今、お客さまが自分に合った美容室を探すのに活用している「カウンセリング動画」!TikTokだけでなくInstagramでも盛り上がりを見せ、認知度アップや集客に活用している人が増えています。
TikTokの方がカウンセリング動画の再生数は多いですが、Instagramの国内月間アクティブユーザー数は3300万人(2023年7月現在)と言われており、マーケットとしては見逃せません。また、大人世代やシニアまで幅広い世代を客層に抱える人にはTikTokよりもエンゲージメントが高いメディア。
今回は、Instagramで“強み“に特化して集客に成功したM.SLAH omotesando[エムスラッシュ/東京]の紫藤大貴さんにインタビューしました。その活用の考え方やポイントを聞いていきます!
- Profile
- 紫藤大貴
M.SLASHマネージャー
1992年5月20日生まれ、静岡県浜松市出身。中部美容専門学校卒業後、M.SLASHに入社。神奈川県横浜市のセンター北店で月間180名の顧客を抱える人気スタイリストに。クリエイティブワークにも積極的に取り組み、2019年JAPAN HAIRDRESSING AWARDSエリア賞ノミネート、2021年TOKYO HAIRDRESSING AWARDS審査員賞などの実績を収める。2021年11月、表参道店出店に伴い異動。同店マネージャーとして活躍している。
- Instagram : @mslash_410
“実質顧客ゼロ“からのリスタート、Instagram改革に着手
ーー紫藤さんのInstagramカウンセリング動画は“クセ毛をカットでオシャレに“というテーマで、お客さまのリアルな悩みを中心に見せていることが特徴的です。1万人ほどのフォロワー数に対し、動画の再生数が安定して十数万〜百万回再生されていることも特徴的。カウンセリング動画に取り組み始めたきっかけを教えてください
きっかけは2021年11月の表参道店への移動です。9年働いてきた横浜エリアから遠く離れた表参道に異動することは、それまで積み重ねてきたものが実質ゼロになるような挑戦でした。そこで、新しいマーケットを開拓するために、Instagramに本気で取り組むことにしました。
ーーなるほど。当時はフォロワーは何人くらいだったのですか?
1000人くらいでした。これまで何度も、やろうと思っては挫折してきたんですよ。それまでは新規集客に困っていなかったので、つい後回しになってしまって……。自分の集客のためでもあるし、表参道という激戦区で他のスタッフの参考になる成功例になるといいなと思い、本腰を入れて研究を始めました。
ーーそこからどのように伸ばしてきたんでしょうか?
成功している人の分析です。まずは自分が目指すフォロワー数、約3000名くらいのアカウント400〜500人くらいを見て、伸びている人の構造を分析しました。
ーーどのような分析を?
予約サイトをチェックして、どのくらい予約が埋まっているかとか。同じくらいのフォロワー数でも予約への動線がうまくいっている人とそうでない人がいますよね。うまくいっている人の投稿を参考に、フィードのデザインを整理することから始めました。
強みのヒントは“常連客“が教えてくれた
ーーそんな分析を経て、どんな取り組みを始めましたか?
まず、2021年12月に強みを明確にしたページデザインに投稿を変えました。
ページデザイン自体はその後にも何度も変えていき、試行錯誤しましたね。
ーー「大人」から「クセ毛」に特化することにしたんですね。それはなぜですか?
そのヒントは常連客の皆さんの声にありました。先ほどは、実質ゼロからのスタートと言いましたが、実際異動してみると7割くらいのお客さまが表参道までわざわざ来てくださって。
「わざわざ1時間以上かけてきてくださるのはなぜですか?」と聞いてみると、「クセ毛をカットでなんとかしてくれたから」とおっしゃる方が圧倒的に多かったんです。
ーーそこで「癖毛がFashionになるCUT」というウリが生まれたんですね。
はい。当時はInstagramで「クセ毛」「癖毛」と調べると髪質改善や酸性ストレートにしか辿りつかない時代でした。その中で「特化するならここだ!」と、見つけた感じですね。
ーー自分のこだわりとブルーオーシャンがマッチしたんですね。
どんな工程も正しいですが、通い続けてもらうには、単に「悩みがなくなる」だけでなく、「なりたいイメージが叶った」「オシャレになった」という感動が大切だと思っていて。
Instagram改革の目的が「元の客数に戻す=月10〜15名の新規集客」が目標だったので、そのサイズ感にもマッチしたのだと思います。
動画のメインコンテンツは“仕上がり<<<カウンセリング=物語“
ーー今のカウンセリング動画の形になるまでの経緯を教えてください。
最初はBefore/Afterに特化した形だったんです。ストーリーズではこんな感じで……
そして、それをリールに変えたのがこの投稿の時期です。
▶︎2022年5月投稿 3000再生(画像タップでリールのリンクに飛べます)
ーーBefore/Afterとカットプロセスを見せていたんですね。
当時はBeforeは癖毛の具合がよく見えるバックショット、Afterは可愛くなったハッピー感が感じられるお顔の見えるショット、というルールづけをしていました。ですが、文字も要素も多くて、見せたいことが盛り込みすぎですが……
この頃はまだ何万回も再生されるようなことはなかったんですが、Instagram経由の新規来店が12〜18名と目標に達した時期でもありました。それで、お客さまが動画で見たいものが少しずつわかってきた時期でもありました
ーーそれは何でしょうか?
