渋谷でヘアサロンが爆増!でも地方には金脈あり【10年後の未来予想図】

渋谷でヘアサロンが爆増!でも地方には金脈あり【10年後の未来予想図】

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連載:操作イトウの〈美容師の本音〉

現役フリーランス美容師の、操作イトウのコラム連載。
「街の美容師さん」目線で、業界のエトセトラをお話していきます。

今回は、こちらのニュースについてのお話です。

厚生労働省が発表した、令和4年度の「衛生行政報告例」にまつわる内容なのですが、掻い摘んで説明すると去年度は美容室/美容師が大幅に増加していたのだそうです。

>令和4年度の美容所数は26万9,889店(前年比2.1%増)、美容師数は57万1,810人(前年比1.8%増)となった。なかでも東京都の美容所数は前年より1,096店増の2万6,734店(前年比4.3%増)で、これは過去10年をみても最大の増加数となる。

僕自身も、この記事を読んだ直後にX(旧Twitter)で軽く反応しましたが、「今後の美容業界が透けて見えるようなデータだな」と感じました。

そこで、今回は情報を一つ一つ紐解きながら、現場の美容師である僕の見解を深掘りしていきます。ちなみに理容室/理容師の減少傾向については、僕自身の専門分野ではないので触れていません。

美容師が増えている理由は、どこにある?

まず「美容師の増加」についてですが、これはシンプルに美容師として「食っていく」ことができる人が増え続けている、ということの証明だと捉えています。

20代の美容師の方にはピンとこないことかもしれませんが、僕が美容師を始めた15年前は、スタイリストであっても20代後半〜30代前半のうちに離職する方が多くいました。

彼らは長い下積みの後にスタイリストデビューしたのに、低所得から抜け出せず、女性の場合は多くが結婚や出産を機に、「美容師という職」に見切りをつけていたのです。

昔は、スタイリストも沢山辞めていた

これは、業界全体に「薄利多売のマインド」が強かったことが原因の一つです。

当時の美容室は、今以上に働く賃金が低い上に、歩合制と言えど客単価も低かった。そのため、沢山売上を上げられる「売れっ子美容師」になれないと、稼ぐことができませんでした。

更に、スタイリストデビューした美容師は、結果が出ないといつまでも生計が立たず、会社からは「実力が無い」と烙印を押されてしまいます。

そんな「実力至上主義」な美容師でいることに疲弊してしまい、年齢を鑑みて業界から足を洗う方は、少なくありませんでした。

美容師は「マッチョな人」しか続けられなかった

当時は「カリスマ美容師ブーム」も相まって成り手も多かったことから、辞める人を厭わない「やりがい搾取」的な働き方だったと言えます。

定時まで働いた末に、アシスタントは営業後に練習を始め、スタイリストも夜遅くまで後輩の指導をする。これらに残業代が出るわけでもなく、そもそも有休も自由に取ることができないし、ボーナスなんて受け取ったことがない。

そんなブラックな働き方は、「(メンタル的に)マッチョな働き方に順応した人」しか続けられなかった、と言って過言ではありません。

増加の理由は、ブラックな働き方の改善の成果

それがこの15年の間に、美容師も美容室も健全な経済活動ができるようになった、といえます。

美容室の価格帯の二極化は著しいものの、美容師は面貸し、業務委託などの働き方が広がったことで、以前よりもフェアでWin-Winな契約ができるようになりました。

女性美容師においても、産後も復帰できる環境が整ったことで、ママさん美容師は増え続けています。

そして成り手が減ったことで、美容師は貴重な人材になり、会社員であっても適正な給与が支払われるようになったのです。このように、恒常化したブラックな働き方の改革が各所で進んでいる成果と言えるでしょう。

環境が整ったからこそ、ママさん美容師が復帰できる

中規模チェーン展開サロンの人材の囲い込みが成功している

中でも、中規模でチェーン展開する美容室が増えたことは、その表れかもしれません。近年、堅実に店舗拡大していく美容室が増えたように感じています。

業界大手の「美容室のチェーン店」は以前からありますが、これらは誤解を恐れず言えば、感度の高いお客さまや現場の美容師からは「ダサい」イメージが先行してしまっていました。

美容師は「カッコよくない」と感じる職場を選ばない傾向が強いように思います。1000円カットやカラー専門店なども含めて、大規模な会社は雇用条件がいいはずなのに、「ここでは働きたくない」と断定する方はとても多い。

チェーン店はダサい?小規模経営は自転車操業になりがち

それ故に、美容室は圧倒的に小規模の個人経営が多いのが特徴です。ですが、こちらは資本や人材が少ないため、雇用条件が恵まれているとは言い難い。

同僚美容師のライフステージによって「独立、退社したい」となったり、入社した若手が早々にドロップアウトしてしまったりと、スタッフ1人が退社するだけで会社は大痛手を追ってしまいます。

そのため、せわしなく自転車操業のように運営するしかありませんでした。

それが、美容師やお客さまから見える「今までのチェーン店っぽさ」を払拭しつつ、チェーン展開することで規模を拡大し、それによって雇用条件を改善。

貴重な人材がなるべく退社しないような囲い込みができている、という表れではないかと思います。

「スタッフが一人減るとしんどくなる」は美容室あるある

渋谷に増えた理由は、若者をターゲットにしているから?

