カミカリスマが導く美容業界の未来はどうなる?内閣府が関わりたがる理由がエグい

カミカリスマが導く美容業界の未来はどうなる?内閣府が関わりたがる理由がエグい

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現役フリーランス美容師、操作イトウのコラム連載。今回のテーマは「カミカリスマ」です。

昨年末、2023年美容業界最大級のイベント「KAMI CHARISMA 2024 アワード」の表彰式が行われました。今年も錚々たる業界人が出揃い、華やかな表彰式は年々注目を浴びています。

僕自身は、恐れ多くも有名美容師や有名美容室に疎く、「そういうのがある」程度にしか認識していませんでした。ですが、編集部からお声がけを頂いて公式webサイトを拝見してみると、「とても面白い取り組みだな〜」と感心しました。

そこで今回は、末端の現場の美容師である僕目線で「カミカリスマ」についてお話してみようかと思います。

◾️カミカリスマの目的はどこにある?

カミカリスマは内閣府、外務省、経済産業省なども後援している大規模な表彰式です。そう聞くと、現場の美容師目線からすると「ちょっとお堅い」印象に感じる方も多いかもしれません。

ですが僕が興味深く感じた点は、「インバウンド需要に向けたニーズ拡大」という点です。カミカリスマは、ミシュランをベンチマークにしているとのこと。

この事からも、インバウンド観光客にミスマッチを起こさない「上質な美容室」の情報提供を目標にしていることが窺えます。

▼インバウンド客はラグジュアリーな体験を求めている

すでに世界中で箔が付いている日本人美容師。「観光の記念に、ヘアカットもしてもらおう」というニーズはコロナ以前から注目されていました。

ですがインバウンド客が「どこを選んでいいのかわからない」というのは、観光業として重大な「機会の損失」です。そこで、ミシュランが「美味しい飲食店」を担保した星付きのレストランとして誘導するように、上質な美容室や美容師に誘導する試みがなされている。

まだまだ観光業とは言えない美容室では実感しにくいところですが、世界中の観光客は日本人が考えている以上に、日本での「ハイグレード、ラグジュアリーな体験」を求める層が多いのだそうです。

実際に、日本中の観光エリアには「ハイグレードなホテルが足りていない」という話も聞きますし、カミカリスマを通して、期待される日本の観光業との結び付きがなされていくのかもしれません。

今や東京では、ニッチなスポットにもインバウンド客が訪れている

▼日本を代表する美容師たちが登壇する意義

そして、この表彰式で素晴らしいと感じた点は、日本を代表するトップランナーの美容師たちが登壇していることです。

無知な僕は一部の方しか認識できていませんし、欠席された方もいらっしゃるそうですが、今後「未来の美容師たちの憧れの場」になっていくことは間違いないでしょう。今はまだ業界内の認知度も低いですが、回を重ねていくうちに「業界における名誉」となるのも、時間の問題だと思います。

というのも、空前の「カリスマ美容師ブーム」は90年代後半。

あの「ビューティフルライフ」も2000年だったのだから、現代では美容業界がメディアに取り上げられる機会がなく、今や多くの若者にとっては「憧れの職業」とは言えません。

このカミカリスマが、ミシュランのようにマスに届くキッカケになると共に、未来の美容師が憧れるステージになるといいな、と感じます。

僕らはみんな、キムタクに憧れたのだ

◾️カミカリスマは「サロンワーク」を評価しているからすごい!

カミカリスマの特筆すべき点は、「サロンワーク」が評価基準であることです。美容師にとって「サロンワーク」が評価されることは、間違いなく名誉なことです。

というのも、それまで美容師や美容室は「お客さまが下した評価」でしか格付けされることはなく、公式に評価や名誉を受ける機関はありませんでした(あるのかもしれませんが、業界人にも世間にも認識されていない)。

▼美容師の「実力」が評価される場はなかった

従来から、技術を競うコンテストはあります。

ですが、これらは「アーティスティックさ」「技術力」を競うものばかりで、「サロンワーク=実力」とはかけ離れている分野でした。また、「受賞に向けて時間を割いて励むこと」もサロンワークとは乖離しているので、コンテストに参戦する美容師は少数派。

そのため「コンテストの受賞」を売りにするのは、現場でも「技術力」が評価されやすい理容師の方が目立ち、美容師の参加は少ないのです。

更に美容師は「自身の能力」を計る指標が無いため、これまで「有名美容室の出身」というぐらいでしか箔を付けられる部分が無かった、と言えます。

また「技術力」においても、業界誌などに露出しないとアピールはできないため、出版社からオファーを受けるカリスマ美容師しか日の目を見ることがなかったのです。

◾️カミカリスマは、カリスマ美容師しか選ばれない?

