8月15日、Amazonと化粧品の口コミサイト「@cosme」を運営するアイスタイルが業務資本提携したというニュースは、美容室業界でも大きな話題となった。
Amazonから約140億円、三井物産などからも出資を受け入れ、予定調達額は最大で計183億円を超える。
Amazonの日本企業への投資は異例と騒がれているが、「Amazonの参入により美容業界の店販を取り巻く環境はどう変わるのか?」
これを探るべく、今年2月に独自のサロン向けEC構築支援サービス「Salon.EC」をスタートさせたビューティガレージ 代表取締役 CEO 兼 COO 野村秀輝氏に今後起こりうる業態変革とビューティガレージの展望を聞いた。
「巨大プラットフォームに相乗り」その決断を予測する
Amazonとアイスタイルの業務資本提携のニュースを聞き、野村社長が最も驚いたのはアイスタイル 代表取締役会長 CEO 吉松徹郎氏の経営判断だと言う。
「最大調達想定額が183億円という大きな規模感で業務資本提携を決めた、アイスタイルの経営判断に驚きました。
アイスタイルは大きな成長戦略を描いているので、それを実現するためにはテクノロジー投資や店舗投資、海外進出をドライブさせることが必要だと考えたのだと思います。
その一方で、過去の大型投資で調達した借入期限もあっての今回の決断だったのではないでしょうか。
それにしても、60億円の借入金の返済目処を立てるためだけではなく、183億円という大規模な資本提携を行うことで広がる今後の可能性にどんな未来像を描いているのかは気になりますね」
野村社長はWEBメディアのインタビュー『大きなプラットフォームに乗らないと生き残れない時代になってきた』『どことパートナーを組むべきか考えていた』と見解を表明した吉松氏のコメントにも衝撃を受けたという。
アイスタイルが創業した1999年は、モバイルシフトが起きた時期。
そのような時代背景の中、アイスタイルはオンラインとオフラインの融合「OMO(Online Merges with Offline)」にいち早く取り組んできた。
OMO(オーエムオー)とは?
Online Merges with Offlineの略。オンラインとオフラインの境目をつくらずに2つを融合させ、顧客への提供価値を最大化するマーケティング戦略。アプリで食事を注文すると自宅に届くフードデリバリーもOMOの1つ。
オンラインの美容メディア「@cosme」、 化粧品ECサイト「@cosme SHOPPING」とオフラインのリアル店舗「@cosme TOKYO」や「@cosme STORE」で顧客IDを統一し、カウンセリング履歴や購買履歴などを共有。
オンラインとオフラインの境目をつくらない独自路線の「購買体験」を融合させてきたアイスタイル。
美容室という「実店舗」と「EC」を融合させていく動きが加速した今、美容室だからこそ提案できる「購買体験」についても考えてみたい。
Amazonの参入で美容室は変わる?
Amazonの参入により、美容室における店販変革は起きるのだろうか?