まず最初に行き着いたのは「美容師目線の技術+プロセスをいかに省くか」ということでした。
▶︎2022年9月投稿 2.1万回再生(画像タップでリールのリンクに飛べます)
この投稿が初めて万単位で再生されたものです。Before/Afterではあるんですが、お客さまの気持ちにフィーチャーしたストーリーにすることで共感を得られたのだと分析。
そこで2022年11月から、仕上がりや技術ではなく、カウンセリングそのものをメインコンテンツとして見せる形に変更しました。
▶︎2022年11月 4.6万回再生(画像タップでリールのリンクに飛べます)
ーーカウンセリングそのもの、というと具体的には?
癖毛という悩みを抱えるお客さまは、これまでやりたい髪を諦めたり、実際に「できません」と言われたりしてきています。ですので、そもそも初めて行く美容室で「縮毛矯正しないとどうにもなりませんよね?」と、自分の髪質に対してネガティブで不安な姿勢でこられることが多いのですが……
だからこそ「否定しないこと」「共感できる」ことが、クセ毛のお客さまにとっては強い魅力になるんです。
ーーそういえば、紫藤さんの投稿は他のクセ毛特化型のアカウントに比べて紫藤さん自身が話す時間の尺が短いですよね。時には、紫藤さんが一言も話さない投稿もあります。
髪質に対する提案を見せようとしすぎると、カウンセリングで「悩み」の話しかできなくなってしまうので。だからこそ、必ず女性像や印象の話をして「クセ毛で悩んでいてもなりたい髪ができるんだ」と自信を持ってほしいと思っています。
だからこそ、クセ毛でお悩みの方がこれまで「わかってもらえない」と思っていた経験談や悩みの方を共有することで、「この人なら聞いてくれる」「わかってもらえるかもしれない」と思ってもらえるように……という動線で考えています。
「悩みを抱える人」が顧客だからメディア選びは品位を重視
ーー最も反響があった投稿を教えてください。
それはこちらです。
▶︎ 2023年4月 99.8万回再生(画像タップでリールのリンクに飛べます)
癖毛を周りの人に笑われてきたのが辛かった、というお客さまでした。「癖をなんとかする」ことが最優先で、好きな髪型にしたことがなかった。でも、僕の投稿を見て「ここしかない」と思ってくださり、16カ月切るのも矯正するのも我慢して来店してくださったんです。
ーー「地毛を褒められたのは初めて」とおっしゃる表情がたまりません。今までどんなに悩まれたのだろうと思うと胸が苦しくなります……
ですよね。コメントにも、そういった点に感銘を受けてくれた方や「私も笑われてきた」といった方が溢れました
ーー300件以上のコメントがついていますね。
はい。この投稿に集まった反響をはじめ、悩み共有型のカウンセリング動画に変えてから、コメントでのいい反響が集まって相乗効果を生めるようになりました。僕が担当させてもらっているお客さま同士が「かわいい!」とコメントを通して交流が生まれたりしている光景は、SNSを頑張ったから得られるもの。意外な嬉しい副産物でした。
ーーお客さま同士も同じ悩みを持つ人たち同士だから、あたたかい交流が生まれるんですね。
そうですね。それもありますし、だからInstagramに注力しているという側面もあります。SNSに取り組むときTwitterやTikTokもベンチマークしましたが、コメントの質も検討材料にしました。
ーー確かに、SNSのデメリットは辛辣なコメント、とも言えますよね。
そうなんです。僕の場合、見てほしい人たちもお客さまも悩みを抱えていて、誰にも言えない悩みをやっと相談してくれているような人たち。モデルとして出てくれるお客さま、見てくれる人たちを心ない意見に晒すことは避けたいと思ったので、コメント欄の品位が比較的高いInstagramを選び、コメントのチェックも怠らないようにしています。
研究して伸ばしたからこそ希薄にならない関係が築けた
ーー既存のお客さまの声をヒントにし、リピートする新規客との出会うためのツールとしてのカウンセリング動画活用。多くの人にヒントの多い取り組みだったと思います。
今来てくださるお客さまとの関係性を壊したくないからこそ、目的を明確にし、徹底的に研究しました。
ーーこれからカウンセリング動画に取り組みたいと思っている美容師さんにアドバイスがあれば!
SNSとサロンワークを切り離さないことです。美容師は労働集約型の仕事と言われますが、実際集められる人数、できることには限界があります。来てくださったお客さまに何を提供してどんなことを叶えて差し上げられるか、そのクロージングから逆算することが、無理なく挫折しないSNSの取り組み方なのではないかと思います。
フォロワー1000人からのInstagram改革、目的から逆算したスケール感にあった目標設定など、参考になることが多かったのではないでしょうか。
お客さまが知りたいことにフォーカスするために、美容師として見せたい技術やスキルを省くという決断。“嘘のない“カウンセリング動画にする一番のポイントは、徹底したお客さま目線にありました。