日本でZ世代がたびたび取り沙汰されるように、中国ではさらに若い「00后(リンリンホウ)世代」と呼ばれる2000年以降生まれのスタイリストが注目を集めている。なかでも、ヘアファッションに敏感な都市、上海で注目を集めているデザイナーが〈Amob〉(エーエムオービー)のリルベイ(Lilbay)さんだ。
彼のスタイルは、複雑なレイヤーと複数色を塗り分けたデザインカラーのミックス。集客は中国版Instagramとも呼ばれるRED(小紅書)が中心で、カット・カラーの単価は3000〜4000元(約6万5000円〜9万円)と極めて高い。客層は中国の若者にとどまらず、わざわざロンドンから通う留学生など海外からの客も多い。
「コスパ」に背を向ける、独自のIP
「僕は思考型で、とにかく考えることが好き。コロナ禍の間もずっとクリエイションについて考えていました。それを具体的に形にし始めてから、海外で認められ、国内外からお客さんが集まるようになったんです」
デザインの着想源は、宇宙や天文、あるいは蝶の羽の模様。REDの投稿は月に一度しかないこともある。ムラがあり、多くを語らない彼になぜ人が集まるのか。そのヒントは、彼が繰り返す「IP(知的財産)」という言葉にある。
「今の中国は消費が冷え込んでいて、みんなコストパフォーマンスを求めて流れていってしまう。僕が高単価でも選ばれるのは、技術だけでなく自分の『IP』を売っているから。マーケティングで自分を演じるんじゃなくて、具体的なスタイルや考え方、自分の『生っぽさ』に共感してもらえたら、それが自分だけのIPになると思うんです」
非効率だからこそ生まれる「生っぽさ」の価値
IPとはヘアデザインから思想、ライフスタイルまでを包括した、いわばその人の“キャラクター”だ。リルベイさんはSNSの“バズること”を追いもとめない。露出を増やすための時間を割くくらいなら、動物や天文の図鑑を眺めてデザインを練る。効率を考えれば遠回りなそのプロセスが、アングラなカルチャーを愛する若者を魅了し続けている。

「お客さんが美しい鳥の画像を持ってきて、『この色をベースにしてほしい』と言われることも多いです。僕は喋るのがあまり得意じゃない。だから、お客さんもざっくりとしたイメージだけ伝えて、あとは僕がどうデザインに落とし込むのかを楽しんでくれています」
リルベイさんの生まれは、山間部である湖南省の田舎村。中学生の時に出会ったデザインカラーが忘れられず、中学卒業と同時に美容の道へ進んだ。上海のトレンドサロンを含む複数のサロンを経て、2025年に〈Amob〉を4人で共同設立。技術は先輩や講師から学んだが、デザインに関しては完全な独学だという。
「技術はこれまでいろんな先生に学びました。でも中国はまだデザインの部分で教えが少ない。だから自分で考えるしかなかった、その考えた時間が自分にとっては大きかった」
タイパやコスパが正義とされる現在の中国において、彼のスタイルは正反対だ。計算されたSNS戦略とは裏側にある「生っぽさ」へのこだわりこそが、安易な流行に飽きた顧客の共感を集めている。ショート動画が溢れる苛烈なSNS社会のなかでも、彼のような独創的なヘアカラー体験を楽しみに訪れる人が着実に増えているようだ。
- 執筆者
- 木村 麗音
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