髪である必要はない【美容師アーティストUUUUが考える”ニュー丁髷”】
この髪型を知らない者はほとんどいないだろう。
そして、とある美容師は丁髷を「世の中で一番面白く狂った髪型だ」と言う。また「この髪型を超えるものを創りたい」とも。
この記事では、サロンワークの傍ら、丁髷を超える「ニュー丁髷」を社会に提示する、美容師アーティスト UUUUへのインタビューを掲載。我々の凝り固まった髪型の概念を削ぎ落とそうではないか。
- Profile
- UUUU(Ushi)
美容師アーティスト/MaNO代表
1983年10月27日生まれの40歳。北海道の奥尻島出身。
北海道理容美容専門学校を卒業したのち上京。都内サロン1店舗を経て世界一周の旅へ。
その後2011年ヘアサロンMaNOを設立。
2020年からアート作品を売り始め、2023年10月27日自身初となる作品集「ニュー丁髷」を出版。
この本で東京現代美術館で開催された「TOKYO ART BOOK FAIR 2023」に出展。
- Instagram : @ushi_uuuu
髪である必要は、ない
このインパクトあるフレーズが頭に残る、UUUUのアート作品集『ニュー丁髷』。
この作品集からUUUU自らが髪でなくとも髪型だと定義し、彼の思想が反映された作品をいくつか紹介する。
色々解説をしたいところだが、まずはこの異質さと新鮮さを感じてほしい。
不鑑賞_食
これらの作品中の、苺とネズミ。
この2つを同等に扱うことによって、気候変動による食文化の変化を提示。このまま地球温暖化が進めば、これらが同等の食糧として食卓に並ぶ日が来ることをユーモアに問題定義している。
このような環境問題でさえ、今日では当たり前になり慣れてしまう。
我々にとっては、どんなことも”皆がやっている”という指標で「普通」として認識されていく。
そんな、社会の常も風刺した作品になっている。
不鑑賞_海
現代に広がる問題はあまりに多すぎて、そのすべてに立ち向かうことは難しい。
だから我々はただ見ている。
これらの作品は、おかしな髪型にも関わらず、皆でやっていたことで”当たり前”と化していた「丁髷」になぞり、現代社会や世の中への訴えを投影しています。
どんなにおかしなことでも大多数がやっていると、当たり前になる。社会の条理ではそれが正しいと判断されます。
言い換えれば、おかしくないことでも皆がおかしいと言えば、おかしいのです。
そして、我々はそのおかしさに気が付いていたとしても、周囲に合わせ、やむ負えなく傍観しまうことさえあります。
生成AIへの反逆 / 対極な物質による不意打ち
2023年、生成AIの発達により、指令を送るだけで簡単に画像の生成が可能になった今、我々の写真表現の未来はどうなるのだろうか。
葛藤で揺れる気持ちを静めるように、AIの領域がまだ達していない作品を意図的に創り、時代に静かな抵抗をする。
生成AIへの反逆 / 本日の偶発な詰合せ
今日の偶然で創りあげた作品。
生きている人間のストーリーは、AIにはまだ生み出せない。
「人間の創造はそう簡単には超えられない」というUUUUの想いがこもっている。
新しい髪型を提示する 作品集『ニュー丁髷』
これらの作品は、カタチにとらわれない新しい髪型の表現で創られたUUUU初の作品集「ニュー丁髷」の一部。
この本を一言で表すと「アートのヘアカタログ」である。
それを表現するように作品集の表紙と背表紙は「鏡」で制作されている。
下の写真では青空が表紙に見えるが、これは鏡に映ったもの。
この作品集を手にした時に「鏡にうつる貴方がニュー丁髷です」というUUUUの遊び心だ。
また、作品のタイトルなどの表記は多言語で翻訳されている。しかし英訳以外は「Google翻訳」を使用しているため、正しくない翻訳が混ざっている。
これは「AIはまだ発達途中だ」という暗示。2023年を表す手段にして面白い。
◆「ニュー丁髷」
◆Google翻訳が使用されているページ(「ニュー丁髷」より)
──作品集「ニュー丁髷」のポイントは何ですか?
