【闇深い若手のエピソード集】新卒が直面する「アシスタント時代の怖い話」

【闇深い若手のエピソード集】新卒が直面する「アシスタント時代の怖い話」

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現役フリーランス美容師の、操作イトウのコラム連載。
「街の美容師さん」目線で、業界のエトセトラをお話していきます。

操作イトウ

今回のテーマは
「アシスタント時代の怖い話」です。

今年も早いこと、気付けば新学期は目前。

美容学生のみなさま、ご卒業おめでとうございます。国家試験を終えて一段落、といったところでしょうか。

期待と不安でいっぱいの新生活。

過酷なアシスタント期間を身構えている方も、新生活にウキウキが止まらない方も、既にご存知かと思いますが、美容室で離職してしまう人はアシスタントがほとんどです。

そして僕自身、美容師の仕事の「本質」や「魅力」は、アシスタントの頃よりもスタイリストになってこそ感じられる、と実感しています。

アシスタントになれば誰しも、少なからず美容業界の洗礼を受けることでしょう。

そこで今回は、新卒生へのはなむけの意味を込めて、また古すぎる価値観の先輩方にお灸を据えるつもりで、「アシスタント時代の怖い話」を祝辞として述べさせて頂きます。

【アシスタントは怖い話だらけ】
貴方の夢は打ち砕かれるかも

多くのアシスタントが辞めてしまう理由は、その期間の厳しい生活にあります。

貴方が美容師を諦めてしまうことは他人事ではなく、「貴方の夢が打ち砕かれる」ことも大いにあり得るのです。

美容師を辞めてしまうと、苦労して得た「美容師免許」は灰と化してしまいます。「奨学金」を借りた人は、それでも粛々と返済を続けることとなります。

コイツは正にキングボンビーのように、その後の人生にまとわりついてくるのです。

時代が変わっても、
職場の人間関係は簡単じゃない

2024年の現代には、昭和生まれの僕らが経験してきたようなスパルタ教育を受ける現場は少ないかもしれません。

ですが10歳以上離れた先輩と接する機会も増え、世代間の価値観の違いに戸惑う場面は多くなると思います。ほとんどの方は、今まで部活以外では上下関係を経験したことがないのだから、戸惑ってしまうのも当たり前です。

中には怖い上司もいるでしょう。怖い上司が「ただのサイコパス」なのか、「必要悪を演じている」のか、怒られたそのタイミングでは判断できないかもしれません。

僕の頃は理不尽な先輩だらけでした。ですが、同じ職場で働くことになるのだから、それは避けては通れないことでもあります。

【怖い話①】就職先ガチャ
ブラックホワイトか

どの職種にも言えることかもしれませんが、入社した会社がホワイトかブラックかは、正直、入ってみないとわかりません。

特に美容室においては、「社風による」と言わざるを得ないのが現状です。

美容室は、「大規模なチェーン店」よりも「小規模の個人店」が多いのが特徴です。サービスや働き方への「価値観の違い」は「社長の信念」に基づくため、価値観はお店ごとに大きく異なります。

そして美容師は毎日、美容室内で仕事をすることになります。出張もなければ、外の美容室との交流も中々ないため、ウチの会社がホワイトかブラックか、貴方にはそもそも判断がつかないのです。

相談した先輩もまた
社風に洗脳されているかもしれない

新卒で入社する貴方には「美容室の働き方の比較対象」が無いうえに、それを測るのも簡単ではありません。

例えば、「職場のブラックな事例」を近しい先輩に相談することもあると思います。ですが、その先輩が的確な回答をしてくれるとは限りません。

なぜなら、長く勤めている社員ほど、その社風に染まっているからです。

“井の中の蛙”になりやすい美容室は、入社した美容室がブラックであっても感覚が麻痺していて、ブラックだと気付けない傾向が強まります。つまり職場の先輩達もまた、「美容室の働き方の比較対象」が無いため、今の職場のやり方がブラックであることを認識していないかもしれないのです。

