中国からもリピートする美容室のインバウンド秘策と【REDBOOK】【インスタ】使い分け術
日本を旅行先に選ぶ理由のひとつに「美容サービスを受けたい」という声が増えていると言います。
自身も中国・上海で約4年の美容師経験があり、2023年に帰国後は表参道で主に中国からの観光客を担当するCHAINON(シェノン)下田鉄也さんに美容室インバウンドの可能性を取材しました。
- Profile
- 下田鉄也
CHAINON グローバル事業プロデューサー
岩手県出身。ベルエポック美容専門学校卒業後、2店舗を経て2019年から中国・上海の高級サロンでスタイリストとして勤務。約4年上海でサロンワークを行い、2023年3月に帰国。2023年4月からSHAINON表参道で勤務。2024年3月、旗艦店となる新店舗「THE CHAINON AOYAMA」の立ち上げにも関わる。2024年4月よりマレーシアで勤務予定。
- Instagram : @tetsuyashimoda
データに見る、美容室インバウンドの可能性
下田さんに話を聞く前にインバウンドデータを見てみると・・・、2023年12月の訪日外客数は新型コロナウイルス感染症拡大後で単月過去最多。
2023年の年間訪日外客数は2,500万人を超え、特に韓国・台湾、米国などの訪日外客数が増加したことが、訪日外客数増加の押し上げ要因となっているようです。
【年別 訪日外客数の推移】
【2023年 訪日外客数の国・地域別の内訳】
◆訪⽇外客とは、国籍に基づく法務省集計による外国⼈正規⼊国者から、⽇本を主たる居住国とする永住者等の外国⼈を除き、これに外国⼈⼀時上陸客等を加えた⼊国外国⼈旅⾏者のことである。
◆1964年〜2022年は確定値、2023年1⽉〜2023年11⽉は暫定値である。
※詳細はコチラ
円安が加速し、世界中の人々の健康志向も相まって日本人気は止まらぬ勢い・・・。
政府としても2030年までに訪日外国人旅行者数を6,000万人まで増加させる目標を掲げており、2024年は過去最高の訪日外客数になると言われています。
中国ウケを狙うなら
インバウンドによる美容室の需要はどうでしょうか?
月の売り上げ約350万円のうち、中国人が約半分・残り半分は日本人だという下田さん。
3つのSNS集客に力を入れ、明確にターゲットを分類しているそうです。
僕はターゲット別に3つのSNSを使い分けています。
【SNSとターゲット】
1)Instagram
ワンホンヘアなど中国スタイルが好きな日本人向け
2)小紅書(REDBOOK)
中国人向けのインバウンド対策
3)ミニモ
若い世代のお客さま向け
1)〜2)の平均客単価は2万7,000円ですが、若い世代も集客したいので、3)のミニモで集客している若い世代はカット&カラーで約1万円と価格設定にしています。
レイヤーカットや髪質改善を軸に、クセも伸びるケラチントリートメントのメニューは1万5000円〜3万円。
カット&カラーも含めるとロングの方で単価は5万6000円と高単価!
日本で中国のお客を呼ぶには?
まず、欠かせないのは「インバウンド集客のための外部発信ができているか」。
僕は、中国版インスタグラムと呼ばれているSNSアプリ「小紅書(REDBOOK)」を使っています。
「日本で髪を切ったよ!」と中国からのお客さまの投稿で4000〜5000の「いいね!」がついたり、保存数が2000件近くいくこともよくあり、母数が日本のSNSとは桁違いではありますね。
【小紅書(REDBOOK)】
中国人に人気のヘアスタイルは?
「REDBOOK」にワンホンヘアを投稿すれば良いわけではなく、中国でも世代によって求めるヘアスタイルが大きく異なるそうです。
コテで巻いた束感のある、日本っぽいヘアスタイルを求めている中国人は30代より上の世代ですね。
中国の20代のお客さまはY2Kなどの韓国スタイルの方が人気。
ワンホンの巻き方は中国人にとってはポップすぎるので、あまり響かないようです。
「REDBOOK」にはY2Kスタイルが多め、日本人向けに投稿している「Instagram」では日本人ウケするワンホンヘアを多く投稿しています。
【中国人30〜40代向けトレンドワード】
・ツヤ
・ふんわり
・質感が良い
・面を出すスタイル
・ホット系パーマ
・上海ハイライト
東京以外にこそ
美容室のインバウンド需要はある!
表参道という場所柄だから多くの訪日外客を集客できているのでは? と思いきや・・・。
観光のポイントは地方に移っていますよね。
今後は都心以外でのインバウンドこそ、期待大です!
