ここ数年、大人世代を中心に頭皮トラブルをうったえる声が増えている。
増える頭皮トラブルをどうケアしていくべきか。皮膚科医であり、日本エステティック研究財団 理事長/日本毛髪科学協会 副理事長、接触皮膚炎・皮膚アレルギー・化粧品の安全性研究が専門分野の関東裕美先生に話を聞いた。
更年期とアレルギーの関係とは?
――大人世代に頭皮トラブルを訴える人が増えているのは、なぜなのでしょうか?
40代を超えると成人病の関与やリスクが高まりますよね。
頭皮は免疫機能をダイレクトに反映し、汗と皮脂の影響を受けやすい場所。食事の影響や睡眠状態にもダイレクトに反応します。
40代になって代謝異常が起こってくると、地肌がカサカサしたり、赤みが出たりすることも・・・。日常生活の影響や基礎疾患を持つ方の反応も多く出やすい部分なのです。
「日常生活が豊かになって良い部分」と「多様化時代ゆえのリスク」は隣り合わせ。
関東先生は美容室で健康状態にあった施術を行う必要性や美容師さんの声がけ、年齢や体質に合った頭皮の洗浄方法を正しく伝える必要があると話す。
なぜ更年期世代は、アレルギーを起こしやすい?
――50代前後の方にアレルギーが増えているという実感はありますか?
感覚としてありますね。それは50代前後が女性ホルモンや男性ホルモンなどのホルモン状態が不安定な時期であることが大きく関係しています。
――若い頃は問題なかった成分にアレルギー症状を起こすこともあるのでしょうか?
女性ホルモンの減少は免疫機能に影響します。
「女性ホルモン不安定世代」である更年期前後の女性は、これまで問題なかったアルカリカラーで突然アレルギー反応が出たり、かぶれを起こすことも。
通常免疫バランスが悪くなってしまうと、今まで抑えることができていたアレルギーの抑制ができなくなります。このバランスの悪さにより免疫活性が高まることで、過剰反応してしまう人もいますね。
頭皮に起こるアレルギーは、若い頃のヘアカラー履歴の影響も関係しているという。
更年期とジアミンアレルギー
現在50歳の女性が22〜23歳の頃、1990年代のヘアカラーブーム全盛時代であった。
これから50代を迎える世代は、これまでの50代より圧倒的に10代〜20代の頃のヘアカラー使用量が多い上に、白髪染め頻度が増えたことで頭皮のかゆみや違和感を覚える女性が急増。それはジアミンアレルギーに発展するケースもあるという。
「ジアミンアレルギー」とは?
アレルギー反応は異物に対して免疫系が過剰に反応することで起こる。
ジアミンアレルギーは「パラフェニレンジアミン」などの染料が含まれるヘアカラー剤でカラーリングを行うことでアレルギーを起こすこと。
ジアミンアレルギーを起こしやすい人(時期)とは?
・地肌に傷があったり、赤みが出ている
・ホルモンバランスが乱れている
・月経前後の期間
・臓器に障害が出ている
・花粉症など免疫系が過剰に反応している時期
アレルギーの反応が重傷化しやすいのはこれらのリスクが重なったとき。更年期・生理前後・免疫機能が不安定なときなどは特に注意が必要なのだ。
現代は「人生100年時代」と言われますが、歴史を遡ると、人は50歳で寿命を迎える人が多かったわけですから、50歳というのは体のメンテナンスを行う時期なんですよね。
臓器の状態を把握する。免疫機能が不安定になっていないかを知るなど、外見だけでなく、体の内的機能を整えることも必要なのです。
刺激性のトラブルとアレルギーは関係する?