江戸時代に流行したお馴染みの髪型「丁髷」に負けないくらい、面白さと狂気を感じる髪型を創りたいという私の想いが、作品に反映されています。
作品集全体を通して伝えたいのは、作品をつくる美容師仲間には「新しさの挑戦」であり、世の中へは「髪型の面白さ」。
また、評価を気にするあまりに似たものが並ぶコンテストの流れや、新しさを過小評価してしまう業界へのアンチテーゼです。
ドキドキするものは、やはり何かしらの新しさを感じるものだと思うんです。
私がやっているほど突拍子がないものの必要はありませんが、そこを評価しないと、クリエイティブとしてつまらない世界になってしまいます。
現代アートは、自由だ
さて、作品集を見てさまざまな感情が湧き上がったことだろう。
髪型のアート表現を追求し、唯一無二の作品を創りあげるUUUU。彼の頭の中を覗いてみよう。
UUUUの頭の中
「今まで通りの表現方法では足りない。切り口を変えなければ」
元々アートに興味があったUUUUは、美容師のつくるクリエイティブに限界を感じていた。
美容業界のクリエイティブは、美容師の教育が本来の目的のため仕方がない。
しかし、自らをアーティストとして考えた時、業界の枠を超えてより広い世界に届く作品を生み出したくなった。
──髪に囚われない髪型アートに至るまでの思考を教えてください
「一番面白い髪型ってなんだろう」と考えた時に、「丁髷」が圧倒的だと感じたんです。
「丁髷」って狂ってるんですよ。痛みに耐え、髪を抜いた先にあのフォルム。それを皆がやっていたのはどう考えてもおかしい。
それでいて、日本特有の美意識を感じ、私にとって美しいんです。
やはり髪型を追求するものとして「超えたい」と心が震えました。
そうして生まれたのが、カタチに囚われず髪である必要はない、思想を反映して創られる髪型「ニュー丁髷」です。
確かに彼の作品には、今まで考えたこともないような髪型や表現方法が連なる。
しかも、そのすべてが社会風刺の想いが込められた現代アートだから、なお驚きだ。あの異質で不思議な髪型たちは、ただの気まぐれで創られているわけではない。
一つひとつの作品が我々の生きている世界そのものなのだ。
──作品を創る時のモチーフやイメージはありますか?
”カタチや見た目だけではなく、思想を反映したり見た人の想像をもって一つの作品が完成する”という方法、まさに現代アートの基礎的な文脈を参考にしています。
ただ、最近ではアートでも仏教の要素が目立っていると感じるので、”何も考えず・何の意味も持たせず・無心で作品を生む”というスタイルも考えました。
ですが、髪型を題材にするので、あえて作品の意味を潜ませた方が面白いという結論になりました。
社会を風刺するのも、アートとしてはありがちで少し古い感じもしますが、髪型ならば逆にその古臭さもありだなと。
UUUUの作品は現代アートの中でも、ポップアートに部類される。
ポップアートは、大量生産・大量消費の社会を風刺した作品だ。
私の作品の色使いが派手なのも、ポップアートに寄せているからです。
髪型やビューティの作品はダークなものが多くなってしまう風潮がありますが、ただでさえニッチな制作が世の中に広がりくくなるのではと感じました。社会風刺をダークな表現にすると少し重い印象を受けますしね。
私自身、バンクシーのように、ユーモアを伝える作品の方が好みなのかもしれません。
作品は感覚的に創っているようで、実はすべての要素を分解して戦略的に創っています。
UUUUとアート
「アートとは?」というベタ過ぎる筆者の質問に、UUUUは「答えられない」と言った。
「アートは見た人が感じるもの。こちらで定義することはできない」というのが、彼の考えだ。
──現在はアート活動を主にしているのですか?
私が代表を務めるサロンMaNOでヘアデザイナーとしてサロンワークも通常どおり行っています。
アート活動では、美容師としてお客さまの髪を切る時間や、経営をする時間以外の空き時間で制作しています。ただ、個展やイベント登録などでサロンワークを休むこともあります。
私の中では、サロンワークとアートは全くの別物。
例えば、美容師のクリエーションであれば「カットが上手くなるから」や「デザインの幅が広がるから」という理由で連動することあると思います。
ですが、アートという分野には全く関係ないので、割と切り離して活動しています。
──作品を通して伝えたいことは何ですか?
伝えたいというより、ヘアクリエーションの中でアートとしての新しい髪型表現の分野が、業界でもひとつの選択肢になると嬉しいですね。
温故知新(おんこちしん):「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」
という言葉が好きなのですが、先人たちが築き上げたものに敬意を持ち、進化させるのが私たちの使命だと思います。
まだまだいろいろチャレンジしなきゃですね。
アーティストとしてまだまだだという姿勢のUUUU。自身も作風の変わった美容師のアート作品はチェックしているという。
新しさで気になる分野はAI。これは、もはや大変な事件だと思います。
私の作品集「ニュー丁髷」でも、AIを用いて制作したり、AIに対する反発を題材にしている作品があります。
今は、「AIが業界に対して一体何をもたらすのか?」が興味深いです。
「美容師がつくりだすアートという分野が盛り上がるといい」。
UUUUは、新たな表現者の可能性と美容師アーティストとしての未来に期待を込めた。
彼やアートの前では、固定観念は単なる足枷でしかない。
もっと自由に、そして面白く。
髪型表現の自由は我々の中にもきっとあるはずだ。
- 執筆者
- ishikawa ayaka