「直近では大きな影響はでないだろう」と野村社長は予想している。
「新株予約権が行使され、転換社債型新株予約権付社債がすべて転換された場合、Amazonのアイスタイル株式保有比率は最大で41.75%になると思われ、圧倒的な筆頭株主になります。
@cosme SHOPPINGでは現状でもサロン専売品がC向けに売られているケースもあるわけですが、もし今回の提携を機にサロン専売品メーカーさんとAmazonの直ルートができてしまうようなことになると、業界にとっては歓迎できない状況にはなりますよね。
しかし、そのような判断をする美容メーカーさんが多くいるとは考えにくく、今回はあくまでC向けビジネスのための業務資本提携ですから、美容室向け流通に大きな影響はすぐにはでないと思います。
アイスタイルは業務資本提携により『@cosme SHOPPING(仮称)』のオンラインストアをAmazon上にオープンするようですが、顧客情報やデータベースをアイスタイルはAmazonに共有しないと発表しており、販売する商品もアイスタイルで選定するようです」
2020年にAmazonが美容ディーラーに参入し、「プロフェッショナル・ビューティーストア」のリリース発表をした際も、Amazonビジネスはあくまでもサービスの提供であり、メーカーとディーラーの契約関係には関与しないことなど、これまでの流通を尊重すると宣言している。
参入から約2年、話題になったものの「プロフェッショナル・ビューティーストア」で出品している美容ディーラーの数はまだ少ないことを野村社長は指摘する。
「2年前はだいぶ騒がれましたが、現時点では全く影響は出ていないですね。
そもそも、ディーラー出店での販売となると、ディーラーマージンとAmazonマージンの両方が商品にかかってしまうことでベストプライシングが行えません。
それにサロン専売品を横流しする業者の出口であったAmazonがサロン向け流通に参入したことに対して、サロンさんからの納得感を得るには時間がかかるのではないでしょうか」
巨大企業の参入で期待できることもある
「美容商材流通のデジタル化は待ったなしです。
ですからAmazonの参入により、期待できることも実はかなりあると考えています。
ユーザー第一主義のビューティガレージが貫きたいのは、もっと便利に、公正に、リーズナブルにサロンさんが商品を仕入れたり取り扱えたりする環境をつくって差し上げること。
美容商材流通のデジタル化促進の側面から見ると、Amazonのような大手企業のBtoB参入を我が社は歓迎しています。
どんどん自由に競争していく環境があるべきだと思いますね」
業界独自の商慣習から、美容商材流通のデジタル化が当たり前の時代になることを後押ししてくれる1つのきっかけが今回の提携であり、共に切磋琢磨していきたいという。
サロンECを支援するのは我々のミッション
「日本の美容室の店販比率の平均が5〜6%なのに対し、海外の店販比率の平均は20%を超えるのも普通です。
美容室における店販比率向上の手段を増やすため、BtoBtoCビジネスに今年2月、新規参入しました。
美容師さんがお客さまの髪質に合う商品を勧めて購入してくれても、『2回目以降はAmazonや楽天で買いました! いい商品を教えてくれてありがとう』となるケースが多いですよね。
そこを変えたい」
店販の購入動機の根底にあるのは、信頼する美容師さんからのお勧めであり、サロンでのお試し、そして「周囲の人たちから褒められた!」などの「体験」だ。
「使ってよかった! という体験をAmazonや楽天に送り出すのではなく、リピート利用をサロンのネットショップでつくり、美容室におけるOMO を果たすのが我々のミッションであると考えています」
メーカーが運用するECサイトは契約メーカーの商品しか取り扱えないという理由で、「BASE」や「STORES」のプラットフォームを使ってECを始めるサロンも増えているが、
- サイトの構築や更新に手間がかかる
- 梱包・発送の手間がかかる
- 在庫を抱える恐れがある
などのデメリットもある。この手間やリスクをなくした「イイトコ取り」のECを目指し、ビューティガレージがリリースしたのが「Salon.EC」だ。
ECを活用したBtoBtoCビジネスへの参入は10年前から練っていた企画だったという。
しかし、当時はネットで商品を売ること自体のハードルが高かった。
「近年ではECをスタートさせている美容ディーラーも増えていますが、美容商材流通のデジタル化を促進してきた自負も含め、サロンのECを支援するのは我々の出番! これくらいの気概を持って取り組んでいます」
