ここ数年、頭皮トラブルをうったえる声が増えている。
高校卒業と同時にヘアカラーブームを迎え、ファッションカラーを長年楽しんできた世代が白髪世代に突入した。
3〜4週間に一度は白髪のリタッチを行うなど、白髪染め頻度が増えたことにより、頭皮へのかゆみや違和感を覚える女性が急増しているのだ。
今年2月にヘナカラーを発売し、サロンでのメニュー展開も推進しているuka代表取締役CEO 渡邉弘幸氏に「ウカヘナ」発売の経緯やこれからのヘアカラーについて、また、現場での取り組みについてuka スタイリストの保科真紀氏、カラーリストの中田巧樹氏に話を聞いた。
頭皮トラブルが増えるのはこれから
現在50歳の女性が22〜23歳のときに、1990年代のヘアカラーブーム期がやってきた。
これから50代を迎える世代は、これまでの50代より、圧倒的に10代〜20代の頃のヘアカラー使用量は多いということになる。
そうなると、頭皮トラブルをうったえる女性たちが本格的に増えるのはこれから・・・?
この問題に美容師はどう向き合っていくべきなのだろう。
ukaでは2003年からノンジアミンカラーを調査。ヘッドスパの技術を強化したり、頭皮ブラシの開発を通して頭皮トラブルに向き合ってきた。
さらに数年前からは、「若い頃からカラー漬け」のお客さまの頭皮トラブルが増えているという現場スタッフの声が大きくなっていたという。
MIDTOWN店を統括する村上マネージャーから、頭皮トラブルを抱えているお客さまが増えているという報告を受けていた一方で、日本のヘアカラーブームはどんどんハイトーンになり、黒髪文化から新たな文化が形成されています。
ハイトーンも素敵だけれど、これは近い将来、大きな問題になるだろうなと。美容室として考えなければならないことの1つであると感じていました。
カラーブームの今、お客さまのニーズは止められません。
僕たちができるのは、オルタナティブ(代替案)を提案すること。
あまねく視点で見て、アルカリカラーのオルタナティブとしての「定義づけ」を徹底的にやりたいと考え、取り組んでいます。
これまでも話題は社内で挙がっていたものの、「イメージ通りに染まるのか?」「カラーバリエーションが少ないのではないか?」というネガティブなイメージが先行して、なかなか取り組めてはいなかったヘナカラー。
しかし、オーガニックにこだわっていくと「やっぱりヘナしかない」。
悩めるリアルな声と、未来を見据えた使命感が「やらなきゃダメでしょ」と背中を押した。
そんな矢先、ご自身の髪をヘナでトリートメントされているヘアスタイリストのshucoさんから、白髪も染まってデトックス効果も得られるヘナの効果を聞き、調査を始めたという。
石垣島ヘナとの出会い
ヘナと言えば、インドでの生産が主流。しかし、時はコロナ禍。国内でヘナを生産している農園を探すうちに、石垣島のヘナに出会ったという。
ukafe(※)で開催したイベントの人脈がつながり、玉城さんというヘナを栽培している女性に出会いました。すぐに農園を見せてもらったら、素晴らしい農園で。
玉城さんご自身は元々、東京で医療従事者だった方です。
病院でさまざまな体の不調や薬害も見てこられたのでしょう。伝統的な栽培方法で、ヘナだけでなくインディゴの栽培も行っていました。
※六本木MIDTOWN店に併設されているukaの“カラダにも地球にもうれしいカフェ”
産地へのリスペクトはパッケージにも表れており、美容室とは別の角度から髪を考える生産者の想いをイラストに込めた。
さらにパッケージの素材や色にも、ukaならではのこだわりが。
イメージしたのは、大量生産・大量消費のインスタントコーヒー時代から、「ライオンコーヒー」のような味へのこだわりや生産者への関心の高まりとともに生まれた「価値の変化」。
オンラインショップではお客さまが、コーヒーを選ぶように生産地を選び、ヘナとインディゴの配合違いの「ブレンドI」「ブレンドⅡ」を選べる。
さらに、お好みでヘーゼルナッツバニラなどの香りもセレクトでき、「白髪を染めなければ・・・」というネガティブな動機は「選ぶ楽しみ」に変わる。
インディゴが“ヘナ問題”の救世主
ヘナのネガディブイメージであった「カラーバリエーションの少なさ」や「オレンジに傾くヘナカラーの問題」を解決に導いたのが、石垣島でも栽培していた「インディゴ」だった。
【「ウカヘナ」プロジェクトスタート前のヘナのイメージ】
・カラーバリエーションが少ない
・白髪が多い人に染めるとオレンジ色が強くなる
