「髪色を問わない企業」に見る、閉鎖的な美容室が変えるべきマインドセット

「髪色を問わない企業」に見る、閉鎖的な美容室が変えるべきマインドセット

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現役フリーランス美容師、操作イトウのコラム連載。今回のテーマは「髪色改革」です。

今回は、「職場の身だしなみ」にまつわるお話。

今年に入ってから、接客業であっても「髪色やピアスなどのアクセサリーを問わない」という企業が増えている、というニュースが話題になっています。ルッキズムに関することもしかり、世論は寛容に受け取っているようにも感じますが、「就活ヘア」や「部活ヘア」などと同様、これらはまだまだ解決できていないのが実情です。

そして、世間的には「お洒落で先進的」なイメージのある我々美容室も、実はめちゃめちゃ「閉鎖的」。業界の皆様ならご理解頂けると思いますが、今も古い考えに縛られています。

そこで今回は、僕の「世間」に対する“拗らせ考察”をお聞きいただいて、「新しい文化」を受け入れるご参考になればと思います。

◾️ようやく吹いてきた風。でもそれは業界による

僕は今でこそリベラルな考えを持っていますが、20代の頃はガチガチにルールに縛られた環境に育ったことで、「ルールを遵守するのが正しい」とマインドセットされてきました。僕と同様に、このような感覚は世代的に多いと思います。

一方で、僕が社会に出てからずっと疑問に思い続けていた“それ”が、やっと正当化された気持ちでもあります。

「職場の身だしなみ」の改善は、“ようやく吹いてきた風”という印象です。ですが例えば、大きな病院に勤める看護師さんのお客さまからは、「髪色などについてもいまだにガチガチで、変わりそうな様子もない」と聞いています。やはり閉鎖的な環境になりやすい“お堅い”職種の現場には、まだまだ風が吹きにくいようです。

◾️「昭和」によって「おもてなし」は文化になった

とはいえ「職場の身だしなみ」は、得られるものが大きいからこそ日本中に浸透し、文化として根付いたものと想像します。

それは今でこそ「昭和」と揶揄されがちですが、「誰もがイヤイヤやっていた」訳ではないはずです。

「身だしなみ」を統一する最大のメリットは、「サービスレベルの向上」です。お辞儀の角度、言葉の言い回しなど、細かい所作はマナーとして叩き込まれることで、個人差なく一定のクオリティを維持することができます。これを接客業として体現し、消費者として体感してきたからこそ、日本の「おもてなし精神」は培われたのです。

「こうじゃなくて、こうです!!」「はいっ!!」

日本の「こうあるべき」論が強いのは、ハイクオリティな「おもてなし」に慣れてしまったから?

しかし、長年に渡って「職場の身だしなみ」が改善されなかった理由は、「こうあるべき」と論じる層の意志が強いからです。クオリティが上がりきった「おもてなし精神」を日常的に体感するうちに、そうでない状態は「クオリティが低い」と感じるようになってしまった。

ですが実際には、以前から「身だしなみ」は必要ない、と考えていた方も多いはずです。

では、今に至るまで「こうあるべき」論が強烈に作用してきたのは、どこから来るのか?

「空気を読んで」大人しく縛られた方が気楽。過剰な「ルールが正義」層によって、「謎ルール」爆誕

日本における「こうあるべき」を育んだのは、村社会ではみ出さないように振る舞う「空気を読む」人たちと、「ルールに従い、守ることが正義」と考える人たちです。「空気を読む」人たちは、“必要のないルール”に気付いていながら、「“このルール”って、いらないですよね?」とは意見しませんでした。

なぜなら村社会には「ルールが正義」と考える人も多いからです。「“コレ”はいらない」の意見は、「ルールが正義」の人には理解されず、酷い場合はこっちに「悪」の烙印を押されてしまうからです。

「ルールが正義」な人にとっては、「“それ”がどうしていらないの?」という思考を巡らせるのも、新しいルールに順応するのも面倒。また新しいルールで弊害が起きるのも面倒だから、“思考停止して”今あるルールに従う方が楽なのです。

ホントは言いたいけど、言わないでおこう…

そして同様に、ホントは改変したい「空気を読む」人も、村八分にされたら生きていけないから、大人しくルールに縛られている方が楽なのです。

こうしてその時は必要だったルールも、形骸化して村の風習になり、いつのまにか“謎ルール”はぬるっと爆誕、その後も継承されてしまっていたのです。

美容室もまた「村社会」ジーパンを穿いてはいけない!?