このように、カミカリスマで表彰されることは名誉なことです。そして、その選出方法については公式サイトで、調査員が技術力や発信力など7つの視点から総合的に審査を行い、その基準をクリアした美容師・美容室をベストオブ髪カリスマとして選出していると説明がなされています。

ですが基本的に、カミカリスマに選出される方は「ハイグレードな仕事」に勤しむ美容師が対象のように見えます。

トレンドフルなヘアスタイルを提案し、美容師向けのセミナーに登壇できる、有名美容室のトップランカーの方。

また“芸能人御用達”な方だったり、メディアに出演する方、SNSでの発信で支持される方。つまり一般人からすると、いわゆる「カリスマ美容師」です。

これは先述した通り、インバウンド需要に向けている部分が強いからでもあります。そのため「街の美容室の売れっ子」は、対象にはなりにくいかもしれません。

▼【ニーズが異なる美容師のあり方】カミカリスマは一流で、それ以外は二流三流?

とはいえ、カミカリスマに選出されることが一流で、選出されていない多くの美容師が二流三流、という話ではありません。

ですが、このカミカリスマには「住宅エリアの美容師」は該当しないように見えます。例えるなら、「町中華」と「高級中華料理屋さん」の違い、といったところでしょうか。

美容師にとって、「中心街/繁華街の美容師」と「住宅エリアの美容師」のスタンスは違います。

あえて雑に表現すると、「中心街/繁華街の美容師」は感度の高いお客さまに最先端のお洒落を提供することが求められ、「住宅エリアの美容師」は地域のお客さまの生活に則したトレンドを提供することが求められています。

▼ラーメン二郎にとって、ミシュランは名誉か否か?

それ以外にも、ヘアスタイル面でニッチな分野に特化している美容師さんもいます。また、売上を上げて得る名声よりも、職人気質で常連の方への一対一の接客に情熱を持つ方も多い。

例えるなら、「ラーメン二郎」がミシュランに載ることはないが、ラーメン二郎側もそこで評価されたい、載りたいとは思ってないはず(失礼だったらすみません)。

カミカリスマは地域密着の美容師や美容室を否定するものではなく、ラーメン二郎よろしく「それとは違ったニーズに対応している」と認識する方が良いでしょう。

◾️「審査員はどんな人だろう」想像すると…

このことから、カミカリスマの覆面調査は「話題の美容室や美容師」を訪れているはずです。「観光」の観点からも、おそらく「生え抜きの少ない業務委託の美容室」や「予約が難しい面貸しの美容師」に伺うことはほとんどないでしょう。

そう考えていると気になるのは、審査員はどんな方なのか、という点。

例えば、一般の消費者の目線では「ヘアカラーがどれだけすごいのか」「そのカットがどれだけ高度なのか」は判断がつかないはずです。

▼消費者目線すぎると、審査はブレる。ということは…

そして「カットしている見た目がすごかった」となると、アクション/パフォーマンス重視のテクニックばかりが評価されてしまいます。

派手なアクションをする技法は賛否両論で、「派手なパフォーマンスは必要ない」と考える美容師も多いです。

そのため、審査員はそこまで理解できる「美容師」かもしれないし、少なくとも技術や薬剤、ヘアケア用品なども含めて業界のことをよく理解した「プロ目線で見れる方」であると想像します。

▼プロがフェアに審査するのも難しそう

また、1〜2時間ほど顔を見合わせてお話をするのが美容師です。評価には審査員の好みが反映されやすいでしょうから、評価基準は偏らないように整備されていると思います。

そして、美容師はそれぞれ「理論」や「アプローチの仕方」も違います。審査員がプロ目線の知識を持っているなら、美容師の「アプローチの正当性」も測っているかもしれません。

とすると、もし自分が審査員になったとすると、偏見なく評価するのは難しそう。

例えば、僕にも僕なりの理論があるので、相反する部分は否定的に見てしまいそう。などと考えてみると、「美容師が審査員」という筋は薄いかもしれませんね。

◾️今回のまとめ

今後は観光立国になっていくことが見込まれる日本。未来の美容師が健全に評価されれば、カミカリスマは高みを目指す目標になります。

そして、カミカリスマがミシュランのようなガイドブックになれば、より世界から日本の美容師は礼賛されるでしょうし、美容業界もWin-Winとなることを期待しましょう。

操作 イトウ
執筆者
操作 イトウ

東京都二子玉川を拠点にする30代美容師。 『ヘアスタイルはロジックで美しく、カッコよくなる』『ステキな美容師さんに出会ってほしい』をメインテーマにしたブログをnoteにて執筆。2020年から文春オンラインでの連載を開始、CREA等のwebメディアで定期掲載。

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