頭皮にかゆみや赤みがあるからといって、すべてがアレルギーにつながるとはもちろん限らない。どちらのトラブルなのかを判定するには皮膚科でのパッチテストが必要になる。
【かぶれや赤みの原因】
1)アレルギー性
2)刺激性
パッチテストの結果、「刺激性のかぶれや赤み」だったとしても、刺激性のかぶれだった人が、ある日「アレルギースイッチ」が入ってアレルギー性の反応が出ることもある。
また、前述の通り40代以降はホルモンや成人病などが原因で頭皮に影響が出やすくなっている。
花粉症に代表するようにアレルギー物質の量が体内で増えることにより発症するため「アレルギーへの階段」を一歩ずつ上がっていることを心得ておかなければならない。
パッチテストとオープンテスト
皮膚科専門医は、皮膚科受診で行う「パッチテスト」に対して、美容室で行うテストは上からパッチを貼らないため、「オープンテスト」の呼び名で分けているという。
・オープンテスト(美容室)
ヘアカラー剤を塗布するだけのオープンテストは弱い感作(※1)では反応せず陰性になることも。重症化すると陽性になる。
※1)感作(かんさ)・・・・アレルギーの原因物質(アレルゲン)が体内に入り、それに対する免疫が構築されること
日本ヘアカラー工業会が中心となって美容室でのオープンテストを呼びかけてはいるが、ヘアカラー剤を塗布して48時間後にチェックするテストは時間的・物理的ハードルがあり、なかなか美容室の現場では浸透していない現状も。
・パッチテスト(皮膚科受診)
パッチテストは遅延型のアレルギー(4型)のアレルギーを検査するもの。日本では22種類のアレルゲンを同時にチェックする佐藤製薬の「パッチテストパネル®(S)」を使用する。
【皮膚科受診パッチテストの流れ】※以下は、実際にボブログ編集部が皮膚科受診した際のレポート
・1日目 アレルゲンを貼る
日常生活上アレルギーが成立している可能性のあるアレルゲンを皮膚科医が貼付
・2日目 貼付したままで過ごす
・3日目 結果判定(1回目)
受診して、皮膚科医がアレルゲンを剥がします。剥がした影響が取れてから、皮膚の反応を皮膚科医が確認。
4又は5日目 結果判定(2回目)
皮膚反応を皮膚科医が確認。
7又は8日目 結果判定(3回目)
遅延性のアレルゲンもあるため、皮膚反応を確認
なお、皮膚科受診のパッチテストを行うと処方される「パッチテストパネル®(S)による検査をお受けになる患者さんへ」の冊子は関東先生の監修によるものだ。
パッチテストで診断される現代の日本人の5大アレルゲンは「ウルシオール」「パラフェニレンジアミン」「金チオ硫酸ナトリウム」「硫酸ニッケル」「塩化コバルト」。
「パラフェニレンジアミン」は皮膚科でパッチテストを行った患者の約2~5%が陽性と報告されており、一般人の0.1%から1%が感作されていると言われている(「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」より)。国や人種によって、また生活背景の中でアレルギー反応の出方は異っている。
――金属アレルギーとヘアカラーの関係はありますか?
関係はないですが感作しやすい体質というのはありますね。
パラフェニレンジアミンは強い感作性の物質のため、重傷化してくると、パラフェニレンジアミンの類似骨格を持っているアレルゲンにまで反応する交差感作を起こすこともあります。
アレルギーは体質によって本当にさまざまな症例があります。
パラフェニレンジアミンではなく、香料・防腐剤に反応していたこともありますし、ブリーチ剤の過硫酸塩に反応する人、美容師さんでニッケルにアレルギーがあって「ハサミを持てない」という患者さんを診たこともあります。
ジアミンアレルギーと診断されてしまったら?
――ジアミンアレルギーと診断されてしまったらどうしたら良いのでしょうか?
皮膚科でジアミンアレルギーと診断されたら、ジアミンが配合されたヘアカラー剤は使用できません。
ヘアマニキュアやピロガロールが主成分の非酸化染毛剤を使用することになります。
化粧品でかぶれを起こしたときなどは消費者は箱に表示されている成分を見て、使用できない成分が含まれていないかを判断するわけですが、ヘアカラーの場合は箱の成分表示をお客さまが見るケースはほとんどないと思いますので、より美容師さんのお声がけが重要になります。
常連のお客さまであっても「頭皮に変化はないですか?」「気になることはないですか?」などカウンセリングで必ず聞くようにしましょう。
ジアミンアレルギーを防ぐことはできるの?
――美容師は、頭皮のどんなことに気をつければ良いですか?