美容師ならば、やはり「お洒落なお客さまが集まるエリア」で働きたい、と考える方が多いのも事実。激戦区渋谷区に『前年から288店増加(前年比10.6%増)』という結果は驚異的です。

ですが、渋谷はかつての「若者の街」といった形からは変容しています。

大規模な再開発は今も続いていて、引き続き「お洒落の最先端の街」ではあるものの、今や街全体からは一概に若者をターゲットにしている、という印象は感じません。

美容室においても、インバウンド客を狙っているお店もあるでしょうし、フリーランス美容師を囲うシェアサロンの増加も目立ちます。

渋谷駅だけが渋谷じゃない。都心のおしゃれ生活エリアの活気

この結果の要因は、渋谷区の「渋谷でないエリア」にあるかもしれません。

渋谷区は特殊なエリアです。渋谷駅、原宿だけではなく、南は代官山、恵比寿や広尾、西は代々木上原、北は千駄ヶ谷や代々木、西新宿方面まで含まれます。各地でそれぞれに人が行き交うエリアですが、増加の理由は渋谷駅よりも、この「周り」の賑わいによるものかもしれません。

都心では特に、以前よりも「お洒落な生活エリア」が増えた、と感じています。例えば、渋谷駅から代々木八幡を結ぶ「奥渋谷」がその象徴です。

繁華街に行くのが億劫な「感度の高い大人」が集まる

都会の喧騒からは一歩離れた生活エリアでありながら、アパレル、飲食店、カフェなど様々なお店がひっそりと構え、地域に住む「感度の高い大人」から広がりを見せています。

感度の高い大人は「人の多い繁華街に行くのは億劫」と感じていて、経済的な余裕もあります。

このキッカケは、SNSです。以前は「駅周辺にお店を構えないと人目に触れない」とされてきた「離れのエリア」も、SNSによる宣伝は容易なため、彼らが足繁く通う印象が強まりました。

このようにして、生活エリアと共存する地域に裾野が広がったことも、渋谷区に美容室が増えた要因と言えるかもしれません。

過疎地の減少は顕著。でも地方でやる美容師には金脈あり!?

とはいえ渋谷の増加は例外的で、全体で見れば頭打ちではないかと思います。全国的には10年以内に少子高齢化が顕著に表れ、各地で数字は下火になっていくことでしょう。

特に人口過疎地での減少は顕著で、「繁華街に出ないと美容室/理容室がないから、おらが村では散髪できない」というエリアが増えることは避けられません。

そもそも美容室は、ターミナル駅や人の行き交うエリアに出店することが常ですから、地方では利便性の高い生活エリア以外に従事する美容師/理容師は減り続けるでしょう。

なかでも人材確保はいっそう難しくなります。四国で美容室を営む友人からは、「新卒生を採用するのは至難の業」との話を聞いています。地方の美容学校は学生の数も少ないため、争奪戦になっていることが窺えます。

ですが、美容師だからといって東京や繁華街にばかり目を向けていてはいけません。

例えば地方から上京した方であれば、「地元」を冷静に見直すと、そこにビジネスチャンスが眠っているかもしれません。

地元で人脈を築き直せば、自分が地方の貴重な人材になることもできるのです。

若者は減る一方。都市部ではどう戦う?

そして都市部も、今でこそ一極集中で人口は増えていますが、緩やかに減少していくことは必至です。人口が減れば、需要も減ります。

今まで通りに若者をターゲットにすることは、π(パイ)が少ない上に、急に増える見込みもありません。以前として若者からファッショントレンドは広がっているものの、少ない資源を強豪と食い合うことになりますから、今後を鑑みる必要があるでしょう。

また、「売れっ子美容師」として既存のお客さまだけでサイクルできれば理想的ですが、5〜10年先に顧客が目減りしていくことは想像に難くありません。

美容師は「高齢化」に関心が薄い

一方で、高齢化による「訪問美容」などは絶対に必要になりますし、今までのサロンワークでは補えない(様々な理由で来店できない)客層は今後も増え続けます。こちらは働き手が足りなくなることも予想されますから、業界からも高齢者をサポートできる事業が広がることを期待しています。

先述したように、美容師は「カッコよくない」と感じる仕事を選ばない傾向が強いからか、高齢化に伴う働き方に関心が向いていない方が多いです。

「髪を切る」仕事は、ライフラインとしての一面もあります。1000円カットに代表される、人々の生活に欠かせないエッセンシャルワーカーとしての美容師の在り方は、「食っていく」ための選択としても大切な手段の一つだと考えます。

美容師は10年後どうなる?

5〜10年先、美容業界は様変わりしているでしょう。

僕も他に漏れず、美容師は総体的にアナログな職人気質で、ビジネス的に見るのが苦手。今後のビジョンをしっかりとイメージできていない方も、多いはずです。

実際、僕が美容師を始めた頃に抱いた「10年後のビジョン」は全く的外れなものになりました。僕自身の価値観の変容もあり、「あの頃思い描いた道」からは大きく逸れることとなりました。

現役美容師の誰もが「売れっ子美容師」でいられるわけではありません。そして、今までのような「売れっ子美容師になる」というロールモデルだけが、生き残る術ではありません。

まだまだ予想もつかないような未来が待っています。

「ライフワークバランス」という言葉が広まっているように、美容師も「理想の美容師像」と「プライベート」や自身の「メンタル面」などを柔軟に捉えて、快適な仕事の在り方を見出せるようになるといいですね。

操作 イトウ
執筆者
操作 イトウ

東京都二子玉川を拠点にする30代美容師。 『ヘアスタイルはロジックで美しく、カッコよくなる』『ステキな美容師さんに出会ってほしい』をメインテーマにしたブログをnoteにて執筆。2020年から文春オンラインでの連載を開始、CREA等のwebメディアで定期掲載。

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