親身になって聞いてくれる先輩。しかし…

【怖い話②】実体験!
僕が美容師をドロップアウトした話

僕自身、新卒で入社した美容室を1年目でドロップアウトしたことがあります。理由は、美容室の価値観に共感できず、そのやり方に適応できなかったからでした。

新卒で入社した美容室は、社長が美容業界向けに自己啓発系のコンサル業をしているという、かなり特殊なケースでした。

入社して直ぐ、僕を含めた新入社員9人は、3〜4社が合同で行う、新人研修を受けることになりました。ホテルに3日間缶詰めにされ、ケータイ(当時はまだガラケー)は取り上げられ、ホテル内の大広間でグループ分けされた同じ境遇の人たちと講習を受け続ける、というものでした。

そんな社風、聞いてないんだが…

「今や鬼畜まがい」
新人研修セミナーの内容は…

そのセミナーの内容は、とにかく「声を張り上げる」ことでした。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」などなど、接客用語を“怒鳴るようにして”大声を上げ続ける。それを、合宿中の座学以外の時間割を大幅に割いてやるのです。

すると当然、研修生は直ぐに声が枯れてくるし、そもそも大声を出すのが苦手な子もいます。

僕は現場にいる時点から、壮大な矛盾と対峙していました。

「なんでそんな事しなきゃいけないのか?」「そんな怒鳴ってるやつ、鬼畜じゃん」「そんなやついねーよ」と。

しかし、声を枯らしてでもとにかくやらないと、この3日間が終わらない。ケータイを取り上げられているから、逃げ出すこともできず、結局同じグループになった人達と、苦手な子をカバーしながらやりきったことを、今でも覚えています。

職場に復帰すると…

そして、研修から帰って職場に復帰するなり、先輩方からは“枯らした声”を讃えられ、「吹っ切れたでしょ〜笑」と歓迎されたのです。

二十歳の僕は、ここで初めて「自己啓発」という存在を知りました。そして歳を重ねるうちに、「こういったセミナーが沢山ある」ということも知りました。

当時の僕のように「右も左も分からない、拗らせた若者」が価値観を矯正する(される)のはタイミングとして悪くなかった、とも思いますが、そのセミナーの価値観は根本的に僕には合わないものでした。

それからも何度も社風に染まろうと努力しましたが、一年間で限界を迎え、離職することとなりました。

まさか現代に、こんなにマッチョな自己啓発セミナーを受け身で食らうことはないかと思いますが、もし出くわしたら全力で逃げることをオススメします。

職場の先輩たちは、一生懸命働いているだけ

【解決策はある?】
美容師は、再就職でリトライできる

当時の僕は「自分には美容師は向いていないんだ」「美容業界はこういうモノなんだ」と挫折し、美容師を諦めるつもりで離職しました。

多くの現役美容師は、アシスタント時代に美容師を挫折しそうになる経験をしています。疲弊した末に辞めてしまう方も多くいますが、結果的に勤めていた美容室を辞め、再就職を経験している美容師もとても多いです。

美容業界にとって、「辞めることは悪」ではありません。

先述したように、美容室はそれぞれ「仕事の価値観」が全然違うため、その会社が実は自分に合ってないだけかもしれないのです。

挫折を経験したとしても、美容師という業種にさっさと見切りをつける前に、もう一回トライしてみて欲しい、と思います。

僕は再就職して、美容師になれた

僕は前職を辞めた数ヶ月後、諦めきれず「もう一回だけ試してみよう」と、テイストの違う美容室に再就職しました。

すると働き始めてすぐ、新しい美容室の価値観が、「前職で教わった価値観」とは驚くほど違うことを知りました。

例えば、前職で「これはやってはダメ」と言われたことを、再就職先では「それは素晴らしいから、積極的にやっていこう」と言われることもありました。

前職によって「植え付けられた価値観」を矯正し直すことは大変でしたが、正に、井の中の蛙。

その美容室で僕は、羽を広げて仕事をすることが許され、スタイリストにまで育ててもらうことができたのです。

◾️【怖い話③】
若い頃のビンボー生活”はあるある

多くの美容師はアシスタントの間、金銭面で苦労します。

スタイリストになってからは真っ当な収入を得られるようになりますが、特に美容師は「職業別の初任給」が低く、また昇級による給料アップも微々たるものです。

加えて、都市部での一人暮らしをする場合、高い家賃と生活費でカツカツの生活を送ることになります。

銭勘定ばかり頭を巡っていた、
アシスタント時代

この物価高も影響しているため、現状においても若手美容師は誰もがビンボー生活を経験している、と言えるでしょう。僕も含めて、若い頃のお金にまつわる苦労話は尽きません。

