京極琉「指名料55万」でも7割が新規客 “脱・リピート”で価値を創る

京極琉「指名料55万」でも7割が新規客 “脱・リピート”で価値を創る

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2024年4月から指名料を55万円に改定すると発表したSalon Ryu代表の京極琉さん。改定の理由と顧客の反響を聞きました。

写真:山﨑美津留

1年で指名料39万円アップ!
その理由と反響

京極さんは2017年のオープン以来、段階的に指名料をアップしてきました。今回の指名料アップは2023年5月の16万5,000円から、1年弱で39万円アップ!

金額も上げ幅もどちらも高額であったため、業界中から注目を浴びました。

2017年 1万円
2021年4月2万5,000円
2021年8月3万5,000円
2022年3月5万5,000円
2022年8月8万8,000円
2023年5月16万5,000円
※2022年7月13日発表、2023年5月1日より適用
2024年4月55万5,000円
※2024年3月4日発表、2024年4月2日より適用
※価格はすべて税込
京極琉 / Salon Ryu代表
Profile
京極琉

Salon Ryu代表

1994年10月生まれ。中国・上海出身。東京・銀座やロンドンの美容室で経験を積み、2017年東京・赤坂に「Salon Ryu」をオープン。さらに、株式会社Kyogokuで「KYOGOKU PROFESSIONAL」ブランドを展開。ヘアカラー剤やブリーチ、シャンプーなどのヘア用品から、CBD配合のグミまで幅広い美容商材を販売する。ヘアショーやセミナー講師など、アーティストから経営者までさまざまな顔を持ち、多方面に活躍の場を広げている。

Q 指名料を上げていく理由は?

──まずは、ずばり指名料を上げた理由を教えてください。

京極さん

僕自身の時間の価値が去年よりも上がっていると思うからです。美容師としてももちろんですが、経営者としてなど幅広く活動していく中で僕自身が人間的にもレベルアップしていると思うので、成長に合わせて指名料も変えるべきだと判断しました。

──39万円という上げ幅も55万円という価格も日本一だと思います。市場価格より非常に高額なので、かなり驚いた人も多かったと思います。

京極さん

世界基準で見ると決して高くないと思うんですよ。僕が指名料を値上げしていくのは、ムーブメントをつくりたいという狙いもあります。
一言でいうと「ラグジュアリーな美容師像」を牽引したい。日本の技術は優れていて、こんなに素敵な職業なのに30年近く料金が変わっていません。

──日本全体がそうですし、特に美容師は職人文化もあいまって「お金儲け=悪」という固定観念がまだまだある感じがします。

京極さん

そうですね。値段において価値を上げるのは苦手なのかな、と感じています。そこで、僕が率先してやっていこうと思っている次第です。

──開業当時からビジョンがあったのですか?

京極さん

いえ、そういうわけではありません。自分のステップアップによってサロンワークのフェースが変化したことによって上げる上げるようになったという感じです。

Q 指名料55万円の反響は?

──指名料アップを発表をして、顧客からは反響がありましたか?

京極さん

すごくありましたよ! 100人くらいからDMが来ました(笑)この機会に行ってみたいという声が多く、注目されていると感じました。

──美容師からの反響はいかがでしたでしょうか?

京極さん

かなり驚かれましたが、僕も指名料を上げました、上げてよかったですという声もいただきます。いろんな意見はあると思いますが、そうやって勇気づけたり背中を押したりできていると思うと嬉しいですね。


日本の美容業界に対する思いを熱く語る京極さん。

2年先まで予約が埋まっている

Q 指名料55万円で新規客は来る? 固定客が中心なのでは?

――55万円という指名料で、実際どのくらい利用されるのでしょうか? 新規客数はどのくらいですか?

京極さん

サロンワークは週1日で3~4人ほど担当させてもらっています。そのうち新規客が7割くらいですね。

――新規客の方が多いのは驚きです。では、指名料値上げ後も新規率は変わらずなのでしょうか?

