「お客さんが息を呑むようなショーが好き」──SHIMAのアートディレクター、奈良裕也さんがそう語ったのは、ヘアショーの後日インタビューでのことだ。その言葉がスッと理解できるほど、今年のSHIMAのショーは冒頭から予想外の展開で観客の度肝を抜いた。
ラストには、新たにロサンゼルスへの出店が発表され、SHIMAの新たな挑戦を飾ることとなった「SHIMA ヘアショー2023」。その様子をリポートする。
なお、記事の最後には奈良さんのクリエイティブに迫るべく、インタビューを行った。
NARA STAGE
サスペリアの「死のワルツ」から不穏なオープニングが流れたかと思うと、奈良さんのソロステージが始まった。例年、奈良さんはショーのトリを飾ってきたが、今回は開幕からという異例の展開。「ローズマリーの赤ちゃん」や「エクソシスト」といった古典的ホラー映画の曲が続き、その間にモデルたちは目まぐるしく変化していく。背筋の凍るようなホラーというよりも、ホラーの中にエレガンスを見出すかのような“奈良ワールド”が、観客を魅了する。
黒のハットにコートを纏ったモデルが登場したかと思うと、その3分後にはスパイキーなマレット風ヘアにヘッドギアを装着し、パンキッシュなムードへと変貌。モデルの身体をベルトで縛り、ガムテープで口を塞ぐパフォーマンスはまさしく息を呑むような衝撃だ。
《CALIFORNIA》Los Angeles
ここからはムードも一転し、さまざまな表情を持つロサンゼルスから3つの街をテーマにしたステージが繰り広げられる。ハイセンスな街たちと、SHIMAが創る“強く、自由で、ジェンダーニュートラルな人物像”が織りなす、アップビートなショーに注目だ。
VENICE BEACH
ヘルシーやパステルといった色鮮やかなイメージのベニス ビーチのシーン。その内容はカットステージになっており、大胆に10cm以上切り込んでいく姿は見応え抜群。
MALIBU
続くマリブシーンはメンズライクな無骨さ溢れるステージ。アレンジから刈り上げまで幅広いパフォーマンスをクールに魅せる。まさにアメリカ西海岸のストリート路線に、マリブのセレブリティをミックスしたスタイルだ。
BEVERLY HILLS
最後を飾るビバリーヒルズはヘアセットのステージ。グロウな光沢感が生き生きと輝き出すパーティシーンだ。ヘアにも部分的にグリッターやラメを使って煌びやかに演出。
ヘアショーを終えた奈良裕也さんを直撃。
毎回、圧巻のステージで見る人を魅了する奈良裕也さん。ヘアショーに限らず、ファッション誌などの業界外からの支持も厚い。その多彩なクリエイティビティに迫る。
───今回のテーマは?
「ホラー」です。僕の好きな、70年代のホラー映画から着想を得てます。サスペリアとかエクソシストとか、名作がたくさん生まれてた頃で、最近のホラーより曲も好みだしおしゃれな描写で溢れていて好き。
───ホラーって特にコスプレっぽくなりがちなモチーフだと思います。そうならないコツは?
「カルチャー」「モデル」「演出」の3つが大事で、その1つでも欠けると学芸会みたいに見えちゃう。カルチャーをよく理解しないまま上っ面でやっちゃうと、「こいつ分かってないな」ってすぐ見透かされるから。その上で、世界観に負けないモデル選び、演出を考えます。
───デザインの引き出しを培うのに、普段からできることってありますか?
僕は元々、カルチャーや映画が好きだった。ファッションも美容もスーパーモデルも、昔から全部好き。今はネットですぐ調べられるけど、僕が学生の時は本屋の洋書で調べるような時代だったから、忘れないんですよ。そのとき見たもの感じたものが今でも生きてます。
だから自分に足りないって感じてる人は、いろんなカルチャーや映画を見るといいと思う。そしてその時代のファッションやアイコンを調べてみる。
「どのカルチャーを調べればいいの?」って時は、まず自分のお客さまのジャンルをみてみる。たとえば「ガーリー」が多いならその起源を辿って掘り下げていく。サロンワークにも役立つしね。
そうすれば振り幅がなくたって、突き詰めていけば武器になる。精通したものを1つ持ってないと、ショーや撮影の時に衣装やメイクがわからなくなっちゃう。昔だったらそれでも通用したかもしれないけど、今は自分だけで1つの人物像をプロデュースできないとダメだと思います。じゃないとお客さんを掴めない。
───1つのサロンがやるショーとしては、異常な数のお客さんでした。
一般のお客さまもたくさん来てますよ。100枚くらいチケットが売れるスタイリストもいるし。しっかりと関係ができていれば、「見たい」と言ってくれるお客さまも絶対いるはず。僕が目指しているのもそこです。
ヘアショーって多分、同じ業界の人間に向けてやるっていう固定観念があると思うんですけど、僕はそれがすごい嫌で。もちろん始めは僕にもあったけど、今では変えたいと思ってる。そのために有名モデルにもたくさん協力してもらって、世間からも注目されるようなショーを目指してきた。
───だから一般の人でも楽しみやすい、インパクトのあるショーになっているんですね。
そう!うちは一般の方も見るから、その人たちが面白かったと思えるエンタメ性がないと、独りよがりのショーになってしまう。クラシックが流れる中で切ったり、変なダンサーが出てきて切ったところで面白くもなんともない。学生の時にそんなショーを見て、身内だけで面白がるようなショーは絶対やりたくないと思ってました。
でも反対に、自分の好きなジャンルじゃなかったとしても、見ていて面白いって思えるショーもあるじゃないですか。それでいいと思うし、他のサロンや一般の方まで、幅広く楽しんでもらえるショーをやろうと思ってます。
───ただひと口にエンタメ性と言っても、難しいですよね。
最初はね。人それぞれの魅せ方でいいと思う。ただ僕は見ている人が「ウッ」となる、息を呑むようなショーが好き。というか振り切ってやらないと自分自身も高まらない。
あとは飽きるシーンがない方がいい。次から次へと場面が変わってく。気づいたら縛られてガムテープ貼られて、「はい次」って。リズムよくやらないと。息継ぎがない感じでやった方がショーは面白いと思ってます。
───ちなみに、ショーの制作期間は?
2〜3ヶ月前から漠然とイメージを持っておくかな。ただ実際の制作は他の仕事もあるから、ショーの2週間前くらいにアシスタントに一気に指示を出すところから始まります。それまではショーはショーで頭に置いといて、イメージを練っておきます。
練習はもっと短くて、ショーの2日か3日前から営業後にタイム測って、連続でやります。だいたい5セットくらい。1回15分とかだから2時間もかからないでできるし。長い時間でダラダラやるよりアシスタントも手が慣れるのが早いので。
───今後挑戦したいことは?
コロナから復活して、2023年は4回ショーをやったんですけど、来年もまた新しいものに挑戦したいなというのと、見てるお客さんに楽しんでもらえればいいかな。
- Profile
- 奈良裕也
1980年1月9日生まれ。埼玉県出身。国際文化理容美容専門学校卒業後、新卒でSHIMAに入社。SHIMAでアートディレクターを務める傍ら、ヘアメイクとして女優やアーティストなどを手がけている。国内外問わず数々の著名人からの支持は厚い。
- 執筆者
- 木村 麗音
- Twitter : @kamishobo
- Instagram : @bobstagram_kamishobo