Salon.EC https://salon.ec
初期費用無料、月額費用無料。在庫リスクや配送の必要がなく、幅広いラインナップを揃えることができる。
サロンの屋号でネットショップが開設でき、URLのドメインにサロン名を使用できるためお客さまの安心感にもつながりやすいプラットフォーム。
4種類のテンプレートからデザインを選べる他、カスタマイズの自由度も高く、オリジナリティに溢れたショップづくりが可能。
利用料ゼロ。利用料で回収する発想もゼロ
Salon.ECは、サロン目線であったらいいなを盛り込んだEC。
初期費用や月額費用が無料でリスクなくスタートでき、さらに決済手数料と販売手数料も無料。
※サロンPBやサロンが独自に仕入れたビューティガレージ取扱商品以外の商品を販売の場合は、別途販売手数料が6%かかる。
「開発には相当なコストがかかっていますが、利用料で回収する発想は捨てました。
弊社の商品を売ってくれるプラットフォームとしてSalon.ECは存在し、商材供給や物流を我々が担うためにプラットフォームがあるという考え方です」
商品のサロン仕入れ価格はこれまでと変わらず、サロン会員ステータスごとに決まっている掛け率で取り引きを行なっている。
来店したことがなくても販売できる「オープン&クローズド方式」
Salon.ECが搭載した独自システムは、顧客ではない一般ユーザーにも販売制限のない商品は販売できるというオープン販売方式もあるサービス。
販売制限のない商品というのは、サロン専売品以外の美容家電や小物類、PBなども含まれる。
「たとえば北海道に住んでいるお客さまがSNSで知った東京の美容師のファンになり、『あなたが勧める商品を買いたい』ということも今の時代はありますよね。
サロンの店販比率を上げることが目的のプラットフォームなので、来店できない一般のユーザーにも買える仕組みをつくりました」
オープン&クローズドの二段階販売方式を採用し、「一般会員」「来店認証会員」ごとに商品表示や購入制限、販売価格まで細かく管理できる。
一般会員は「サロン専売品は購入できない」が、来店の促進につながるため「商品表示」は可能。
ネット販売ができない商品は、一般会員に対して「商品表示すらできない」など商品群ごとに細かく設定されている。
申し込み堅調。1180ショップが運用スタート
今年2月のアナウンスと同時に申し込みが殺到し、その後も堅調だが、決済登録を終えたのは2022年7月末時点で1180ショップ。
現在は申し込みサロンに、ショップ開設までのサポートをオンラインや対面で行うOne to Oneマーケティングに重点を置き、EC事業の成功体験を導いていく考えだ。
労働集約型からの脱却を目指して
「店販比率20%を目指し、Salon.ECをご活用いただくことでまずは平均10%超まで店販比率が上がるお手伝いがしたいですね。
BtoBtoCビジネスに参入するにあたっても変わらず大事にした信念は、サロン業界における社会課題の解決。
これをテーマにずっと取り組んでいるので、これからもサロンにおける課題を1つずつ紐解いていきたいと考えています」
「私は、今回のアイスタイルのように『大きなプラットフォームに乗らないと勝ち残っていけない』と現時点では考えていません。
現在の仕組みを着実に進化させ、レベルアップしていくことで現在目指しているNo. 1美容商材流通のプラットフォームを築けると確信しています。
けれどもその先の未来、仮に競うステージそのものが変わるような時代に突入したときに別の最適解あれば、さまざまな可能性を模索したい。
経営権の保持にはこだわっていないので、お客さまにも、社員にも、すべてのステークホルダーにとっての最適解を見つけたいですね」
ベースにあるのはユーザー第一主義。
サロンの目指す未来を実現する伴奏者として、今後も美容商材流通のデジタル化を加速させていく考えだ。
- Profile
- 野村秀輝
株式会社ビューティガレージ 代表取締役 CEO 兼 COO
株式会社ビューティガレージ 代表取締役 CEO 兼 COO。1967年石川県出身。青山学院大学卒業後、広告代理店2社に勤務。約5年間のタイ、インドネシア現地法人駐在を経験。後半は現地法人社長として経営も担う。帰国後、マーケティングプランナーとして独立。2003年、ビューティガレージを設立。「美容業界を変える」をスローガンに事業モデルを進化。2013年2月マザーズ上場、2016年7月東証一部上場。2024年度までに「美容商社として国内No.1となる」目標を掲げている。
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