僕の場合、お金がない理由で友達の遊びの誘いにも行けず、遊びに行ってたとしても、結局「銭勘定」ばかり頭を巡ってしまっていました。カフェランチも値段ばっかり気になって、友達にバレないように安めのメニューを選んだり、コンビニではお腹に溜まる安い菓子パンを常に買っていました。

お洒落したいけどそれどころじゃないし、「給料日まであと◯日…」と日銭を計算している、そんな多少のひもじい思いはまだまだ序の口です。

この業界は、若手の金銭面でのトラブルが付きものです。これらは業界にいる間に、人伝に聞いたり、実体験として聞いたり、全て近しい範囲でのお話です。

人はホントにお金に困るとこうなる
散財した末に「利子」の脅威に直面

まず、「クレジットカードが満額でリボ払い地獄」になることは、珍しくもありません。

「リボ払い」は聞いたことがあるかと思いますが、利子が高くなる代わりに毎月定額で支払う事ができる、というものです。たとえ「今月のクレジットの支払額」と「月収」が釣り合わなくても、リボ払いなら定額を払うだけで「その月」をやり過ごすことができます。

ですが、これが甘い罠の入り口です。毎月コツコツ支払っているつもりでも、結果として本来の金額より“かなり多く”支払うことになるため、カイジもざわざわするマネーゲームに身を投じることになります。

美容師に憧れる多くの若者は「お金の勉強」をしてきていないため、散財した末に「利子」の脅威に直面する人は多いです。これは僕の実体験でもありますし、当時は「終わりの見えない恐怖」を噛み締めていました。

そして、消費者金融で借りることも、本当に注意が必要です。利子が膨らんで支払いの滞納が続くと「ブラックリスト入り」して、銀行口座の開設やローン申請などの際に影響するそうです。

ヤバい、このままだと今月のやりくりが…

【闇深いお金のトラブル】
内緒のバイト、同僚の財布からくすねる…

「会社に黙って夜間のバイトをしていた」というのも、よく聞きます。「健全なバイトなら本人の責任で構わないのでは?」とも思うところですが、日中は美容室で仕事をしながらなので、出勤時のモチベーションは最悪です。

夜中バイトした挙句、朝には疲れ切った顔。中には水商売でバイトしていた、という話も聞くこともありますが、練習も滞ってしまうため、本業の美容師に大きく影響すること請け合いです。

そして、魔が刺して「同僚の財布からくすねる」という事件も、意外と多い事例です。また、「お店のお金をくすねる」ということも起こり得ます。

どちらももちろん犯罪行為ですが、ほとんどの場合、会社側は刑事告訴する事なく示談で済ませたうえで、自主退社を迫られることになるでしょう。

まとめ

ネガティブなお話ばかりになってしまいましたが、美容師という仕事の「楽しさ」や「やりがい」は、他の仕事では得られない特別なものです。ですが、それはスタイリストにならないと享受できません。

そのため、多くの美容師経験者がアシスタント時代に離職して、本当の素晴らしさを体感できないことは、残念でなりません。

高く厳しいハードルではありますが、我々は全力で応援していますし、乗り越える若手が増えることを、願ってやみません。

操作 イトウ
執筆者
操作 イトウ

東京都二子玉川を拠点にする30代美容師。 『ヘアスタイルはロジックで美しく、カッコよくなる』『ステキな美容師さんに出会ってほしい』をメインテーマにしたブログをnoteにて執筆。2020年から文春オンラインでの連載を開始、CREA等のwebメディアで定期掲載。

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