日本中の会社やご近所付き合いなど、どこのコミュニティにも「空気を読む」場面は大なり小なりあるものだと思います。「閉鎖的な村社会」と同じで、以前は美容室も「周りの美容室」がどんなルールでどんな働き方をしているのかは、分かりませんでした。

例えば、15年前に僕が新卒で入社した美容室は、これから店舗展開をし始めている会社でした。

これからスタッフが増え続けることを見越してか、新しくルール付けされる事も多かったのですが、そこで生まれた謎ルールが「ジーパン禁止」です。「ジーパンは年配の方からすると、作業着という認識だから」と説明され、僕自身もダメージジーンズが印象が良くないことは認識していました。

ですが当時はキレイなリジットデニムも流行していたので、店長や上層部に「キレイに見える新品のジーパンならイイのでは?」と提案しました。ですが答えは、「とにかくジーパンだったらダメ」という一点張り。一番下っ端の僕は、腑に落ちないものの「空気を読んで」受け入れるしかありませんでした。

今になって思えば、店長や先輩だって「同じように考えていても、従わざるを得なかった」と納得できますが、そのルールは理解に苦しみます。

ちなみに、チノパンはオッケーでした。チノパンも元は軍物ですけど?

◾️SNSによって、村は世界を知ってしまった

それが今や、「周りの美容室」のルールはSNSによって簡単に受け取る事ができます。そして「ウチらのこれって、やっぱり間違いだったんだ」と気付いた人が増えた事で、「おらが美容室の謎ルール」が浮き彫りになりました。すると現代では、村社会のルールは通用しなくなってしまったのです。

実際、地方政治などでも「閉鎖的な街」に現れたリベラルな市長が注目されたりと、価値観のアップデートは各所で進み、時代は大きな転換点にあります。

でも、ビビってるだけな感じもする

そうして世間の価値観が進化している反面、“ビビってる”だけな感じもするのは、僕だけでしょうか?

今、世界中は「SDGsやLGBTQを受け入れましょう」といった「ド正論」に向き合っています。影響力のある企業や有名人は試行錯誤していて、様々な取り組みが注目されています。ですが、中には「これは本意なのか?」と見えることもあります。

SDGsという「ド正論」を前に、「ウチもやんなきゃ炎上する」という振る舞いは“ビビってる”ように感じるのです。それは本意ではなく「防衛本能」で、“「悪」だと思われたくない”というポジショントークのように聞こえるのです。

そして下手に手を出してもまた炎上するし、「腫れ物に触る」感じがひしひしと伝わってくるので、結局、村社会と同じで「嫌われないように」している気もする。

炎上や論破は正論?【「正義」と「悪」の二元論は機能していない】

企業や有名人が怯えているのは、炎上です。炎上による社会的な影響力はとても大きく、ネットニュースのコメント欄には「こうあるべき」が溢れ、振る舞い一つで地に落とされる有名人が後を絶ちません。

ですが、炎上させた“それ”は本当に汲み取るべき「正論」なのでしょうか?コメント欄で論破して見える“それ”は、都合のいい「正義」を振りかざしているだけではないでしょうか?

SDGsへの実現が後押しされている理由は、かつてないほどに「人の価値観」が表面化しているからです。そんな今の社会では、「正義」と「悪」の二元論は機能せず、多くの人を救えないのではないでしょうか。

◾️「没個性の世界」から「らしさの世界」へ

「職場の身だしなみ」も同じようなことです。今まで小さ過ぎて聞こえなかった声も、今は聞こえるのです。「そんな事に苦労している人がいるなんて、知らなかった」という事例が、今になって表面化したのです。

今までは、不得意を及第点にする「没個性の世界」だったのかもしれません。対して現代は、得意を活かす「らしさの世界」です。「この制度のままでは、困っている人がいる」と提案し、許容し、そういう目線があることを認識する。

だからこそ、これからは「空気を読んで受け入れる」ことも、「否定する」「論破する」ことにも、価値は無いのではないでしょうか?

じゃ、どうする?「いきなり完成」は無理ゲー

ですが、例えば「LGBTQだからって丁重に扱われるようになって、かえって居心地が悪い」といった意見を聞くこともあります。

小さい声に最初から対応した制度を作るのも、無理ゲーです。ではまた“思考停止”して、考えることを放棄すればいいのか?

個々人が受け入れる土壌を築くためには、まず「今の制度を“今すぐ”変えていくこと」とりあえずそこからではないでしょうか。「一番いい形は、まだ探している」という道半ば。

「偽善」でも「建前」でもいいから、間違ってる部分があったら“すぐ”修正して、尾ひれはひれを付けて広げて、色んな事例に対応していく。この方が、洗練されていく気がします。

◾️拗らせました…

いかがでしたか?

つらつら語っていると、「企業はビビっているだけじゃん?」と言っていた僕の第一印象は間違っていたのだ、と、身につまされる思いにもなりました。ネチネチ拗らせた挙句、壮大に膨らんでしまいましたが、この辺が今回の僕の着地点です。

編集の方から頂いたお題をこねくり回しているだけなので、「はて、そもそも何の話だったんだか」と破綻している部分もあるかと思います。

今回もお付き合いいただいて、ありがとうございました。

操作 イトウ
執筆者
操作 イトウ

東京都二子玉川を拠点にする30代美容師。 『ヘアスタイルはロジックで美しく、カッコよくなる』『ステキな美容師さんに出会ってほしい』をメインテーマにしたブログをnoteにて執筆。2020年から文春オンラインでの連載を開始、CREA等のwebメディアで定期掲載。

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