「美容目的での来日」「遊び目的での来日」どちらも増えていますが、遊び目的の観光客を美容室に呼びやすいのは、むしろ地方の美容室なのではないかと思いますね。
アメリカのニューヨーク・タイムズ紙が発表した「2024年に行くべき52カ所」では「山口市」が3位にランクインしました。
https://www.japantimes.co.jp/news/2024/01/10/japan/yamaguchi-new-york-times-places-to-go/
まだインバウンド対策に注力している美容室が少ない今こそ、チャンスが転がっていると言えそうです。
上海での美容師経験が未来へつながっている
中国語が堪能で、中国の文化も深く理解している下田さん。上海でのご自身の美容師経験について教えてください。
僕が上海に渡ったのは2019年。当時働いていたサロンのオーナーから上海の高級サロンが日本人美容師を探していると聞いて、これはチャンスかもしれない! と思って。・・・というのも、その数年前に上海でセミナー講師をしたことがあったのですが、中国の美容業界そのものに勢いがあって、参加してくれた中国の美容師さんたちの熱心な雰囲気が印象的だったんです。
中国のカット料金は30元(約500円)〜2000元(4万円以上)と格差がありますが、僕は高級店に勤めたため、カット料金は480元(1万円強)でした。
言葉の壁は、どう克服したのでしょうか?
最初は中国語がまったく話せない状態で中国に行ったので、日本語のできるレセプションに通訳してもらっていました。
スタッフは全員中国人だったので、コミュニケーションを取るうちに日常会話程度はできるようになって上海に渡って4年後、カウンセリングも中国語で行っていましたね。
上海では日本の素晴らしい商材を中国に広める仕事など、やりたいことは色々あったのですが、約1前の2023年3月に帰国。
フリーランスとしてCHAINON表参道で働くことになり、現在はグローバル事業プロデューサーとしてCHAINON全体のインバウンド対策や海外事業にも関わっています。
インバウンド+「強み」を持とう!
下田さんは中国語や中国人にウケるヘアスタイルにプラスしてケラチントリートメントでの髪質改善を武器にしています。
インバウンド対策だけでなく、インバウンド需要に自分の強みを掛け合わせることが今後は必要になるということでしょうか?
「何のメニューでインバウンドに強くなるか」を明確に持っていることが大切だと思います。
ヘアスタイルでも良いですし、「縮毛矯正」のような日本人が得意とする技術は海外の方に響きやすいと思いますね。
一方で、海外の方と意思疎通を取るのは簡単なことではありません。
日本に来てアウェイな上にカウンセリングで「やりたいヘアスタイル」をうまくを言葉に出せないお客さまもいるので、「思っていたヘアと違う」となることも当然起きやすいです。
「長さを切りたい」と伝えられたけれど、仕上がりに満足いってない様子で聞いてみると、実際は軽くしたかっただけだったり、骨格的に合わなかったり・・・。
言葉の壁がある中で「本当にやりたいヘアスタイル」を引き出すには、通訳ができるレセプションを1名入れて、通訳してもらうのがベストだと下田さんは言います。
通訳できる人材を確保することが難しければGoogle翻訳を活用。その他、Google Mapの英語登録、MEO対策などWEBまわりの対策も必要になります。
【WEBまわりのインバウンド対策】
・Google Map ・・・英語検索で引っかかるようになっているか。
・MEO対策 ・・・・ビジネスプロフィールが明確に書かれているか。
・外国人対応Webサイト・・・外国人対応のホームページになっているか。
インバウンドをリピートビジネスへ
上海のサロンを辞めるとき、REDBOOKもアカウントを消したにも関わらず、日本に帰国した僕を探してきてくれた中国のお客さまがいたんです。
嬉しかったですね。
海外に住むアジア人は60〜70%いると言います。アジア人ならではの髪質の特性があるので、現地の美容師さんだと髪質を理解してもらえないことがあるんです。
アメリカに住んでいる中国人の方で日本に旅行するときに必ず来てくれる方もいらっしゃって、海外からのリピートも増えつつあります。
現在、33歳の下田さん。グローバルな視点でやりたいことは無限に広がっているという。
次の展開はマレーシアだとか・・・?
マレーシアはイスラム教なのでヒジャブを被っているので頭皮環境が悪い人も多いそうです。
でも、美髪の意識はある。
日本の商材には良いものがたくさんあるので、日本の文化や商品をマレーシアで広めたいと考えています。
日本の有名な美容師がマレーシアに行って商品をプロデュースするのではなく、マレーシアの現地の美容師に「日本の商材っていいな!」と感じてもらい、マレーシアのインフルエンサーに広めてもらえるような取り組みを行なっていきたいですね。
最後に、下田さんの海外展開の原動力を尋ねると、「チャンスが転がっていて、おもしろいですよ!」と広い視点で物事を捉える人ならではのコメントが返ってきた。
日本の美容業界には良い技術や商品があるのに、日本人にしかサービスしないのはもったいないと思うんです。
それに、「美」って平和だなって思う。単純に、素敵な文化。
英語や中国語が話せると15億人の人とコミュニケーションが取れるんですよ!
いろんな出会いがあって、感謝できる一期一会の機会がたくさんある。だから、これからも世界を見据えて動いていきたいですね。