頭皮に傷があったり、乾燥して荒れている状態に、リスクを負ってヘアカラーを続けると、アレルギーを助長する元になります。
私は日本毛髪科学協会や日本エステティック研究財団の活動で美容師さんやエステティシャンに講演することも多いのですが、ヘアカラー剤などで頭皮が刺激を受けていないか? 熱心に頭皮を観察している美容師さんもたくさんいらっしゃいます。
これからの時代の信頼できる美容師とは「頭皮の状況を見ながら、色だけを入れることの大事さも知っている人」。
頭皮が良い状況を保っていれば、アレルギーに進展しない場合もあります。
頭皮の状態を常に観察し、状況によっては「今日はヘアマニキュアで色を入れるだけにしましょう!」「今日は部分的に色を入れましょう!」など、美容師さんによるお声掛けが非常に大事だと思います。
「トルエンジアミン」という選択肢
――パラフェニレンジアミン以外にもヘアカラーに配合されているジアミンはあるのですか?
最近ではパラフェニレンジアミン以外に「トルエンジアミン」を使用するヘアカラー剤も増えていますね。
これは「低アルカリカラー」に配合されていることが多いようです。
トルエンジアミンは動物実験では、パラフェニレンジアミンの半分くらいの低感作性が証明されています。
トルエンジアミンもパラフェニレンジアミンと類似骨格を持ってはいるのでアレルギー反応がゼロになるわけではないですが、弱い感作性のものを使うことでアレルギーが出るまでの期間を伸ばせる可能性はあります。
ジアミンアレルギーを防ぐために美容師ができる5つのこと
――「ゼロテク」や「白髪ぼかしハイライト」に代表されるカラー技術や「ノンアルカリカラー」など剤の置き換えも進んでいます。これからのヘアカラー技術に期待することは何でしょうか?
アレルギーの重症度が上がるほど使用量には関係なく反応が出てしまうため、アレルギー反応が出る前から使用量を調整したり、酸化染毛剤を使用する頻度を下げることが必要だと思います。
これから更年期の症状を訴える人が人口構成比を考えれば増えます。
「体調があまりよくなさそうだから、今日はマニキュアにしましょう!」など、美容師さんが情報を提供し、お客さまが自分で決められる関係づくりが大事ですね。
そして頭皮の状態を常に確認し、体調や生理前後などコンディションを気づかい、ヘアカラーの配合成分に敏感になること。
美容のプロとしてどんな提案をしていくべきなのかに向き合うときなのだと思います。
【ジアミンアレルギーを防ぐために美容師ができる5つのこと】
①ゼロテク、白髪ぼかしハイライトなどの技術を習得し、頭皮に酸化染毛剤が直接つかない工夫を行う
②セクションカラー(部分カラー)などの提案を行う
③酸化染毛剤の使用量(塗布量)を調整する
④トルエンジアミンなどの弱い感作性の成分を使用した酸化染毛剤を使用する
⑤ノンジアミンカラー、ヘナカラー、ヘアマニキュア、ピロガロールが主成分の非酸化染毛剤(オハグロ色白髪染め)など、代替カラーを提案できるようにする
※①〜④はジアミンアレルギーを発症してしまってからは微量でも反応するため、予防策として行う
2015年にヘアカラーの啓発教育が始まり、ヘアカラーメーカーを始め製品を安全化するための企業努力もあって、ヘアカラーによるアレルギーを取り巻く状況は少しずつ変わりつつあります。
しかし、アレルギーはなくなるわけではありません。
だからこそ美容師さんはお客さまに正しい情報を伝え続けること。これが必要なのだと思います。
- Profile
- 関東裕美先生
元 東邦大学教授/稲田堤ひふ科クリニック/日本エステティック研究財団 理事長 /日本毛髪科学協会 副理事長
【専門分野】接触皮膚炎、皮膚アレルギー、化粧品の安全性研究
【所属学会と主な役職】日本皮膚科学会、日本皮膚免疫アレルギー学会、日本美容皮膚科学、日本香粧品学会
【行政関係役職】厚生労働省家庭用品健康被害事例検討委員会委員、消費者庁消費者安全調査委員会製品等事故調査部会委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員