僕はこうして「セルフ育休」した【現役フリーランス美容師の本音】

僕はこうして「セルフ育休」した【現役フリーランス美容師の本音】

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連載:操作イトウの〈美容師の本音〉

今年の4月に待望の第一子を妻が出産し、5月中旬から9月いっぱいまで「セルフ育休」をしていました。
多様化するライフスタイルや働き方が注目される昨今ですが、僕が実施した「セルフ育休」について、どんな生活だったのか、そしてどう感じたのか、多くの美容師さん、並びに美容業界関係者の方の耳に届けば幸いです。

僕は東京都二子玉川を拠点に働く、30代の現役美容師です。ご縁があってライターとしてのお仕事をいただくようになって以降、仕事を両立するため10年以上勤めた美容室を退社、フリーランス美容師として今に至ります。

この度、ボブログさんで連載をさせて頂くこととなりました。ここでは、「カリスマ美容師さんのテクニックのレクチャー」とはまた違う、「現役フリーランス美容師、街の美容師さん目線でのお話」を中心にお話していきますので、お付き合いくださればと思います。

さて私事ですが、今年の4月に待望の第一子を妻が出産しました。それに伴い、5月中旬から9月いっぱいまで「セルフ育休」をしていました。

多様化するライフスタイルや働き方が注目される昨今ですが、僕が実施した「セルフ育休」について、どんな生活だったのか、どう感じたのかについてお話が、多くの美容師さん、並びに美容業界関係者の方の耳に届けば幸いです。

◾️これまでの暮らしと妊活、そして出産

夫婦共働きの僕らは結婚して7年目、慎ましくも幸せに暮らしていました。僕は美容師とプライベート、副業とのバランスを取るために、2022年1月からフリーランスとして働き始めていました。

不妊治療が保険の対象になり、一般的にも「妊活」へのハードルが低くなった時期。僕ら夫婦は結婚して以降、お互いに子供への願望がありながら、具体的な行動には移っていませんでした。

そして、妻が34歳を迎えた2021年の年末から、妊活を始めることとなりました。きっかけは、妻が「35歳から高齢出産になる」という事実に焦りを感じていたことです。日々の生活に追われて、僕はこの時まで、彼女の気持ちにすら気付くことができませんでした。

実際に妊活を始めると、心身共に疲弊する妻の姿がありました。なかなか思うような結果が出ないでいると、様々な面で、やはり女性の負担の方が大きくなってしまうのです。それもあって、「どこまで妊活を続けるのか」「体外受精をするべきか」「養子も視野に入れるのか」など、夫婦においてもシビアな話し合いをしていました。

その最中、22年6月に3回目の人工授精によって、妊娠することができました。僕としては、待望の子供を迎える喜びと共に、ほっと胸を撫で下ろす気持ちでもありました。

その後、23年4月、里帰り先の広島で長男は誕生しました。逆子だったこともあり、帝王切開での出産。僕は立ち会う予定もなく(そもそも、妻からは「居なくて結構」と言われた)、東京で仕事を続けていました。僕は誕生から3週間後、ようやく我が子に対面しました。「新生児は一瞬で過ぎ去る」とのこと。とにかく健康でいてくれることが嬉しい限りでした。

この、ぷにぷにの足裏が可愛すぎる!!

◾️里帰りから帰京、僕の「セルフ育休」がはじまる

僕の二人の兄は既にパパになっていたこともあり、甥っ子姪っ子の成長を微笑ましく見守りながら、パパママの奮闘も見てきていました。それもあって、以前から「育休は必ず取りたい」と考えていました。

そして、妻と息子が里帰りから帰ってきた5月中旬、満を持して、そして身を挺して「セルフ育休」を開始しました。僕は、社会的な補償を受けずに育休を始めたのです。

というのも、フリーランスの僕は「育休の助成金」を受けることができません。現状、制度は雇用保険に加入している人が対象なので、加入していない非正規雇用労働者や自営業、フリーランスは支援の対象外なのです

つまり僕は、休んだら休んだ分、収入もゼロ。

そのため、まるっと仕事を休むわけではなく、「休み、出勤、休み、出勤を繰り返す」という作戦を取りました。実質、二日に一度働いているこれを「育休」と呼べるのかは謎ですが、僕は勝手に「セルフ育休」と名付けて実行したのです。

これには、「ご予約されるお客様にも迷惑がかかりにくいのでは?」という、美容師ならではの考えも含んでいます。例えば、常連のお客様に対しても「今日が休みでも、次の日は居る」という形を取れるし、更に「今週はダメでも、来週の同じ曜日には出勤している」ということにもなるので、美容師として「まるっと休む」ことのリスクも軽減しています。