・オシャレな女性が楽しむカラーのイメージがない
インディゴとヘナを70:30、もしくは50:50でミックスするとこれらの問題を解決できるかもしれない。そこから、モデルのアンダートーンや髪質の違いによってどう見え方が変わるかを配合比別に検証。壮大なモニタープロジェクトがスタートした。
インディゴをミックスすることで、ファッションカラーとしてのバリエーションが広がり、ハイライトなどのデザインカラーとの相性も良いことがわかった。
現在、ukaの特設サイトでは169件(2023年6月30日現在)の事例が掲載されており、ヘナとインディゴの配合比別にBeforeとAfterの写真やヘナの体験コメントがまとめられている。
ヘナはアーユルヴェーダの流れの施術方法。アーユルヴェーダは数値的な統計を取らず、検証事例も臨床実験における知見もないので、これは美容師さんが使いにくいだろうなと考えました。
そこで考えたのが「ヘナ百科事典」の作成。
ヘナカラーをどう扱って良いかわからない美容師さんへ、髪質やアンダートーンごとにどうヘナで染まるかがわかる1000件のケーススタディをアカデミックにつくりたい。
これにより、お客さまとのカウンセリングでの合意もこれまでの毛束ではなく、「ヘナ百科事典」をベースに選択してもらえるようになります。
現在、琉球大学ウェルネス研究分野の荒川雅志教授と一緒にアンケート調査による評価を進めていて、1000件のサンプルが集まったらヘナの効果を正式に発表することも視野に入れて動き始めました。
※アーユルヴェーダはインド・スリランカの伝統的な医学。サンスクリット語の「アーユス=生命」と「ヴェーダ=知識」の複合語で、「生命の科学」という意味がある。
それは、ヘアカラーの概念を変える取り組み
石垣島のヘナ、そしてインディゴの出会いによって一気に進み始めたプロジェクトであったが、現場のスタッフからは拒絶や課題感をとなえる声も多かったという。
最初に聞いたときは、「え、ヘナ!?」ってなりましたよね(笑)。
はい。みんなそんな感じでした(笑)。
カラーリストとしてはやっぱり色を考えることを楽しんでいたし、ヘナカラーのこれまでのイメージが前提にあったので、最初はやっぱり受け入れ難かったというのありましたね。
けれども、モニターを募って検証を始め、メニューとして導入するにあたり、スタッフの意識は大きく変わっていったという。
ヘナカラーを始めて変わったのは、スタッフみんなのお客さまへの説明責任の意識です。
初来店のカウンセリングでは丁寧にアレルギーついて聞いてますが、トラブルがなかったお客さまでも、季節や状況によってトラブルが発生することもあるので、リピーターの方にも毎回丁寧なカウンセリングでお客さまの声を拾っていくという意識が根付いたと思います。
ヘナカラーの導入は、ケミカルなものを頭皮にベタで塗布することに疑問を感じるようになったり、これまで当たり前だったヘアカラーの概念がくつがえった出来事でした。
「色の種類」が価値ではなく、「カラダに良いことを提供したい」という別のところに価値があると考えるようにも。
頭皮トラブルの悩みが深刻なお客さまもいらっしゃるので、ヘナカラーで人を救えた感覚があって。カラーで人を救うなんて、これまで考えたことなかったですが、そういう意識が芽生えたのも、ヘナカラーに取り組んだからだと思います。
1つひとつ問題を解決し、六本木MIDTOWN店では、気づけばフロアを見渡すと同時に3箇所でヘナカラーを施術している。そんな光景も増えてきたという。
白髪もキレイに染まる? ウカヘナの実力
Before
履歴はナチュラルブラウンのアルカリカラー。顔周り1cmにホームカラー履歴あり、ブリーチ履歴はなしです。
ハイライトとローライトで陰影をつけてから、ヘナ:インディゴ=1:1でオンカラーします。
ハイライトとローライトで明暗をつくる
粉末ヘナをペースト状にする
ヘナカラーAfter
トップの白髪の染まり
Before
After
トップのふんわり感の違い
Before
After
Beforeに比べてトップの髪がふわっと見えるのは、キューティクルの表面にヘナの染料が付着するため。目視感覚で毛量が110%ほど増量して見え、若々しく見える。
また、ヘナカラーのオレンジ色の色素であるローソニアの中に含まれるタンニンが髪の中のダメージホールを埋めるため、ハリコシやツヤのある髪を導くという。
ーーアルカリカラーとの併用はできるの?