京極さん

はい、むしろ増えましたよ。たくさんDMが来たと言いましたが、3月の発表の段階で今年の来年2025年9月まで予約が埋まりました今は再来年の3月まで埋まっていますね。

――最高額にも関わらず、どんどん新規客が増えているのですね。

京極さん

1年ちょっとで値上げしたので、今行っておかないとという気持ちなのかもしれません(笑)
ちなみに指名料は改定したときの新規客から適用され、固定客はそのままです。

Q 指名料55万円のサロワークとは

──「ラグジュアリーでオートクチュールなサロンワーク」とは具体的にどんなものなのでしょうか?

京極さん

まず、予約をした時点で京極琉のサロンワークは始まっています。1年先の楽しみができ、人生が変わるんだとワクワクしていただけます。
当日は「世界で一番幸せな人」になっていただくべくおもてなしをします。まず、来店時は車でお迎えに行きます。

──京極さん自身が迎えにいくのですか?

京極さん

そうです。送迎から、滞在中すべてのご要望やわがままを叶えます。
ダブルカラーが多いので滞在時間も長くなりますから、シャンパンやケータリングを用意したり、華やかでくつろいていただける空間づくりをしたり……。そういう演出すべてが京極琉のサロンワークです。

指名するのは「人生を変えたい人」
美容室というより自己投資で来店

Q 「指名料55万円」で来店するのはどんな人?

──特別なサロンワークであることはよくわかりました。京極さんを指名する人は、どんな人なのでしょうか? 相当なお金持ちの方なのか、とか……

京極さん

いろんな方がいますよ。若い方から年配の方まで、最近は学生もいます。美容業界を目指すからには、世界一の美容師の接客や技術を学びたい、と言われます。
予約から来店までが長いので、その間に頑張ってお金を貯めてきてくれるという人も多く、必ずしも一部の富裕層だけの特別なものではありません。

──若い方もいるのは驚きです。そういった方は何を求めて「京極琉のサロンワーク」を受けたいと思うのでしょうか。

京極さん

何かの刺激がほしい、人生を変えたいと思っておられるのだと思います。
僕は常々、美容師さんはサロンワーク中に技術の話をしすぎている思っていて……技術も大事ですが、それだけではその人という価値が伝わりません
僕と時間を共有するからには、人生を変えるような後押しをしたい。自分の経営者としての経験や、時には失敗談も共有して、僕という人間のすべてを持ってお客さまの背中を押すことを心掛けています。

サロンの備品も「KG(KYOGOKUブランド)」で統一。自分自身をアイコンにブランディングすることに最も成功している美容師と言っていいだろう。

Q 「指名料55万円のサロンワーク」の価値とは?

──髪をきれいにしてもらうことだけが目的ではなく、アーティストや経営者としての「京極琉」に会いたいというニーズなんですね。

京極さん

そうかもしれないです。お客さまの中には、もともとKYOGOKU PROFESSIONALアイテムのユーザーで、その商品をつくっている人に会いたいと予約をしてくれた方もいました。
僕自身も成功している人と会って話をする時間に投資をしていますが、そういう人と話した1つの言葉や情報で人生が変わる瞬間を体感してきました。お客さまにとって僕と過ごす時間がそうあってほしいと思います。それが僕のサロンワークの“付加価値“です

京極さんが手がける事業例
・美容室 KYOGOKU SALON
・商品開発 KYOGOKU PROFESSIONAL
・オンラインサロン 京極アカデミー
・美容業界完全無料求人サービス JOB VR
・眉毛サロンポータルサイト 眉ラボ
・ECサイトサポート SnapShop

──なるほど。そういった個人的なコンサルテーションだと思うと、55万円という値付けには納得感があります。

京極さん

ありがとうございます。何気ない一言がヒントになり人生を変えるのは、高額を支払っているからこそ聞き手の意識が変わるというのもあると思うのです。セミナーなどの1対何百という場所で聞いた話と、1対1で聞いた話とでは重みが違います。
僕を指名してくれる人の人生を本気で変えたいからこそ、高額の指名料を設定しているというのもあります。

美容室のPBブランドは「顧客が買うもの」が常識だったが、KYOGOKU PROFESSIONALはそのアイテムの世界観が顧客を呼び込む。新しいPBの在り方だ。

世界基準では高くない
技術+世界観で美容師の価値は広げられる

Q 今後の「京極琉」はどう進化する?