とはいえ、生活面、金銭面での負担がどれほどかも曖昧だったので、終わりの期限は決めずに始めたのでした。

▼育休をやってよかった?複雑な心境の変化

実際に生活を始めてみると、僕の社会人として仕事に励む気持ちは二の次でした。日々の成長は微笑ましく、我が子と時間を共にしたい。ですが反面で、仕事とプライベートのモチベーション維持がすごく難しい、とも感じていました。

この「休み、出勤、休み、出勤」を繰り返す生活が、良いのか悪いのか。というのも、仕事の日は「次の日は休み」の気持ちでできるので、気楽なようでいて、休みの日は「明日は仕事」の心持ちなのです。まるで「日曜日のサザエさん現象」の心境が毎度繰り返されるようで、気持ちの整理が難しくなっていました。

そして「休み」と言いつつ、「僕の自由な時間」なわけではありません。家にいる時間も長く、自分のやりたいこともできない。すると、家族と居たいのか、居たくないのかもチグハグに感じることが多かったのです。

また、横着な性格の僕としては、この生活は「育休にかまけてサボっている」ともとれるのです。経済的にはギリギリ生計は立っている。とはいえ自転車操業なので、いつまでも続けられない、という両天秤。

ですが、もし育休をしなかったとすると、仕事から帰る時間には、子供の寝ている姿しか見ることができません。1日おきだったからこそ、日々できることが増えていく我が子の成長を、つぶさに見ることができました。

3時間おきにミルクを与え、その量が少しずつ増えていくのも体感できるし、一ヶ月で身体が2倍に成長したり、予防接種の注射を何本も打たれる姿も微笑ましい。寝返りができるようになったり、抱っこすると目が合うようになったり、首が座ってきたり、その一つ一つの成長は、とても愛おしいものでした。

◾️ママのワンオペの負担は壮絶すぎる

実際に育児を体験してみると、特に「最初の3ヶ月の期間をママ一人でやる」というのは、とても出来ることではないと実感しました。経験者であれば当たり前のことでしょうが、ワンオペの過酷さは、実際にやってみないと未経験者には伝わらないことかもしれません。

夫婦2人でなら、炊事洗濯はもちろん、育児も分散できます。僕の体感では、育児に関して「これは男だからできない」ということもなく、なんでも分担してやっていました。そして「産後うつ」などの事例もあることから、妻のメンタル面のケアには特に気をつけていました(それでも何度か怒られましたが)。

ですが、夜中に起きるのは苦手でした。世のママから口を揃えて「夜泣きしているのにパパは気が付かない」と言うのを聞きますが、僕も右に同じでした。そのため実際には、午前中は早めに起きてお世話する、ママは午前中寝ててもらう、というぐらいしか貢献できませんでした。

そして育児の大変さは、本当にその子の性格によるのだろう、とも感じました。うちの子は大変穏やかで手のかからない子のようですが、活発な子や、なかなか寝てくれない子など、育児の体験談を聞いていると、世のママの所業は凄まじく壮絶だと思います。

とはいえうちの子は、夜泣きが少なくよく寝てくれる子でした。5ヶ月を過ぎてくる頃には夫婦の負担も減り始め、生活が安定していたこともあり、妻との話し合いによって、育休は9月いっぱいをもって一旦終了することとしました。

これから美容師の育休はどうあるべき?

育休に対する制度が徐々に敷かれ始めた現代ですが、美容師は他の業態とは違った理由で「長期間休むことへの抵抗感が強い」です。それ故、僕のやり方はフリーランス美容師だからこそできたのかもしれません。

休んでいる間に失客してしまうことを恐れるのは当然ですが、しっかりと既存のお客様との信頼関係が築けていれば、僕のようなスタイルは悪くないと思います。

また、育休は企業側のバックアップがありきです。フリーランスとはいえ受け入れてもらった会社にも、大変感謝しています。僕も長く「小規模で運営する美容室」に勤めていたので、長期間に渡って人材が一人欠けてしまうことの重要性は理解しています。

僕の「セルフ育休」は4ヶ月半という短い期間でしかありませんし(しかも半分働いている)、デカい口を叩ける立場でもありませんが、本当にかけがえのない時間を得られた、と感じています。

僕は今日も、朝から満面の笑顔で迎えてくれる我が子に後ろ髪を引かれながら、出勤しています。この記事が多くの美容師さんの参考になることを、願ってやみません。




今回のまとめ

●フリーランス美容師は「育休の助成金」を受けることができない。

●お客様にご理解いただければ、現役美容師でも育休できる。

●会社側のバックアップなしには、育休は成立しない。




操作 イトウ
執筆者
操作 イトウ

東京都二子玉川を拠点にする30代美容師。 『ヘアスタイルはロジックで美しく、カッコよくなる』『ステキな美容師さんに出会ってほしい』をメインテーマにしたブログをnoteにて執筆。2020年から文春オンラインでの連載を開始、CREA等のwebメディアで定期掲載。

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