ジアミンアレルギーのある方は、たとえ中間〜毛先のみの使用でも、毛髪の内部に入ったジアミンが後から肌に付着してアレルギーを起こすこともあるので、アルカリカラーは使わず、ヘナとノンジアミンカラーで施術しています。
アレルギーがない方には、根元だけヘナ、中間〜毛先はアルカリカラーを提案することもあり、従来のカラーと組み合わせたり、さまざまなブリーチデザインとも組み合わせながら、ukaならではの提案を行っています。
ーー毎月ヘナで染めるのではなく、たまにアルカリカラーを挟むこともできる?
アレルギーがない方は、アルカリカラーを挟みながらヘナを楽しむこともできます。
ただ、インディゴを使用している場合は青味が強い分、ブリーチした部分が緑になることがあるので、注意が必要です。
サロン滞在時間をさらに心地良い時間に
アルカリカラーと違って、頭皮にたっぷりつけてもいくら置いても良いのがヘナカラー。
アーユルヴェーダでは熱があるときなどに解毒作用としてヘナの粉末を塗布するそうで、デトックス効果も期待できます。
デトックス効果によって急に涼しくなったりすることもあるので、ヘナカラーの放置タイムにはハーブティをお出したり・・・。
放置タイムそのものがカラダに良いことをしている感覚が生まれます。
サロンに身を置く時間をもっともっと楽しめる、サロン滞在時間の価値の向上にもつながるのがヘナカラーだと思います。
トレンドは自然発生的に発信力がある人たちが中心となって動きます。
ukaもトレンドは好きだけれど、人の価値観は多様性があるので、「さまざまな価値観を持つ人が嬉しいこと」を提案したいですね。
特に、このオルタナティブの必要性は、伝え続けたいと考えています。
平均寿命が伸びている中で、楽しく生き生きと、健康で美しく生きるのは難しいこと。
日本人は平均寿命と平均健康寿命の差が約10年あると言われており、人生の最後は楽しいものじゃない・・・それでは悲しくないですか?
今までは「美しくなりたい」という理想のために、さまざまなケミカルを使ってきました。
けれどもこれからは美容室に来るたびに、都度、都度、回復していく。しなやかに回復して、また美しく生き生きと生きていく、レジリエンス・ビューティを提案したいですね。
これをちゃんと提案できる会社でありたいと思います。
- Profile
- 渡邉弘幸
uka 代表取締役CEO
1988年、大手広告代理店・株式会社博報堂に入社。2009年に株式会社向原(現・株式会社ウカ)に取締役副社長として入社。前職の経験を活かし、エクセルからukaへのブランドスイッチやオリジナルプロダクトの展開に携わる。2017年より現職。現在東京に4店舗、ストアは全国10店舗を展開する。沖縄県の石垣島に長期滞在型のリゾートスパをオープン予定。
- Profile
- 保科真紀
uka 東京ミッドタウン 六本木 ヘアスタイリスト
2007年より美容師としてのキャリアをスタート。サロンワークをメインに、ヘアショーやセミナーにも活躍の場を広げる。トータルでバランスの取れた美しさを引き出し、雰囲気をプロデュースすることを得意とする。ヘアだけでなくメイクやアレンジの提案にも定評があり、ukaサロンにおいてリピート率はトップクラス。一般女性向けヘアスタイリング講師の経験から、プロダクト開発にも携わり、ukaヘアスタイリングシリーズの開発をリード。トレンドを取り入れながら、お客さまに寄り添ったスタイルで人気のスタイリスト。SNSで発信するセルフヘアアレンジの動画が好評で、2021年9月には自身の著書「ヘアゴム一本で何とかする」(KADOKAWA)を出版。株式会社主婦の友社より発売されている書籍「KAMI CHARISMA 2023」ではKAMI CHARISMA美容師 ヘアアレンジ部門を受賞。
- Instagram : @uka_makihoshina
- Profile
- 中田巧樹
uka 東京ミッドタウン 六本木 カラーリスト
東京でキャリアを積んだ後、活動拠点を海外へ移す。ロンドンやシンガポールでカラーリストとしての腕を磨き、帰国後ukaに入社。海外での経験を活かしたホイルワークや、髪質を見極めた薬剤の選定で、思い描いた通りのカラーに仕上げてくれると評判。新規からの顧客化率が高く、客単価もトップクラス。ヘアショー、セミナー講師、薬剤の開発など活動範囲は多岐に渡り、常にカラーリストとして最前線で活躍している。著名人からの指名も多く、国内外の雑誌から取材の依頼が絶えないトップカラーリスト。