不足の懸念から、カット未経験者も積極的に採用していくために、教育に力を入れるべきだと判断し開発されました。また、技術は物販と違って技術者によって提供できるクオリティがまちまちになるのに“見て盗め”ではダメなのではないか、体系化が必要だと考えてできたのがロジスカットスクールなのです」(平山さん)

ロジスカットとは?
ロジカル(Logical)+シンキング(Thinking)=Logith Cut
=感覚でなく理論で習得する実践型カット理論

ベーシックを“型”の手順で覚えるのではなく、顧客が求める長さ&形に最短でたどり着く考え方も同時に学んでいくのがロジスカットなのだそう。

「理論をシンプルにできたのは、海外出店時の人材育成の経験があったからです。美容師免許制度がなく言語も違う国で教えるにあたって、必然的にシンプルになっていきました」(平山さん)

ロジスカットで学ぶ新入社員の研修カリキュラムがこちら。

一般的な美容室では入社後、通常業務の傍らで営業終了後などにヘアカラーやパーマ、カットを学びますが、ロジスカットスクールでは「1日8時間×6カ月=1152時間」でカットを習得。4カ月目から研修店舗で入客研修を行い、徐々に実践力を身につけていきます。そして、まったく切れなかった人が6カ月目で1日平均25人のカットがこなせるまでになるのだそうです。

「一般的な美容室ではスタイリストデビューを目指す間もアシスタント業務をこなし、カリキュラムもカラーやパーマなど多岐にわたるスキルを求められます。弊社はカットだけのビジネスモデルだからこそ、6カ月の研修を通してカットだけを集中して学ぶことができます。集中して学べるからこそ技術が安定しますし、1人ひとりがカットのスペシャリストになれるんです」(平山さん)

カット未経験者が入社して、6カ月の研修期間で使用するウイッグは346体に及ぶのだといいます。また、研修費用は無料で給与も支払われます。徹底して無駄を省くことにこだわる一方で、技術教育には大きなプライオリティを置いています。

案内やカウンセリングもスピードを追求

① 1分半で次の顧客を案内する「リセット作業」

カットそのものの速さ以外にも、スピードアップのために大切なポイントが2つあるのだそう。その1つが「顧客を案内するまでのインターバルの短縮」です。

「ロジスカットスクールでは、顧客を送り出してから次の顧客を案内するための掃除や消毒作業も徹底して練習します」(平山さん)

髪を掃き、ツールやセット面を消毒。カットクロスをたたむ……これらを同社ではリセット作業と呼んで研修項目に。すべてに目標タイムがさだめられ、1分~1分半のインターバルで次の顧客を迎えられるように練習します。

掃いた髪はセット面下から吸引される仕組みになっていたり、コームなどを消毒する紫外線消毒器が各セット面に備え付けられていたりと、スタッフの労力を最小限にする“仕組み”との相乗効果で回転率を追求しているのです。

② あいまいなまま切り始めないカウンセリング術

施術スピードを上げるにはカウンセリングも重要です。QB HOUSEではカウンセリングの不一致による「切り直し」を徹底して省くよう、カウンセリングも体系化しています。

「カウンセリングで大切なのはお客さまに迷わせない質問をすることです。耳を出しますか? どこまでバリカンを入れますか?といったように、YESかNOで答えられる質問で髪型を決めていきます」(平山さん)

カウンセリングも座学で理論を学んだ後、研修店舗での入客研修を通して実践し身につけていくのだそうです。ポイントは「顧客自身が自分の髪について詳しくなってもらう」ことにあるのだそう。

「弊社で圧倒的に多いオーダーは『いつもの髪型』、つまり前回の仕上がりと同じように戻してほしいというものです。
ですが、たとえば最初のうちは刈り上げ部分が何ミリのバリカンを入れられているか知っているお客さまは少ないですよね。ですので、徐々に長めの刃から刈り始めて、求める長さになったとき『6mmですね』とお客さまにお教えします。通うごとに、お客さまがご自分の髪についてより明確にオーダーできるように顧客教育をしていくイメージですね」(平山)

服や靴に置き換えて考えれば自分のサイズをまったく知らない人はいないので、そう考えると非常に合理的に思えます。

「指名制度がないからこそ、どこの店舗の誰が切っても同じ髪型になるために最適化したカウンセリング理論なんです」(平山さん)

一貫したコンセプトで「ブレない」のが強さの秘密

顧客のインサイトから業界の固定観念を覆すビジネスモデルを創出し、人材難を見越して教育に力を入れることで時流にも対応してきたQB HOUSE。次に見据える展開は?

「10年後を見据えたビジネスモデルとして『QB PREMIUM』というブランドがあります。『QB Passport』というアプリを活用して利用してもらうお店で、飲食店のような順番待ち予約システムや、スタイリングまで含めたメニューなどを展開。DX化を軸に、いろいろと実験をしているところです」(平山)

今回取材を通して見えてきたQB HOUSE好調の秘密は、単なる安売りモデルではなく「顧客インサイトに根差したブレない創業精神」と「創業精神をブラさないための進化」の姿勢でした。

もちろん施策だけに注目すると、大きな資本力だからこそできる“引き算”も多いですが、人材教育を最優先事項とするために徹底してムダを省いていることは、一般的な総合サロンのすべきことと共通しているように思えました。

ななしま
執筆者
ななしま

直毛一族の末裔。毛髪科学、色彩学、財務が得意です。好きなものは宝塚と世良真純、さらば青春の光。

Prev

Next