──今後も指名料は上げていく予定ですか?

京極さん

そうですね。僕自身のフェーズが上がるのに応じて上げていますので、今後もそのつもりです。上げる以上は自分がどんどん進化しなければいけないし、実際に今美容師以外の分野で忙しくさせてもらっているので、僕の時間の価値はこれからも上がっていくと思いますし

──そのためにはどんなふうにレベルアップしていくビジョンでしょうか?

京極さん

毎年3~4月に年の振り返りをして次の1年どう過ごすかを考えているのですが、何をマスターしたか、来年はどんなふうにビジネスを広げていきたいかを考えた上で価格を上げるかどうか検討します。
ビジネスでやりたいことが増えれば時間も限られてくるので、その限られた時間でもっと技術もレベルアップしたい。

──価格が上がることで自分自身に毎年成長することを課しているのですね。

京極さん

そうです。僕が指名料を上げるのは、お客さまに対しての約束です。もっと成長した姿をお見せします、だから安心してきてください、という。

Q 「指名料55万円」は他の美容師にもできる?

──おそらく現在日本一の指名料だと思いますが、他の美容師さんにも追随して欲しいという考えがありますか?

京極さん

はい。最初にも話しましたが、日本の美容師さんの技術はとても高く、人がらもハートフルでパッションに溢れています。こんなに素敵な職業なのだから、技術だけでなくもっと一人ひとりの価値を自信をもって伝えるべきです。

──特に地方のみなさんには「手の届かない別世界の話」という印象を持たれるかもしれませんが……。

京極さん

そんなことはありません。東京だけでなく全国に高いレベルの技術で魅力的な美容師さんがいるのも日本の強みです。家賃も安く土地も広いので、たくさんできることがあるはずですよ。僕ももっと頑張って高みを目指すので、みなさんもお客さまに対してオンリーワンのサロンワークの価値を伝え、人気店になってほしいです。そんな成功体験の報告を聞きたい。応援しています!

脱・リピートで価値創造
新しい発想でおもしろい

★ 商品開発、オンラインサロン、ECや集客サイト運営など世界を股にかけて活躍する「KYOGOKUブランド」の話が聞けるセミナー投資と思えば、指名料55万円は納得の価格

「自分へのご褒美」にブランドアイテムを買う感覚で美容室を予約するという新しい顧客との関係はおもしろい!

全国の美容師さんもサロンワークを通して培った人間的魅力や財産があるはず。それを商品として活用するのは大いにアリなのでは!

指名料改定が発表されたときは、そもそも固定客で埋まって新規客が少ないのでは?と思っていましたが、まったく逆で「値上げすることで新規客が大勢来る」というので驚きでした。

京極さんと顧客の関係は、定期的に髪のメンテナンスをしにいくところではなく、人生を変えたいときや頑張る理由がほしいときに行くところという関係。たとえるならアパレルのメゾンブランドとその顧客のような関係だと思いました。

美容室はリピートビジネスで来店頻度と回数を上げて密な関係性を続けていくことこそが正解だと思い込んでいましたが、メゾンブランドにも上顧客がいるように、必ずしもそのやり方だけが正解ではないと気づかされ目からウロコ。

また、まったく同じことを真似するのは難しくても、全国の美容師さんにも技術だけでなくその人の「人間力」でファンを集める人は大勢いるはずです。その価値を無償で提供するのではなく、何か新しいサービスやビジネスに展開しては? そんなヒントになると思いました。

ななしま
執筆者
ななしま

直毛一族の末裔。毛髪科学、色彩学、財務が得意です。好きなものは宝塚と蛙亭と世良真純

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